徘徊オヤジの日々是ざれごと

還暦退職者が、現在の生活と心情、そしてちょっとした趣味について綴ります。

あらしの夜明け・・・63(第4章・・・10)

2015-04-09 07:07:52 |   (第4章 故郷の村)
<カニイどの>

タカトは突然カニイの前にひざまづいた。

<カニイどの、お願いです。いくさをやめさせる手立てはないものでしょうか>

<われわれもできるならいくさは避けたいと思っている。こちらからいくさをしかけようとは考えていない。だが攻めてこられれば、全力で防がねばならないだろう>

 そのとおりだ。攻められて抵抗しないわけにはいかない。攻めてこられないようにする手立てはないものか。タカトの目から涙がおちた。

<いや、一つだけ手立てがないわけではない。この2人だ>

 カニイがいった。タカトの目がかがやいた。

<中へ入ってくれ。作戦会議だ>

 カニイはタカトとマトナとアペ、それから数人の男たちを家の中へ引きいれた。

(あらしの夜明け…64)に続く…

あらしの夜明け・・・62(第4章・・・9)

2015-04-01 05:12:12 |   (第4章 故郷の村)
<明日の正午>

 そういったとき、急にあたりがさわがしくなった。

<村おさ、あやしい者どもをつかまえました>

 男たちの声がする。いそいで外にでると、うしろ手にしばられた2人がいた。タカトの顔がさっと変わった。

「マトナ、アペ、どうしてここに?」

 タカトの姿をみて、マトナは泣きくずれた。

<この人はカムエク村の村おさの娘で、マトナという。なわをといてください>

 2人はすぐになわをとかれたが、顔はこわばったままだ。マトナとタカトは互いの事情を説明しあった。

「そう、いよいよいくさになるの」

「たぶん、もうさけられないだろう」

「タカト、あなたはどうするの?」

「‥‥」

 タカトは答えられなかった。本当にいくさになったら自分はどうするのか、タカトの思いはゆれ動いていた。

<タカト、おまえは私たちの一族だ。いくさになったら、この村の一員としてたたかうのだ>

 カニイがいった。タカトはだまっていた。つい先ほどカニイの話を聞いていたときは、そのつもりになっていたのに、マトナの顔を見たとたんに、また考えがゆれはじめた。

(あらしの夜明け…63)に続く…

あらしの夜明け・・・61(第4章・・・8)

2015-03-23 18:02:34 |   (第4章 故郷の村)
 ここまで話してカニイは一息ついた。タカトは何もいえなかった。

 そのとおりだ。自分たちの一族は必死の思いをしてこの地にわたってきた。帰れといわれても、今さら帰れるわけがない。だがニムシリ村の人々にとっては、これまで自分たちのものと思っていた土地をとられることだ。がまんできないだろう。

<この国はまだまだ広い。ニムシリの人々が狩りの場、山の幸を得る場としている土地は、あたり一帯の山や谷を含めると広大だ。
 確かにわれわれは木を切って森を焼いた。だがそれは田を作るために必要な最小限のもので、しかも彼らがあまり立ち入ることのない水辺に近い低地だ。ニムシリの人々が歩きまわっている広大な土地のほんの一部にすぎぬではないか。
 われわれはこれ以上は望まぬ。これ以上の森を焼こうとは思っていない。彼らはどうしてそのわずかな土地をわけてくれぬのか>

<でもニムシリ村の人たちにとっては、それががまんならないのです。彼らは、このラサン村を攻めることに決めました>

 カニイの話に引きずられるように、タカトは秘め事をもらしてしまった。

<何、この村を攻めるだと、いつだ、いつのことだ!>


(あらしの夜明け…62)に続く…

あらしの夜明け・・・60(第4章・・・7)

2015-02-26 03:33:18 |   (第4章 故郷の村)
 そんなとき、おまえの父親が、海を越えたはるか東には新しい土地があるといううわさを耳にしてきたのだ。それが本当に存在するものかは確かめようもない。
 だがわれわれはそれにかけた。たとえかけに負けてどこにもたどり着けなくても、それがわれわれの運命ならしかたない、とみなが考えた。このまま苦しみだけの暮らしをつづけるか、負けるとわかっている一揆をおこすか、危険をおかして逃げだすか、三つのうち一つだ。われわれは最後を選んだ。
 話をもちかけると一族60人が集まった。これだけの人数が外海をわたるには大きな船がいる。船を買う金などあるはずはない。われわれにできることは港に停泊している船を盗むことしかない。もちろん悪いことだ。今でも船主や船乗りには悪いことをしたと思っている。しかしそれがわれわれにできる唯一の道だった。
 さいわい村には若いころ船乗りをしていた男がいた。船のあやつり方はその男から習った。そしてやみにまぎれて停泊している船をおそい、乗っていた者を追い出し、3そうの船に20人ずつ乗り込み、そのまま出港した。
 海の上をただようこと10日、あのあらしで1そうが沈んだが、あとの2そうはこのニムシリといわれる村の浜につくことができた。
 あとのことはおまえが知るとおりだ。この地にも土着の者はいた。だがここには地主も領主もいない。収穫したものはすべて自分たちのものになる。こんなありがたいことはない。この地に田を作り、米を収穫するのはわれわれの夢なのだ>

(あらしの夜明け…61)に続く…

あらしの夜明け・・・59(第4章・・・6)

2015-02-13 04:38:10 |   (第4章 故郷の村)
<カニイ殿は私の父を知っているのですか>

<ああ、よく知っている。私とおまえの父親とは長いつき合いだった。そして、確かに存在するともわからぬこの新天地に一族そろって移り住もう、といいだしたのもおまえの父だ>

<この地にくることを最初に提案したのは父なのですか>

<そうだ、おまえの父親だ。タカト、おまえも知っているだろうが、われわれが故郷をすててこの地にやってきたわけをもう一度話してあげよう>

 といって、カニイはゆっくりと話しはじめた。

<われわれの故郷の村では、うち続くいくさと重い年貢に苦しめられていた。いくさとなれば村の男たちは有無をいわせず兵士としてかりだされ、そのまま帰ってこない者も多かった。刈り入れ前の田を馬や兵士たちにふみ荒らされたことも一度や二度ではない。
 それにわれわれはみな自分の土地をもっていなかった。だから収穫した米もその三割を地主に、三割を領主におさめなくてはならない。残りはわずかだ。それで一家が一年間食べていかねばならない。私たちはいつも馬車馬のように働くだけだった。そしていつもうえていて何の希望もなかった。
 そんな暮らしに耐えかねて一揆をおこす村もあったが、ことごとく鎮圧され、指導した者ははりつけにされた。われわれもひそかにヤリや弓矢を集めていたが、どうみても勝てる相手ではない。

(あらしの夜明け…60)に続く…