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阪神間で暮らす 3

テレビを持たず、ラジオを聞きながら新聞を読んでます

敵は「自民党内」にあり

2021-06-15 | いろいろ


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敵は「自民党内」にあり
  「LGBT法案見送り」でわかった菅首相の政敵は野党だけではなかった  


 今国会で提出が見送られた「LGBT法案」。この法案をめぐる自民党内の動きを見てみると、菅首相の「敵」が党内にも潜んでいることがわかる。AERA 2021年6月21日号から。

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 ワクチンや五輪・パラリンピックの成功はいまだ未知数であると同時に、行政の最高権力者であっても、自民党内では派閥を持たない菅首相にとって、党内におけるプレゼンスは極めて限定的だ。それが露呈したのが今国会で提出が見送られた「LGBT法案」だった。五輪憲章で明確に性的指向を理由にした差別を禁止していることから、五輪開催を目指す菅首相にとって同法案は前のめりではないにしても、否定はしない立場だった。

 自民党を含む超党派の議員連盟が内容の修正を繰り返し、合意。あとはこの修正案を自民党が了承すれば国会提出できる段階だった。

【性的少数者をめぐる自民党内外の動きはこちら】

「これは闘争」と攻勢

 しかし、最後の最後で党内の保守派から「待った」がかかる。法案の国会への提出を了承する「総務会」で保守派が巻き返しを図ったのだ。同法案に積極的だった自民党議員はこう内情を明かす。

「ある総理経験者が『これは闘争だ』と言って、(議連がまとめた修正案を)絶対に通すなと総務会役員に直接、攻勢をかけたというのです。その人物は、選択的夫婦別姓や慰安婦問題の急先鋒。拍車をかけたのが同法案の自民党の取りまとめ役が、その人物と縁が深い、稲田朋美衆議院議員だったからです」

 その人物とは安倍晋三前首相だと複数の関係者が証言している。結局、同法案は6月16日の会期末を前に「審議日程が確保できない」ことを理由に提出を見送られた。しかし、ある国対委員長経験者はこう断言する。

「総理が鶴の一言で『やる』と決めれば、自民党以外の党は了承しているのだから、1日あれば衆参で審議の上、成立することが絶対にできる。つまり、総理といえども総務会、そして党内最大派閥である細田派を事実上率いる安倍氏に弓を引けないということだ」

 五輪開催中に混乱が発生するなどし、歴史に汚点を残すようなことになれば、復権を狙う「安倍・麻生」氏らが総選挙前に総裁選を行い、新しい顔で総選挙を戦うために「菅降ろし」に動く可能性がある。菅首相の政敵は、野党だけでなく、党内にも潜んでいる。

 

(編集部・中原一歩)

※AERA 2021年6月21日号から抜粋 
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元保守層のアイドル、稲田朋美議員"急旋回"の裏事情と本気度

2021-06-14 | いろいろ


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元保守層のアイドル、稲田朋美議員"急旋回"の裏事情と本気度  


 小池百合子東京都知事、野田聖子自民党幹事長代行らと並び、一時は初の女性総理の有力候補と目されていた稲田朋美衆議院議員。

 しかし、今年5月末に発売された月刊誌のインタビューで、かつて稲田氏を重用してきた安倍晋三前首相が「ポスト菅」の候補に挙げたのは、茂木(もてぎ)敏充外務大臣、加藤勝信官房長官、下村博文政調会長、岸田文雄前政調会長の4人。そこに稲田氏の名前はなかった。


 自民党関係者が言う。

 「稲田さんが当選5回で入閣2度(防衛大臣・規制改革担当相)、党3役(政調会長)のキャリアを積んで首相候補にまでなれたのは、安倍さんという後ろ盾があってのこと。その安倍さんの口から名前が出なかった、つまり見限られた理由は、ひと言でいえば『リベラルっぽくなってしまった』からでしょう。

 近年、稲田さんはシングルマザー支援や選択的夫婦別姓導入、LGBT理解増進法案など、保守層から見るとリベラルな政策の実現に力を入れてきた。これにより自民党内のタカ派議員から『裏切り者』と罵声を浴び、有力支持団体・神道政治連盟の国会議員懇談会の事務局長ポストからも事実上更迭されたほどです。安倍さんも最近の稲田さんの言動にはカチンときているはずですよ」(自民党関係者)

 この"急旋回"の背景を、政治評論家の有馬晴海氏が解説する。

 「順調にキャリアを重ねていた稲田さんですが、防衛大臣在任中の2017年、陸上自衛隊のPKO日報隠蔽(いんぺい)問題についてろくに答弁ができず、辞任に追い込まれました。

 この一件で"稲田総理待望論"はめっきり聞こえなくなり、何か再浮上のきっかけを......と取り組んだのが女性重視政策だったんです。自民党に欠けている政策を実現するリーダーとして世論、特に女性有権者の支持を集められれば、再び浮上の目も出てきますから」


 前出の自民党関係者もこう言う。

 「稲田さんは女性重視政策を提言する足場として、19年に自民の女性議員に声をかけ、『女性議員飛躍の会』という議員連盟を結成しています。

 ただ、この議連にはもうひとつ役割がある。かつて稲田さんは安倍さんに自民党総裁選への出馬を直訴しながら、立候補に必要な議員20人の推薦を集められず断念しています。

 今も稲田さんは『1日でもいいから総理になりたい』と強い意欲を見せていますから、この議連は次に総裁選に挑むときの有力な基礎票という意味合いもあるはずです」

 この議連には、現政権や党重役と距離の近い野田幹事長代行、高市早苗前総務大臣、三原じゅん子厚生労働副大臣といった面々は参加していない。いわば"党内野党"的な色合いもある立ち位置だ。

 防衛大臣退任後は二階俊博幹事長に接近するなど、一時は"試行錯誤感"がありありだった稲田氏だが、ここにきて腹を決めつつあるようにも見える。稲田氏はある対談でこんな話をしている。

 「防衛大臣のときに大きな挫折をし、順調にいかない人や疎外感に悩む人の気持ちがわかるようになって、女性重視政策が自分ごとになった」

 最近ではリベラル系メディアや海外メディアでの露出が目立つ稲田氏。保守おじさんのアイドルからの"急旋回"、ひょっとしたら化けるかも?
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G7首脳会議 菅首相は五輪以外に言うことはないのか

2021-06-14 | いろいろ


在英国際ジャーナリスト 木村 正人氏のコラムより 

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G7首脳会議 菅首相は五輪以外に言うことはないのか  

木村 正人 在英国際ジャーナリスト


[ロンドン発]先進7カ国首脳会議(G7サミット)が英南西部コーンウォールで11日に開幕します。昨年は新型コロナウイルス・パンデミックとドナルド・トランプ米大統領(当時)への独仏の反発で対面式開催は見送られました。それだけに2年ぶりにG7、欧州連合(EU)、ゲストの韓国、インド、オーストラリア、南アフリカの首脳が集まる中、ジョー・バイデン米大統領がG7の結束をリードできるかが最大のポイントとなります。

 


――菅義偉首相は東京五輪・パラリンピック開催の支持を取り付けたい考えだが  

筆者の見方「G7のテーマは五輪よりワクチンです。コウモリなどの野生動物に由来する新興感染症の時代に入り、ワクチンを制する者は世界を制することを、衰えたとはいえ、現在の覇権国アメリカも、かつて7つの海を支配したイギリスも十分にわきまえています。イギリスは昨年12月に世界に先駆けてワクチンの集団予防接種を始めました」

「カナダのマギル大学のCOVID-19ワクチントラッカーによると少なくとも1カ国で使用が承認されているコロナワクチンは17種類。英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカ(AZ)が共同開発したワクチンを承認したのは102カ国。独バイオ医薬品企業ビオンテックと米製薬大手ファイザーが共同開発したワクチンは85カ国で承認されています」

「これに対してロシア国立ガマレヤ研究所のスプートニクⅤは68カ国、中国国営企業シノファームのワクチンは45カ国で承認されています。AZワクチンは1回分、コーヒー1杯の低価格で調達でき、普通の冷蔵庫でも保管できます。開発期間を300日から100日に短縮中で、まさに新興感染症パンデミックのために作られたワクチンと言えるでしょう」

「ホスト役のボリス・ジョンソン英首相はパンデミックを終息させるためG7で来年末までに世界中でワクチン接種を終わらせるよう呼びかけています。ワクチン供給量を増やし、途上国や最貧国も公平にアクセスできる仕組みを作ろうとしています。世界保健機関(WHO)のCOVAXへ5億4800万ポンド(約850億円)を財政支援します」

