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ポジティブな私 ポジ人

我が家のプーの大災難

娘が1歳6ヶ月位の頃の事だったと思う。
次第に自分の意思を表示出来るようになってきたので、彼女の好きなおもちゃを選んでもらおうとおもちゃ屋さんへ連れて行った。

抱っこしながら店内を回っていると、プーさんのぬいぐるみに反応したので、立ち止まってみた。
すると、丁度娘の小さな手に収まりのいいプーさんを棚から取ったので、それで良いかどうか、他のぬいぐるみをチラつかせてみたが、彼女の気持ちは変わらなかった。

私の悲しい性で、直ぐに値札をチェック。小さいくせに高めの1,500円。しぶしぶ支払った。

ディズニーのあの有名な「プーさん」のぬいぐるみだが、娘の選んだプーはオリジナルのアニメとは色も見かけも良い具合にややかけ離れていた。

色は淡くやさしい黄色っぽい薄茶色で、触ると肌触りのよい起毛した生地で出来ていた。
中身は化繊の綿とブラスチックのビーズが入っていて、持ち重りのする感じが普通のフワフワした軽いぬいぐるみとは異なっていて、それがとても良かった。

ビーズが移動するので、自立で座らせたり、寝かす事も可能で、さすが高いだけあると、妙に感心した。

娘は毎日プーと遊び、どこに行くにもプーを連れて行った。

私はプーを手で操りながら、声を変えて娘によく語りかけた。
娘は本当にプーが話していると思い込んで、真剣にプーの顔を見ながら、会話することもあった。

時々、娘は私の言う事をを聞き入れない時があったが、そんな時はプーの出番だった。
「ねえねえ、お母さんの言う事を聞いてあげて」
とプーを利用して話すと、ほぼ100%聞き入れてくれた。
プーの効果は絶大だった。
ぬいぐるみではあるけれど、プーは娘の初めての大親友だったのだ。

毎日遊ぶので、1年と経たないうちに、プーのお腹の辺りはもう生地が擦れて、毛が無くなり始めていた。

ある朝、娘がプーを持ちながら泣いて起きてきたことがあった。
理由を聞くと、泣きながら「プーがあったかい」と言う。
プーが温かいと何故嫌なのか理由は不明だったが、泣くので取りあえず冷やそうとプーを冷凍庫に入れる。
数分して冷えたプーを渡すと、ニコニコして受け取り、泣いていたのが嘘のようだった。

それからしばらくの間は、よく「プーがあったかい」と言って何度か泣き、その都度冷凍庫へ入れて冷やすと言うことを繰り返した。

ある日お出かけをしたときも、娘のお供はプーだった。
帰りの地下鉄の中、娘は疲れて眠ってしまった。
私は娘を抱っこして、家まで帰宅した。

娘が目覚めると、プーがいないと、騒ぎ始めた。
どこを探してもプーはいなかった。
娘の涙が止まらない。
大親友の失踪である。

記憶をたどると、プーは娘が手に持っていたので、無くすとしたら地下鉄の中しかなかった。
私は焦って自宅から一番近い地下鉄の駅に問い合わせてみた。どうか見つかりますようにと願いながら。

駅員さんは、落とし物に届いていないか調べると言うことで、一度電話を切った。
ヤキモキしながら、結果の電話を待っていると、隣の駅にぬいぐるみの落とし物が届いていると連絡があった。
私は直ぐに確認のため隣の駅まで駆けつけた。果たして我が家のプーであった。親切な女性が届けてくださったとの事。ありがたい。

プーが戻り、娘は大喜びしたあと、プーを叱っていた。勝手にどこでも行っちゃだめだと。
元はと言えば、眠ってしまった娘の手から離されてしまったのだけどね。
プーは何も言わずに、娘の小言を聞いていた。

娘はとにかくぬいぐるみの類いが大好きだった。
あちこちのお店や、旅先で見かけたぬいぐるみをねだっては、買わされた。
しかしどのぬいぐるみも、直ぐに手に取らなくなってしまった。

その点、プーだけはいつも身近において遊んでいた。
その結果、薄くなっていたお腹のあたりの布は破け、ついには腹ワタならぬ、中綿とビーズが飛び出て来るようになってしまった。
修理するにも縫い合わせるほどの布も足りず、やむを得ずお腹を包帯でぐるりと巻いて、応急処置をした。
そうこうするうち、今度はほっぺのあたりも布が擦り切れ、包帯はほおからお腹へとぐるぐる巻の状態となり、見るからに重症を負ったプーといった様子になってしまった。

娘も高校生になっていたが、そんな状態になっても、常に身近に置いていた。

その頃、息子は大学生だったが、“フラワーロック”と言う昔の玩具を探していた。
音に反応してクネクネと動く、大昔に大ヒットした飾るタイプの玩具だ。
ネット上でも探していたようだが、中々手の届くものが無かったようだ。
それが、たまたま私が親戚の家に行った時に、押し入れに眠っていたのを見つけ、譲ってもらったのだが、残念ながら動かない。



