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阪神間で暮らす 3

テレビを持たず、ラジオを聞きながら新聞を読んでます

東京五輪の開催は犠牲的精神によるのか、特攻自爆精神で行われるのか  (抄)

2021-06-07 | いろいろ


ジャーナリスト田中良紹氏のヤフーニュースのコラムより

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東京五輪の開催は犠牲的精神によるのか、特攻自爆精神で行われるのか


 東京五輪の開催を強行することは、日本人の犠牲的精神の上に成り立つのか、それとも特攻自爆精神で行われるのか、そんなことを考えさせられる今日この頃である。

 前者はバッハIOC(国際五輪委員会)会長の「日本人は歴史を通じ不屈の精神を見せてきた。この困難な五輪を唯一可能にするのは、逆境を乗り越えてきた日本人の能力」という発言で明らかなように、IOCは日本人の稀有な犠牲的精神が東京五輪開催を可能にすると考えている。

 バッハ会長が日本人の歴史の何を指したかは明らかでないが、フーテンは第二次大戦で米国から人類史上初となる原爆を2度投下され、にも関わらず米国を恨むことなく、米国に自国の安全を委ね、それによって軍事負担を軽減し、持てる力を経済に注ぎ込み、世界も驚く高度経済成長を成し遂げたことを指しているのかと思った。

 だとするとバッハ会長の言う「日本人の犠牲的精神」は必ずしも的を射ていない。フーテンはベトナム戦争がまだ終わっていない時代に、アフリカや中東、東南アジアを取材したことがあるが、フーテンを日本人だと知るや各地で「日本は米国から原爆を落とされたのに、なぜ米国が有色人種を殺す戦争に協力するのか」と質問された。

 中には腕をまくって自分の腕を指さし「お前と俺の肌の色は同じだ。しかしベトナム戦争は肌の色の違う米国が俺たちと同じ肌の色を殺している。日本人は白人から原爆を落とされた経験を忘れたのか」と言う者もいた。

 しかし日本人は被爆の経験を忘れてはいない。忘れてはいないが悪い戦争を仕掛けたのだから「仕方がない」と思い込まされ、日米安保条約を結んで米国に安全を委ねる道を選択した。

 吉田茂は平和憲法を盾に再軍備を拒み、日米安保条約で軍事を米国に委ねたが、その一方で米軍の武器弾薬を作り「戦争特需」の恩恵を受ける道を選んだ。それが日本を工業国家として経済成長への道を拓く。朝鮮戦争とベトナム戦争の「特需」がなければ日本経済の今日の繁栄はない。

 そして日本は米国から要求される軍事負担を軽減するため、まず国民に平和憲法の尊さを教え、野党に護憲運動を主導させることで、米国の要求が過度になると、野党政権が誕生してソ連と対立する冷戦時代の米国の国益に反すると思わせた。

 これが自民党と社会党の暗黙の了解事項である。だから社会党は決して政権交代を狙わず、護憲政党であることを前面に打ち出す。つまり憲法改正させない3分の1の議席は獲得するが、決して過半数は獲得しない。そして自民党は必ず社会党に3分の1の議席を与える。それを可能にしたのが中選挙区制の選挙制度だ。

 これが「55年体制」の隠された実像である。この自民党の「軽武装・経済重視」路線で日本は高度経済成長を達成し、米国経済を乗り越える勢いになった。しかしソ連が崩壊して冷戦構造が終わると、このからくりは効かなくなる。

 冷戦が終わった1989年をピークに、日本経済はつるべ落としの勢いで坂道を転がり落ち、「失われた時代」を迎えた。そして米国に自国の安全を委ねたことが日本を身動きの取れない国にする。周辺に危機が起これば日本は米国の命ずるままに米国製兵器を買わされ、それを拒否する論理も力もない。それが日本の現状である。

 焼け野原から経済大国に上り詰めたのは、日本人が逆境に耐える犠牲的精神の持ち主だからではない。米国の歴史学者マイケル・シャラーが言うように「狡猾な外交術」を駆使した結果である。日本政治は国民と米国を「狡猾」に騙して高度経済成長を成し遂げた。

 ところが最近ではその「狡猾」さもなくなったようにフーテンには見える。IOC幹部は一方で日本人の犠牲的精神を称賛し、もう一方では何が何でも開催すると強い意志を示して日本人を脅しにかかる。日本を硬軟取り混ぜた圧力で攻めれば犠牲を甘受すると思われているかのようだ。

 そして今週発売の「週刊新潮」のグラビアには、五輪旗をつけた菅総理操縦の特攻機がコロナウイルスめがけて自爆攻撃を行う風刺画が掲載された。南仏の地方紙が1月に掲載した風刺画だという。

 その中で菅総理は「それでも東京五輪を開催します!バンザイ」と叫んでいる。相手のコロナウイルスは「参加することに意義がある」と言い、開催することで感染が拡がることを喜んでいるように見える。

 見た瞬間、「そうだ!日本にはもはや狡猾なる外交術はなく、何も考えずにただ突っ込んでいくしか方法はないことを、外国人に見抜かれている」と思った。3年後にパリ五輪を控えるフランス人に、今年の東京五輪開催が特攻攻撃に見えるということは、日本人がもはや「狡猾」ではなく「単純」で「思慮のない」人種に見えているということだ。

 ・・・・・。

 


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保護者的要素強いロシア

2021-06-06 | いろいろ


賀茂川耕助氏の「耕助のブログ」より

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保護者的要素強いロシア


 米バイデン政権は4月、ウクライナにおいて人権抑圧を行っているなどの理由でロシアへの制裁を強化すると発表した。今年に入ってウクライナとの国境付近にロシア軍が兵力を集結させているとして、大規模な紛争になるのではという懸念が高まる中、プーチン大統領も4月に行った年次教書演説において、ウクライナ情勢で関係が悪化する欧米諸国に対して「ロシアの安全保障上の利益を脅かすような挑発をする国は後悔することになる」と対抗姿勢をみせている。

 しかし同時に、ロシアの基本はあらゆる国と友好関係を重視するというものだとも強調した。これと対照的なのは米国で、敵対する国に制裁や取引規制を行い、中国、ロシア、イラン、北朝鮮、キューバなどを制裁対象に、大国の外交政策の目的を実現するための権力手段を行使している。

 ロシアに隣接するウクライナのドンバス地方は2014年から紛争状態が続いている場所である。ウクライナが独立したのはソビエト連邦が崩壊した1991年で、2014年に紛争が起きてウクライナに過激で暴力的な右派勢力が台頭した。親ロ感情の強かったウクライナ領クリミアでは、住民投票で9割以上の住民がロシア連邦への編入に賛成票を投じ、現在はロシアの支配下にある。クリミア半島がほぼ無血でロシアに併合されたのとは異なり、ドンバス地方ではクーデターでウクライナに親米政権が誕生してから7年間、東スラブ人同士が殺し合い、多くの死者が出ている。

 2014年のクーデターで親欧米政権が誕生してからウクライナ経済は破綻し、欧米の支配者によってウクライナ国民の資産は略奪され、国外へ持ち出された。当時米国副大統領だったバイデン氏の息子がウクライナの天然ガス会社「ブリスマ」の重役を務めていたのもその一端であることは言うまでもない。欧米の支配者がウクライナに求めているのは、ロシアに対して好戦的になり経済的および地政学的にロシアを封じ込めることだ。プーチン大統領が「ロシアを脅かすような挑発をする国は後悔することになる」と言ったのは、NATO軍、つまり欧米に対する言葉なのである。

 欧米や日本のメディアはロシアを攻撃者として描いているが、ロシアは保護者的要素の方が強い。ウクライナ、特にドンバス地方では、多くの国民がロシア市民権を申請しロシアはこれを受け入れている。そしてソビエト連邦の崩壊により独立した国の多くも再びロシアとのより良い関係を望み、上海協力機構などを通して同盟が進んでいる。

 NATO軍の挑発にロシアが反応し、豊富な石炭埋蔵量を誇るドンバス地方が第3次世界大戦の始まりになるという懸念は、軍事的な解決は許容しないというプーチン大統領の公式発表を額面通りに受け取り、現実にならないことを信じたい。世界最大の面積を持つロシアは領土拡大も必要とはしていないのだ。それよりも、忍耐強く、欧米が力尽きるまで対応を見送るという戦略も柔道家のプーチン大統領ならばあり得るだろう。
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復権を狙う安倍前総理

2021-06-06 | いろいろ


より

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復権を狙う安倍前総理。
  憲法秩序破壊の虚偽答弁を許してはいけない<ジャーナリスト・倉重篤郎氏>  


月刊日本


安倍虚偽答弁は憲法秩序破壊  


 憲法改正のための国民投票法改正案がこの国会で成立する見通しとなった。焦点のCM規制で自民党が立憲民主党の修正要求を全面的に呑む、という妥協が成立したためで、2018年から9国会にわたり採決が先延ばしされてきた改憲手続法がようやく整備されることになった。

 背景には、菅義偉首相が自らの再選戦略のため、改憲に必ずしも不熱心ではないとの証として、安倍晋三前首相ら自民右派勢力を引き寄せる狙いがあった。立憲側も「何でも反対」ではない、という切り替えのタイミングを伺っていた。

 改正そのものには異議はない。改憲自体が否定されるものではないし、そのための制度、仕組みを完備させておくことは国会の使命である。今後はCM規制のみならず、最低投票率、投票所の整備といった先送り課題についても、時間をかけて徹底的に詰めることだ。

 ただ、不満がある。直近に起きたことで、憲法にとってはより重要、死活的なテーマと思われる問題が、全く議論されなかったことだ。

 それは、国政の最高責任者が国権の最高機関で、118回にわたり虚偽答弁していた、という前代未聞の国会愚弄事件をなぜ、衆参両院の憲法審査会が、憲法に関わる自分たちの問題として取り上げなかったのか、という根源的な疑問である。

 虚偽答弁とは、安倍氏が首相時代に行った、例の「桜を見る会」をめぐるものだ。実際にはその前夜祭費用を安倍氏側が補填していたにもかかわらず、平然と繰り返し嘘をついていた。衆院調査局の調べは、答弁は19年11月から20年3月までのべ33回の衆参本会議や委員会で行われ、「事務所は関与していない」という趣旨の答弁が70回、「明細書は無い」が20回、「差額は補填していない」が28回だった、という。

 憲法は、第五章で首相権限について、国務大臣の任免権、行政各部の指揮監督権、衆院解散権を明示、行政の最高責任者としての地位を授権する一方で、第四章冒頭の第41条で「国会は国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」とうたっている。

 あらゆる行政権限の体現者である首相は、国民の代表たる国権最高機関の立法権保障のため、その傘下にある行政機関をフルに活用し最高度の情報、データを提供する義務を負っている。根拠のない情報、ましてや、明らかに嘘と認定されるものが入り込む余地はゼロである。それが憲法が行政、立法関係に与えた不動の秩序である、と解釈できる。

 その点からすると、安倍氏の三ケタ回数に及ぶ嘘答弁は、単なる政治倫理問題を越え、行政・立法間の憲法秩序を破壊した、と言える。このことを甘く見るべきではない。曖昧、半端に処理すれば、これが前例として残り、憲法の規範力が著しく劣化する。国会はその権能を死守するためにも、与野党を超え、この秩序破壊者に対し、決然と抗議し、しかるべき制裁を科すべきであった。

 「憲法について広範かつ総合的に調査を行う」目的で発足した憲法審査会こそがまさに、その任を担うべきであった。自民党から言い出しにくいなら、野党から「この憲法秩序の回復なくして憲法論議はあり得ない」と提起し、憲法抵触・破壊事例として調査・審議を重ね、安倍氏を参考人として聴取すべきであった。前首相だからと言って手抜きすべきではない。首相であったゆえに罪が重いのだ。

 

  
当面菅支持の「復権シナリオ」  


 その安倍氏が政治活動を再開している。昨年12月「桜を見る会」事件で秘書が略式起訴されてからはしばらくは鳴りを潜めていたものの、4月以降徐々に表に出始めている。

 まずは、原発再稼働・新増設の応援団役として名乗りを上げた。4月12日「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース(建て替え)推進」議連が発足、会長には稲田朋美氏が就任、安倍氏は、額賀福志郎、甘利明、細田博之各氏らとともに顧問に収まった。

 菅政権の2050年カーボンゼロ公約達成のためには、再エネでは足りず、どうしても原発新増設が必要だというのだ。顧問就任は、可愛がってきた稲田氏から頼まれたのであろう。菅官邸でも内閣官房参与(エネルギー政策等)に残る今井尚哉元安倍首相秘書官の存在もまた見え隠れする動きであった。

 改憲でも発信を再開させている。同月22日「保守団結の会」という党内右派グループの会合に出席、持論の国家観をぶち上げた。民間改憲派グループが開いたシンポジウムにもパネリストとして参加、「新しい薬が大変よく効いている」と体調回復をアピールし、安倍政権の間は憲法改正の議論をしないと言ってきた立憲民主党の枝野幸男代表を引き合いに、「もう私も首相じゃないのだから議論すべきだ」と挑発してみせた、という。自民党憲法改正推進本部の最高顧問にも就任した。