「さらにイギリスは来年中に1億回分のワクチンを寄付します。ジョー・バイデン米大統領も5億回分を途上国などに供与すると正式に表明しました。G7ではワクチンや資金の提供を通じて 10 億回分を提供し、来年中にパンデミックを終わらせることで同意する見通しです。ロシアや中国のワクチン外交に対抗する狙いがあります」

「イギリスは18歳以上の75%が1回接種を、50%が2回接種を終えています。しかしインド変異(デルタ)株がスコットランドやマンチェスター、ロンドンで流行しており、感染者が1週間で60%以上も増え、入院患者も死者も再び上昇に転じています。このため6月21日の正常化記念日に黄信号が灯っています」

「日本はワクチン確保や接種開始でもたつきました。COVAXにアメリカに次ぐ計10億ドル(約1094億円)を拠出、日本で生産するAZワクチンを念頭に3千万回分の途上国への提供を表明しました。しかしワクチンの開発と展開に成功した米英に比べ存在感は薄く、五輪開催をG7でお願いするのは調子外れのように聞こえるのではないでしょうか」

 


――G7の見どころは  

「自由と民主主義国家の大黒柱としてG7の復権なるかに尽きます。米国第一主義のトランプ大統領から協調型、調整型、実務型のバイデン大統領に代わり、コロナのほか経済政策、地球温暖化対策、安定したサプライチェーンの確立、対中政策など山積する課題で先進国の足並みがそろうかどうかです」

「今回のサミットには韓国、インド、オーストラリアがゲストとしてホスト国のイギリスに招待されましたが、デルタ株の猛威と戦うインドはオンラインでの参加になりました。G7が世界を動かした時代は遠い昔、国内総生産(GDP)シェアは70~80%から40%に低下。中国の横暴を抑制するためG7を民主主義10カ国(D10)に格上げするのが狙いでした」

「中国問題では台湾海峡の平和と安定の重要性や両岸問題の平和的解決、新疆ウイグル自治区の人権問題への深い懸念、香港の民主主義弾圧に対する重大な懸念がG7外相会合に続いて示されるでしょう。ウイルスの起源についても世界保健機関(WHO)に再調査を依頼する可能性もあります」

「しかしG7のゲスト国に南アフリカが急きょ加えられ、D11になりました。G7を、日本やアングロサクソン諸国が主導する“自由で開かれたアジア太平洋”のプラットフォームにすることにドイツやイタリアが難色を示したからだと筆者はみています。中国の一帯一路、南シナ海、東シナ海への海洋進出への懸念は欧州でも強まっています」

「英最新鋭空母クイーン・エリザベス(QE)を中心とする空母打撃群が極東に派遣され、米海軍のミサイル駆逐艦ザ・サリバンズと海兵隊のステルス戦闘機F35B(短距離離陸・垂直着陸型)、オランダ海軍のフリーゲート艦も参加します。昨年 9 月、ドイツもインド太平洋政策のガイドラインでこの地域での安全保障のプレゼンスを拡大することを求めました」

「ドイツはアジアにフリーゲート艦を派遣するものの、QEとは完全に別行動を取り、上海に寄港させる予定です。アンゲラ・メルケル首相は今年4月、6回目のドイツ・中国合同閣議をオンライン形式で開いたばかり。中国での自動車生産と販売に大きく依存するドイツは中国に配慮せざるを得ないのです」

「重債務と低成長に苦しむイタリアも中国の一帯一路に組み込まれています。EUに加盟する重債務国や旧共産圏諸国の多くが中国に依存しています。メルケル首相の時代は終わりが近づいています。今年9月のドイツ総選挙の結果を待たないとG7の対中政策がまとまるかどうかは見通せないでしょう」

 


――インドは対中政策のカギを握っているのか  

「インドは“世界のワクチン工場”と言われています。西側諸国がどうインドを巻き込んでいくのか。中国を抑制するためにはこれから成長していくインドの力は不可欠です。しかしインドではナショナリズムが高まり、民主主義の後退が懸念されています。このため世界のワクチン工場としてインドを西側に取り込んでいくことが大切です」

「筆者の個人的な妄想ですが、イギリスのリシ・スナク財務相もインド系、アメリカのカマラ・ハリス副大統領もインド系です。やはり次の世代はインドが大きなカギを握るのではないのでしょうか」

 


――今回のサミットでも日韓首脳会談は協議していないと韓国の大統領府関係者は話している  

「タンゴは1人では踊れません。日本側だけの問題ではないにせよ、日韓両国が歴史問題でいがみ合ったままでは自由民主主義陣営の結束は綻んでしまいます。日韓両国はそろそろ関係修復に舵を切る時が来ているのではないかと考えます。韓国が中国に完全になびくと軍事、政治、経済すべての面でマイナスが大きい。それをアメリカもイギリスも恐れています」

「そこで出てきたのがD10構想です。韓国はG7の仲間入りと大はしゃぎです。日本と韓国の間には経済力の急激な変化による“トゥキディデスの罠”が働いています。ナショナリズムは物事の本質を見えなくしてしまいます。日本は韓国をうんぬんする前にまず研究開発力と生産力、経済力、そして自信を取り戻すことが大事です」

「先日発表された英高等教育情報誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションのアジア大学ランキングでもトップ30に中国、韓国各8大学、香港5大学が入っているのに、日本は東京大学、京都大学、東北大学の3大学だけでした。これでは韓国に見下されて当然です。もちろん韓国も、安全保障はアメリカ、経済は中国という良いとこ取りはできなくなります」

「トランプ時代からバイデン時代になり、日本には大局を見据えた大人の対応が求められています。この30年近く日の丸、君が代、靖国神社、従軍慰安婦、歴史、領土問題というナショナリズムにとらわれてしまった日本は一番大切なものを失ってしまいました。時の政権はナショナリズムで自分たちの失政を覆い隠してきたのです」

「それこそが中国や韓国の策略だったのかもしれません。日本はナショナリズムに血迷うより、今は大局に立ち、合理的に、冷静に損得を考える時だと思います。人口が5171万人足らずの韓国に大学力で負けているようではお話にならないし、どこからもまともに相手にされないと思います」

(おわり)
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Oh!辛辣 続報が聞きたいな。

 


【緊急インタビュー 福島みずほさんに聞く】

2021-06-13 | いろいろ


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【緊急インタビュー 福島みずほさんに聞く】
     私たちの自由と人権を奪いかねない「重要土地規制法案」の問題点


国会で「重要土地規制法案(重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案)」の審議が進んでいます。政府・与党は今国会での成立をめざしていますが、全国の基地問題、原発問題などに関わる市民グループや法律家団体を中心に反対の声が広がっています。「重要土地規制法案」とはどんな法案なのでしょうか? 会期末が迫る中、この法案の問題点と危険性を発信してきた参議院議員の福島みずほさんにお話を伺いました。

 

立法事実がないスカスカの法案  

 「重要土地規制法案」は、安全保障上の重要な施設、たとえば基地や原発などの周辺区域で、土地取引や利用状況を調査し、規制しようとする法案です。ひと言でいうとスカスカの法案で、どこが対象区域に当たるのか、どんな施設の周辺が調査対象になるのか、どのような行為が規制対象になるのか、内容も定義もあいまいです。

 また、この法律を必要とする立法事実もありません。政府は、以前に自衛隊基地周辺の土地を外国の企業が買収した例をあげて、基地機能が阻害されることを防止するのが目的だとしていますが、そのような事実がないことはすでに明らかになっています。2020年2月25日の衆議院予算委員会第8分科会で、防衛省が全国の防衛施設周辺の土地を調査した結果、「(外国資本による)土地の所有によって自衛隊の運用等に支障が起きているということは確認をされておりません」と述べているのです。そもそも政府自身が立法事実を否定しているわけですね。

 5月の衆議院の本会議でも、小此木八郎・領土問題担当大臣は立法事実について質問されて、安全保障上のリスクがあるため「答弁はできない」と言っています。政府は、この法律がなぜ必要なのか、国会の審議の中でちゃんと説明していないのです。

 


どこが調査と規制の対象になるのか?  

