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ポジティブな私 ポジ人

オレオレ

確かクラス会に出席して、ほろ酔い気分で帰宅した日の夜のことだった。今から、35年以上も前の事だ。

上機嫌で居間でくつろいでいると、電話のベルが鳴った。
昔のダイヤル式の黒い電話だから、ちょっとビクッとするほど大きな音だった。
時刻は午前0時を過ぎていた。不審な電話かも知れない。そう思って、いつもは受話器を取って名乗るところだが、その時は「はい」とだけ返答した。

すると受話器の向こうから「俺…俺」と男性の声が聞こえた。その声は、クラスメートのY君にソックリだった。
「あっ、Y君?」
アルコールが入っている分、私はいつもよりテンションが高めだった。それに、クラス会の後だったということもあって、ついベラベラと話し始めてしまったのだった。
その間、受話器の向こうでは、相槌を打ったり、笑ったりする声が聞こえていた。
その内、私は何かをY君に質問したのだが、その途端、受話器の向こう側が急に静まり返ってしまった。

「あれっ?Y君?あれっ?もしかして違った?」
そう尋ねても、ウンともスンとも聞こえて来ない。あちゃ~、勘違いしてべらべら喋っちゃったなーと思い、
「あ、すみません、勘違いしてしまって…すいませんでした」と言って、私は慌ただしく受話器を置いた。
酔っているとはいえ、馬鹿だなあ私。
早とちりした事を反省した。

その直後、また電話が鳴った。多分さっきの人だなと思った。受話器に手を伸ばそうとした時、夫が「出るんじゃない」と私を止めた。きっと夫もさっきの人からの電話だと思ったはずだ。

夫に止められて、確かに出る必要もない電話だと思い、鳴りっぱなしのまま放置し、やがてベルは鳴り止んだ。

あの深夜のオレオレ電話は何だったのだろう。

私が勝手に勘違いしてしまっただけの、ただの間違い電話だったのか?本当は、違う人にかけたはずなのに、勘違いした私があんまり陽気に楽しく話すものだから、「違いますよ」と言いそびれてしまったのだろうか。

それとも、Y君ではないクラスメートの一人だったのか?いや、クラスメートなら、Y君と勘違いされた時点で、否定するはずだ。

或いは、ランダムにダイヤルしては、出た人が女性なら「俺」と言って勘違いを誘い、話し出すのを待っていたのか?そんな事をして寂しさを紛らわせていたのだろうか?
そうは思いたく無いが、これが一番有力なんじゃないかとも思える。金銭目的のないオレオレ電話。

今から何十年も前に、オレオレ詐欺の原点とも言えるものが、芽生えつつあったのじゃないかと思えるようなエピソード。

昔はクラス名簿や連絡網に、住所や電話番号が記載されていた。今ではそれを個人情報と呼び、管理に細心の注意を払わなければならない。管理が必要な個人情報が、誰の手にも容易に渡るような雑な扱われ方をされていた。

電話番号が個人情報だなんて、まだ誰も認識していなかった、遠い日の出来事だ。





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