「たにぬねの」のブログ

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瀬戸内龍,発進!その4_最終回_texto_040_ver.1.01

2012-08-12 18:30:00 | texto
瀬戸内龍,発進!その4(最終回)
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瀬戸内龍発進_リメイク計画_インデックス

この変形の間に残りの車両も空港駅のホームから繋がるコースを通って現れる。折れ曲がった部分から所定の位置に直接インしていく。駒は揃った。瀬戸内だけではない。先行してANHUI401に向かったメンバーも現地到着し、龍を迎える準備を進めている。飛行形態の龍が滑走路を走り出すまでのカウントダウンの表示がはじまった。集まっているほとんどメンバーは年に何回かある、多目的救助の講習、学会などで顔を突き合わせているが、艦長は離陸前に北陸から消火剤と供にやって来た大学院生に会うことにした。昨年に目をつけた人体に有害でない消火剤の開発者のメイン研究者だ。緑への優しさは人体への安全性で他を圧倒している。鎮火に至っていないビルには未だ多くの人が取り残されている。学会で話す、若い女性の姿が思い出される。

その大学院生はある学会の小さな部会で力強く報告をしていた。結果のグラフを示す。対照にした既存の消火剤に比べて、環境への負荷が小さいことは一目瞭然だ。さらに、学会にふさわしくないが開発の原点として、森林火災のニュースを伝える映像を会場に流す。燃える材料が山ほどあるのだ、火は四方八方に好きなように燃え移り火の勢いが衰えない恐怖は映像を通しても伝わってきた。後日、院生が所属する研究室を訪ねた時、環境負荷を低減する改良は時々刻々されつつも強力な化学剤の土壌に与える影響や環境へのダメージを軽減に重きを置いた消火剤の研究の必要性を教授を差し置いて語り続ける若者と会話をした。将来的には植物の成長を助長する消火剤にまで発展させたいと。その先もあるのだろう。瀬戸内龍艦長兼21世紀連盟の科学技術証券化・広域災害対策メンバーである、その女性はちょっと前に、モニター隅であの消火剤が使用リストに加えられたことを告げる表示が現れたことを思い出し、今回の救助活動に間に合った不幸中の幸いに感謝する。

一方、学生の方は今回の要請に違和感を感じていた。数ヶ月前に21世紀連盟への消火剤採用が内定し、数ヶ月前の半分くらい前に地元企業で生産・保管されたかと思うと、今度は使用するとかで研究室に連絡があり、技術担当として、同行することになった。環境に優しいことは、人にも優しいから採用したいようなことは確かに連盟の職員さんは言っていた。だからといって高層ビルの火災に対して使用するなんて考えていなかった。納得できるような、そうでないような、チャンスような、そうでないような、今度は森林火災でも使ってもらえるかもしれないから釈然としないながら協力的になる気持ちが働いたような、そうでないような。加えて、危険を伴うということで教授も親も今回の作戦参加に賛成するはずもなく、積極的に多目的救助施設艦に乗船する理由に乏しかった。それでも、私がこの消火剤のことを一番知っているという自負があるから、命の保障はしないという書類に署名し同行させて貰うことにした。広範囲な森林ではなく、鉛直方向で消火剤を覆う場合、どうすればよいかも、開発者として私が考えることが誰が指示するより近道のはずだ。だから、今、私が必要なのだ。個人的な感情・迷いは二の次、2000m超のビルを大きな樹と思おう!。

などとくだらないかもしれない思案に更けていると、艦長が訪ねてきた。秋に消火剤を使わせて欲しいといってきた連盟職員の人だったことに驚きと親近感を感じたことで高層ビルの消火に使用される違和感と同居していたアウェイ観が取り除かれる。二三のやり取りで納得した若き研究者はカウントダウンが3分を切り、持ち場に戻ろうと席を立つ艦長に尋ねた。
「あなた、ロシアに好きな作家さんいませんか?」
「いいえ」
「偽善家っぽいのは、その人の影響かと」
「偽善は自前ね」
「私と一緒ですね」
「ロシアの作家って、どうして」
「昔、重箱の隅みたいな偽善家さんがその作家さんの影響を受けてたみたいだったので、その類の方だったら嫌だなぁって」
「私だって、何かの影響は受けてるはずよ。自前はきっと正確ではないわ。だから、重箱の隅をつついた人のことも悪く思わない方がベターよ」
そういい残し、艦長席に向かう。なるほど、双方に大した偽善家である。