 「重要土地規制法案」が調査と規制の対象としている区域は、自衛隊基地、米軍基地、海上保安庁の施設といった「重要施設」の周囲1キロの範囲内です。国境離島等もこれに含まれます。これらの区域を「注視区域」として告示で個別指定し、その中でも特に重要な施設の周辺は「特別注視区域」として、土地や建物の売買をする場合は氏名、住所、利用目的などの届け出を義務づけています。

 そのほか「機能を阻害する行為が行われた場合に国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められる」重要インフラも、「生活関連施設」として調査と規制の対象になります。原発など原子力関連施設、自衛隊が使用する民間空港は、これに当たることが明らかになっています。

 他に何が重要インフラにあたるかは政令で定められるとなっており、将来的には火力発電所、放送局、鉄道なども指定される可能性があります。つまり法律が成立したら、どのような施設が調査・規制対象として追加されるかは白紙委任であって、政府の恣意的な解釈でどんどん広がっていくおそれがあるのです。

 また現在、自衛隊基地、米軍基地、原発は全国にあります。たとえば基地がある横田、厚木、横須賀でも、周囲1キロ以内の「注視区域」には住宅が多く、そこに住んでいたらいつでも調査が入るということです。

 とりわけ米軍基地が集中している沖縄への影響は大きいと思います。普天間、嘉手納の基地などは市街地の中にあり、宮古島、石垣島、与那国島などの離島では自衛隊の施設が造られています。沖縄は今でも危険な基地の重圧に苦しんでいるのに、多くの県民が調査と監視の対象になってしまいます。

 


実際にどんな調査がおこなわれるのか?  

 具体的にはどのような調査がおこなわれるのかというと、調査の対象になるのは「土地及び建物の所有者、賃借人等」です。この「等」というのが問題で、土地や建物の所有者や、土地や建物を借りている人、利害関係人にとどまらず、「注視区域」に出入りしている人など際限なく拡大していく可能性があります。

 調査の事項は「所有者等の氏名、住所、国籍等」「利用状況」となっています。そして調査の手法は「現地・現況調査」「不動産登記簿、住民基本台帳等の公簿収集」と定めています。ということは、基地や原発などから1キロ以内の区域に住んでいれば、氏名や住所、国籍、土地や建物をどのように利用しているかを調べられ、帳簿も見られ、聞き込み調査もおこなわれる可能性があるわけです。

 さらに問題なのは、「所有者等からの報告徴収」が求められることです。法案には、「内閣総理大臣は(略)情報の提供を求めた結果、土地等利用状況調査のためなお必要があると認めるときは、注視区域内にある土地等の利用者その他の関係者に対し、当該土地等の利用に関し報告又は資料の提出を求めることができる」と書いてあります。

 たとえば基地の近くに住んでいて何らかの市民運動をしている人が調査を受けて、「なお調べる必要がある」ということになれば、「あなたの家にはいろいろな人たちが集まってときどき会合をしているようだけれど、どういう人が来ているんですか」などと聞かれて「報告」させられるなんていうことも起こり得ます。

 そうなれば人間関係や地域の分断をまねく危険性もあります。住民たちがそれぞれに「報告」を強いられることで、旧東ドイツの秘密警察シュタージがやったような市民の相互監視にもつながりかねません。

 この法案では、調査をして「重要施設の機能」や「離島機能」を「阻害する行為に供し、又は供する明らかなおそれ」があるときには中止の勧告をし、さらに命令を出し、中止命令に従わなければ2年以下の懲役、または200万円以下の罰金という刑事罰も適用されます。だけど「機能を阻害する明らかなおそれって何?」と思いませんか? 「機能」も「阻害する行為」も何を指すか条文には書かれておらず、定義があいまいで、政府の解釈によって何だって「おそれ」があるとみなされてしまいます。

 沖縄をはじめ全国の基地の周囲では、爆音訴訟(基地からの騒音に対し、損害賠償や飛行差し止めなどを求める訴訟)なども続いています。原告の住民は、上空を飛んでいる米軍機や自衛隊機を常にウォッチしています。抗議集会を開くこともしています。そうした行為も「怪しい」と言われるかもしれません。

 また、原発の反対運動も、調査と規制の対象になり得ると思われます。原発やその建設予定地の周辺には、大間原発建設地近くの「あさこハウス」のように土地を売らずにがんばっているところや、反対運動とか監視活動の拠点となる団結小屋もあります。

 懸念するのは、それらの活動が「機能を阻害する明らかなおそれ」があるとされて、中止の勧告や命令を受け、そこに住み続けるのが難しくなることもあり得るということです。法案では、その場合は国が土地を買い取る義務があるとしています。つまり土地を売るしかない状況に追い込まれて、事実上の土地収用が起きることも考えられるのです。

 


ほんとうのねらいは市民の監視?  

 最初にお話ししたように、政府は「重要土地規制法案」は外国資本が基地などの施設の周辺の土地を取得して、その機能を阻害することを防止するのが目的だとしていますが、そのような立法事実はないので、本来の目的は市民の監視ではないかと思います。

 基地などの「注視区域」の「現地・現況調査」は、おそらく自衛隊の情報保全隊や公安警察が担うのではないかといわれています。情報保全隊はかつて市民運動を監視し名簿をつくったり、個人の写真を撮ったりしていたことが国会で問題になりました。

 しかし、この法律が成立すれば、法にのっとって大手を振って調べられるわけです。基地や原発から1キロ以内に住んでいて、反対運動や市民運動にちょっと関わったことがあるというだけで、ある日自衛官が家にやって来て「調査をしていまして、あなたのところでよく集会をやっているようですが、話を聞かせてください」と言われる。それだけで十分な萎縮効果があるでしょう。

 私は、菅内閣のキーワードは「監視・弾圧・排除」だと思っています。「重要土地規制法案」の審議では、調査で収集した情報を公安や内閣情報調査室と共有するかどうかを聞かれ、小此木大臣は否定していません。菅内閣がめざしているのは、内閣にあらゆる情報を集め、監視して、内閣総理大臣に権限を集中させること。菅政権において出されてくる法案は、この「重要土地規制法案」の他、「改憲手続法改正案(国民投票法案)」、すでに成立してしまった「デジタル改革関連法案」も含めて、内閣独裁を強めるねらいがあるのではないかと思います。

 


自由と人権のために声を上げ続ける  

 「重要土地規制法案」は問題点も危険性も多い法案です。私は条文を読んで、戦前の「要塞地帯法」(1899年制定)を想起しました。「要塞地帯法」は軍事施設の写真を撮ったり、スケッチすることも禁止していました。当時出版されていた『ハイキング』という雑誌を見れば、カメラでうっかり山の写真を撮ると、要塞が写るかもしれないので、撮らないようにと書いてあります。それと同じように、「重要土地規制法案」が成立すれば、みんなで集会をやっているだけで「機能を阻害する明らかなおそれ」となるかもしれません。

 この法案は、すさまじい監視社会をまねく法案といえます。「基地の問題ね」「原発の問題ね」と思われるかもしれませんが、対象になる「重要施設」の指定は今後、広がるおそれがあります。あなたが住んでいる近くの施設が指定されるかもしれないし、どんな行為が規制されるのかもわからないまま、市民が監視され、調査され、刑事罰まで科される戦前のような社会は怖いということは、たくさんの人に知ってもらいたいです。

 法案は参議院で審議入りして、会期末が近づいてきました。このような悪法は通させないことがベストで、なんとか廃案にしたいと思っています。最悪なのは、悪法がみんなに知られずに通ってしまうこと。たとえ成立したとしても、成立に至るまでに国会の中でも社会の中でも反対の声を上げ続けることは大切です。

 検察庁法と入管法の改悪案は、反対の声が高まったから政府は成立を断念しました。「重要土地規制法案」も、いかに危ない法案かということを諦めずに広げたい。私たちの自由と人権を守るために、ぜひ一緒に声を上げましょう。

 

(聞き手/塚田ひさこ、構成/海部京子)


福島みずほ(ふくしま・みずほ)
 1955年宮崎県生まれ。社会民主党党首。参議院議員。東京大学卒業後、弁護士として選択的夫婦別姓、婚外子差別などに取り組む。1998年、初当選。2009年、内閣府特命担当大臣として男女共同参画・自殺防止・少子化対策などを担当し、DV被害者支援や児童虐待防止、貧困対策、労働者派遣法改正に取り組む。現在は沖縄の新基地建設阻止、戦争法案の廃止、環境・人権・女性・平和を4本柱として幅広く活動中。著書は『「意地悪化」する日本』(共著・内田樹/岩波書店)、『戦争を通すな!』(共著・鈴木邦男/七つ森書館)、『脱原発を実現する 政治と司法を変える意志』(共著・海渡雄一/明石書店)ほか。
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若者がいよいよ「大企業」「公務員」を見限りはじめている…

2021-06-13 | いろいろ


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若者がいよいよ「大企業」「公務員」を見限りはじめている… その「本当の理由」

「転職前提」の若手が増えてきた


前川 孝雄 (株)FeelWorks代表 青山学院大学兼任講師

 