 5月3日には、BSフジの報道番組「プライムニュース」に出演、ポスト菅など政局にも踏み込んだ私見を披露した。五輪については「菅首相や小池百合子都知事を含め、オールジャパンで対応すれば、何とか開催できると思う」と発言、「私が突然、病気のために辞任した後、菅首相は大変だったと思う。この難しいコロナ禍の中で本当にしっかりやっている」「昨年、総裁選をやったばかり。その1年後にまた総裁を代えるのか。自民党員なら常識を持って考えるべきだ」「一議員として全力で支えることが私の使命だ」などと語り、菅続投を支持する考えを明らかにした。

 安倍氏の狙いを察するに、以下のようなものであろう。政局運営は行けるところまで菅政権で行こう。安倍氏の足場である細田派が96人、盟友の麻生太郎氏が率いる麻生派が53人。この2派閥ががっちり手を握れば自民党国会議員の半数近くを占め、キングメーカーとして君臨できる、という計算だ。

 菅政権である限り、アベノミクスや日米同盟強化という自らの路線は引き継がれる。8年近く官房長官として使って来た気安さもある。何よりも、政局の主導権を握り続けていれば、万が一菅政権が行き詰まった時には、自ら再々登板するチャンスが出てくる、という思惑も消えていない。自民党総裁任期は、現在「連続3期9年」と党則で決まっているだけで、連続でなければ、何度でもなれる。戦前ではあるが、かつて郷里の先輩であった桂太郎は3回、伊藤博文は4回首相の座に就いている。自民党則ほど、時の権力動向により変幻自在、何とでもなるルールはない、というのが過去の教えるところである、と。

 

  
人材払底、政権党の資格なし  


 私の憲法観からすれば、安倍氏は憲法秩序の破壊者として、憲法審査会で聴取対象となるべき人物である。本来は議員辞職すべきところ、政治家として最低限のモラルであった離党もせず、ひたすら世論の忘却効果を待つ、という不徳の政治家である。

 かつて、竹下登元首相が自らの不祥事について国会証言で「万死に値する」と頭を垂れたことがあった。リクルート事件、皇民党事件など、いろいろなスキャンダルを抱えこんでいた人物のつい口から出た反省の弁であったが、むしろ、この言葉は国会を多数回欺罔した安倍氏のためにあるようなものであろう。

 そんな安倍氏の復権シナリオが、いかにもありうることのように喧伝されるのが、今の政権与党の惨状であり限界ではないか。かつての自民党ではありえまい。野中広務や梶山静六、後藤田正晴各氏ら直言居士たちが現役であれば、安倍氏のような立ち回りは、たちどころに批判され、政界から放擲されるであろう。

 ことの本質は自民党内の深刻なまでの人材劣化・払底である。派閥全盛時代には、次を狙う、そこそこの人物がネクスト・バッターズ・サークルで、ビュンビュンと音を立てながらバットを素振りしていたものである。佐藤栄作氏の後の「三角大福中」がそうだったし、中曽根康弘氏の後の「安竹宮」もそうだった。橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗各氏あたりから層が薄くなった。

 ポスト小泉純一郎では、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎各氏と歴代首相の孫子にリクルートの輪を広げなければ人材を得られなくなった。

 

  
野党には自民党から政権を奪い返す重要な任務がある  


 そして、極め付けがポスト安倍である。菅首相という選択で、自民党は、本来は裏舞台にいるべき人を表に出さざるを得ないところまで追い詰められた。

 首相になるための訓練、努力をすることもなく、官房長官として8年間カネと人事権で権力を増長させてきただけの菅氏が首相職をうまくこなせるはずはなかった。コロナで検査体制、医療体制を十分整えられず、何よりもワクチン戦略で完膚なきまでに欧米に劣後した。「コロナ敗戦」「ワクチン敗戦」のA級戦犯と言われてもおかしくない。

 本来であれば、党内で喧々諤々の論争があり、政策、路線が修正されていくべきであろうが、それができない。次なる人材が現政権の失態をきちんと批判し、代案を準備すべきであろうが、それができない。ただひたすら現権力の人事権、公認権、解散権の元にひれ伏すのみである。

 そんな自民党に政権運営の資格はない。野党は、次の衆院選で、人材払底の自民党から政権を奪い返す、という重要な任務があることを認識すべきだ。その方が「安倍復権」の腐臭を漂わせる自民のためになる。

 

<文/倉重篤郎 記事初出/月刊日本2021年6月号より>

くらしげあつろう
  ●毎日新聞客員編集委員。1953年、東京都生まれ。78年東京大学卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部。2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員


 ―[月刊日本]― 


月刊日本 げっかんにっぽん
  ●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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テレワーク 男は天国 女は地獄 〜コロナ禍、在宅の男女格差に思う

2021-06-05 | いろいろ


より

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テレワーク 男は天国 女は地獄 〜コロナ禍、在宅の男女格差に思う

雨宮処凛 (作家、活動家)


テレワーク 男は天国 女は地獄

 これは、ある報告書を読んだ時に頭に浮かんだ川柳だ。

 私に人生初川柳を詠ませたのは、2021年4月28日、内閣府の男女共同参画局が発表した「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会報告書 〜誰一人取り残さないポストコロナの社会へ〜」。この報告書には、「女性不況」と呼ばれるコロナ禍で、女性がどのような状況に置かれているかが実に詳細に分析されている。

 前年と比較して、20年には935人増えた女性の自殺者。その中で特に増えているのが、主婦など同居人がいる女性という事実。また、ステイホームが呼びかけられる中、増えたDV相談。コロナ禍で大量にクビを切られた、飲食業や宿泊業で非正規で働く女性たち。子どもの学校の一斉休校によって、仕事を続けられなくなった女性たち。一方、介護施設などでのクラスター発生により、高齢者を自宅で世話しなければならなくなった女性たちもいる。

 報告書からは、コロナ禍で女性が貧困に晒されるだけでなく、より無償ケアを強いられる現実が浮かび上がる。その要因の一つが、テレワークだ。

 男性では、テレワークのメリットを挙げる声が目立つ。「通勤が少なくなりストレスが減る」(27.2%)、「通勤時間分を有意義に使える」(27.7%)、「家族と一緒の時間が増えてよい」(19.2%)などだ。

 一方、女性から聞こえてくるのは「家事が増える」(17.6%)、「光熱費等の出費が増える」(31.2%)、「自分の時間が減ることがストレス」(13.6%)などの声。

「第一回緊急事態宣言を経て、今後、家事・育児に望むこと」という質問では、その傾向がよりはっきりと現れる。小学3年以下の子どもがいる女性のうち、「配偶者にもっと子どもの世話をしてほしい」と望むのは35.5%。「配偶者にもっと家事をしてほしい」と望むのは32.1%。

 また「第一回緊急事態宣言中に不安を感じた機会がどれだけあったか」の質問では、小学3年以下の子どもがいる女性のうち37.5%が「家事・育児・介護の負担が大きすぎる」と感じ(小3以下の子どもがいる男性では19.8%)、34.1%が「健康を守る責任が大きすぎる」と感じたと回答している。

 このようなデータからは、男性が在宅ワークで快適さを享受する裏で、自宅で仕事をしようにも家事や子育てや介護に忙殺され、「キェーッ!!」と奇声を発したくなるほどに追い詰められる女性たちの姿が浮かんでくる。もちろん、テレワークで大変なシングルファーザーもいれば、共働きで家事、育児に忙殺される男性もいるわけだが、全体の傾向で言うと女性の負担が増えていることは確かである。

 そんなステイホームでは、やはりDV相談も増えている。20年4月から21年2月までで17万件を超え、前年同期の約1.5倍。その中には、緊急事態宣言中、パートナーが家にいて暴力が激しくなったという相談もあれば、精神的、経済的な暴力もあり、また10万円の特別定額給付金をパートナーが渡してくれない/使ってしまったというものもある。

 自分の周りを見渡しても、夫が在宅ワークで息が詰まるという声もあれば、夫が失業し、家族に当たり散らしているという話もある。

 そんな中、昨年は子どもの自殺が過去最多の479人となった。6月と8月、長期休み明けに2つの山があることからこの時期の自殺はいじめなど学校問題が原因と考えられるが、それ以外の時期も増えていることを考えると、家庭の軋轢が子どもに向かっているケースも多いことが予想される。気晴らししたくても、緊急事態宣言下では逃げ場となる商業施設などもすべて閉まっている。

 中でも女子高校生の自殺が多く138人。前年から倍増しているのだが、自分が高校生の頃にコロナ禍が来ていたら、と思うとありえない話ではないと思う。当時の私は中学生の時のいじめの後遺症でリストカットばかりし、唯一の楽しみはライヴだった。それがコロナでライヴがなくなり、生きがいをなくした上、自粛ムードの中、「外に出るな」とか「人と会うな」とかガミガミ言う親と顔を突き合わせていなくちゃいけない状態だったら――。

 ただでさえ精神的に不安定だった10代、「もう生きていたくない」と思っていた可能性は十分すぎるほどにあると思うのだ。

 コロナ禍では、そんなふうに居場所を失った子どもや女性たちが性被害に遭うケースも増えている。20年4〜9月に性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターに寄せられた相談件数は、前年同期の約1.2倍。一部のセンターからは、SNSを通じて知り合った相手からの被害相談が増えているという。

 ちなみに、日本の殺人事件の半分以上は親族間で起きていることは有名な話だ。そのことを思うと、家族が密室で「ステイホーム」することの危険性に国はあまりに無自覚なのではと思う。

 そんな中、女性の自殺者が激増したのは多くの人が知る通りだ。20年の自殺は、男性が23人減ったのに対して女性は935人増。その中でも多いのが「無職者」「被雇用者・勤め人」。無職者の中では主婦や年金生活者の自殺が増えている。

 注目すべきは、女性の場合、「同居人あり」の自殺者が「同居人なし」の自殺者よりかなり増えていることだ。例えば20年10月を見ると、女性の自殺者は前年同月比で、「同居人あり」は324人、「なし」は101人の増加となっている。他の月を見ても「同居人あり」の増加が大きい。

 このことについて報告書は「経済生活問題や勤務問題、DV被害や育児の悩み、介護疲れや精神疾患など様々な問題が潜んでいる」と指摘する。もともとあった問題が、コロナ禍でさらに深刻化したという形だろう。報告書には何度か〈もともと崖の近くにいた女性が、コロナによって崖のギリギリまで追いやられた〉という表現が登場するが、まったく同感だ。

 それでは、コロナ感染者数に男女差はあるのだろうか。報告書によると、国内での感染者は4月27日現在、累積で57万人。うち女性は46%と約半数。しかし職種別に見ると、女性感染者には医療関係、介護福祉関係、児童施設関係、店員・接客関係の割合が高い。

 詳しく見ていくと、医療関係(事務等含む)で感染した人のうち、70%以上が女性。介護・福祉関係(事務等含む)では60%以上が女性。児童施設関係では90%以上が女性だ。業務以外での感染も含まれるということだが、感染リスクの高い職場で働く多くが女性である。

 ちなみに日本の医療・介護従事者のうち、女性が占める割合は、看護師92%、訪問介護員78.6%、施設介護職員70.1%。また、保育士は95%、幼稚園教員は93%が女性。しかし、これが大学教員となると26%にまで下がる。

 一方、コロナで大きな影響を受けた宿泊・飲食業で働く人のうち、女性が占めるのは64%。うち女性非正規が54%を占める。この層の多くが長期的な影響を受け、困窮に陥っていることは多くが知る通りだ。

 報告書は、他にもさまざまなことをあぶりだした。20年の平均で、女性の非正規労働者が50万人減ったこと(男性は26万人)。同じく20年の平均で、休業者は男性104万人だったものの、女性は152万人だったこと。女性の収入が1割以上減った家庭では、5世帯に1世帯が食費の切り詰めをしており、1割弱が公共料金の滞納をしていること。

 コロナ禍で、正規で働く人より非正規で働く人の方が不安が増していることも明らかになった。

 20〜39歳の非正規雇用者の38.5%が、不安が増していることに「生活の維持、収入」を挙げている(同世代の正規は30.1%)。40〜59歳の非正規雇用者では37.1%(同世代の正規は30.5%)。「将来全般」への不安の増大も20〜39歳の正規雇用者が20.7%なのに対し、非正規雇用者は27.4%。40〜59歳の正規雇用者では23.9%なのに対し、非正規雇用者は32.4%だ。

 男女別で見ても、女性の方が不安が増大していることがわかる。

 また、感染リスクに大きく関わるのがテレワークできる/できないという問題だが、こちらの格差も浮き彫りになっている。テレワークの実施調査によると、20年5月、女性、非正規雇用労働者、低所得者のテレワーク比率はいったん増加したものの、同年7月にはほぼコロナ前の水準に戻っていたという。

 第4波の現在、どうなっているかは不明だが、正社員や所得の高い人ほどテレワークができ、非正規や低所得の人ほどテレワークができないという格差はコロナ禍初期から歴然とある。