ギリギリと責められてもおかしくないタイミングで席に着く艦長と同室のクルー達は目配せだけで、その場を済ませた。操縦桿を握るパイロット達。国際新瀬戸大橋空港に対角線で設けられた多目的救助施設艦飛行型専用滑走路を静かに走り出す。増加する車輪の回転速度が増えなくなるや巨体は揚力より地上を離れる。北極海における初代瀬戸内龍の話は有名だ。だから、大橋空港に多目的救助施設艦があることは結構、知られていたりする。実際、練習を兼ねた二代目の進水式も3ヶ月後に迫り、少なからずイベント的な雰囲気が出始めていたこの頃であった。連盟は隠し事をしないので緊急で瀬戸内の多目的救助施設艦が出動することは広くアナウンスしていたが、飛ぶということはあまり知られていなかったので、多くのメディアがライブで発信した今回の発進の様子はインパクトを与えているかもしれない。

10分ほど前に出て行った風を追って再度、登り始める蝿取。どうやって追いつくか、追いつけなくても気付いてもらえれば何とかなるかもしれないと色々思案しながら懸命に手足を動かす蝿取に止まっている風の姿が目に留まる。風は窓越しの光景に動けなくなっていた。窓の内側では一人の男が動かなくなっている。既に息絶えているのか、意識を失っている状態か分からない。ただ、彼の周りには部屋の空気中の酸素濃度を薄くするため工夫・努力の痕が点在していた。壊れたばかりであろう、その部屋の防火扉から部屋内部に炎が襲ってきた形跡もない。現時点では推測に過ぎないがこの部屋が爆発的な炎上が起これば、直下の展望台フロアーに致命的な被害をもたらすかもしれず、それを嫌って、倒れている男は色々したらしい。逃げるという選択肢が消えた理由は分からないが、動かない男がいる部屋が炎上していないのは紛れもない事実である。蝿取が傍に来て、しばらく何もしてなかった己に風は気付く。蝿取は立ち止まってはいけないことを告げ、通信機を渡す。黒悟空の提案に納得した風は蝿取を置いて、あっという間にヘリポートに到達する。数人の人力で復旧するのはちょっと難しいだろう。間違いなく大破させるため屋上ヘリポートには相当の火薬が仕掛けられたようだ。しかし、理由はそれぞれで異なるにしても、諦め切れず、瓦礫に挑む風、遅れて到着し手伝う蝿取、数人を応援に向かわせる黒悟空。小型のヘリコプター一機でも発着できるスペース確保に挑まずにはいられない心境がそこにあった。

国境付近で飛行体型の瀬戸内龍の周りに先導、護衛のために島国から大国の戦闘機に引継ぎがれる頃には、何人かがビルの揺れのデータに違和感を覚えていた。ANHUI401には地震に限らず、風やビル内外の環境の差、物流・人の流れといった事柄に対して、ビル自体を動かす、微妙に揺らすことで安全・快適を実践する仕組みを備えている。担保になっているのはANHUI401の微動を局所的なレベルというのも「十分の一mmオーダー」で定量的に把握するシステムの標準装備だ。この定量値に基づき、具体的に動かす値を決める。これらの値はANHUI401のビル管理室に管理している。揺れの定量化は日常の安全・快適に限らず、把握したデーターを長い期間持ち続けることで材料の疲労など僅かな変化も探知でき、建物の劣化をリアルタイムに知ることもできるなど、様々な利用を期待されていた。