 新社会人が入社直後に転職サービス「doda」に登録した件数は、10年前と比較して約26倍に増加している――パーソルキャリアは、衝撃的なデータを発表した。近年、若者の公務員や大企業離れが急速に進んでいることを象徴するデータといえる。

 その理由について、プライベートを大切にするワークライフバランス志向の高まりとする向きが強いが、青山学院大学で長年教鞭も執り、「eラーニング 新入社員のはたらく心得」も提供する、人材育成支援企業(株)FeelWorks代表取締役の前川孝雄氏は、問題の本質はそこではないという。若者の転職意向の高まりの背景にあるキャリアと雇用の変化を考察し、企業・組織に警鐘を鳴らす。

 


急速に進む、若者の大企業・公務員離れ   


 パーソルキャリアの調査によると、2011年から現在までに「doda」に会員登録した人のうち、4月に登録した新社会人の数を集計したところ、10年間で約26倍に増加したという。全体でも約5倍に増加しているが、新社会人の転職意向の高まりはケタ違いだ。

 同社は、東日本大震災や、終身雇用の維持は難しいとする大企業経営者の発言など、「はたらく価値観」を揺さぶる出来事に影響を受けたためとし、数年後には、就職活動時から転職を意識する“転職ネイティブ世代”が転職市場に台頭してくると分析している。ちなみに中途採用より新卒採用を重視する大企業や公務員ほど、この傾向は衝撃だろう。


 もっとも、こうした若者の転職意向の高まりは、近年指摘され続けてきた。象徴的なのが、高学歴エリートの人気就職先の代名詞であった国家公務員総合職、いわゆるキャリア官僚の早期離職だ。内閣人事局の調査によると、自己都合理由で退職した20代の国家公務員総合職は2019年度には87人。6年前の21人から年々増加し、4倍を超えている。

 転職予備軍も若手層に多いことが明らかとなった。30歳未満の国家公務員で「すでに辞める準備中」「一年以内に辞めたい」「三年程度のうちに辞めたい」のいずれかが、男性15%、女性10%となっているのだ。

 また、国家公務員採用試験の総合職の申込者数は、ピーク時1996年度の4万5254人に対し、2021年度は前年度比14.5%減の1万4310人と5年連続の減少で、記録が残る1985年度以降で最も少なくなっている。この現状は、河野太郎・国家公務員制度担当大臣が、昨年自身のブログに「危機に直面する霞が関」と題して公表し、話題を呼んだことを記憶している人も多いだろう。

 


憧れの大企業に落胆…   


 また同様の傾向は、民間の人気就職先であった、大企業でも顕著になってきている。これまで十数年にわたり、多様な業界・企業での人材育成支援を手掛けてきたが、銀行やメーカーなど、これまで早期離職に悩むことの少なかった大企業、上場企業ほど若手層の転職に頭を痛めるようになってきたと感じている。

 では、なぜ若者は大企業や公務員離れをするようになってきたのか。

 ちなみに、キャリア官僚等の採用や研修を担う人事院は、国家公務員採用試験申込者減少の理由として、コロナ禍と地方志向を理由にあげている。地元でプライベートを大切に生きたい若者が増えていると見立てているということだ。

 しかし、コロナ禍は去年からの現象であり、それ以前からの減少トレンドの理由にはならない。そもそも内閣人事局の調査の名称が「国家公務員の⼥性活躍とワークライフバランス推進に関する職員アンケート」となっているので、頭からワークライフバランス志向の高まりと決めてかかっていることがうかがえる。

 本当にそれだけだろうか。私は、問題の本質はそこではないと考えている。その理由を説明するためにも、憧れていた大企業への転職に成功したものの、1年も経たないうちに退職することになった一人の若者のエピソードを紹介しよう。(※プライバシーに配慮し、設定を一部変更している)

 社会人6年目で初めて転職したT君。新卒で就職したのは中小企業ながら、創業経営者の社会貢献への経営理念が浸透した会社で、人材育成にも熱心だった。T君は順調にキャリアアップし、管理職候補になっていた。

 会社にも、仕事や収入にも大きな不満はなかったものの、30代以降を考えると今の会社ではこのまま幹部を目指すことになるが、事業規模から活躍できるステージは限られてしまう。30代半ば以降は転職先も限られると悩んだ結果、より大きなステージで自分の実力を試そうと大企業への転職を決断。何より社会の公器とされる上場企業であれば、キャリアアップにふさわしい経験を積めると期待したのだ。

 一般的には、中小企業から大企業への転職は高いハードルがあるものの、T君のこれまでの実績が評価され、かつぎりぎり第二新卒枠に該当していたこともあって、大手上場企業への転職は成功した。


 ところが新たな職場で働き始めると、管理体質が強く短期的な営業目標の達成ばかりが求められる毎日に衝撃を受ける。前職でも営業経験があり数字の大切さはわかる。しかし職場では中長期視野での理念やビジョン、顧客に提供する価値についてはまったく語られず、ただただ上からおりて来た目標数字を追う体質に違和感が高まる一方だった。

 上司に疑問を訴えるも取り合ってもらえず、中小企業から来た新参者のくせに大企業のマネジメントを批判するのかと、問題社員扱いされそうになり、次第に憔悴。そして転職後半年ほどでメンタル不調になり、結局1年足らずで退職することになってしまった。

 A君はその後、キャリアアップの意味や目標も見失ってしまい、しばらく自宅で引きこもりのような生活を送る。少し気持ちが落ち着くと、このままではいけないと、視野を拡げながら、再度就職活動を始める。

 その過程で地域創生に挑む創業間もないソーシャルベンチャーと出会い、経営者の理念に共感。収益の前に地域で困っている人たちの助けになりたいと心の底から思い、奮闘する現場社員の様子も見させてもらい、「これぞ自分が望んでいた職場だ」と入社を決断した。

 実はA君が選んだ新しい会社は、組織としてもビジネスモデルとしても脆弱なベンチャーゆえ、給与は半減している。労働時間もかなり長くなってしまったのだが、大きな不満はないという。むしろ、これだけ難しい社会問題に真っ直ぐ打ち込めて、会社としてはまだ大きく収益が上げられていないのに、安定給与がもらえることに感謝すらしていると笑顔で話してくれた。

 


「働きがい」が得られない裏返し   

 A君のような挫折感を覚える若者は少なくないと私は見ている。背景にあるのは、社会貢献への実感や働きがいを得られる場に大手上場企業がなり得ていない場合が少なくないという状況だ。

 たしかに、A君も理想が高すぎ、上場企業というだけで過大な期待を抱いたかもしれない。しかし、上場すると会社は株主からの厳しい目にさらされ、経営は短期的な収益向上の圧力を受けざるを得ない。経営が株主の利益配当への要求を強く意識すれば、必定、現場も数値目標を追うばかりになり、長期視野での企業理念や仕事の目的が置き去りになりやすいのではないだろうか。

 とはいえ、民間企業は収益をあげなければ持続できないため、社会貢献による働きがい実感とともに、業績目標も追いかけざるを得ない面もある。では、本来、民間企業が代替できない社会貢献のみに奉仕する公務員はどうだろうか。

 先述の内閣人事局の調査内容をさらに見ると、若手職員が退職をしたい理由は、男性では「もっと自己成長できる魅力的な仕事につきたいから」が男性49%と突き抜けている。いわゆるワークライフバランス意識の高まりを示す「長時間労働等で仕事と家庭の両立が難しいから」34%より15ポイントも高くなっている。

 出産・育児や介護などのライフイベントの負荷がかかりやすい女性では、理由は「長時間労働等で仕事と家庭の両立が難しいから」が47%とトップとなっているが、「もっと自己成長できる魅力的な仕事につきたいから」も44%と肉薄している。


 つまり、ここでも、支持基盤の短期的な利権争いに終始する国会対策の下働きは、若手官僚たちにとって「自己成長できる魅力的な仕事」ではないということだ。この国難のさなかにも関わらず、本音を語らず通り一遍のセリフの繰り返しに終始する党首討論に、落胆した人も少なくないだろう。

 志の高い若手官僚であるほど、政治家が本気で侃々諤々議論し決断したことを執行するつもりだったはずだ。国家公務員の存在意義を感じられなくなるのも無理はない。魅力的な仕事とは、働きがいを感じられる仕事であり、その経験値を積むことが自己成長につながる仕事だと私は考えている。

 キャリア官僚といえば、東大など高学歴者が目指す超エリート職で、国の未来を背負って立つ羨望の職業だったはず。それが、優秀な若者から見放されつつある。その理由が、自己成長やキャリアアップの展望がないとする現状は、国家的な危機と感じざるを得ない。

