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ポジティブな私 ポジ人

青いルノーサフラン

息子は赤ちゃんの頃から聞き分けの良い子だった。
私と大違い。

ハイハイをしだした頃、積み木を高く積み上げて見せたところ、ゆっくり見上げて積み木に手を伸ばした。
積み木は木製だった。
崩れてぶつかったら痛いだろうなと思ったので、思わず小さな声で「あっ」と声に出てしまった。
すると、息子は積み木に伸ばしていた手を止めて、私の目を見た。
赤ん坊の頃からそんな感じで、必ず私が声をかけると、取り敢えず動作を止めて、私の方に注意を向ける子だった。

私は自分がやりたいことを優先する子供だったので、親の警告は聞かないタイプだった。だから、私と真逆の息子の行動に感動した。

息子は自動車が大好きだった。

2歳位になると、ミニカーに興味を持ち、よく欲しがるようになった。

その頃よく行っていたスーパーのお菓子売り場には、外国製のミニカーが置いてあった。
ミニカーはダイキャスト製のしっかりした作りだった。そんなおもちゃがお菓子売り場に置いてあったのは、申し訳程度に“ガム1枚”がついていたからだった。

スーパーに連れていくと息子は真っ先にお菓子コーナーへ行き、ミニカーを吟味し始める。
一つ300円以上の値段であったから、毎回買わされるのは家計を預かるものとしては、なかなか厳しいものがあった。
つい先日も1台買ったばかりだった。

食品の精算をするため、お菓子売り場にいる息子を迎えに行くと、案の定ミニカーを1台欲しいという。

見ると青いルノーサフランだ。

「この間もミニカー買ったから、今日は我慢しようね。この次買ってあげるから。」
息子の説得にかかる。
何とか説得に応じてくれた。

お買い物の精算を終え、手を繋いでお店を出た。
店を出てから何歩も歩かないうちに、息子が私の手を放し、突然踵を返して、店の方に向かって走り出した。そして、すぐにつまづいて転んだ。

その頃、子供達の運動能力の低下が問題になっていた。
テレビゲームなどが普及し、家で遊ぶ子供が増え、外で遊ぶ機会が減少傾向にあった。運動不足から体力が落ちていることが指摘されていた。特に、転んだ時に手で支えることが出来ない子供が増えていると言うことだった。

その子供の一人が我が家の息子だった。

元々外で遊ぶより家の中で遊ぶことが多い子だった。

腕の力が弱い上に、頭が大きく重たかったので、顔面を直接地面に打ち付けてしまった。
幸いにも、おでこが鼻より出ていたので、額にかすり傷程度で済んだが、少し血が滲んだ。

お店に向かって走って行ったのは、一度は説得に応じたものの、やはりミニカーを欲しい気持ちが、こらえきれなくなったからだった。

おでこの傷の血や汚れをざっと拭いながら思った。
小さな2歳児の頭の中で、説得に1度応じたものの、欲しい気持ちと葛藤していたのだと。結局は欲しい気持ちがまさって、件の行動に至ったのだ。
その気持ちを思うと、もう買ってあげずにはいられなかった。

私は駄目な母親だ。「今日は買わない」と決めたのに、情に流され、決めたことを反故にしてしまう。

直ぐに、青いルノーサフランを購入し、息子に手渡した。
息子は涙の乾ききらない瞳で、ミニカーを大事そうに眺め続けるのだった。
おでこの痛みなど、ミニカーさえあれば何も感じないようであった。

それほどまでに欲しがった青いルノーサフラン。

彼は今でも持っているだろうか。




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