退屈男の愚痴三昧

愚考卑見をさらしてまいります。
ご笑覧あれば大変有り難く存じます。

先生との出会い(47)― 三者面談では「絶対に落ちる。君が合格する確率は0.01%以下だ。」と言われた。だが、・・・ ―(愚か者の回想四)

2021年05月13日 20時16分26秒 | 日記

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 「やめろ」と頭ごなしに言えば反発するだろう。そうなればもはや塾には戻ってこない。

 しかし、100%賛成するわけにもいかない。

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 「大丈夫なのか?」

 「大丈夫っすね。」

 「何が?」

 「エッ?」

 「何が『大丈夫』なの、かな?」

 「クスリは扱ってません。他にもヤバいことはしてませんよ。」

 「まぁ、気を付けろよ。」

 「ウっす。また来ます。」

 「困ったら遊びに来いや。」

 「ウっす。」

 「じゃあな。死ぬなよ。」

 「死なないっすよ。また来ます。」

 軽くそう言って颯爽と帰って行った。

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 「また来ます。」という言葉が出たのでホッとした。根掘り葉掘り訊いても肩が凝る。何か話してくれたとしても、難しい話ならば私には受けとめきれない。しかし、変な方向へ行ってしまっても困る。彼にはここがとまり木なのだと私は感じた。おそらく自宅にいても、昔の知り合いに会っても気まずい状態になっていたのかもしれない。

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 その後、しばらく塾に顔を見せることはなかった。

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 あれから数年しただろうか、以前ほどひどくはないが派手ではない服装でヒョッコリやって来た。

 「ウっす、ご無沙汰っす。先生、元気っすか。」

 「どした。元気か。」

 「はい、元気です。」

 (「はい、元気です。」か。変わったな。)

 「元気ならいいや。」

 「妹も、元気でやってます。子どもできちゃって、色々っすよ。」

 「そっか。妹はどこ行ったっけ。」

 「〇〇です。」

 「あそこは今すごいぞ。レベル上がったよ。」

 「そっすかぁ。やめなきゃよかったな。」

 「だな。今じゃ、□□と肩を並べる進学校だ。肩で風切って歩けるぜ。」

 「そっすかぁ。残念だなぁ~。俺んときは校内で風切って歩いてたから追い出されちゃいましたよ。」

 これには塾長と三人で大爆笑した。

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 その後は平穏な生活をしているらしい。私は大学の専任教員が決まったときに塾をやめたが、彼からはその後もずっと年賀状が来ている。今年も来た。毎年、子供二人が写っているハガキなので成長がよく分かる。良いパパをしているようだ。良かった。

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 もう一人。

 逸材がいた。Hr君だ。

 彼の場合はいささかドラマティックだった。

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 彼の兄もこの塾に来ていた。ひとつかふたつ違いだった記憶がある。

 表現が難しいが、二人ともいわゆる優等生ではなかった。

 兄は、普通に上から三番目の高校に進学した。

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 弟は違っていた。気合が入っていた。

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 もっとも、中学生時代は彼よりもその友人Nの方が記憶に深い。そこで、先にN君について紹介しておこう。

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 この友人、N君は長身のイケメンで成績は中くらいであった。脳みそは良かった。

 しかし、その良質な脳みその使い方に不慣れだった。

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 本人は普通に学区一番の県立S高校に入れると思っていたらしい。

 ところが、二年生の3学期に行われた進路相談、いわゆる三者面談で「S高校は無理だ」と言われた。

 しかし、N君はどうしてもS校へ行きたかった。とはいえ、三年生になっても猛勉強を始めたという様子はなかった。いつも定期試験では比較的高い点数を取り成績表にもそれなりの数字が並んでいた。しかし、S校へ行くならばそれではダメなのである。もう一つランクを上げないと難しかった。

 三年生になって最後の三者面談でも「S高校は無理だ」と言われた。しかもそのとき、「合格できる確率は0.01%以下だ。」とまで言われた。

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 彼のラストスパートは凄かった。いつもの柔和な空気が消えていた。幸いS校は当日の成績が大きく評価される高校であった。然もありなん。内申書では評価が高い子でも入試の成績が十分でない子が少なくない。

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 他の塾や予備校も同じであろうが、この塾でも年が明けると、全国の高等学校の入試問題で編集された分厚い問題集を使って勉強をする。塾生たちは回を重ねるごとに正答率と解答速度が増してきた。名門、難関と言われる高校の問題もブルドーザーの如く解いて行った。一校終わる毎に「はい、これで〇〇高校合格!」と言って先へ進んだ。

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 そんななかN君の加速度は群を抜いていた。

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 確率0.01%以下の高校入試が終った日、彼は塾にいた。塾長も私も100%合格すると考えていた。もちろん実力はあった。そして、実力以上に、といったら彼に失礼だが、実力以上に度胸があった。

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 「たぶん英語も数学も満点ですよ。(新聞報道の)答えなんか見なくても分かりますよ。」

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 私も一度は言ってみたいセリフである。そして、言葉通り他の教科も含めほぼ満点で合格した。

 「『反吐が出るほど簡単だった』って言ってやりますよ。」と笑った。もちろん、これを言われる相手は確率0.01%以下と言った中学校の先生である。

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 中学校の先生の気持ちも分からないでもない。高校浪人を出すわけにはいかない。私は危なかったが。

 しかし、どうしても行きたい。「0.01%に賭けたい」という子の気持ちも分かってほしい気がする。もっとも、N君が受かったのは、「絶対に落ちる。君が合格する確率は0.01%以下だ。」と先生に言われたからかもしれない。

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 さて、このN君の友人Hr君の話に戻ろう。(つづく)

 

※「先生との出会い」はファンタジーです。実在する団体及び個人とは一切関係ありません。



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