そこで、玩具の修理をしているボランティアさんがいると言う情報を得て、フラワーロックを修理に出すことにした。
その際、ちらりとプーの修理も…と頭をかすめたのだが、無理だろうと一度私の頭の中では却下した。
だが、娘がフラワーロックの修理の話を聞き、「プーも修理に出してみよう」と言ったので、私もつい娘の熱意にその気になって、玩具修理のボランティアさんたちの所へ、その2品を持ち込んだのだった。

そこは、市の運営する建物の一角に、週に一度リタイアした男性達が集まって、善意で玩具の修理をしているところだった。
私が持ち込んだ日も、善意に溢れた老齢の5、6人の男性達が笑顔で迎えてくださった。

一人の代表メンバーらしき方が2つの玩具を診断しながら、フラワーロックの方は「多分大丈夫だと思いますよ」と自信ありげにおっしゃってくださったが、プーの方を見て、「うーん、これはどうかなー」と首をかしげた。とその時、後方にいたお爺さんが「大丈夫ですよ」と自信たっぷりにいったので、私も希望を持って託して帰ってきた。

約束の受け取りの日、行ってみると、フラワーロックとプーが出て来たが、まずフラワーロック。
説明してくれた方は、誇らしく「直りましたよ」と言って、スイッチを入れ、音を鳴らして動きを見せてくれた。
オリジナルの動きとまではいかないけれど、ちゃんと音に反応し動くことが確認できた。

そして、これが大問題のプーである。
もう、説明を聞く前から心の中で
「えっ、ええっーーー?」と叫び続けていた。
出て来たプーは真っ黄色の手足がひょろ長い、手作りの完全に別物だった。
製作を頼んだのでは無く、修理を頼んだはずだったが…。

私はそれを見ても一言も言わなかったが、ボランティアさんの方から「ごめんなさいね」と言ってきた。
その、黄色いいびつなプーの横に、プーの抜け殻のきれが添えられていた。
「ほんとにごめんなさいね。良かったらこれ持って行って。」と別の方が申し訳無さそうに、わざわざ買って来られたのか、真っ白いシロクマのぬいぐるみを用意してくれていた。
いただくつもりは無かったが、どうしてもと乞われ、私は新品のシロクマといびつな黄色いクマとプーだった抜け殻を持って帰った。

帰宅し、先ずは息子に直ったフラワーロックを渡した。
それから、プーの悲惨な姿を娘に見せると、泣き出してしまった。娘の涙を見て、私も心が痛かった。まるで、プーが死んでしまった様な気がした。

声を与え、性格も生まれ、魂を吹き込んでしまったプーは、もはやただのぬいぐるみでは無かった。
娘の大親友であり、ほとんど家族の様なものであった。

プーの抜け殻はもはや亡骸であった。
私は直ぐに蘇生させなくてはと思い立ち、かつて趣味でクマのぬいぐるみを作っていた時に残った綿をプーの抜け殻に詰め込み、目玉用のボタンを取り付け、何とか原形に近い形に戻し、娘の目の前に置いた。
「ちょっと違う」と言いながらも、何とか泣き止んでくれてホッとした。
私もプーが復活した事で、心が落ち着いた。
災難だったなぁ、プー。

全てはボランティアさんの善意だった。ちょっとお年を召していたので、勘違いされた所もあったかと思う。
また、私の判断も娘の熱意で正しく判断出来なかったのもいけなかった。
色々反省すべき点はあった。でも、何とか元通りになって、本当に良かった。

娘がおもちゃ屋さんの棚から手に取って、20数年。すっかり色もくすんで、包帯でぐるぐる巻。様々な体験で全体的にくたびれてしまい、プーは子供達に「プー爺」と呼ばれる様になった。
今はこれ以上壊れない様に、プラスチック製の透明な大きなガチャポンのカプセルの様な入れ物に保存している。

私も子供達も大好きな映画の一つに“トイ・ストーリー”がある。
おもちゃ自身の告白に、「汚れても壊れても、子供に使われることが玩具の最大の喜びだ」というような事を言っていたと思う。

そうだとしたら、プーはあんなにボロボロになっちゃったけど、幸福な玩具と言う事になるだろうか。


コメント一覧

ポジ人
災害ボランティアさんの現場では、色々な事があるのですね。
我が家には山のようにぬいぐるみがあるのですが、可愛そうで処分することも出来ず、娘の負の遺産となっています。
コメントありがとうございました。
nognogblack
ボランティアの方の『善意の早とちり』と、ぬいぐるみ🐻に対する強い想い入れの温度差が生んだ悲劇のように思います。

災害ボランティア活動でも、被災者の方の大切な思い出の品をゴミとして棄ててしまうトラブルがあると聞きます。

想いは目にみえないので…

ぬいぐるみ🐻がそれほどまでの存在だなんて想像も出来なかったのでしょう…だけど、代替え品が用意されていたと云う事は『やっちまった~』😅と云う意識はあったのかな?

購入したペットが病気だったのでペットショップに行くと、平然と『お取り替えしますよ。』と言われた時のショックにも似ています。

全くの別人?では意味がありませんからね。

何はともあれ、どんな形であれプーさん本人が帰って来て良かったです。
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