幸い管理室は爆破の被害に巻き込まれていない。というより警戒レベルが他とは異なって厳重なため、犯行グループも手が出せず、意図的に避けたとしても不思議はない。実際、消火・救助活動の初動の最優先事項の一つに管理室が正常に機能しているかの確認がある。勿論、管理室に集まる様々な情報の精度の確認も含まれる。実際、カメラ、温・湿度など各センサー、有・無線を含むビル内の通信系など少なからず損なわれている。特にひどいのはヘリポートに代表されるようにビル最上部。管理室とは逆の結果で、犯行グループの思惑通りであったのだろう、爆破の被害は大きく、多くのの位置データ用のセンサーは壊れいるのか、本来の位置にあるかなど分からない状況になっている。それでも、最上部以外の場所はそれぞれのフロアで生きているセンサーが少なからずあるので、管理室で補完的に処理することで数パーセントの範囲で精度は落ちる程度に止まっているのがANHUI401の微動を把握する標準システムの現状だ。従って、その絶対的な位置を示す揺れ具合の情報は今回もビルの火災状況や倒壊への進行具合などが建物にどれくらいシリアスなダメージを受けつつあるかについて計算・予測ではなく、具体的な測定値として教えてくれてはずである。今回の災害において、連盟スタッフ達にANHUI401のビル管理室から揺れの数値を呼び出す権限が直ちに与えられた。多くのスタッフは各持ち場で、それぞれの端末で救助準備を進めるために揺れの値を抽出していたが、一部の人間が値に違和感を持ったのだ。精度が下がっていることを考慮しても、全く、別の位置データと異なっているようなのである。別の位置データというのは他ならぬ、ビル登り競争のために競技者である偽ビル清掃員に付けられた位置センサーからの値である。

ビル登り競争に参加者に取り付けられたセンサーの電源は結構の割合でOFFになっていなかった。動いていないセンサーは、この混乱の中、レースリタイア後、体から外して電源をOFFにする几帳面な一面を持つ面々や律儀にレース運営サイドに返却し、運営側によって電源を切られたセンサー、逆に手荒に扱ったなどでセンサーを壊してしまうような度を越した横着な輩などが該当し、全部あわせても少数派でセンサーの多くがレース参加者に取り付けられたまま、位置情報を発信し続けてる方が多いというのは頷ける。センサーから発信され続ける電波が幅広くチャンネルを開いた受信機能の持つ装置を使っている連盟など救助活動に当たるスタッフ達が気付くのは自然の流れだ。とはいえ、加工されていない電波はダイレクトなありのままのデータ、生データとして受け取られる。一つのノイズと言えでも救助を待つ避難者の情報をもたらす可能性がある災害現場において、データの真意を知りたい連盟スタッフと耳の早い黒悟空がコンタクトするまでに要した時間はわずかであった。黒悟空がカメラでは追い切れない臨場感溢れるビル登りレース模様を伝える演出として用意した一式であったので、事件が起こる前の全く破壊工作されていないビルの外観に各センサーがcmオーダで表示できるプログラムを連盟スタッフ側が手に入れるのは自然の成り行き。外乱と判断されてもおかしくなかったデータの正体は、程なく金持ち達の賭けの対象の副産物であることが突き止められ、しかもANHUI401のビル管理室発の「十分の一mmオーダー」定量データと数cmレベルのずれが存在することが確認され、違和感の妥当性が証明された。

勘が冴えている連中の頭にある噂が過ぎる。この国の建物には計画・設計段階と異なる材料が用いられ建造されることがあるらしい。流行は免震の柱に高価な天然資源が混じった合金で予算を組み、実際は安価でより性能が優れた材料を用いる手口。ANHUI401でそれが行われている場合、その差額が大国の大物官僚たちの懐をあたためるといったところか。発覚しても、恐れることはない。より安全を期すための直前に行われたすばらしい判断をしたということでお咎めナシになる手筈(ってはず)。こんな陳腐な論理が大国の上層部に限って通る。現にある地震で倒壊した建物で上記なような建築資材のすり替えが発覚したこともあるがニ、三のトカゲの尻尾は切られ、トカゲの頭を構成する幹部達に一切の追求がなされなかったいう話がアルくらいだ。そうなると、ビル管理室から発せられる値が性能がやや劣る天然高価鉱物資源が交ぜっていることを装うため、補正が掛けられている可能性がある。ANHUI401のみならず、周囲の建物への影響を最小限に迅速な救助活動をするため、特別な着陸を考えている艦長は、より正確なANHUI401の位置・揺れ情報を欲している。倒壊へ向かうのANHUI401の揺れ、ビル自体を動かす仕組みの精度落ち、龍着陸時の影響。詳細な解析や事実関係が洗われるのを待っている場合ではない。瀬戸内龍中心のANHUI401災害対処の現場最高責任者である瀬戸内龍艦長は設計情報の図面をみながら、ビルレース競技者参加達のデータを最優先に信じることにした。

