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《ヤマルリトラノオ》(平成30年7月19日撮影)
私たちは今、客観的な根拠が何一つないというのに、現実には理不尽にも〈悪女〉にされている高瀬露の濡れ衣を晴らさんとして、『露草協会』を組織し、「巷間流布している〈悪女 高瀬露〉の再検証を求める請願」の署名活動を展開している。幸い、お陰様でご協力をたまわり、少しずつではあるが、着実にその運動は前進し拡がりを見せている。
ところで、この運動の展開については高瀬露のご遺族からの承認は得ていない。では仮に、もしご遺族がこの運動の展開について反対していたならばどうするか。私個人は、それでもこの運動は今迄通り展開する覚悟だ。それはなぜかというと、私は以下のように考えているからだ。
たしかに、ご遺族の中には、今更それを掘り返してほしくないというお気持ちがあるであろうことは私も十分承知している。それはまず、今迄その理不尽によって如何に辛い想いと経験をご遺族がなさってこられたかということは、当然想像がつくからだ。そして、やっとそれが沈静化している今、もうぶり返さないでほしいと思われるのも至極当然のことだからだ。しかしである、それではこのことをこのまま看過していていいのか。見て見ぬ振りをしていていいのか。私は、否だ。
まずそもそも、当の本人の露は何と言っていたかというと、『事実でないことが語り継がれている』とはっきり言った他は、生涯一言の弁解もしなかったという<*1>。あまりにも見事でストイックな露の生き方だった。さりながら、露はなぜそう対応したのだろうか、私にはその理由がわからぬままだった。ところが、ある時、あるクリスチャンが私に教えてくれた、『敬虔なクリスチャンであればあるほど弁解をしないものです』と。
その理由を知ってからは、遺族の一部の方から今更この件で掘り返してほしくないと仮に言われたとしても、それでははい止めますと言うべきなのか、いやそれでも濡れ衣を晴らそうとするこの活動はやり続けますと言うべきなのかという選択に、私はもう迷うことはない。
どちらを選択するのかは、人権問題を自分自身がどう捉えているのかと問われていることと同じだ、と私は理解できたからだ。要は、問われているのは自身の人権意識ではなかろうか。そして私の場合には迷うことがなくなったもう一つの理由がある。それは、
私(賢治)が血縁以外の女性の中で一番世話になった露さんが、このような見事な生き方をしたというのに、その人の尊厳を取り戻し、名誉を回復してやらなくてよいのか。このままでは、まるで私(賢治)が、『恩を仇で返した』ことになるではないか。
と、私たちに厳しく問うている気がしてならないからだ。そしてさらにもう一つ付け加えれば、〈高瀬露悪女伝説〉は少なくとも再検証が必要ですと、この濡れ衣を晴らすに最もふさわしい組織に対して私が公の場でお願いしても、そのようなことは個別の問題ですといって聞く耳を持たない現状だから、私たちはこの運動を草の根のそれだがやり続けるのである。
<*1:註> 上田哲が、露について、
彼女は生涯一言の弁解もしなかった。この問題について口が重く、事実でないことが語り継がれている、とはっきり言ったほか、多くを語らなかった。
<『図説宮沢賢治』(上田、関山等共著、河出書房新社)93p~>と紹介している。
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