 コロナで浮き彫りとなった女性を取り巻く状況。

 報告書は、ひとり親世帯や単身女性も増える中、「女性の収入は家計の補助」という考えそのものを改めるべきと主張している。

 そうして最後の「政治分野への参画」という章には、なんとも痛快な文章があった。以下、引用だ。

〈これまで議員として政治に参画するためには、毎晩のように会合に参加し、地域の行事に出席せずして、地域コミュニティの中で密なつながりを築くことができない、という「慣習」が存在し、その慣習に従わないと議員になれないことが、そもそも女性が地方議員として活躍するためのハードルになっていた。それが今、コロナにより会合・行事自体が開催されずこの動きが半強制的に止まったことは、女性議員たちにとっては幸いな結果をもたらした〉

〈また、早期からコロナ下での独自の支援策を打ち出したところには、女性議員たちの活躍があった。さらに、昨今、「生理の貧困」の問題が顕在化しているが、これも女性議員たちからの問題提起によるものである。これらは、多様な視点が政策論議に入ることで、これまで見過ごされてきた問題にメスをいれることができた良い例である。こうした流れを、昭和の時代の男性中心の旧態依然とした慣行を見直して、ジェンダーに配慮した施策の実現を加速するとともに、女性による政治参画に拍車をかけるチャンスとしていく必要がある〉

 この文章が示すように、長らく政治は「おじさんの飲み会」なしでは進まないと思われていた。しかし、コロナによってそれができなくなった今こそ、そういった「飲み会政治」を変えていくチャンスなのかもしれない。そうして女性が政治の場に多く参加して初めて、女性の苦境に光が当たる。

 失業者や自殺者の増加など、散々なことばかりのコロナだけど、後から振り返って「あの時、コロナ禍がきっかけで女性に優しい社会になったよね」なんて言えたら、今の苦労も少しは報われる気がする。

 そうなったらどんなにいいだろう。そう思いつつ、報告書を閉じた。

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アメリカとの首脳会談に見る日本と韓国の差

2021-06-05 | いろいろ


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アメリカとの首脳会談に見る日本と韓国の差


 『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、文大統領の米韓首脳会談を評価する一方で、4月の日米首脳会談での菅首相の対応には「もっとしたたかに」と提言する。

 (この記事は、5月31日発売の『週刊プレイボーイ24号』に掲載されたものです)

  * * *

 5月21日、ワシントンで開かれた米韓首脳会談で、アメリカが文在寅(ムン・ジェイン)大統領をもてなすためにクラブケーキ(カニ料理)を出した。4月16日の日米首脳会談で菅 義偉首相に用意されたのはハンバーガーだったが、韓国側が「日本と同じメニューはやめてほしい」と希望したそうだ。日本メディアでは、これを次元の低い対抗心だと揶揄(やゆ)する反応が目についた。

 しかし、大切なのは会談の中身だ。報道によると、バイデン・文両大統領のふたりだけの会談は、予定していた20分を大幅に超える37分にも及んだ。一方、バイデン大統領と菅首相のそれは予定どおりの20分で終わっている。そこには会談時間の差以上に会談内容の"質の差"も表れているのではないだろうか。

 実際、韓国はなかなか巧みな対米外交を展開した。

 中国を最大の競争相手と見なすアメリカは同盟国を巻き込んで対中包囲網を築きたい。当然、バイデン政権は韓国側にも同調を求めたはずだ。しかし、共同声明では「台湾海峡の平和と安定」の重要性こそ盛り込まれたものの、「中国」というフレーズは言及されなかった。

 2016年、韓国はアメリカの要求に抵抗しきれず、米軍の「THAAD(サード)」(地上配備型ミサイル迎撃システム)配備を受け入れた。その結果、中国国内における韓流コンテンツの流布禁止、韓国系スーパーなどの営業停止など、同国から手痛い経済制裁を受けた。今回の共同声明からは隣国との不要な摩擦を避けるため、「中国」の名指しは避けたいという韓国側の意向が反映されたことが見て取れる。

 そのほかにも安全保障面では長年、射程や弾頭重量などアメリカによって制限されてきた「米韓ミサイル指針」撤廃により、「ミサイル主権」を取り戻し、対北朝鮮政策でも18年の板門店(はんもんてん)宣言、シンガポール宣言の有効性を確認するなど、大きな外交成果を米側から取りつけている。

 米国内に総額4兆3000億円の投資を行ない、半導体工場やバッテリー工場を建設するというお土産を差し出したが、これには韓国側にもメリットがある。譲るべきものは譲り、取るべきものを取るという独立国の名にふさわしい外交だったと評価してもよいだろう。

 一方、4月の日米首脳会談の共同声明では「中国」という単語が5度も使われ、日米一体となって中国へ対抗することを内外にアピールするものになった。対中包囲網に積極的に参加してほしいアメリカ側のリクエストに、菅政権が無条件で応えた形だ。

 その意味することは米中衝突に日本が巻き込まれるリスクの増大だ。声明では防衛力強化への決意も盛り込まれたが、これは米国製武器の爆買いを続ける宣言である。主権国としての主体性を放棄した日本の姿勢は、アメリカからすれば「カモネギ」状態に映るだろう。

 一部の小国によく見られるような、場当たり的な二股外交をしろというのではない。日米同盟を重視し、バイデンの顔は立てる。しかし、言いなりにはならないと主張し、取るべきものはしっかり取る。そんな、したたかな対米外交が必要だ。

 米中の間で難しいかじ取りを迫られる日本は、大きなパンに挟まれるハンバーガーの肉のようだ。しかし、レタス抜きのバーガーはアリでも、肉抜きのバーガーはありえない。日本にはそんな存在感を示してほしい。

 

古賀茂明(こが・しげあき) 
  1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中。
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菅総理VS枝野代表 党首討論の裏で野党が狙うのは「菅降ろし」?

2021-06-04 | いろいろ


より

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菅総理VS枝野代表 党首討論の裏で野党が狙うのは「菅降ろし」? 古賀茂明  


 菅義偉内閣の支持率低下が続く中、自民党の森山裕国会対策委員長と立憲民主党の安住淳国会対策委員長が、6月16日までの今国会会期中に党首討論を開く方向で一致したというニュースが飛び込んできた。実現すれば2年ぶり。菅総理にとっては初である。党首討論では、首相と野党各党の党首が一対一で議論するが、今回最大の見せ場は、菅総理と最大野党立憲民主党の枝野幸男代表との論戦ということになる。非常に楽しみだ。

 党首討論の光景を想像して欲しい。枝野氏は攻め手にこと欠かない。菅総理の五輪開催への強引な姿勢や支離滅裂なコロナ対応、さらには河合案里事件の1億5千万円提供問題、森友学園事件で公文書改ざんを強要されて自殺した元近畿財務局職員の赤木俊夫氏により残されたいわゆる「赤木ファイル」などについて、周到に準備したうえで、厳しく糾弾するだろう。

 一方の菅総理の弁論能力の低さは、万人が一致して認めている。枝野氏の攻勢に対して、菅総理は、生気のない顔で、ほとんどなす術もなく、官僚が作ったすれ違い答弁を繰り返し棒読みし続けることになる。その惨めな姿は、テレビ放送で国民の目にさらされる……ということになるだろう。

 それにしてもなぜ、よりによって、ここまで支持率が下がった状況で、自民がわざわざ菅氏をリングに上げて、こんなに不利な戦いを強いるのだろうか。「党首討論をやれ!」という国民世論が盛り上がっていたのならわかるが、そんな状況では全くなかった。

 普通に考えれば、その裏には、当然与野党間、なかんずく、自民の森山国対委員長と立民の安住国対委員長の間で何らかの取引があったということになる。そこには2つの可能性がある。

 一つは、まだ成立していない残りの対立法案のいずれかについて、安住氏が森山氏に成立を約束したということ。例えば、野党が反対している「安全保障上重要な施設周辺の土地利用を規制する法案」は、森山・安住両氏お得意の闇談合取引のターゲットには最適だ。

 もう一つの可能性は、今国会最大の汚点となった国民投票法改正法成立のために汗をかいてくれた安住氏や枝野氏対して、取引材料として、自民側が、党首討論をかなり前から約束していたということだ。いずれにしても、見返りなしに党首討論に自民が応じるはずはないということだけは確かだ。

 取引がすべて悪いというわけではない。必要な取引もある。ただし、その取引は意味のあるものでなければならない。では、今回の取引はどんな意味があるのか。

 党首討論で、菅総理を追い詰めれば、内閣支持率を20%台まで落とすことは可能かもしれない。内閣不信任案を野党が提出しても簡単に否決されるだろうが、それでも、不安に駆られた自民党内に菅降ろしの風が吹き荒れて、各派閥の足の引っ張り合いが始まれば面白くなる。特に菅・二階陣営と安倍再々登板まで目論む安倍・麻生連合の争いが激化すれば、安倍氏牽制のために、河合・森友両事件の真相を暴露するという菅氏側の動きが出るかもしれない。

 自力では戦えないので、野党側が敵陣内の混乱を狙ったのだとすれば、高等戦術として褒めてもいいだろう。そうなるかどうか。まずは党首討論を見てみようではないか。


※週刊朝日  2021年6月11日号 
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中国の台湾侵攻は起こりえない──ではバイデン強硬姿勢の真意は?

2021-06-04 | いろいろ


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中国の台湾侵攻は起こりえない──ではバイデン強硬姿勢の真意は?


アミタイ・エツィオーニ(ジョージ・ワシントン大学教授)

<米バイデン政権は中国の脅威を盛んに唱えるが、それは国内政治を有利に進めるための策にすぎない>

いつもは慎重な論調で知られる英エコノミスト誌が5月1日号の特集で台湾を取り上げ、表紙に「世界で最も危険な場所」という文言を載せた。

台湾で一体、何があったのか? ロシアがクリミア半島を併合したように、台湾が実効支配する金門島と馬祖島を中国が占領したのか? それとも中国が、反中的な台湾政権に攻撃をちらつかせて脅しをかけたのか?

もちろん違う。中国は台湾周辺での軍事演習や戦闘機による防空識別圏侵入などによって台湾への圧力を強めているが、大々的と言うほどでもない。中国が台湾を中華人民共和国に組み込んで統一しようとしているのも、軍備を増強しているのも確かだが、今に始まったことではなく、何十年にもわたる野望だ。

これまでと違うのは、ジョー・バイデン米大統領の動きだ。自国民を団結させ、超党派の支持を得られる課題を見つけ出すのに躍起になっていたバイデン政権は、ついにそれを見つけたのだ。新型コロナウイルスの抑制でも、経済を再開して通常の生活を取り戻すためのワクチンの一斉接種でもない。バイデン政権がたどり着いたテーマは「中国たたき」だ。

 


冷戦期を思わせる手法  

アメリカの共和党と民主党は、中国が新疆ウイグル自治区のイスラム教徒や香港を弾圧していることを格好の攻撃材料にして、競い合うように中国を糾弾してきた。そんな両党のアプローチが、どうやら功を奏したらしい。

ピュー・リサーチセンターの最近の調査では、「中国をパートナーではなく競争相手、または敵と見なしている」と答えたアメリカの成人は全体の89%に上った。中国に「冷ややかな」感情を持つアメリカ人の割合は、2018年の46%から今年は67%に増加。「非常に冷ややかな」感情を持つ人の割合は、同じ時期に23%から47%へと2倍以上に増えた。

バイデンはこの流れに乗ろうと決めた。閣僚たちは、あえて扇情的な言葉を使った。ウイグル人が収容されている施設を強制収容所と呼び、そこでジェノサイド(大量虐殺)が行われていると訴えた。アントニー・ブリンケン国務長官は穏健路線を模索する各国に対し、アメリカの味方につくのかどうかと迫った。

冷戦時代の米政権は、政府の事業はどんなものでもソ連の打倒に役立つと訴えることで、思いどおりに事を進めた。いまバイデン政権は、当時と同じ手法を取っている。インフラや子供の福祉、民主主義の強化などに巨額の予算を振り向ける必要があるが、それは何より中国に対抗するためだと主張している。


「バイデン大統領は、米経済を立て直すという自身の大きな構想を、中国との長期的な競争に生き残るために必要な措置だと正当化してきた」と、ニューヨーク・タイムズ紙のデービッド・サンガー記者は指摘する。「この競争でアメリカは、民主国家は約束を必ず実現し、専制主義国として世界一成功している中国に今後も先を越されることはなく、革新性でも生産性でも負けないことを証明しなくてはならない。バイデンがこうした主張をするのは、政権が提唱するインフラと経済の再建計画に党派を超えた支持を得たいためだ」

「共和党の一部の賛同も得られそうな抜け目ない主張だ」と、保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所のコリー・シャキーは指摘する。この試みはオバマ政権時代より効果がありそうだと彼女はみるが、それは「中国の行動が国内では抑圧的になり、対外的には攻撃的になってきているためだ」という。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙は4月半ばの記事に、「中国への対抗意識から民主・共和両党がテック部門への支出で連携」という見出しを付けた。

記事は次のような文章で始まる。「全米科学財団の役割を拡大する法案は超党派の支持を得ており、成立すればテック関連部門に最大2000億ドルの研究資金が提供される。法案支持派は、中国の増大する脅威に対抗するには成立が必要だとしている」

国家間の緊張が高まったとき、当事者の国々は「どこまでやる覚悟なのか」を、特に「相手の感情を最も刺激する点を突くかどうか」を決断する必要がある。中国の感情を最も刺激するのは、自国領土の一部と見なす台湾の問題だ。