 

 経営者や管理職など、上の世代から見て、今どきの若者はワークライフバランスの権利ばかり声高に主張すると捉えることは、表層だけを見ており、問題の本質を捉えているとはいえない。確かに一定層は権利意識が肥大化しているかもしれないが、優秀な若者ほど、働きがいを得られない長時間労働は勘弁してほしいと考えているのではないだろうか。ワークライフバランス志向の高まりは、働きがいを得られない裏返しなのかもしれない。

 もちろん、人生100年であり、もはや一つの会社や組織でキャリアを終える時代ではないため、趨勢としての転職トレンドは高まっていくだろう。しかし、瞬間風速的にワークライフバランスが担保できない長時間労働に従事することになっても、自分のやっている仕事が世のため人のためになっていると実感できれば、ここまで若者の転職意向は高まらないのではないだろうか。


前川 孝雄 まえかわ たかお
  株)FeelWorks代表 青山学院大学兼任講師
  人材育成の専門家集団(株)FeelWorksグループ創業者であり、人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。兵庫県明石市生まれ。大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒業。リクルートで「リクナビ」「ケイコとマナブ」「就職ジャーナル」などの編集長を経て2008年に「人を大切に育て活かす社会づくりへの貢献」を志に起業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、400社以上を支援している。独自開発した「上司力研修」「50代からの働き方研修」、eラーニング「新入社員のはたらく心得」「上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」などを提供。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年に(株)働きがい創造研究所設立。一般社団法人企業研究会 研究協力委員、iU 情報経営イノベーション専門職大学客員教授、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員なども兼職。連載やコメンテーター、講演活動も多数。著書は『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『上司の9割は部下の成長に無関心』(PHP研究所)、『年上の部下とうまくつきあう9つのルール』(ダイヤモンド社)、『「仕事を続けられる人」と「仕事を失う人」の習慣』(明日香出版社)、『もう、転職はさせない!一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)など多数。最新刊は『コロナ氷河期 終わりなき凍りついた世界を生き抜くために』(9月19日発売予定・扶桑社)、『本物の「上司力」』(大和出版)、『50歳からの幸せな独立戦略 会社で30年培った経験値を「働きがい」と「稼ぎ」に変える!』(PHP研究所) 。
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「社会のデジタル化」の哲学で、オードリー・タン氏にあって河野太郎大臣に欠けているもの

2021-06-12 | いろいろ


より

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「社会のデジタル化」の哲学で、オードリー・タン氏にあって河野太郎大臣に欠けているもの  


『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、「デジタル立国ジャパン・フォーラム」での河野大臣とオードリー・タン氏の発言の違いについて解説する。

(この記事は、6月7日発売の『週刊プレイボーイ25号』に掲載されたものです)

  * * *

 菅 義偉(すが・よしひで)政権の成長戦略の最大の柱「デジタル化の加速」について、河野太郎行政改革担当大臣が興味深い発言をしている。5月21日の「デジタル立国ジャパン・フォーラム」(日経新聞・日経BP共催)でのことだ。

 河野大臣はスピーチで、デジタル化を通じて今後の日本が目指すべき姿を「ぬくもりを大切にする、人が人に寄り添う社会」と表現した。単純作業を人工知能やロボットに委ねることにより、子育てや介護、教育などに人的資源を投入することができ、その結果、「人が人に寄り添う社会」を実現できるという。

 この主張は共感できる。デジタル化は社会を豊かにするために行なうのであり、デジタル格差などにより、一部の人が貧しくなったり、不幸になったりするのでは意味がない。

 政界にはいまだスマホやパソコンを使えないダメな議員も多い。デジタル化への理解も希薄だ。そんな議員は即刻退場させて河野大臣のようにデジタル化の本当の意味を理解している世代に権力の移行を進めるべきだ。

 ただし、社会をデジタル化するには前提条件があり、日本はその点が著しく欠けていると言わざるをえない。それは、同じフォーラムで台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タン氏が言及した「政府に対する国民の信頼なしには、デジタル化はできない」という指摘である。

 デジタル化には政府などの公共機関と国民の協力が必要となる。例えば、マイナンバーを活用した行政手続きサービスのワンストップ化(窓口の一本化)にマイナンバーカードを使おうとしても、政府が個人情報を悪用して統制を強めるのではと心配する国民が多ければ、普及は進まない。だからこそ、政府は国民の信頼を得るために「あらゆる情報を公開して透明性を高める必要がある」(タン氏)のだ。

 タン氏は「台湾政府はその努力をしてきた」とも語った。

 翻って日本はどうだろうか? 国民の個人情報を集めることに政府は熱心だが、その一方で政府に都合の悪い情報は決して公表しない。モリカケ問題、自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)騒動、桜を見る会など、隠蔽、廃棄、改竄(かいざん)の例が溢(あふ)れている。これでは政府が必死にデジタル化の音頭を取っても国民は協力などしないだろう。政府への信頼なくしてデジタル化は成功しないのだ。

 河野大臣の説明にこの最も重要なポイントが入っていなかったのは、政府のデジタル化が失敗することを予感させるようで残念なことだ。

 政府に情報公開を促すにはどうすればよいのだろうか? 森友学園問題で公文書改竄を強いられたことを苦に自死した元近畿財務局職員・赤木俊夫さんが改竄の過程をまとめた文書などの資料「赤木ファイル」が、6月23日にようやく公開されることになった。

 長きにわたって財務省に提出を求めてきた妻・雅子さんは、私へのメールに「みなさんの力があったからこそ」、この公開に至ったとつづっていた。ここでいう"みなさんの力"とは、「世論」のことだ。

 この言葉は民主主義のシンプルな原則を思い出させてくれる。それは、情報公開を政府に促すには、有権者がプレッシャーをかけ続けるのが最も有効、ということだ。そして、その先にある"人が人に寄り添う"デジタル社会の実現も、やはり有権者次第なのである。

 

古賀茂明 (こが・しげあき) 
  1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中。
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 まず、エゴサーチ太郎には欠けているどころかもともと哲学がない、あるのは自分の周りをヨイショしてくれる人物だけで固める、他人の言う事は聞かずはねつける、悲しい事だ。

 


政局としての「党首討論」、東京五輪中止はあり得るか  (抄)

2021-06-12 | いろいろ


ジャーナリスト田中良紹氏のヤフーニュースのコラムより

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政局としての「党首討論」、東京五輪中止はあり得るか


 2年ぶりに開かれた「党首討論」は予想通り「討論」にならなかった。野党の党首が新型コロナウイルスの感染対策や東京五輪開催の是非について問い質したのに対し、菅総理は直接それに答えようとせず、曖昧な姿勢に終始した。

 それを見てフーテンは2つのことを思った。1つは日本に欧米型の民主主義は似つかわしくないのかという諦めに似た感情、もう1つはこの「党首討論」を政局がらみで見ればいくつかの注目すべき発言があったということである。

 そもそも「党首討論」は、国家の基本問題を巡り、与党と野党の党首が丁々発止の議論を行い、それを国民に見せ、政権交代させるかどうかを判断させる仕組みである。2000年に自由党の小沢一郎党首が、自民党との連立の条件として、小渕恵三総理に要求し実現させた。

 英国議会では毎週水曜日に30分間「プライム・ミニスター・クエスチョンタイム」が開催され、議員は誰でも首相と討論できるが、中でも野党党首との討論が最も注目される。それを日本でも真似て、政権交代可能な二大政党制に近づけようとしたのである。

 時間が30分と短いのは国民に見てもらうためで、その代わり毎週開かれ、その時々の課題が取り上げられる。ところが日本の国会では、予算委員会の最初の3日間、総理以下全大臣が出席して午前9時から午後5時まで長時間の「質疑」が行われ、NHKがそれを中継する。

 それが与野党の議員だけでなく国民にも浸透した結果、この国では「討論」でなく「質疑」が国会審議の本流と思われている。「質疑」とは政府・与党が出した法案の字句の意味を一つ一つ問い質すことである。それによって法案の意図を明らかにし、それが国民に不利益にならないかを確認する。

 国会では「質疑」が終わると次に「討論」を行い、それから「採決」に移るが、NHKの中継は「質疑」の部分だけで「討論」や「採決」は放送されない。それを放送しても意味がないからだ。

 日本には「党議拘束」があって、各党の議員は党の方針通りに採決に臨む。従って採決の結果は数の多い与党の考え通りになることが既に決まっている。そのため「討論」も「採決」も関心を持たれず、意味があるのは野党の「質疑」だけと考えられている。

