徘徊オヤジの日々是ざれごと

還暦退職者が、現在の生活と心情、そしてちょっとした趣味について綴ります。

クワガタムシのかしらとスイカ・・・33

2017-03-08 08:17:08 | ・クワガタムシのかしらとスイカ
 おれはのろのろと起きだした。そして背中のカラを開いて羽を出した。ついこの間まで輝いていた羽はうすよごれて、ところどころ破れている。

 ゆっくりと羽を広げ、意を決して飛び出した。あの住み家のにおいを目当てに、ふらふらしながら飛びつづけた。そして入口の前であいつが出てくるのを待った。

 ドアが開いた。

「××××‥‥!」

 おれはすぐにつまみ上げられ、オリに入れられた。ついにもどってきたのだ。

「おかしら、よくご無事で」

 オリに残った4匹はみんな元気だ。みずみずしい赤いスイカも置いてあって、おれはむしゃぶりついた。そしてつくづく思った。

 自由を求めてにげ出すなんて、何とばかなことをしたのだろう。本当はこのオリの中こそ、おれの安住の地だったのだ、と。

(クワガタムシのかしらとスイカ…終)

クワガタムシのかしらとスイカ・・・32

2017-02-28 08:54:50 | ・クワガタムシのかしらとスイカ
 うまい食べ物を入れてくれ‥‥部屋の掃除をしてくれ‥‥ああ、おれは何ということをしてしまったのだろう。あいつこそ、おれたちを本当に守ってくれる‥‥神さまだったのかもしれない。

 できるなら、またあの暮らし、あのオリの中の生活にもどりたい。もう一度あそこにもどる方法はないだろうか。

 こんな思いが頭の中をぐるぐるめぐって、おれは長い間じっとしていた。気がつくと真夜中をすぎて東の空が赤くなりはじめている。朝つゆがおりて体は冷え、ふしぶしが痛い。

(クワガタムシのかしらとスイカ…33)に続く…

クワガタムシのかしらとスイカ・・・31

2017-02-20 10:03:30 | ・クワガタムシのかしらとスイカ
 それから東の森、南の森、西の森とわたり歩いたが、どこにも安心して暮らせるところはなかった。そしてただ1匹のあいぼうだったカムリまで鳥のえじきになってしまった。

 ちくしょう、何でえ何でえ。自由を求めてあのオリをにげ出したというのに、今では何もかも失って、残ったのはこのぼろぼろの体だけだ。

 こんな自由などくそくらえだ。自由はなくとも保護された安いつな暮らし。今ではあのオリの中がなつかしい。

 そういえばあいつは今ごろどうしているだろう。おれはあいつの指を2回もかんでしまった。今思えば、あいつはいつもおれたちをかわいがってくれた。

(クワガタムシのかしらとスイカ…32)に続く…


クワガタムシのかしらとスイカ・・・30

2017-02-10 08:58:21 | ・クワガタムシのかしらとスイカ
 北の森にいって楽に暮らせるところがあるとは思えない。おれはもう疲れた。今ではこのスイカの皮の下だけが唯一の安息所だ。だがこの皮もそのうちひからびてしまうだろう。

 おれの安住の地はもうこの世にはないのか。おれはこのまま死んでしまうのか。かつてはクワガタ界のおかしらと呼ばれ、仲間たちを従えていたおれが、こんなみじめな死に方をするのか。

 そう考えると、目からとめどなく涙があふれてきた。思えば、あのオリをにげ出してからだ。あれからいろんなことがあった。ふるさとの森に帰ったのはいいが、ガシイがクワガタ界の新しいかしらになっていて、たたかいをいどんで負けてしまった。

(クワガタムシのかしらとスイカ…31)に続く…

クワガタムシのかしらとスイカ・・・29

2017-01-31 08:42:26 | ・クワガタムシのかしらとスイカ
「あっ!」

 おれはとっさにスイカの皮の下にかくれた。しかしカムリは巨大なくちばしにはさまれ、そのまま空高くもち上げられた。

「おかしらー助けてくれー!」

 カムリの声は大空の中に消えていった。トビだ。トビがカムリをさらっていったのだ。

 おれはスイカのかげでぶるぶるふるえていた。トビは再びやってくることはなかったが。しばらくそこから動けなかった。

 カムリ、かわいそうなことをした。あんなやつでも、おれにはかけがえのないあいぼうだったのに。おれはとうとう一人ぼっちになってしまった。いくところもない。しかもこのきずついた体だ。

(クワガタムシのかしらとスイカ…30)に続く…