食の歴史 by 新谷隆史ー人類史を作った食の革命

脳と食を愛する生物学者の新谷隆史です。本ブログでは人類史の礎となった様々な食の革命について考察していきます。

雑草の栽培化ー1・2 人類は雑草を進化させて穀物を生み出した(4)

2019-11-27 13:11:34 | 第一章 先史時代の食の革命
雑草の栽培化
生物の進化を大きく推し進めるのが、遺伝子が変化する「突然変異」だ。生物の進化では、環境に適したものが選択される「自然選択」が起こるが、栽培化では人に都合の良いものが選択される「人為選択」が起こる。つまり人類は、突然変異で新しく生まれた雑草の子孫の中で、より好ましい品種を人為選択することで、栽培化を進めたのだ。

穀物の栽培を行う際に、まいた種子がすぐに発芽してくれなければ困るし、出芽のタイミングがずれるという性質もいろいろな農作業を同時に進める上で不都合になる。そこで人為選択によって、ムギ・イネ・トウモロコシなどの種子は、決まった季節まで休眠する仕組みや、光発芽の仕組みも失った。また、種子ごとに発芽のタイミングがずれるという性質も無くなってしまった。

さらに、人為選択によって、自然選択では絶対に起こらない、とんでもない進化が雑草に生じた。それが、種子が熟しても地上に落ちない「非脱粒性」への変化だ。

植物が子孫を残すためには種子を土壌にばらまく必要がある。一方、種子が地上に落ちてしまうと、人が食べ物として収穫するためには一粒ずつ集めないといけなくなり、大変な労力になる。そこで、種子が落ちずに穂にとどまったままの品種が人為選択されたと考えられる。

しかし、植物にとって非脱粒性とは、自力で生きるのをやめて人類にみずからの繁殖をゆだねるという異常な状態だ。すなわち、非脱粒性への変化によって、ムギ・イネ・トウモロコシなどは、独力で生きる道を捨てたと言える。

一方で、自家受精するという性質は残された。栽培を行う上で、毎年同じ性質を持った種子(穀物)を収穫できるということはとても重要なことだ。自家受精は、同じ性質を維持する上で必須の仕組みと言える。

さらに人類は、一つの穂に、より多くの種子やより大きい種子をつけるものを選択して行ったと考えられる。

以上のような栽培化は短期間では達成できなかったと考えられる。人類は、数百年、あるいは数千年の長い年月をかけて、栽培化を進めて行ったのだろう。このように、穀物はあるときから急速に主要な食料になったのではなく、徐々にその重要性を増して行ったと考えられる。



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