会社を辞めてから、会社の方との交流はほぼ一切無いし、旧友に会うこともない。近所付き合いも全く無い。一人で外出することもほぼ無いのだ。
それでも駐車場で、親しく声をかけてくれる同年輩の方がいるらしい。ただ話が長く、クセの強い方なので、夫は出来るだけ会わないように避けているようだ。
夫の話相手は、ほぼ私だけ。あまり健全とは言えない。もし私が先に逝ってしまったら、夫は完全に孤立してしまう。
そういえば、そんな独り身の初老の男が出てくる映画があったなあと、ふと思い出した。
トム・ハンクス主演の「オットーという男」。2015年公開のスゥェーデン映画「幸せなひとりぼっち」のリメイク版だ。
そんな人付き合いが苦手で孤立した「夫みたいな男」が出てくる映画を、今後の参考までにちょっと観てみようと思った。
どうせなら、二本まとめて観比べてみよう。
順番はオリジナル映画から。
スゥェーデン映画はあまり馴染みがないと思ったけれど、過去に観た「ぼくのエリ」や古くは「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」もスゥェーデン映画だった。
「幸せなひとりぼっち」の主人公は妻に先立たれた初老の男オーヴェ。頑固で人付き合いが悪く、よく人と揉める。なにかにつけ「バカモノ」と口に出す。
それでも、彼は毎朝町内の物置の施錠を確認したり、違法駐車が無いかなど町を見回り、自分の役割をキッチリ果たす律儀な男だ。
彼は、亡き妻だけを思い、他の事はどうでもいいと思っている。妻の後を追おうと、首をつるためのローブの準備をしていた。
そんな時に、向かいの空き家に若い夫婦が引っ越して来て、自殺の機会を逸してしまう。
特に、妊婦のパルバネと関わりをもってから、オーヴェの心境が少しずつ変化していく。
スウェーデン映画の方は、全く馴染みのない俳優が主役だ。主人公オーヴェをロルフ・ラスゴードが演じている。
原作では58歳の主人公らしいが、見た目は太めのお爺さんだ。
妻との若き日の回想シーンが素敵だった。
オーヴェの現実の日常と対比することで、空虚な彼の日々が説得力を持つ。
明るくて知的な妻のソーニャ役は、イーダ・エングヴォルが好演している。とても美しい女優さんだ。
妊婦のパルバネはイラン人の女性で、頑固なオーヴェに果敢に関わるタフな女性だ。
アメリカ映画の方は、お馴染みのトム・ハンクスが主人公オットーを演じている。
内容はほぼ同じだが、主人公や隣人の妊婦さんの名前などが変えられている。
トム・ハンクスは原作に近い外見で、とても若々しい。お腹も出ていない。
妊婦のマリソルを伴って訪れたカフェのシーンでは、素敵なベストを着ていて、とてもおしゃれで似合っていた。
妻ソーニャの回想シーンはあるのだが、若き日のオットー役を、トム・ハンクスの実の息子、トルーマン・ハンクスが演じているので、そちらに目を奪われてしまう。
若夫婦の妊婦さんマリソルは、陽気なメキシコ人の設定。とにかく明るいので、苦虫を噛み潰したようなトム・ハンクスの嫌なオヤジ感を相殺してくれる。
二本の映画を見比べると、お国柄や国民性、時代が反映されていて、それぞれ特徴があり面白かった。ただ、両作品とも自殺を繰り返しては失敗するシーンが何度かあるので、そこが心痛む。
スウェーデン版は、よりシリアスな感じがした。
オーヴェの生い立ちは貧しく悲惨な感じが際立っていた。
アメリカ版は、
トム・ハンクスの作品を多く観てきたので、何となく観る前から安心感があった。スウェーデン版を観てストーリーもわかっていたけれど、アメリカならではのユーモアも楽しめた。
若き日のオットーに注目するあまり、若き日のソーニャの印象がかすむ。
トム・ハンクスの作品は数々観たが、特に「ビッグ」が好きだ。私の中では、この映画の明るいイメージが強い。
今回の映画では、人付き合いの悪い頑固でいつも不機嫌な男の役だ。主役はトム・ハンクスじゃなくて、違う俳優でも良かったんじゃないかと思ったりした。
映画の感想は、見る人により変わる。あくまでも私の個人的感想だ。
オーヴェとオットーは、日本の昭和一桁生まれの頑固親父を彷彿とさせる。
根は優しくて真面目で良い人なのに、表向きは口うるさく、融通が利かない不器用な男。そして言葉がいつも足りない。
夫は昭和二桁だが、私亡き後、マリソルみたいなおせっかいな隣人でも居ない事には、夫はおこもり生活になってしまうのでは無いか。
夫に何か新しい事にチャレンジするよう促しても、あまり関心は無い。
ただ、映画の主人公たちのように、車にだけはこだわりがある。それでよく駐車場に車の状態を確認しに行くから、ご近所さんとも会うみたいだ。
ここで意外なのは、夫が私よりもご近所の情報に通じていることだ。どうも、駐車場でご近所さんとの短い会話で、多くの情報を得ているらしい。
映画を観てつくづく思うのは、年を取るごとにご近所付き合いも重要だということ。
ここにもう30年以上も住んでいるが、私はすれ違いざまに、挨拶を交わす程度のお付き合いでしか無い。
近隣のことに関しては、夫より私の方が疎い。ご近所さんと顔を合わせる機会が無いからなぁ。むしろ、私が独り身になった時の方が、孤立するかも。
いや、しかし夫は75歳で免許を返納すると言っているから、それ以降は駐車場に行く機会がなくなるから、やっぱり孤立する。
映画を観ても、考えても、この先の不安はつのるばかりだ。
考えていてもしょうが無い。なるようになるさと気楽でいるより他ない。未来は誰にもわからないのだから。