考えてみれば、ビルレース競技者参加達からもたらされる揺れの数値は、本来ならば、得られない情報であった。関連して、もう一つ追い風な知らせが届く。ビル登りレース参加者の中で、センサーを付けたまま、頂上付近のヘリポートにいる人間がいるらしい。もちろん、レースが続行されていることではあるまい。何でも、ヘリポートの状況確認、復旧を目的にしているとのことだ。人力のみの復旧は難しいだろうが、災害に抗うそれぞれの立場の行動として頷ける。らしき人物のセンサーから情報が発信されていることからも間違いない。一人でもよい、ANHUI401の最頂部の位置・揺れ情報を発してくれれば、すべてのデータを活用しつつ、マージンを最小源にした着陸を遂行できる。
多目的救助施設艦がANHUI401に向けて降下開始する10分以内に情報が得られればベストだ。しかし、現行の着陸では周囲の建物を若干破壊することを想定しているので、より正確に最頂部の位置・揺れが把握できるのであれば、1時間程度であれば、龍を空で旋回させる価値がある話だ。黒悟空は風の答えを聞くまでもなく、10分以内に天辺の揺れのデータを提供すると宣言する。

ヘリポートを下に、再び、細く高い上部へ、ANHUI401の天辺を目指す風。蝿取も追う。競うことで到達が早くなる相乗効果を狙ってか、単純に勝ちたいのか、目的に貪欲な姿に惹かれているのか。追いつく蝿取は風上に回りアシストを試みるが、しばらくすると風が風上に。でも、しばらくすると、また、蝿取が風上に。風上に行く人間が交代する感じになるので二人の進捗は早くなる。協力しながら競う。互いに負けられない気持ちが否応なく生まれ、単独で登るより時間短縮が行われていることを実感する。世界一の高さを誇るビルのピンチに、その天辺までの過程を人力のみで協力しながら挑む行為に高揚しないわけがない。数時間前の下品な盛り上がりとは明らかに異なる声援が起こっていた。しかし、厳しい現実は酔いしれることを許さない。先に蝿取が力尽く。端から最後までついて行けるとは考えていない。果たして、単独になった風のペースは落ちたのか。確かに体を揺さぶる風力に、ずっとさらされることになったが、さっきまでは競う高ぶりが。今は誰にも邪魔されずに我武者羅に登る心地よさがある。飛び出してから7分強、これが掛かった時間だ。連絡は要しない。旋回なしで破壊を伴わない着陸をすると艦長は決めた。2分後、もう一つのセンサーからのデータをみて、更に1mの余裕が獲得できることが分かり、修正を指示する。というか、二人の登り手に余分に複数個のセンサーを持たせて置いてくれれば、さらにマージンの少ない降下ができたのに、と冗談っぽいことが頭に過る余裕も生まれた。精度が高められる可能性は嘘ではないが、現状の情報で作戦を成功に導くことにできるから、更なる情報の要求はジョークとして扱うべき。ここまで来れば、今、ビルの自重による倒壊が始まっても間に合うだろう。政治的に憂慮されるべき事柄からANHUI401内に取り残されている人々の生命・健康の優先順位が上に戻る。

頂上の蝿取、さすがに疲れた。フラつきかけると、風が身を寄せる形で支えようとする。弱みを見せたくない今までの蝿取りだったら拒絶したことだろう。そもそも、蝿取りにすれば、幾ら、充足を感じているとはいえ、命は惜しいから、落ちるへまをするはずはない、と考えてほしいところだ。でも、男の馬鹿な優しさに便乗するのも悪くないかもしれないと思え、蝿取りは風に身を預けた。