 さらに「質疑」は「討論」ではないので、総理は反論することができない。従って野党は総理が答えられない質問や、答弁が問題視されるように誘導する質問を繰り返し、総理のイメージダウンを狙う。それに対抗するため総理は追及を逃れる技術を磨く。

 「あーうー」と言いながら言葉を探したのは大平総理である。「言語明瞭、意味不明」の答弁を得意としたのは竹下総理だ。しかし近年は答弁にならない話を延々繰り返して時間を稼ぐ手法が横行する。安倍前総理が得意としたが、菅総理も昔の東京五輪の思い出話で露骨に時間稼ぎをした。

 フーテンは英国議会でサッチャー首相と労働党のキノック党首との「クエスチョンタイム」を見たことがある。公立から私立に学校の選択肢を拡げさせようとする教育バウチャー制度を巡る議論だった。反対するキノックをサッチャーは「お前は社会主義者か!」と一刀両断に切り捨て、キノックも負けずに反論してなかなか激しい討論だった。

 しかし日本ではそうした討論にお目にかかれない。攻める野党と守りの総理という「質疑」の構図が党首討論にも及び、国家の基本を巡る丁々発止の議論にならない。本来の趣旨とはかけ離れてしまった「党首討論」だが、しかしこれを「政局」の視点で見るとまた別の興味が湧く。

 今回の「党首討論」で最も興味を持たれていたのは、このコロナ禍で菅総理が本気で東京五輪を開催するつもりなのか、それとも中止の可能性はあるのかという点、また解散・総選挙をどう考えているのかの2点だったと思う。

 フーテンの見方を先に言えば、菅総理にとって東京五輪は開催しても中止してもどちらでも構わない。感染が本当に収束に向かい国民が不安に思わない状況になれば東京五輪を開催する。しかし多くの国民が「無理だ」と思う状況なら「スパッ」と中止にする。そのタイミングは6月末だ。それまでは一生懸命に開催への努力を続ける。

 多くの国民が「無理だ」と思う状況で「スパッ」と中止にすれば、菅内閣の支持率は回復する。一方でワクチン効果のおかげで国民の不安が消え、誰もが「無理」だと思わない状況になれば開催に踏み切る。開催されれば国民は盛り上がり、菅内閣の支持率は回復する。

 国民の多くが「無理だ」と思う状況で中止するのは責められる話ではない。「お前の失政で感染が押さえられなかった。だから東京五輪も中止になった」と批判できる人間がどこにいるだろうか。一生懸命やったがコロナに勝てなかったというだけの話だ。

 責められるとすれば「1年延期」で開催できると判断した安倍前総理であり、それに同調した小池東京都知事であり、バッハIOC(国際五輪委員会)会長である。この人たちにはなぜ「1年延期」で開催できると判断したかを問いたい。ワクチンがそれまでに世界中に行き渡ると本気で思っていたのかということだ。

 そいう目で「党首討論」を見ると、なかなか興味深かった。菅総理はとにかく6月末までは一生懸命開催への努力を続けなければならないから、野党党首からみれば開催に突き進んでいるように見える。

 従って野党は「国民の命をさらしてまで、五輪を開催しなければならない理由は何か」と質問する。すると菅総理は理由を言わない。言わないのは理由などないからだ。ただ安倍前総理が決めた「1年延期」の方針に、東京都もIOCも同調してしまったため、総理としてはやる姿勢を見せるしかない。

 しかしその後に菅総理は「国民の命と安全を守るのは私の責務、守れなくなったらやらないのは当然」と中止の可能性に言及した。ところが面白いもので、野党は誰もそれを信じない。メディアも誰も中止になるとは思わず、この言葉を軽く見る。

 菅総理は「開催を契機として国内感染が拡がる事態は招かないということか」と野党に問われても、「感染対策、水際対策を徹底して、安全安心の大会にしたい」とお経のような決まり文句を繰り返す。

 そしてフーテンが「おや」と思ったのは、菅総理がワクチン接種について「10月から11月にかけて必要な国民、希望する方すべてを終えたい」と表明したことだ。これがこの「党首討論」で菅総理が最も言いたかったことではないかと思った。

 ・・・・・。

 


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「コロナで亡くなった人に、世界一手厚い弔いを」

2021-06-11 | いろいろ


より

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「コロナで亡くなった人に、世界一手厚い弔いを」
  開高賞作家・佐々涼子ノンフィクション、ある遺体安置所の物語  

 


医療現場が逼迫した昨年春、コロナで亡くなった人の遺体は行き場を失い、東京都は「葬儀崩壊」の危機に直面していた。それを回避するため、コロナ患者の遺体を安置する施設として都の委託を受けたのが葛飾区の「想送庵カノン(そうそうあんカノン)」だった。リスクも伴うなかで職員たちはどのように死者を弔(とむら)ったのか――。

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■医療器具が残ったままの若い女性の遺体

新型コロナウイルス感染症で亡くなった人の遺体を安置する場として、東京都から委託を受けていた施設がある。葛飾区の想送庵カノンだ。2020年5月から7月の2ヵ月間のことだ。

ここは遺体を最大20体まで収容できる遺体安置施設である。こう書くと、テレビドラマに出てくるような、暗く冷たい「モルグ」を想像するかもしれないが、そんなイメージとは大きく異なっている。

館内には大小の洋室、和室が14室あり、葬儀や火葬までの間、遺族は遺体に24時間付き添える。部屋の色調は白、ブラウン、ピンクなど多様だ。祭壇のあるホテルといった雰囲気で、故人と過ごす最後の家族旅行の場と表現するとしっくりくる。

「たとえ大きな悲しみのなかにあっても思い出を語るときには笑いがこぼれたり、ご家族同士でおしゃべりが止まらなかったり。時間と共にご家族の表情はさまざまに変化していく。いろいろなドラマがあるんですよ」

そう語るのは、カノンを立ち上げた三村麻子さん(57歳)。ここから故人を葬儀場へ送り出したり、そのまま施設内で葬儀を行なったり、火葬場へ送り出したりと、その使われ方も多様。「新しい形態のサービスなので、説明するのが難しいんですよ」とほほえむ。

 

 

近年、高齢化により死者が増加する一方で火葬場の建設は追いつかず、遺体安置所も不足している。2019年1月に開設され、貸し葬儀場と遺体安置所を兼ね備えたカノンは、葬儀業界で注目を集めた。看護学校の空き校舎をリノベーションした施設は大きく、大規模災害時の一時遺体安置所としても葛飾区と協定を結んでいる。

そして開設後1年で新型コロナのパンデミックが起きた。流行当初、東京都内の病院で亡くなったコロナ患者の遺体は、院内の霊安室に安置できず、病室や感染症病棟の一角に置かれた。

遺体を受け入れられる火葬場は限られ、対応できるところでも一日5体ほどが限界だった。そのため、長いときには1週間以上の「火葬待機」が発生。3月はまだ寒かったが4月になると気温が上がり遺体は傷み、腐敗臭も強くなった。遺体安置という面でも、医療現場は疲弊していたのだ。

「病院側からなんとかしてほしいと都に訴えかけがあり、都も海外のように多数の死者が出る可能性を考慮して安置所を探していました。当初、都からお話があったときは悩みましたが、都の担当部長が『コロナの治療にあたっている病院の負担を軽減したい。東京都は、世界に類を見ない手厚さでご遺体を安置したい』とおっしゃる。それなら、とお引き受けしました」

都は「都内の病院の共有霊安室」という扱いでカノンを借り上げた。預かった遺体の60%はその後のPCR検査で陰性と判明している。だが、運び込まれた段階ではそこまではわからない。リスクを伴うなかで、カノンの職員たちは手厚い安置のために心を砕いた。

「コロナで亡くなった遺体は粗末に扱われるのではないかと、ご家族は皆さま心配していらっしゃいました。ですから私たちは制約の中、世界一手厚い弔いをしようと心を込めました」

ある高齢者は介護施設のショートステイでコロナによる肺炎を発症。面会制限で家族にも会えぬまま病院で亡くなった。棺(ひつぎ)の中の遺体と会うことも叶(かな)わず、花を手向けることもできない。遺族の悲しみはいかばかりか。

そこで職員たちは遺族の求めに応じ、棺の上にバラを一輪一輪、手向けていった。カメラを回し、40分延々と花を供える姿を映し続ける。やがて棺は花に埋まった。遺族は安堵し、その動画を何度も見返したという。