これまで米中間には、アメリカは台湾を独立国家と認めず、中国は武力による台湾再併合を行わないという暗黙の了解があった。これは1971年にヘンリー・キッシンジャー大統領補佐官が北京を極秘訪問したことから成立した合意だ。

このときキッシンジャーは、中国側にさまざまな要求を行った。だが中国の周恩来首相が抱いていた懸念はただ1つ、台湾問題だけだった。キッシンジャーは、アメリカが「北京政府を唯一、正当な中国と認める」ことに合意した。

しかしバイデンの大統領就任式には、台湾の駐米代表が招待された。4月には非公式の高官代表団が、バイデンの「個人的な(支持の)メッセージ」として、台湾に送られている。

 


あおりまくる米関係者  

バイデン政権の当局者は、中国が近い将来、台湾に侵攻すると警鐘を鳴らす。米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官(当時)は3月に議会で証言し、中国が台湾に侵攻するという脅威は「向こう10年のうちに顕在化する。あるいは6年以内の可能性もある」と述べた。ただし、これらの年数を予測した根拠は示さなかった。

中国の脅威はもっと間近に迫っていると主張する声もある。スタンフォード大学フリーマン・スポグリ国際研究所の研究員であるオリアナ・マストロは「欧米の多くの観測筋は、中国が今後5~8年で台湾を攻撃できるようになると考えている。しかし人民解放軍の指導者たちは私に、準備は1年以内に整うと語った」と述べている。

確かに中国は、国内の少数民族や自国民を迫害している専制国家だ。それでも彼らは救世主的な、あるいは拡張主義的な野望を掲げているわけではない。

欧米の観測筋は、中国を「侵略的」と批判する。だが国連による「侵略」の定義は、「国家による他の国家の主権、領土保全もしくは政治的独立に対する......武力の行使」だ。

中国が侵略的だとしても、その対象は人が住んでいない岩の塊にとどまっている。南シナ海の多くの海域の領有権を主張しているが、それだけのことだ。インドとの小競り合いはすぐに収まり、フィリピンとの対立も大事には至っていない。

その一方で中国は、アメリカが核の先制使用を放棄していないことを認識しているはずだ。公表された対中戦争のシナリオには「総力を挙げて中国本土を攻撃すべき」と記されている。

中国は数世紀にわたって欧米諸国から屈辱を受けてきたが、長い時間をかけて地位を回復させた。台湾への野心と引き換えに、全てを失いかねないリスクを取るだろうか。

狂信的な愛国心は、火が付いたら鎮めるのは難しい。しかしアメリカがソ連を過大評価していたことは、思い出すべきだ。ソ連は結局、自らの重みに耐えかねて自滅した。あるいは、日本にすぐにでも追い抜かれると予測したアメリカの専門家たちがいたことも忘れてはならない。

反中国の大波にのまれていない人々は、今こそ声を大にして、中国と協調することで得られるものは大きいという事実を指摘すべきだ。その協調という言葉には、アメリカと中国が台湾をそっとしておくことも含まれる。


©2021 The Diplomat
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竹中平蔵「パソナ」の純利益が前年の10倍以上、営業利益も過去最高に! 

2021-06-03 | いろいろ


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竹中平蔵「パソナ」の純利益が前年の10倍以上、営業利益も過去最高に! 
  東京五輪と政府のコロナ対策事業を大量受注、巨額中抜きの結果か  

 


 東京五輪大会の準備業務ディレクターの日当が35万円、管理費・経費を含めると日当42万円になる──。先日、本サイトでも取り上げた東京五輪の人件費問題(詳しくは過去記事参照→https://lite-ra.com/2021/05/post-5901.html)が、新たな波紋を広げている。それは人材派遣大手・パソナグループの「荒稼ぎ」の問題だ。

 本サイトでも言及したように、パソナグループは「人材サービス」カテゴリーで「東京2020オフィシャルサポーター」として東京五輪組織委員会と2018年に契約を締結。一方、会場運営を支えるスタッフの多くは派遣であり、5月26日におこなわれた衆院文科委員会での立憲民主党・斉木武志衆院議員の質疑によると「パートナー契約では、人材派遣サービスはパソナにしか許されていない。43会場の派遣スタッフを頼むときはパソナに出さなくてはならない契約になっている」という。

 だが、パソナのHPに掲載されている東京五輪大会スタッフ(職員)の募集概要によると、責任を担うマネージャーでもスタッフでも時給は1650円(深夜時間帯は125%の割増賃金)で、日給にして約1万2000円ほど。もし仮に1日42万円のディレクター職でも実際には日当1万2000円しか支払われないのだとすれば、パソナの中抜き率は97%にもなるのである。

 パソナといえば、ご存知のとおり菅義偉首相のブレーンである竹中平蔵氏が取締役会長を務めている企業。つまり、東京五輪も結局は菅首相に近いお友だち企業が甘い汁を吸うという下劣な構図になっているのだ。

 だが、このパソナによる酷い中抜き問題がネット上で大きな注目を集めていたところ、さらなる指摘がなされた。それは、パソナグループの決算予想の信じられないような数字だ。

「竹中平蔵のパソナグループ、最終利益前年比1000% 過去最高を記録」

 最終利益、つまり純利益が前年比で1000%……!? 目玉が飛び出るような数字だが、これは事実だ。

 実際、パソナグループの2020年5月期の純利益は5億9400万円だったが、今年4月13日に同社が発表した2021年5月期の純利益の予想額は62億円。増減率としては前期比約940%のプラス、前年の10倍強の数字になると見込まれているのだ。

 しかも、2021年5月期の連結営業利益は過去最高益となる前期比65%増の175億円にのぼる見込みで、売上高も従来予想から40億円も引き上げた3300億円になると見られている(日本経済新聞4月13日付)。

 


コロナ倒産相次ぐなか焼け太りするパソナ 東京五輪、持続化給付金などコロナ事業でも大量受注  


  あらためて言うまでもなく、新型コロナの感染拡大にともなう緊急事態宣言の発出によって多くの企業が大打撃を受け、コロナの影響で倒産した企業は1500社(帝国データバンク調べ)にものぼり、今後、宣言延長によって倒産件数はさらに増加すると見られている。安倍・菅政権によるコロナ対策の失策によって多くの企業と労働者が苦境に立たされているというのに、かたや安倍・菅政権にべったりくっついてきた竹中氏率いるパソナは、前年の10倍強という利益を叩き出していたのだ。

 しかも注目すべきなのは、このパソナの驚異的な業績には東京五輪だけではなく、政府のコロナ対策事業を受託してきた利益も含まれている、ということだ。パソナが連結営業利益で過去最高益を叩き出した理由について、日本経済新聞は〈間接業務を請け負うBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業が伸びている〉と伝えているが、こうした利益には電通と一体化して政府から巨額で請け負ってきたコロナ対策関連事業も入っていると思われる。

 たとえば「持続化給付金」事業では、769億円で受託したサービスデザイン推進協議会が電通に749億円で再委託し、そこから電通は子会社5社に645億円で外注。さらにそこから電通子会社がパソナやトランスコスモス、大日本印刷などにトータル417億円で外注していたのだが、パソナへの外注費は約170億円と際立って多かった。

 そもそもパソナは大きな問題となったサービスデザイン推進協議会の設立時から電通やトランスコスモスなどとともにかかわっており、職員21人のうち5人がパソナからの出向者だった。しかも、サービスデザイン推進協議会はこれまでトータルで14件の事業を経産省から委託され、再委託先が公開されている9件のうち7件は電通だったが、残り2件の再委託先はパソナだった。

 だが、パソナが政府のコロナ対策に食い込んだのは「持続化給付金」事業だけではない。昨年4月に当時の安倍晋三首相が場当たり的に打ち出した一斉休校要請にともなう保護者への休業助成金も、パソナに厚労省が申請手続き業務を委託していた可能性が高いからだ。

 


欠陥が見つかったワクチン大規模接種センターのシステム運営も竹中が顧問を務める会社  


 もちろん、こうしてコロナ対策の関連事業の委託先としてパソナに巨額の血税が流されたのは、政権中枢に食い込む竹中平蔵氏の存在が大きい。実際、新型コロナワクチン「大規模接種センター」をめぐって予約システムに重大な欠陥が見つかった問題では、予約システムの運営会社と明記されていた「マーソ株式会社」の経営顧問を竹中氏が務めていたことにも大きな注目が集まったばかりだ。

 しかも、そうしたなかには露骨な利益誘導が指摘されるケースもある。竹中氏は国家戦略特区諮問会議で民間議員を務めているが、2016年に国家戦略特区に認められた神奈川県の家事支援外国人受入事業では事業者に選ばれた企業のなかにパソナがあった。また、同じく国家戦略特区に選ばれた兵庫県養父市では企業による農地の所有を認めるなどの規制緩和がおこなわれたが、そこには、竹中氏が社外取締役をつとめるオリックスが100%出資する子会社のオリックス農業が参入していた。

 また、昨年、新型コロナのどさくさに紛れて安倍政権は「70歳就業確保法案」を国会で可決・成立させたが、70歳までの就業機会確保の方針を打ち出したのは当時竹中氏が民間議員を務めていた「未来投資会議」。この政策によって「シニアの雇用創造」を掲げるパソナが新たな市場を得てさらに莫大な利益を得ることになるのは、目に見えている。

 利益誘導・利益相反だという批判を無視しつづけて、自らが関係する企業を次々と政府の事業に参入させてきた竹中氏。そして、その代表的な会社であるパソナは、新型コロナ対策を食い物にし、東京五輪の開催によるえげつない中抜きで、「純利益10倍強」という数字を達成しようとしている。

 この異常な一人勝ちの数字こそが安倍・菅政権の縁故主義、利権政治の結果であることを忘れてはならないだろう。


(編集部)
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 このパソナの異常な高収益のなん%かがアベ前首相、スガ首相に回っていても何らおかしくないだろう。

 


二階幹事長の「刺し違え」発言で「6月大乱」の幕が上がる

2021-06-03 | いろいろ


ジャーナリスト田中良紹氏のヤフーニュースのコラムより

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二階幹事長の「刺し違え」発言で「6月大乱」の幕が上がる


 菅総理が日米首脳会談に出発した4月15日、二階俊博幹事長は「もうこれ以上とても無理だということだったら、これはもうスパッとやめなければいけない。オリンピックでたくさん感染病をまん延させたっていったら、何のためのオリンピックか分からない」と発言した。

 政府、東京都、IOC(国際五輪委員会)が足並みをそろえて東京五輪開催に突き進む中、菅政権の生みの親が「五輪中止」に言及したことは政界に衝撃を与えた。菅総理はこれまで安倍前総理が使った「コロナに打ち勝った証し」という常套句を、バイデン大統領との会談では「世界の団結の象徴」に言い換えた。

 私は二階発言を聞いて「5月は政局の予感」とブログに書いた。日米首脳会談直前の絶妙なタイミングでの発言だったからである。結局、日米首脳会談は東京五輪開催の3か月前であるにも関わらず、五輪を巡る日米の協力関係を華々しく打ち上げる場ではなくなった。

 二階幹事長は「当然のことを言った」と開き直り、政局的な思惑を否定したが、何が何でも開催を決めている側からすれば、冷や水を浴びせられた思いだろう。しかも感染の先行きが見えない不安から、国民の多くが五輪開催を喜ばなくなれば、中止の可能性もゼロではなくなる。

 その後の展開を見ると、変異株の感染加速が世界各地から報告され、医療関係者やメディアの中から五輪開催を疑問視する声が上がった。世論調査でも日本では8割の国民が中止や延期を求める結果が出た。

 するとIOC幹部からは、日本国民の犠牲的精神を称賛し持ち上げようとする発言や、人類が絶滅の危機を迎えない限り必ず開催するという脅しに近い発言が相次ぐ。何が彼らにそれほど異様な発言をさせるのか。私は近代五輪がその精神を失い、終焉の時を迎えつつあるように感じた。

 今年7月の五輪開催は安倍晋三前総理の「置き土産」である。東京五輪組織委が検討していた「2年延期」を覆し、「1年延期」に前倒ししたのは安倍前総理自身だからだ。森喜朗前東京五輪組織委会長は「自分は2年延期に賛成だったが、そのためには安倍さんの任期を延長する必要があり、自民党総裁4選のため政治工作に取り掛かるつもりだった」と述べている。

 しかし安倍前総理は4選を望まず、自分の任期中に五輪を開催するため「1年延期」に踏み切った。私は「1年延期ではコロナの収束にたどり着けない」と危惧したが、都知事再選を狙っていた小池東京都知事もそれに賛同して天敵同士が手を握った。さらにバッハIOC会長もそれを了承し、東京五輪は今年7月23日に開催されることが決まった。

 従って仮に中止されれば、この3人の判断が甘かったことになる。巷では「中止されれば菅総理の責任が追及され、菅総理は退陣に追い込まれる」と言われるが、私にはその意味が分からない。まず責任を問われなければならないのは「1年延期」を決めた人たちだ。