龍は頭を下向きで鎌首を上げた格好で、情報に基づき、胴をある径で螺旋の姿勢にした。より空気抵抗をうけることで減速が得られるばかりか、螺旋によるバネ形状は着陸時の衝撃緩和を図ることを狙っている。それだけではない、幾重の360°は建物のスキャンと一斉に行う消火と救助活動にも有利に働く形態なのである。ANHUI401の周りを螺旋そのままに降下していく。主はスプリング形状にした全身で衝撃をやわらげる。一番最初に接触する部分から衝撃を逃がすように螺旋の体縮ませる。上の方はちょっとした無重力が起こり、着地の成功が実感できる。あの女子大学院生は署名が必要だったことに合点した。螺旋でANHUI401を上から下まで被うように調整し、 再度、スキャンをする。地には二巻きほどすることでアンカーとして安定を計っているがさらに、現地の重量級の乗り物たちがアンカーを補強する。龍からビルにユニットが伸びる。ビルの上から下まで外付けの螺旋階段がついた格好だ。螺旋からアナウンスがされ、生命に優しい消火剤が勢いよく発射された。消火剤はANHUI401の周囲にも少なからず散布されるが洗髪剤同様の留意で十分である。ユニットから消火剤を背中に積んだ消火部隊がビルに潜入する。火を消しながら、瓦礫を掻き分けながらホットスポットに辿り着く。ここでは従来の最高級消火剤の出番だ。大阪の化学工場より持ってきた超超強力消火剤のタンクを背中に負うメンバーがホットスポット周囲、ホットスポットの鎮火に当たる。優しい消火剤を背負った隊員が死角を中心に火を消しながら傷ついた人を探す。やがて、消火部隊メインから救助部隊メインにシフト。現地の各隊員も龍からANHUI401へ入っていく。ユニットを伝って、ビルから龍に人が運ばれる。龍のヘリポート車両からヘリが忙しく飛び交う。やや前の話になるが最初のスキャンで多目的救助施設艦1隻足りることを確認したので、他艦への要請は正式に下ろされる。

螺旋が持つもう一つの意味、多目的救助施設艦ならでは目的がある。螺旋の龍はANHUI401の支えになっているのだ。鎮火したからといって倒壊の危機が完全に去るわけはない。爆破と火災が脆くしたビルの構造を放って置けば、如何に最先端材料で建造されているANHUI401といえども、部分的な崩壊が数日の間で起きてもおかしくない。部分的崩壊が発生する場所にもよるが、てこの原理でリニアショックを受けた部分に偏った荷重がかることになれば崩れ落ちるだろう。補強、修繕といっても容易ではない。外部の支えなしでリニアショックを受けた部分の交換はできない。普通に考えれば数日で済む事柄ではないのだ。だから、異常なスピードでリニアがANHUI401に突っ込ませる計画を成功させた時点で爆破を仕掛けた犯行グループの完全勝利を意味していた。しかし、龍が螺旋でANHUI401を支持する模様が多くのメディアから伝えられたせいであろう、犯行グループからの追加される声明のニュアンスに変化がみられた。はっきり言ってしまえば、負け惜しみである。ただし、甚大な被害があった事実は変わらない。特に、直接の取り返しがつかない犠牲を被った者たちにとって、犯行声明の微妙な変化など慰めにならないだろう。

ANHUI401は3日後、実際、自重に耐え切れなくなった。螺旋の龍が支えているので倒れることはない。 多目的救助施設艦の大国滞在期間の目処はリニアショックを受け、ヤワになった柱の交換の完了までの日数、即ち、ANHUI401の補修期間ということになる。2、3日で済む話ではないのでビルオーナー側発信で2週間期間で多目的エキスポが行われることとなる。多目的救助施設艦を中心にテザー衛星型空港・地球エレベータ計画、さらに21世紀連盟の科学技術証券化・広域災害対策やについての博覧である。近々行われる予定の瀬戸内における進水式を前倒しする形で、ANHUI401のオープニングセレモニーの期間とも重なり、あっという間に準備された模様。もちろん、ANHUI401の自立が確定以降、瀬戸内龍に多目的救助の要請が博覧会期間中でも出動する手続きになっている。

風はあの日、ANHUI401の一室で動かなくなった男の家族を探し、その最後を伝えた。エキスポが終わる頃にはANHUI401は自ら支えるようになっていた。で、エキスポばかりか、このまま瀬戸内龍買取を大国政府が持ちかけたと云う噂も一部で囁かれた。結局、八隻目の多目的救助施設艦の積極的導入の検討で落ち着いたらしい。噂といえば、きな臭い話がANHUI401爆破テロで表面化しそうにであったが、どうなるかは瀬戸内龍艦長もとい科学技術証券化・広域災害対策の系列に所属の一職員が介入する問題ではないが、時は止まらない。エキスポ最終日に龍は大規模な交通整理の行われる中、蛇行や尺取虫など体をくねらせながらパレードの如く陸路を進む。そして、長江で瀬戸内龍の進水式は行われ、日本海、太平洋、瀬戸内海を経由して、橋に復帰した。アイテムを探す彼女のモニター隅には、2ヵ月とちょっと先に行われるはずだった進水式が単なる派手な練習に変更されたこと告げるアナウンスが表示される。そのときの艦長は・・・・・・。

fin.
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