ある若い女性は肺炎で緊急入院した後亡くなり、カノンに運ばれてきた。透明の納体袋に入れられた遺体は服を着ておらず、救命措置のためなのだろう、呼吸器を留めるためのホチキス状の医療用クリップがついたままだった。なんとかしてこれを外してさしあげたい――三村さんは強く思った。彼女もまた最愛の娘を若くして亡くしている。

「若い女性の体に器具が残っている。どんなに苦しかったろう......。母親は子供の痛みを、自分の痛み以上に感じます。陰性が判明すれば、彼女はご両親の元へお帰りになられる。この姿のままでは酷だと思いました」

だが、都との取り決めでコロナの疑いがある遺体は納体袋から出せないとされていた。そんなとき、袋に傷があるのが目に入った。取り決めの条項には「納体袋が破損している場合は袋を交換する」とある。袋を再度破損させないため、器具の撤去をさせてほしいと都に申し出ると、遺体の処置を許された。

職員たちは防護服とN95マスクを着け、遺体を袋から出すと丁寧に器具を外し、清潔なワンピースを着せて新しい納体袋に入れた。その後、陰性が判明。女性は父母の元へ美しい姿で戻っていった。

ほかにも、コロナで亡くなった人を弔うため、さまざまに心を砕いた。故人と会うことさえ叶わなかった家族のために、火葬場へ向かう霊柩車(れいきゅうしゃ)は遠回りをして家の前を通り、家族は別れを告げた。

 


■語らうことで、死が「腑に落ちる」

それから約1年。いまだにコロナは終息の兆しを見せない。病院や介護施設では厳しい面会制限が続いており、終末期でも限られた人しか会えなくなった。葬儀も参列者同士の感染リスクから全国的に縮小傾向にある。

だが一方で、こんなときだからこそじっくりと故人に向き合って送り出したいと望む声も多くなっている。カノンの利用者数は、前年の約2倍に増えているという。

「ご遺族には、ご遺体と一緒に過ごす『弔いの時間』が何より大切です。でも、ご自宅に安置できない場合、ご遺体と過ごせるのは通夜や葬儀の間のわずか3時間ほど。大切な人の死を受け入れ、きちんとお別れするためには時間が必要なんです」

特に都市部では住宅事情などから、遺体を家に連れ帰れないケースが多い。すると遺族は葬儀の間の数時間しか故人と過ごすことができず、死を受け入れ損ねてしまうというのである。死と向かい合い、納得するためには、時間をかけて故人のそばにいることが必要なのだ。

ある日、カノンの一室で、高齢女性の遺体に娘がひとり寄り添っていた。部屋では折り紙をしたり、本を読んだりして時を過ごしていたという。彼女は三村さんにこんな話をした。

「認知症になってから母は違う人になってしまいました。でも、懐かしいワンピースを着た母とこうやって過ごしていると、私の知っている母が戻ってきてくれた気がします」

カノンには、自死や事故の遺体も多くやって来る。行政書士で葬祭カウンセラーの勝 桂子(すぐれ・けいこ)さんは昨年12月、21歳の長女を自死で失っている。

彼女は幼い頃から「死にたい」という衝動に苦しんでいた。定時制高校に6年間在籍し、今春卒業の予定だった。

「離れて暮らしていたんですが、前の晩、帰ってきたときに進路のことで強く言ってしまいました。次女や友人に遺言めいたLINEが届き、ひょっとしたら今度は本当にやってしまうかもしれないと思いました」

娘は外出中に自ら命を絶った。日付の変わる頃、警察からの電話で勝さんは娘の死を知った。そのとき警察は、「明日、検視官が来たら連絡するので、葬儀社を連れてきてください。そのとき、棺も持ってきてもらってください」と告げた。勝さんは、「自分は仕事柄、懇意にしている三村さんに頼ることができるが、一般の人はどう対応するんだろう」と驚いたという。

三村さんたちはすぐに遺体を引き取りに来てくれた。勝さんは悩んだ末、フェイスブックで娘の死を周囲に知らせた。

「葬祭カウンセラーとして、娘と親交のあった皆さんひとりひとりに、彼女が死を選んだ理由をちゃんと感じ取り、納得してほしい。自殺は人に言えないことだという世間の考えを払拭(ふっしょく)したいと思いました」

最初は娘の友人を数人呼んで自宅で葬儀をしようかと考えた。だが、当時娘と同居していた友人が方々に連絡を取ってくれたことで参列者が増えると考え、カノンのふたつの部屋を借りることにした。一室に遺体を安置、もう一室は「思い出部屋」として娘の愛用品などを飾った。

「若い子が自死すれば、皆さん『どうして?』と思いますよね。娘と同居していた友達が、娘の気持ちを代弁するように皆さんに話をしてくれた。2時間も一緒に過ごすと、皆さん、腑(ふ)に落ちた顔に変わるんです。高校の先生方は、文化祭でコスプレしたり合唱部で歌ったりする娘の元気な姿を見ていたので、驚かれていました。でも、娘の同級生たちとカノンのソファでじっくりと語らううちに納得できたようでした」

友人たちは、娘の写真や洋服などを「思い出部屋」に持ち込み、故人の好きな世界を表現するようにディスプレイした。「まるで文化祭ですよね」と勝さん。

「普通のお葬式では誰かと話をしたくても、ご焼香を上げて香典返しをもらって、流れ作業のように帰らされる。でも本当は、語らう時間こそが大事なんです」

4日間にわたり、さまざまな人がこの場に集まり、勝さんは自分が知らない娘の横顔に触れることになった。

「自分とは別の角度から見ている人の話を聞いて、ようやくその人の全体がわかることもある。そこで死が腑に落ちたり、納得できたりするのだと思います。娘は心を病んでから薬漬けで、長い間本当の娘ではなかった。でも棺の中から聞こえてくる娘の声は、元気だった頃の幼い娘の声でした。棺の中にはもう苦しみはなかったんです」

 


■「娘の体があるうちは離れられなかった」

現在、"時短葬儀"といえるような、手順を省いた弔いが増えている。その風潮を三村さんは憂う。

「死を受け入れる過程を登山にたとえるなら、時短葬儀は3000m級の山をダッシュで駆け上がるようなものです」

「グリーフ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。「悲嘆」と訳され、死別に伴い身体、精神に起こる状態変化を指す。ショック期、喪失期、閉じこもり期、再生期のプロセスを経て、人は時間をかけて悲しみを乗り越えていく。だが、時短葬儀を選んだことを後悔し、「病的グリーフ」に陥り、専門家によるケアが必要になる人も少なくない、と三村さんは言う。

「死を納得できるまで落としこんでいない。腑に落ちていないんです」

三村さんは葬祭の司会業からこの世界に入った。カノン設立前は、実家の一階に小さな貸し葬儀場を作り、葬送のトータルアドバイザーとして活動。その傍(かたわ)ら、自身が理想とする施設の設立に向けて物件を探していた。

彼女の娘、香夏子(かなこ)さんが亡くなったのはその最中、2016年11月のことだった。香夏子さんは13歳のときに卵巣がんを発症。珍しいがんで、切除する以外治療法がなかった。

臨床心理士になる夢を抱いていたが、4回の開腹手術と抗がん剤治療を繰り返し、2年3ヵ月の闘病の末、命を閉じた。医療器具がついたままの若い女性の遺体を見て、いたたまれない気持ちになったのは、手術で傷だらけの娘の姿と重なったからだ。

香夏子さんが亡くなる1ヵ月前には父親を失っている。

「父の葬儀のとき、香夏子は終末期に入っていて具合が悪くて。それでも火葬場についていくと言いました。凜(りん)とした強い娘でした。その1ヵ月後には娘も同じ火葬場で荼毘(だび)に付すことになりました」

実家で営む葬儀場に遺体は安置された。

「闘病生活ではずっと一緒でした。だから死んでしまっても、娘の体があるうちはひとときも離れられなかった。大理石の冷たい床に寝袋を敷いて、せめて棺の端でもいいからと、触りながら寝たんです」

それまで、故人と一緒に過ごしたいという遺族の依頼を、三村さんは管理上の理由で断り続けてきた。

「こんな気持ちだったのか、最愛の人のそばにいたいと思うのは当たり前のことなのに、本当に申し訳なかったと後悔しました」

娘の葬儀の後、三村さんは「燃え殻になってしまった」という。そこに知人から元看護学校の校舎を紹介される。香夏子さんの誕生日の前日だった。

「ここを見たとき、強い運命を感じました。自分はここで新たな事業を立ち上げるのだろうと」

カノン(香音)という名には、いくつかの由来がある。ひとつは観音菩薩から。ひとつは「亡き人に香りと音は届く」という信念から。そして香夏子さんの名前から。「香夏子さんの足音」という意味だ。