 菅総理の責任は、安倍前総理から託された時間枠の中で、努力したがコロナウイルスに勝てなかったというレベルである。1年延期を決めた人たちより責任の度合いは小さい。ところが「中止なら退陣」との見方が横行する。そこに私は政略の臭いを感ずる。

 かねがね安倍前総理と麻生副総理兼財務大臣は菅政権を「東京五輪までは支える」と言ってきた。裏を返せば「東京五輪を中止すれば、すぐにでも支援をやめる」という脅しである。安倍―麻生連合は自民党議員の半数近い数を擁しているから、この2人が支援をやめると言えば菅政権はそこで終わる。

 従って菅総理に中止の選択肢はない。何が何でも五輪開催に向けた努力をしなければならない。「中止なら退陣」の情報は安倍―麻生連合の側から流されていると私は思う。それにメディアは乗せられている。ついでに言えば、しきりに流される「9月解散・総選挙説」も五輪開催を前提にしているから、同じ側から流されている可能性がある。

 しかし私は菅総理が中止を言う可能性はあると考えている。二階幹事長が言うように「無理だ」という感染状況を国民の大多数が認識すれば「スパッと」中止を言う。要するに感染状況次第で五輪は開催されるか中止されるかが決まる。当たり前の話だ。それが判断されるのは6月下旬になると思う。

 二階氏は、中止する時には「菅総理が主導しろ」と言っているように聞こえる。国民の多数が「無理だ」と思う状況になれば、「スパッと」中止を言うことで支持率も回復し、解散・総選挙に打って出る状況が到来する。

 菅総理はそれまでは開催の努力を続け、予定通り開催できる状況になれば、開催して大会を盛り上げ、その勢いで解散・総選挙を行う。最大派閥を擁する安倍前総理が菅総理の続投を支持しているのだから、菅総理の続投は保証されている。

 つまり菅総理にすればどちらでも良い訳で、五輪で追い込まれているわけではない。問題は菅総理と二階幹事長、菅総理と安倍前総理との距離にある。安倍前総理が菅総理の続投を支持するのは、菅総理を自分の傀儡にしたい思惑からで、それには二階幹事長との関係を断ち切らせたい。つまり幹事長を交代させるのが条件になる。

 一方、二階幹事長はそれを分かっているから、そうはさせない仕掛けをしている。その一つが「スパッと」五輪を中止させ、1年延期を決めた安倍前総理の責任論を浮上させることだ。もう一つは河井克之・案里夫妻に渡った1億5千万円の問題をクローズアップさせ、安倍前総理を身動きできなくすることである。

 二階幹事長は3月23日、参議院広島選挙区の公職選挙法違反事件で、河井克之被告が議員辞職を表明したのを受け、「党としても他山の石としてしっかり対応していかなければならない」と述べ、野党やメディアから「他人事のように言うな」と批判された。

 しかし私は二階幹事長が意識的に「他山の石」と発言したと考え、1億5千万円の支出に自民党は関係していないと言いたかったのではないかと思った。そして5月に入るとこの問題が急展開する。

 5月12日、広島県連会長の岸田文雄氏は1億5千万円の支出について党本部に説明責任を求めた。すると二階幹事長は17日、「私は関与していない」と記者会見で発言する。そして林幹事長代理が「選挙対策委員長が広島を担当していた」と補足した。

 当時の選挙対策委員長は安倍前総理と極めて近い甘利明氏である。その甘利氏は翌日「私は1ミクロンも関係ない」と発言した。そして24日、二階幹事長はそれまでの発言を修正する。「責任は総裁と幹事長にある」と発言した。つまりこの問題で総裁の安倍氏の責任論に初めて言及した。自分の責任を認めることで安倍前総理の責任を浮かび上がらせたのである。

 私はそれを聞いて、かつて中曽根総理に「行き過ぎれば刺し違える」と言った金丸幹事長を思い出した。中曽根総理が2期目の自民党総裁選を迎えた時、それを支持するのは自民党内で田中角栄ただ一人だった。鈴木善幸、福田赳夫、三木武夫らは中曽根が大嫌いだった。

 自民党だけではない。公明党の竹入義勝委員長、民社党の佐々木良作委員長も中曽根再選に反対し、それら反対勢力が目をつけたのは田中派の大番頭である二階堂進だ。田中の力は最大派閥を擁していることだが、最大派閥を分裂させれば、力は無力化する。

 中曽根再選反対派は二階堂を総裁候補にすることで田中の力を封じようとする。二階堂はその工作に乗り、田中に「中曽根はあなたを必ず裏切る」と説得したが受け入れられず、田中派に亀裂が走る。この事態を収拾したのが金丸信だ。二階堂を説得して総裁候補になることを断念させた。

 中曽根は薄氷を踏む思いで再選されるが、その時金丸が言ったのが「行き過ぎれば刺し違える覚悟であなたを総裁にする」という言葉だ。これで中曽根は金丸に頭が上がらなくなり、金丸を幹事長のポストに就け、金丸は中曽根総理総裁と同等の力を持つようになった。

 一方、金丸幹事長の誕生は田中派内の力関係を変えた。竹下登が総裁候補になるための勉強会「創政会」が作られ、田中角栄の力は大きく削がれた。まもなく田中は病に倒れ、田中を中心に動いてきた日本政治は、中曽根と金丸が激突する構図に変わるのである。

 私は二階幹事長が金丸を「政治の師」として仰いでいると常々思ってきたので、1億5千万円の支出の責任を「幹事長と総裁にある」と言ったのを聞き「刺し違え」を連想した。これは安倍―麻生連合に対する二階幹事長の挑戦である。とりわけ安倍前総理の力を削ごうとしている。

 「5月は政局の予感」と書いたが、まさに政局が始まったと私は思った。そして6月はそれが大乱の様相になると想像する。何よりも6月は東京五輪が開催されるか中止されるかの正念場を迎える。

 さらに1億5千万円を受け取った河井克之被告の判決が6月18日に予定され、森友学園を巡る公文書改ざんで自殺に追い込まれた故赤木俊夫氏のファイルが23日の裁判に提出される。いずれも安倍前総理との関連に注目が集まる。

 そして国会は16日に閉幕するが、ここにきて立憲民主党の枝野幸男代表がコロナ対策を理由に会期延長を要求し、早期の解散・総選挙を求めだした。野党が内閣不信任案を提出すれば、それは解散の理由になる。この野党の動きは二階幹事長の「刺し違え」発言と無関係ではないと私は思う。

 東京五輪開催の可否が大詰めを迎える中、自民党内の対立構図に野党も参画する「大乱」の幕が上がったように私には見える。
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「五輪が始まれば皆熱狂」 菅首相の発想はヒトラーと同じ

2021-06-02 | いろいろ


より

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「五輪が始まれば皆熱狂」 菅首相の発想はヒトラーと同じ  


 「緊急事態宣言下での五輪開催は、もちろんYES」「アルマゲドン(世界最終戦争)でもない限り実施できる」。IOC(国際オリンピック委員会)委員らの無神経な発言に国民が猛反発しても、政府がダンマリだったワケが分かった。

 「開催されれば、世論は五輪を支持すると確信している」と、IOC広報部長が5月12日のオンライン会見で発言していたが、菅首相も同じ感覚だからだ。

 官邸や自民党の幹部が「とにかく開きさえすれば、日本中のムードは変わる」「日本人選手が活躍すれば盛り上がる」と吹きまくっている。

 菅は先週金曜(5月28日)の記者会見で、緊急宣言下の五輪開催の是非について質問されると、毎度のごとく真正面から答えることはなかったものの、「さまざまな声に耳を傾け、配慮しながら準備を進める」と開催に躊躇することはなかった。

 新型コロナ感染が収まらず、医療逼迫が続き、インド株の脅威が高まっているから、緊急宣言は3度目の延長となったのに、なぜか五輪開催だけは高らかに宣言する。その矛盾が不思議で仕方なかったが、菅が「五輪が始まりゃ、メダルラッシュでみんな忘れる」とタカをくくっていると考えれば合点がいく。

 「前回のリオ五輪で日本は史上最多の41個のメダルを獲得しました。今回はその数を超える可能性があります。開催国ですから日本選手は調整に恵まれている。既にテニスやゴルフなどトップ選手の不参加表明もある。野球やソフトボールなど日本の得意種目が採用されている。必然的にメダルを取りやすい環境にあるのです」(五輪を取材するスポーツ記者)

 

■ 国民は政府とIOCに嫌気  

 だが、甘い。五輪に熱狂すればすべてチャラとは、あまりに国民をバカにしすぎやしないか。いまや世論の6割が延期ではなく「五輪中止」を求めているのだ。医療関係者が公然と中止の声を上げ、世界中からも毎日のように反対表明が届く。

 世論が中止を求めるのは、もちろん「国民の命と健康を本当に守れるのか」という感染拡大懸念が一番だが、それ以上に、コロナは無関係とばかりに強引に開催に突き進む“ぼったくり集団”IOCとそれに足並みを揃える日本政府に嫌気が差しているからだろう。

 組織委の森喜朗前会長ですら、「同じ人がパーティーばかりやっている」と嫌みを言っていたが、3000人という「オリンピックファミリー」の貴族感覚や特権意識は、いまや日本国民の知るところだ。IOCが酷暑の夏開催にこだわるのは、2032年まで6大会で8000億円という放映権料を支払う米テレビ局のためだというのも周知の事実である。

 「有観客」に執着するのは、チケット収入900億円をパーにしたくないからだし、「五輪盛り上げ」の演出には観客が必要という菅政権の思惑も見え隠れする。

 要は「平和の祭典」なんて名ばかりの、薄汚れた実態を見せつけられ、国民の半分以上が「五輪なんて大嫌い」になってしまったのである。スポーツジャーナリストの谷口源太郎氏がこう言う。

 「理念も何もないから、スローガンもどんどん変わる。最初に掲げていた『復興』はどこへ行ってしまったのか。『人類がコロナに打ち勝った証し』なんて、傲岸不遜にも程がある。元アスリートからも五輪開催反対の声が上がっています。今後、国内外の選手の間でも批判的な見方が増えていくと思います」

 


「パンとサーカス」の愚民政策で国民を思考停止させる  

 理念がないだけでなく、もはや経済効果にも期待できない。それどころか、このまま五輪開催を強行すれば、経済的には逆効果という試算も出てきた。

 野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストが5月25日に発表したリポートによれば、五輪を中止した場合の損失額は1兆8108億円。だが、この金額について木内氏は<必ずしも軽微とは言えないかもしれない。しかし、2020年度名目GDPと比べると0・33%の規模であり、景気の方向性を左右する程の規模ではない><緊急事態宣言1回分によるものよりも小さい><大会の開催・中止の判断、観客制限の判断については、経済的な損失ではなく、感染リスクへの影響という観点に基づいて慎重に決定されるべき>と主張している。

 ちなみに、木内氏によれば1回目の緊急宣言による経済損失は約6・4兆円、2回目は約6・3兆円、3回目は現時点で既に約1・9兆円だ。年明け以降、ほぼ半年にわたる緊急宣言継続という苦痛を強いられ続けている国民は、これ以上、IOCや菅政権の我欲に付き合っちゃいられないのだ。

 そもそも海外からの観客を断念した時点で、五輪は意義を失っている。五輪憲章では、オリンピズムとは「文化や教育とスポーツを一体にし、努力のうちに見いだされるよろこび、よい手本となる教育的価値、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重などをもとにした生き方の創造である」と明記されている。世界中から集まる観客との交流を通じ、国際化や異文化への理解を深め、世界平和を実現するというのが、五輪開催の最も大きな意義なのに、東京五輪はそれがかなわない。

 「いま準備が進められている『バブル方式』での選手の感染対策にしても、『反オリンピズム』もいいところです。選手を檻の中に閉じ込めるように隔離するのですから。自由な交流で相互理解を深めるというオリンピズムの原点に真っ向から反します。IOCは自ら五輪を破壊していることを理解しているのでしょうか。もっとも、バッハ会長が就任直後に提唱した『アジェンダ2020』の改革案は『大会さえ永続的に継続されればいい』という考え方でしたから、オリンピズムなど、とっくに形骸化していたのですけどね」(谷口源太郎氏=前出)

 

■ 菅首相が描く「オールジャパン」の祭典  

 理念もなく、経済効果もなく、意義もない。そんな五輪に執着する菅の目的は政権浮揚と保身だ。

 「五輪が始まれば皆熱狂する」という発想は、1936年のベルリン五輪を開催したヒトラーのナチスを彷彿させる。「パンとサーカス」にたとえられる愚民政策に五輪をトコトン利用し、メディアを総動員して「アーリア人の優秀性」を喧伝。89個ものメダルを獲得して他国を圧倒し、国民を熱狂の渦に巻き込み、思考停止に陥らせたのである。これぞまさに、菅が思い描く「メダルラッシュのオールジャパンの祭典」である。

 だが、そうは問屋が卸すものか。メダルラッシュに沸いたとしても、それは選手を称えるものであり、菅内閣の支持につながることはない。むしろ感染拡大で政治責任を追及されるリスクの方が高いだろう。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。

 「五輪を開催すれば、政権にとってプラスという状況ではありません。医療資源の奪い合いなどさまざまな問題が噴出している。『五輪がなければ私の親は死ななかった』といった恨みや怨嗟の声が政権に突き付けられることになりかねない。『五輪なんて、やらなきゃよかった』という悲惨な結果になるのではないか。菅首相は、そんなに五輪を開催したいのなら、なぜもっと徹底的に感染対策に取り組み、早くからワクチン接種を進めなかったのか。五輪開催のための前提条件を崩したのは菅首相自身です。この期に及んでの五輪強行はメンツと意地の塊だと、国民にはミエミエです」

 これ以上の国民愚弄を許してはならない。
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コロナ失策は「第2の敗戦」だ。小林よしのり×石破 茂が緊急対談

2021-06-02 | いろいろ


より

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コロナ失策は「第2の敗戦」だ。小林よしのり×石破 茂が緊急対談


齊藤武宏

 


日本のワクチン接種は遅々として進まず、進捗度はOECD加盟国のなかで最下位に甘んじ、五輪開催を危ぶむ声は日増しに高まっている。諸外国と比べて桁違いに死者数を低く抑えているにもかかわらず、なぜ、日本はこれほどまで甚大なダメージを受けているのか? 今回、「第2の敗戦」とも評される日本のコロナ対策を巡る「失敗の本質」を論じる。


[緊急対談]小林よしのり×石破 茂  

『新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論』(‘98年・幻冬舎)を皮切りに、これまで数多くの論考を発表し、その度に激しい論争を巻き起こしてきた漫画家・小林よしのり氏がここにきて活動を活発化させている。

 コロナ禍に見舞われた昨年から今年にかけ、『ゴーマニズム宣言SPECIAL コロナ論』シリーズ(扶桑社)をはじめ、作家・泉美木蘭氏との共著『新型コロナ――専門家を問い質す』(光文社)や京都大学ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授との共著『コロナ脳:日本人はデマに殺される』(小学館新書)を相次いで出版。

 自身のブログやYouTubeチャンネルも総動員して、メディアや専門家、さらには政府のコロナ対策に対して批判の声を強めているのだ。

 政府のコロナ対策が後手後手に回り、唯一のゲームチェンジャーといわれる「ワクチン接種」も遅々として進まないなか、菅政権の支持率は30%近くまで落ち込んでいる。五輪中止を求める声が国民の7割に達している今、政治が果たすべき役割とは何なのか……?

 今回、小林氏が、防衛相、農水相、自民党幹事長など要職を歴任し「次期首相にふさわしい人」として常に名前が挙がる衆院議員・石破茂氏と意見を戦わせた。

 

  
コロナ対策について異論を取り上げないマスコミ  


小林:コロナを理由に、為政者の強権発動が止まらない……。東京では“禁酒法”やネオン自粛に名を借りた“灯火管制”が命じられ、百貨店に生活必需品以外は売るなというのは、かつての「ぜいたくは敵だ」と重なる。今や“コロナ全体主義”に覆い尽くされようとしている。

石破:日本が対米戦争を始めた昭和16年に世論調査があったら、日米開戦に賛成という人は9割を超えていたでしょう。猪瀬直樹さんの『昭和十六年夏の敗戦』に詳しいが、軍、官僚、企業人をはじめとする当時の知識エリートたちを集めた総力戦研究所は、来たる戦争は総力戦になり、国力が遥かに大きい米国と戦えば日本が100%負けるというシミュレーション結果を出していた。

 ところが、東条英機首相(当時)はこれを「机上の空論」と一蹴し、「戦は時の運。やってみなければわからない」という精神論で無謀な戦争に突入していくことになりました。

小林:当時のマスコミは大本営発表をただ垂れ流していたが、今も本質的に同じで、コロナを巡っては異論をあからさまに封殺しているのが実情です。特にテレビはひどくて、「対立のある問題は両論併記する」と定めた放送法第4条にも抵触している。せめて、両論表記するのが最低限のルールではないのか。

 異論を封じる側の典型が、コロナの恐怖をいまだに煽り続けている玉川徹(テレビ朝日報道局員)だ。ジャーナリストを気取っているが、わしが対談を申し入れたら「多忙」を理由に断ってきた。わしは立場も主張も玉川と違うが、過去に彼の取材を2度も受けているのに、実にアンフェアだよ。玉川同様に、コロナの恐怖を煽る岡田晴恵・白鴎大学教授も対談を断ってきた。

 では、「わしをテレビに出せ」と言っても、受け入れる局はない。わしが番組でコロナの真実を話したら、これまでのメディアの主張がすべて引っ繰り返ってしまうからな。

 

  
政治家の存在意義はどこに  

石破:負ける戦はしないと判断したなら、ある意味、正しい(笑)。私も、コロナを過剰に恐れる日本の現状はおかしいと思っています。ダイヤモンドプリンセス号でクラスターが発生した昨年2月に、BSの番組で「感染を防ぐことよりも、重症化や死亡を防ぐことに集中すべき」と言いました。ただ、小林さんと同様、こういうことを言うとテレビからあまりお呼びがかからなくなるようです(苦笑)。

小林:確かに(苦笑)。メディアも問題だが、なぜ国会議員はこんなにひどいのか? 「新型コロナは、インフルエンザより感染力も毒性も遥かに低い」いう科学的事実には目もくれず、ワイドショーに阿(おもね)ったような上っ面のコロナ対策に興じているだけじゃないか! 西村康稔・経済再生担当相や田村憲久・厚労相などは、完全に“コロナ脳”だよ。

石破:田村さんは厚労行政に精通しているし、判断も正確。言うべきことも言っています。ただ、閣内不一致になってしまうので、内閣の方針に大きく異を唱えるようなことはできないでしょう。

小林:世論に阿るだけなら、政治家の存在意義などないに等しい。コロナ禍の日本では、分科会が行政を執行すればいい。今も、菅首相は尾身会長の意見に引っ張られ、緊急事態を宣言すると内閣支持率が回復し、五輪を開催すると言えば下落……こんなことを繰り返していたら、国家は崩壊するぞ。

 

  
五輪について国民の前できっちり説明を  


石破:政治家は誰しも支持率を気にするものだし、内閣を率いる首相ならなおさらそうでしょう。しかし、’89年、消費税を導入しようとしていた竹下登内閣は、「天下の悪税」などと世間から反発され、支持率を大きく落としていた。それでも竹下さんは「絶対に消費税はやる」「誰も聞かないなら、自分が街頭に出る!」とおっしゃって、本当に実行されました。そして、大逆風のなか、自らの内閣の総辞職と引き換えに消費税導入をやり遂げた。こうした矜持が政治家には必要ではないでしょうか。

小林:菅義偉首相もメディアの前できちんと説明すれば、コロナ禍でも五輪は開催できるはず。コロナで子供の死者はゼロで、若者も4人しか死んでいない。しかも、超過死亡は減っている。コロナの感染拡大以降、子供は1年以上もマスクの着用を強いられ、自由に外で遊ぶこともできず、精神を害する子さえいる。「そんな子供たちに五輪を開催し、夢を見せてあげましょう」……こう開催する理由を説明すれば、賛同者はもっと増えるでしょう。五輪を開催するのは、あくまでも子供たちのためだ。

石破:’64の東京五輪は、私は小学2年生でしたが、鮮明に覚えています。「エチオピアという国があるんだ!」「マラソンを裸足で走っている!?」「柔道ってオランダでもやっているんだ!」……世界にはいろいろな国や人がいることを、五輪が教えてくれました。

 特に印象的だったのは、閉会式です。整然と行われる開会式に対して、肩を組んだり、踊ったり、とにかくみんな楽しそうで、五輪は単なる世界的競技大会ではなく、4年に一度、国や人種、政治体制を乗り越えて、世界が一つになる祝祭だと、子供ながら皮膚感覚で理解したのです。

 現在のように、五輪の放映料や経済損失といった本筋から外れた話ではなく、本質的な五輪の意義を首相自らが訴えられれば、世論も変わるのではないでしょうか。

 

  
菅総理は情熱型の政治家ではない  

小林:話を聞いて、わしも記憶が甦ったよ! 正直、東京五輪を二度もやる必要ないし、飽きたと思っていたけど(苦笑)、子供に夢を与える機会を大人が奪ってはいけない。それに、ただでさえ落ち込んでいる日本人の活力が、五輪中止でさらに奪われる。それだけでなく、コロナの恐怖が助長され、自粛ムードがより強まってしまう……。国民の情熱を掻き立てるような説得力ある話を、なぜ菅首相はしないのか?

石破:菅先生はいわゆる調整型の政治家で、人事権を最大限に活用して、安倍内閣を官房長官として長く支えられました。そもそも情熱型の政治家として首相になられたわけではないですから。

小林:情熱型の政治家はヒトラーが典型で、暴走する危険があるし、調整型を否定するつもりはない。ただ、やはり分科会の尾身茂会長にコロナ対策のすべてを委ねてしまうようでは困る。尾身会長のような「専門バカ」はごく狭い分野のオタクみたいなもので、経済や社会の問題については無知極まりない。政治家こそが、自らの判断で総合力を発揮しなければいけない。なぜ、こうも政治家は専門家やメディアに引っ張られるのですか?

 

  
セカンドオピニオンがないコロナ対策  


石破:それは単純な話、叩かれるのが嫌だからです。さきほどおっしゃった玉川さんは、昨年『週刊朝日』が行った「信頼できるコメンテーター」のアンケート調査で1位になっているそうですから、彼と対立しても、票には繋がらない。しかし本来は、さまざまな専門家の意見を聞いたうえで、政治家が社会全体にとって何が一番大切か、何が一番必要かを判断しなければならないのではないでしょうか。

 とはいえ、例えば、医学の世界にはセカンドオピニオンがあり、1人の医師の意見だけでなく、複数の意見を聞いて、患者が判断する。ところが、こと、コロナに関しては政治もマスコミも、医療界さえもセカンドオピニオンがないのが現状でしょう。

小林:異論を許さないのは、メディアだけではないということか。

石破:これから夏に向かって、マスクの着用が子供や高齢者に大きな負担になるが、分科会に名を連ねるのは感染症や呼吸器の専門家で、小児科学会や高齢者医療の学会は入っていない。本来、適任のはずの獣医学系のウイルス学者も1人もいません。

 新興感染症の6割は人獣共通感染症といわれ、新型コロナも動物由来と目されているのだから、獣医ウイルス学者の知見を採り入れるべきだが、そうはならない。

 振り返れば’18年、加計学園グループが国家戦略特区に獣医学部を新設する計画を巡り、大議論が巻き起こったが、設立された岡山理科大学獣医学部からコロナについての発信が見られないのはどうしたことか。

 国家戦略特区として新設を認めるときに閣議決定した4条件の1つは、「新たな分野のニーズがある」ことだった。想定されていた「ニーズ」とは、本来、獣医学部が得意とする「新型ウイルスによる感染症や新たな人畜共通感染症」や「新たなバイオテロ」で、まさに今回の新型コロナが適合するものなのだから、知見を対策に活かしてほしかった。今後の発信を大いに期待します。

小林:言論界も一緒で、今や右派も左派も高齢者ばかり。老人は感染リスクが高いから、「コロナは怖い」という意見に傾いていく。

 

  
メディアは責任を負わない  


石破:メディアがすべて悪いと言うつもりはないが、責任を負わないでいい特別な立場にメディアがいるのも事実です。
 例えば、日本では毎年1万人ほどが子宮頸がんに罹り、約3000人も亡くなっているが、すでに効果が高いワクチンが開発され、厚労省が認めて’13年から定期接種となっていた。ところが、副反応が出てしまい、これをメディアがセンセーショナルに報じたことで「ワクチンは危険」という世論が形成された。

 その後、ワクチンと病症の悪化に因果関係はないことが科学的に証明されたが、一度つくられた世論はなかなか変わらず、今もワクチンは「積極的勧奨の中止」となったままで、ピーク時には7割に達した接種率は、0.3%まで落ち込んでしまった。だが、混乱の引き金となったメディアは一切責任を負っていません。

 

  
ワクチン接種は、本来、個人の自由  


小林:それとは反対だが、岡田晴恵が「人のために新型コロナワクチンを打たなくてはいけない」と言っており、今まさに“ワクチンファシズム”がつくられようとしている。だが、RNAワクチンは十分に安全性が確認されたとはとても言えず、実験段階の代物で、すでに39人がワクチンの副反応で死んでいます。そもそも、日本人はすでに集団免疫を達成していると考えているとわしにすれば、ワクチンを無理に打つ必要などないし、打つか打たないかは個人の自由に委ねるべきだ。ところが、“ワクチンファシズム”が完成すれば、接種を拒んだ人は非国民として攻撃されるだろう……。

石破:地元の選挙区を回って感じるのは、人々の話題の9割がワクチンで、みんな「早く打ちたい」と口を揃える。私は、高齢者や基礎疾患を持っている人、エッセンシャルワーカーは打った方がいいと思いますが、接種するかどうかは個人の自由というのが大前提でしょう。

小林:ウイルスが変異するのは当然なのに、マスコミは新たな変異株が現れるたびに恐怖を煽り、今はワクチンを全力で推奨している。マスコミが撒き散らしたコロナの恐怖によって、コロナの直接死より遥かに多くの経済死、自粛による自死が出ているのは明白な事実だが、マスコミはこうした真実が世間に広まることを恐れている。

 真実を隠し通すためには、コロナが終息する必要がある。今、マスコミがワクチンを全力で推しているのは、責任から逃がれたいからだよ。感染終息の暁には、まんまと逃げおおせる魂胆なんだろう。

 

  
感染者数=発症者数と信じている人が多い  


石破:日々、テレビが速報している新規感染者数にしても、正しくはPCR検査の新規陽性者数であり、感染者数=発症者数でもない。ところが、テレビではこれをきちんと説明しない。

小林:わし昨年からずっと批判し続けているが、いまだに毎日報じている。本当に悪質だよ。

 ただ、テレビの影響力は絶大で、「感染者数=発症者数」と信じている人は多い。新型コロナのワクチンにしても、重症化を抑えるものなのに、打てば感染しないと信じている人も驚くほど多いんですよ。

石破:コロナを巡って、安心材料となるような情報は、あまり報じられないのが現状です。

 志村けんさんが亡くなったとき、遺族はご遺体との面会も叶わず、お骨になってようやく会えたとして、当時、この映像が繰り返し流され、「コロナは怖い」という世論が一気に醸成されました。そもそも、なぜ遺族が死に目にも会えないのかと思って厚労省に問い合わせると、液体を通さない「非透過性納体袋」に遺体を収容すれば、遺体に会うこともできる、手袋をすれば触ることもできるし、葬儀もできる……昨年2月にこう通達を出しているという。だが、メディアはまったく報じなかった。

 同じ頃、コロナで亡くなった岡江久美子さんについても、乳がんを患い放射線治療を受け、免疫が低下していたということはあまり報じませんでした。安心するような情報では視聴率が取れないからなのか、と邪推したくもなります。

小林:昨年の感染拡大当初、テレビは医療崩壊で地獄絵図になったニューヨークやミラノの映像を繰り返し流し、コロナの恐怖を日本人に刷り込むことに成功したが、これと同じ手法だな。

 

  
ヘルスリテラシーが低い日本人  


石破:日本人の医療に対する理解が広がっていないのではないか、という面もあります。「保健体育」というけれど、「保健」のところでいろいろな病気や治療法、原因などを詳しく教えてもらうということはあまりないんですよね。

 日本の医学では、1分1秒でも患者を延命させることが正義になっており、国民皆保険制度が図らずもこうした傾向を助長している。でも本来、医療は患者さんのQOL(Quality Of Life)のためにあるべきだと思います。

 他方、医療を受ける側に目を向けても、日本では、医師の言うことがよくわからないという人が44%もいるのに対して、欧州では1ケタという調査結果もある。各自が求める健康情報を入手して正しく理解し、適切に活用する能力を意味する「ヘルスリテラシー」は、残念ながら世界でも最低水準といわれています。

 

  
「欲しがりません勝つまでは」?  


小林:それに加えて、メディアリテラシーもかなり低いよ。玉川の言うことを信じるくらいだから(苦笑)。政治がマスコミや大衆に引きずられるのは、先の戦争のときと変わっていない。だからこそ、政府と国民のあいだの橋渡しとなるマスコミ本来の役目は、とても重要なんだよ。

石破:先の戦争の前、メディアは正確な情報を伝えず、開戦を煽る世論を形成しました。「欲しがりません勝つまでは」と国民は同調圧力を強め、異論を唱える者は「非国民」として封殺。無謀な戦争を始めた結果、多くの国民が亡くなった。現在の日本において、これと同じ轍を踏んではいけません。


<取材・文/齊藤武宏 撮影/浅野将司>


齊藤武宏
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東京五輪、「疑惑をかけられた偉い人」が全員“逃げ続けている”日本のメチャクチャさ

2021-06-01 | いろいろ


より

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東京五輪、「疑惑をかけられた偉い人」が全員“逃げ続けている”日本のメチャクチャさ


武田砂鉄 フリーライター


偉い人が逃げ回る 


「その粉塵が国立(競技場)のものだと証明してほしい」

2015年、国立競技場の解体工事が始まった後、ベランダや窓につく汚れに悩まされていたマンション住民がJSC(日本スポーツ振興センター)に電話で問い合わせたところ、こんな答えが返ってきたという。

そのマンションは国立競技場から道路を挟んだところに建っている。解体工事が始まると、粉塵が巻き上がり、風に流され、ベランダや窓に降りかかった。その事実を伝えると、国立から出た粉塵かを証明せよ、話はそれからだ、と返される。どう証明しろというのか。対話するのではなく、対話を断ち切り、そそくさと逃げる。

 

この度、『偉い人ほどすぐ逃げる』と題した本を刊行した。テーマは多岐にわたるが、本全体に共通している問題意識というのか、テーマ設定というのか、それが「偉い人ほどすぐ逃げる」だったので、そのままタイトルにしてみた。我ながら良いタイトルである。なぜって、昨今、「大きな問題がたくさんありましたね」よりも「偉い人がとにかく逃げまくりましたよね」のほうが、それぞれの記憶からいくつもの事案が引っ張り出されるに違いないからだ。偉い人が逃げ回り、問題を隠蔽し、メディアもその忘却に加担し続けた。

本の「はじめに」にこのように書いてみた。

「いつも同じことが起きている。偉い人が、疑われているか、釈明しているか、逆にあなたたちはどうなんですかと反撃しているか、隠していたものが遂にバレたか、それはもう終わったことですからと開き直っているか、だ」

「国家を揺るがす問題であっても、また別の問題が浮上してくれば、その前の問題がそのまま放置され、忘れ去られるようになった。どんな悪事にも、いつまでやってんの、という声が必ず向かう。向かう先が、悪事を働いた権力者ではなく、なぜか、追及する側なのだ」

先述した、国立競技場近くの住民を取材したのはもう5年以上前だ。今では、マンションの前に、超巨大な新しい競技場がそびえ立っている。それは、47都道府県すべての木材を軒や庇(ひさし)に使用していると自信満々に「杜のスタジアム」などと打ち出している。しかし同時に、マレーシアやインドネシアの熱帯林を伐採した合板が型枠に使用されている。こんな事実も語られない。

かつて、国立競技場の隣にあった明治公園や霞ヶ丘アパートは取り壊された。追い出された霞ヶ丘アパート住民が東京都へ提出した要望書には、

「私たちは移転の可否について、都から一度も相談を受けていません。住民の気持ちを顧みない東京都の手続きからは、私たちがひとりの『人として』尊重されていると感じることはできません」

と書かれていた。丸川珠代五輪担当大臣が先日、五輪の目的として「絆を取り戻す」を挙げたが、いくつもの絆を引き裂いて開催されるのが東京五輪ではないか。

 

本書でも、ひとつの章を設けて東京五輪を集中的にとりあげている。本稿では、「偉い人」がいかに「すぐ逃げた」か、五輪関係の動きに絞って書き記しておきたい。今年2月、森喜朗大会組織委員会会長の女性蔑視発言が問題視され、たちまち辞任に追い込まれた後、五輪招致時の中心人物がこれで全員いなくなりましたねと、4人横並びの写真が注目された。

その4人とは、竹田恒和、猪瀬直樹、安倍晋三、森喜朗である。この4人の共通項もまた「偉い人ほどすぐ逃げる」だった。それぞれの逃げ方をおさらいしておきたい。

 

【竹田恒和の逃げ方】 

JOCの会長だった竹田恒和は、東京五輪招致を巡り、シンガポールのコンサルタント会社「ブラック・タイディングス」に約2億3000万円を賄賂として支払ったと疑われ続けている。支払ったのはコンサルタント料であると主張したものの、そのコンサルタント会社の活動実態はなく、追及をかわす会見をわずか7分間で終え、その後、逃げるように会長を辞した。

また、2013年、五輪招致を決めるブエノスアイレスの地で、記者団に囲まれた竹田が、「東京は福島と250キロ離れているから安全」と被災地を切り捨てたことも絶対に忘れてはいけない。

 

【猪瀬直樹の逃げ方】 

東京五輪の招致が決定してから半年も経たずに、「徳洲会」から5000万円の資金提供を受けていたことが発覚、都知事を辞任したのが猪瀬直樹だ。いまだに掘り起こされる猪瀬のツイートに「誤解する人がいるので言う。2020東京五輪は神宮の国立競技場を改築するがほとんど40年前の五輪施設をそのまま使うので世界一カネのかからない五輪なのです」という2012年7月のツイートがある。

さて、現在はどうだろう。「誤解」しているのはどちらだろう。うっかりつぶやいたツイートではない。翌2013年3月、IOC評価委員による東京視察のときにも、取材陣に対して「コンパクトな五輪を理解していただけたと思う」と述べている。

職を辞してからも、「反対論者は開催時の感染リスクを主張するが、それは具体的なデータを伴わない、無責任な感情論に過ぎません」(「週刊ポスト」2021年1月15・22日号)と開催賛成の立場をとっているが、一斉に多くの外国人がやって来るという、コロナ禍で一度も体験したことのない状況が生まれるのに、感染するリスクは低い、とする主張こそ、データが伴っていない。

 

【安倍晋三の逃げ方】 

東京五輪開催までに憲法を改正しなければと勇んでいたのが安倍晋三である。2017年5月3日、読売新聞の単独インタビューに答えた安倍首相は、

「私はかねがね、半世紀ぶりに日本で五輪が開催される年を、未来を見据えながら日本が新しく生まれ変わる大きなきっかけにすべきだと申し上げてきた」

などと、五輪と憲法改正をくっつけようとしていた。

改めて読んでみると、意味が不明だ。意味が不明なのに、2020年までに憲法改正を、というニュースとして走らせたメディアの責任も大きい。なぜ、運動会を開く日までに校則を変える必要があるのだろう。その後、自身の身内優遇が招いた事案(森友・加計・桜を見る会)から逃げるように、首相の座を明け渡した。

昨年3月、東京五輪の延期について、2年延期すべきではないかとの声を遮り、1年延期で、と切り出したのが安倍だったとされる。1年後、責任をとる立場に彼はいなかった。

 

【森喜朗の逃げ方】 

森喜朗が会長を辞するきっかけとなった言動の詳細については、さすがにまだ記憶に残っているだろうから、いちいちおさらいしない。ここで振り返っておきたいのは、彼の発言が問題視され、辞任を発表する会見の中で、

「(自分の蔑視発言について)解釈の仕方だと思うんですけれども、そういうとまた悪口を書かれますけれども、私は当時そういうものを言ったわけじゃないんだが、多少意図的な報道があったんだろうと思います」

と述べた事実だ。つまり、森喜朗は、形だけ反省した上で辞任した、のではなく、形さえも反省しないで、辞めたのである。自身の発言を省みることなく、急いで逃げたのだ。

 

このようにして、とにかく、みんな逃げたのだ。みんな逃げた後、急遽そのポストに押し込まれた人ばかりが並んでいる。菅義偉首相にしろ、橋本聖子大会組織委員会会長にしろ、実際のところ、こんな状態での東京五輪をどこまでやりたいと考えているのか、甚だ疑問である。

「選挙の追い風にしたい」「つつがなく終わらせたい」という彼らの願いは、逃げた人たちが持っていた「何が何でもやりたい」とは大きく異なるはず。無論、小池百合子都知事は、五輪の開催可否が政局の風向きにどう作用するかばかり考えているのだろう。

元五輪選手で政治学者のジュールズ・ボイコフが『オリンピック 反対する側の論理』(作品社)の中で、「スポーツ・ウォッシング」という言葉を使っている。五輪という「スポーツイベントを使って、染みのついた評判を洗濯し、慢性的な問題から国内の一般大衆の注意を逸らすのだ」と書いている。五輪の開催は、悪評を洗浄するために使われる。つまり、先に紹介した「逃げた男たち」の言動などが、丸ごとなかったことにされる。そういう効果が五輪にはあるのだ。

 

新著『偉い人ほどすぐ逃げる』では、「五輪を止める」と題した章を設け、五輪周辺の“逃走癖”“ウォッシング”の姿勢をいくつも考察している。とにかくみんな逃げている。多くを隠している。いざ開催まで持ち込めば、選手の誰かが感動的なシーンを作り出し、それに国民が乗っかり、様々な疑惑を全て忘れてくれると思っている。

この国で巻き起こる問題の多くが、同じ形をしている。問題視される→逃げる→忘れてもらう、この流れが続く。次々と問題が押し寄せる。ろくに検証しないまま、次の問題に移行してしまう。途中なのに、とにかく逃げてしまう。そして、逃してしまう。「偉い人ほどすぐ逃げる」、この5年の日本社会にある諸問題を振り返ったら、このスローガンからはみ出る事象がほとんどなかったのである。


武田 砂鉄 たけだ さてつ
  '82年、東京都生まれ。大学卒業後、出版社でノンフィクションの編集などに携わり、'14年よりフリー。『紋切型社会』で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。著書に『偉い人ほどすぐ逃げる』『芸能人寛容論』『コンプレックス文化論』『日本の気配』、共著に『せいのめざめ』『平成遺産』など
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「東京五輪は黒歴史になる」官邸の会見に参加した外国人記者が警告

2021-06-01 | いろいろ


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「東京五輪は黒歴史になる」官邸の会見に参加した外国人記者が警告  AERA dot.菅首相に初直撃


 菅義偉首相は5月28日夜、官邸で記者会見を開き、緊急事態宣言を6月20日まで延長することを発表した。会見では、「緊急事態宣言下でも東京五輪を開催できると考えるか」という質問に対し、「まず当面は、緊急事態宣言を解除できるようにしたい」と述べ、開催の可否への言及は避けた。

 IOCのジョン・コーツ副会長が同様の質問に対して「答えは間違いなくイエスだ」と言い切ったことに対し、国民から強い反発の声が出たことから、今回の会見では玉虫色の発言に徹した。

 一方、会見に参加した海外メディアの記者に五輪開催に関する意見を聞くと、「黒歴史になる」と日本に警告した。

「このままだと、ダメな意味で歴史に残る可能性があるね」

 菅首相の会見後、東京五輪開催についてこうこぼしたのは、イタリアメディア・SKYTG24のピオ・デミリア氏(67)。

 今の感染状況を「戦争中のようなもの」として、「戦争中に五輪を行うことなどあり得ない。リスクが多すぎる」と話す。

 「また緊急事態宣言を延長したのに、東京五輪は開催する、は通らない。なぜ、無理に国民に犠牲を強いるのか。日本人は対策を守り、すでに疲れている。首相は国民を守る立場なのに。良心の呵責を感じないのでしょうか。小池さんも含めて、この五輪開催を政治的な問題にするのは、NOTモラル。ありえないです」

 開催すれば、“黒歴史”になる可能性についても触れる。

「元首相の安倍さんは、日本のイメージアップを狙って開催を希望していたはずです。ですが、今やれば、イメージアップになどなりませんし、完全にイメージダウン。ダメな意味で、歴史に残ってしまう可能性がある。100年後に歴史を振り返った時に、大きな犠牲を強いた東京五輪として語られてしまうでしょう」


 香港フェニックステレビ・東京支局長のリ・ミャオ氏は、東京五輪を開催することの意義について政権は丁寧な説明が必要だと感じている。

「東京五輪はコロナ禍という前例のない状況に置かれています。ワクチンが行き届いていない中、緊急事態宣言も6月20日まで延び、日本国民のうち7~8割が五輪開催を支持していないという状況です。菅政権がこの状況でもあえてやるべきだと言うのなら、東京五輪の意義をもっと説明する必要があると感じます」

 中華圏と比較して、日本の感染状況についての所感も語った。

「中国大陸ではすでに感染者が少なく、強力的な措置で感染を抑え込んでいる状況です。中国の友人に日本の状況を話すと、感染者数の多さに驚かれます。一人のジャーナリストとしては、この日本の状況で取材をすることに不安と難しさを感じています。いまの自粛はすごく日本的だなと感じます。ワクチンや治験など、あらゆることで長い道のりが必要になる。場合によってもっと柔軟な対応も必要なのではないでしょうか」

 ちなみにこの日の首相会見で、AERAdot.(朝日新聞出版のニュースサイト)は初めて質疑応答で指名を受けた。安倍晋三首相時代から週刊朝日、AERAdot.記者は首相会見に約10回、参加してきたが、一度も指名されていなかった。

 東京五輪は現時点で東京都をはじめ、全国各地の学校で多くの児童・生徒らが観戦を予定している。一国の首相としてどのような見解を持っているのか、質問した。

「東京都の児童生徒の五輪観戦については、新型コロナが感染拡大する前に組織委員会が了承したという風に聞いています。この計画の取り扱いについて現在どうするかということが検討されているということであります。具体的な感染対策を踏まえた上で、組織委員会において判断をすることになるという風に思っております。新型コロナの中の学校活動、これは課外活動になりますから、この活動に対しては政府が基本的対処方針として示したものを踏まえてですね、都道府県の教育委員会において判断しています。本件を含めて子どもの安全と安心を守ること、そこを第一に考えて対応するだろうというふうに思っています」

 あくまでも観戦プロジェクトを管轄する組織委や学校現場に委ねる形だという。しかし、子どもの安心安全を真摯に考えているのであれば、他人事のように語るのではなく、国のトップとして具体的な見解を示していただきたかった。


 (取材・文=AERA dot.編集部・飯塚大和)
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独自調査でわかった「地震が少ない街」

2021-05-31 | いろいろ


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独自調査でわかった「地震が少ない街」
  福岡で51地域、北海道で27地域


日本各地で大きな地震が起きている。5月に入ってから、1日に宮城県で最大震度5強、熊本県で震度4の地震が起こった。編集部で独自調査を行ったところ、この1年間で地震が多数起こっている地域と、地震が起こっていない地域が見えてきた。

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「最近、地震が多くて、少し怖いです。地震が少ない地域に引っ越したい」

 こういうのは東京都に住む女性(36)だ。2月13日に福島県沖でマグニチュード7.3の地震が起き、福島県、宮城県で震度6強を観測した。東京でも震度4の揺れが起こり、東日本大震災の記憶が蘇ったという。地震が少ない地域というのはあるのか。

 そこで編集部では、気象庁の「震度データベース検索」を使い、2020年4月から今年3月までに全国の自治体で起こった震度1以上の地震の回数を集計した。先ずは日本全国で起こった地震の状況を見ていこう。

 地震が多い地域、少ない地域を見やすくするために、3Dマップを作製した。動画を見てもらいたい。全国の自治体で観測された地震の平均回数は16回だった。そこで1から16回の自治体を青色、17回から32回までを黄色、33回以上を赤色、0回をオレンジ色にした。

【動画】全国の地震状況はコチラ!


 見てわかるのは、東北地方の地震の多さだ。岩手県で最も回数が多かったのは一関市で163回、宮城県では石巻市が182回、福島県では田村市が182回と最も多かった。東日本大震災後も余震が続いているためだ。

 その影響を受けて、関東でも地震の多さが目立つ。茨城県では日立市が最も多く150回、千葉県では香取市が72回、東京都では千代田区が64回などとなっている。北海道でも太平洋側の地域で、地震の多さが伺える。根室市では72回と多い。

 反対に西日本では地震が少ない地域が目立つ。東北大災害科学国際研究所の遠田晋次教授(地震地質学)はこう説明する。

「東日本の場合は、震源が深いところにあるのが特徴です。その結果、揺れが広範囲にわたり、一度の地震で揺れる自治体も多くなります。他方で西日本は震源が浅いのが特徴。その結果、揺れも局所的になり回数も少なくなるのでしょう」

 

 


 中部でも東日本並みに突出したグラフが目立つ。昨年5月に、北アルプスのある岐阜・飛騨地方で、断続的に限られた場所で地震が頻発する「群発地震」が発生したためだ。高山市(岐阜県)で201回、松本市(長野県)でも165回と地震の回数が大きくなっている。

 伊豆半島や伊豆諸島、屋久島の南西に位置する鹿児島県の十島村(トカラ列島)も群発地震がたびたび起こるところしても有名だ。

 この1年間で地震のなかった地域にも注目していきたい。福岡県では地震がなかった地域が多く、51地域(自治体・行政区)もあった。次いで北海道が27地域、兵庫県が22地域となっている。鳥取、島根、岡山、広島といった中国地方の各自治体があがっている。

 立命館大の高橋学特任教授(災害リスクマネジメント)はこう見る。

「福岡県では地震は少ないが、地盤が悪いところが多く、水害にたびたび見舞われている。北海道では人口が少ない地域も多く、観測地点も少ないのも影響しているのでしょう。岡山県では断層が少なく地震も少ないとされていますが、詳しく調査されている断層がほとんどなく、リスクがよくわからない実態があります。兵庫県の西部の佐用町などでは比較的地震が少ないため、実験施設が作られるなどで知られています」

 いま地震が少ないからといって安全というわけでもない。1995年に起こった阪神・淡路大震災では神戸市東灘区、灘区、兵庫区などで震度7の揺れが起きている。05年に起きた福岡県西方沖地震では、福岡市東区、中央区、前原市(現・糸島市)でなど震度6弱を観測している。

 日本列島どこにいても震度6弱以上の地震に見舞われてもおかしくない、とよく言われるが、それでも地震が来ない地域はあるようだ。先の遠田教授はこう語る。

「理由はまだわかっていませんが、熊本県の天草諸島にある下島あたりは震源となる地震がほとんどありません。仙台湾や琵琶湖も震源が少ない。もちろん近くで地震があれば揺れますが、震源にはなっていない。50キロ四方の地域で見れば、そうした揺れない地域もいくつかあります」

 地震がないと油断していると、被害を大きくする可能性もある。しっかりと備えておこう。

 

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効いてきてしまった改憲派の「嘘」宣伝

2021-05-30 | いろいろ


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効いてきてしまった改憲派の「嘘」宣伝
  改憲派vs護憲派の公開討論を憲法学者の重鎮が提言

月刊日本


改憲「賛成」が「反対」を凌駕  

 


 5月3日(憲法記念日)の朝日新聞の報道によれば、「今の憲法を変える必要があるか?」という全国世論調査の結果は、「必要」が45%で「必要なし」が44%であった。これは7年ぶりの逆転である。同日付の毎日新聞でも、改憲について「賛成」が48%で、「反対」が31%であった。

 これで、自民党の憲法改正推進本部などは、「これまでの運動の成果だ」と大いに盛り上がっていることだろう。

 改憲が必要だとする理由を見てみると、自民党が常々広報している理由そのままである。つまり、第一が「国防の規定が不十分だから」で、第二が「古くなったから」で、第三が「米国からの押しつけで、日本の国柄が反映されていないから」である。

 しかし、これらの理由は、私などが機会がある度に指摘しているように、あからさまな無理か、一方的な主張である。

 


背景にある「改憲派」の「嘘」  


 まず、改憲派は、「現行憲法は国防を禁止している」とか「現行憲法は命を懸けて国を守っている自衛隊を『違憲』と言わせている」などと主張している。しかし、政府自民党の公式見解は次のものである。

①9条1項は「国際紛争を解決する手段としての戦争」、つまり(国際法上の用語例に従い)「侵略戦争」のみを禁じている。

②また、わが国も国際法上の自然権として自衛権は有しており、それは国連憲章51条で確認されている。

③しかし、9条2項が国際法上の戦争の手段としての「戦力」と戦争の資格としての「交戦権」を禁じているので、わが国は海外に戦争に行けない。

④だから、65条の「行政権」に含まれる警察(警察庁+海上保安庁)の能力を超えた攻撃を受けた場合に対応する能力を備えた第二警察(自衛隊)が日本の領域と周辺の公海と公空を用いて排除する。

⑤要するに、専守防衛に徹する自衛隊は合憲で、わが国は、9条により、多国間の紛争には介入しないが、わが国への侵略は許さない国なのである。

 また、憲法は、上衣や靴とは違い、単に「古くなった」ら当然に変えるべきものではない。時の経過の中で現実の政治と矛盾する条文が出て来た場合には、現実と条文のどちらを改めるべきか? という真摯な議論が先行すべきものである。その点では、9条を変えて米軍の二軍になることと9条を守って専守防衛に徹することの比較検討がまず行われるべきである。また、新自由主義という弱肉強食の資本主義と25条が保障している福祉国家のいずれが正しいか? がまず議論されるべきである。

 さらに、「現行憲法は、米国から押しつけられて、日本の国柄が反映されていない」と言うが、その「国柄」と言われる「明治憲法体制」が日本の2000年の歴史に照らして真にわが国の国柄なのか? の議論が必要である。また、天皇主権、専制、軍国主義、覇権主義の国家が敗戦で生まれ変わったことの歴史的意味をまず再考してみるべきであろう。

 だから、この世論調査に答えた人々は、改憲の論点について深く考えてはおらず、改憲派が喧伝している一方的な「嘘」を吟味せずに受け売りしている状態だと言えよう。

 


改憲派対護憲派の公開論争を  


 前述のように「憲法は改正すべきだ」と言う多数派の中の多数が、「国防の規定が不十分だ」と認識しておりながらも、朝日の調査では、全体としては61%の人々が9条の改憲に反対している。その主な理由が憲法が「平和をもたらしたから」である。これは一見して矛盾している。しかし、これも、国民全般が、憲法問題について公平に情報を提供されていないからだと思われる。

 憲法論議に参加してきた私がいつももどかしく思うことは、改憲派も護憲派も、それぞれに同好の士だけが集まって議論を重ねながら、反対派の主張を完全に無視している点である。だから議論が深まらず、それぞれに「囲い込まれた」人々が誤導されてしまっている。まるで新興宗教の対立である。

 この不幸な膠着状態を破るために、改憲派と護憲派の論客達が一堂に会して公開討論を行うことを提案したい。そうすれば、憲法に関する主権者国民全般の理解が深まり、生産的な議論が成立するはずである。

 「櫻井よしこ&伊藤真」といった公開討論会をぜひ観てみたい。


<文/小林節 記事初出/月刊日本2021年6月号より>

 

小林節
  こばやしせつ●法学博士、弁護士。都立新宿高を経て慶應義塾大学法学部卒。ハーバード大法科大学院の客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。著書に『 【決定版】白熱講義! 憲法改正 』(ワニ文庫)など


月刊日本
  げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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