 

 


家族の形態が変わり、葬儀の形も変化している。しかし弔いの本質はこれからも変わらないだろうと三村さんは語る。

「偲(しの)ぶ時間を持つことなく骨になったら、あまりにあっけないではありませんか。弔いは残された人々が命に向き合い、悲しみを抱きながらも自分の人生を歩むためのスタート地点。愛と感謝を込めて手厚く供養することで、故人の生きざまをお手本に明日からもっと頑張ろうと感じることができる。それが本来の弔いの形なのだと思います」

 

●ノンフィクション作家 佐々涼子(ささ・りょうこ) 
  1968年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学法学部卒業。2012年、『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社)で開高健ノンフィクション賞を受賞。昨年上梓した『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル)は本屋大賞2020年ノンフィクション本大賞を受賞。
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ナニワの名物社長が斬る「維新のやり方はトランプと同じ」

2021-06-11 | いろいろ


より

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ナニワの名物社長が斬る「維新のやり方はトランプと同じ」  


テレビ番組で橋下徹元大阪市長をコテンパンにいわし、ネット上で「橋下を論破」と話題になった。大阪府は効果的な対策を打ち出せず、死者数は累計2000人を超えて全国最多。ナニワの名物社長が吉村洋文府知事、松井一郎大阪市長、維新の会をぶった斬った。  


■「吉村クン、政治は説得力やで」

 ――観光業にとって厳しい状況が続いています。

 昨年1月27日ごろからキャンセルが相次いだ。これは給料払われへんようになるわと思い、バス10台のうち3台売った。あとから気付いとったら、金に換えられへんとこやった。さっさと現金を持っとかなアカンかったから、それで何とか回った。


 ――現在はどんな対策を。

 対策もクソもあらへん。今は借金を食い荒らしとる。信用保証協会の助けで運良く借りられたけど、そんなん持つわけない。持っているもんをみな、売っていかなしゃあない。借金して給料払っている状態や。


 ――大阪府の新規感染者は一時期、全国最多となった。

 吉村クンは2025年大阪・関西万博のジャンパーをずっと着てることを批判されても、やめようとせえへん。予算をしっかり取ってる4年も先の万博をちゃっかりPRしながら、おばあちゃんに「急げへん手術は待ってください」言うとるわけや。説得力がなさ過ぎる。政治は説得力やで。本来なら万博の予算を医療に回すべきや。


 ――吉村知事と松井市長が防護服代わりに集めた雨ガッパが大量に余った。

 雨ガッパもイソジンも「間違えました」でええやん。いくら言うても間違いを間違いと認めへんから、間違いが改まれへん。2万人近い患者が入院できずに自宅かホテルにおったわけやろ。薬ももらわれへん、医者にも診てもらわれへん。飲食店の「見回り隊」より、そっちが先ちゃうん。これって政治じゃないよな。


 ――吉村知事はテレビを通じて府民に呼び掛ける。

 いつ仕事してるんか分からんぐらい、出てはるな。彼の場合、テレビに出て、はしごするというやり方やろ。感染対策とテレビ出演はまったく関係ない。ほんで平気で私権の制限とか言うわけや。でも検査は積極的にやらない。すべてが自分たちの意見を通すためにやから、考える能力がなくなっている。自分がその考えに凝り固まってもうて、人の意見を認めることがでけへん。


 ――吉村知事をヨイショする在阪テレビ局にも問題がある。

 テレビは酷い。本当に酷い。吉村クンは番組で吉本興業のお笑い芸人から持ち上げられとるけど、公共の電波使ってやることか。お友達資本主義の象徴や。吉本は府から広報の仕事いくらもらっとんねん、ちゅう話や。吉本にとってお得意先が大阪府や。府と吉本とテレビ局が、自分らの利益に向かい過ぎとる。


 ――なぜ、維新の議員が支持を集めるのか。

 ポピュリズムやろうな。メディアの影響が大き過ぎるよね。そろそろ、吉村クンと松井クンがやってることはおかしいと気付いてもらわんと。8月ぐらいになったら接種したい人が減って「ワクチン打ってください」ってお願いせなアカンのに、その体制できてんの? 1万人や2万人を毎日入れるわけやろ。大規模接種会場を、いくつつくんの? それに対して何の対策も練れへん。何も言えへん。先を見る目もないねん。

 

有権者の3分の2は切り捨て  

 ――維新のやり方をどう捉えていますか?

 彼らの政治いうのは悪者をつくる。「公務員は給料もらい過ぎ」と。あおる政治で公務員の給料下げる。何でも民営化がええって、何がええんや。郵便局なんて親方日の丸の時は一生懸命、「おばあちゃんのために」言うてたわけや。それが民間企業になった途端、「売り上げのためや」言うて、おばあちゃんをダマしに行く。アフラックの下請けになり、「かんぽは売ったらアカン」って、そんなバカなことあるか。なんでアフラックを売らなアカンねん。


 ――維新が一丁目一番地に掲げる「大阪都構想」は市民に住民投票で2回も否決されました。

 ハッキリしたのは生活保護やとか、役所の職員を悪者にして、必ず選挙に行く3分の1の有権者を固めると、66%が投票すれば約過半数になる。これはもうトランプと同じやり方や。政治するには、ものすごく楽やんか。あとの3分の2は切り捨てていいんやもん。


 ――吉村知事は「コロナで収入が減らない生活保護受給者や年金生活者には、お金を配るべきじゃない」と発言しました。

 ボクかて今、病気で商売できんようになったら、間違いなく生活保護やで。借金いっぱいしてんねんから財産もみな、取られる。でも今まで、どんだけ税金はろうてきたと思てんねん。10万円ぐらいいいんちゃうか。それがセーフティーネットの考え方やろ。「配るべきじゃない」って、誰の金や。人の金やないか。


 ――「身を切る改革」とか言って保健所や保健師を減らした結果、現場が大混乱に陥った。

 減ってもうたもんはしゃあない。「次、どうするの」がないからイラ立つ。保健所閉めました、すんません。その代わり、大規模接種はこうします。見回り隊を自宅待機の人の面倒に回します。悪いけどオリンピックに協力できません。東京に集まる医療従事者を300人回してくださいって。吉村クンも国に要望することぐらいはできるやろ。


■市民にお金つこうて何がアカンの?


 ――橋下元市長との議論が話題になりました。

 彼らが目指している大阪のあるべき姿っていうのは上空をオスプレイが飛び、大阪湾にトリチウムをブチまけ、飛田新地に米兵を呼んできて「ここで頑張りなさい」って言うわけやろ。こんなアホなことを平気で言う。マトモじゃないわ。議論する余地がない。彼は「中国のように一斉に人権を剥奪して検査することが……」とか「この国にそんな法律ないんですよ」と言うわけや。論点のスリ替えというか、不都合な真実を隠すわけや。それでいて聞かれたくないことはベラベラしゃべってゴマカす。


 ――吉村知事や松井市長も同じ?

 一番酷かったんは会食を勧めた張本人が市役所や府庁やったいうこと。「マスク会食しろ」「経済を回せ」と言うておきながら、4人のところに1人合流したから不正扱い。「自分ら役所なのに飲み食いしてまんねん。こいつらが悪いんや」って、感染を抑えられない自分らの失態を職員のせいにする。今までやったら論点のスリ替えやったけど、今回は完全にワナにハメとる。「夜9時まで」言うて10分でも過ぎたら、「市では全部カウントして1164件ありました」とやってまうわけや。「こいつら、けしからん。謝ります」って。いやいや自分のこと謝れ、いうねん。


 ――1年前、吉村知事が次の総理ともてはやされました。

 オレは言うてないけどな。アホちゃうか(笑い)。メディアが持ち上げるからやんか。「大阪モデル」やって、モデルがコロコロ変わんねん。もう通天閣がレインボーになってんのか、何色になってんのか分からへんで。いつやったか、黄信号から赤信号に変わるまで4日いうことがあった。黄色、危な過ぎんで。おばちゃんが「1個目点滅したら、すぐ赤になるようなもんやな」と言うとった。それを見ても何一つしてへん。彼らはすぐ「権限がない」て言うんやが、府立病院は何立病院やねん。誰が責任者やねん。知事やんけ。「給料上げたれ」って言やぁいいのに、それもせえへん。赤字の象徴や言うて、施設を閉めまくんねんな。病院が赤字って、ええんちゃうの? 市民にお金つこうて何がアカンの?


 ――政治家は結果を真摯に受け止めるべきだと。

 万博を取りやめ、インテックス大阪(国際展示場)を病院にして、「老朽化したインテックスは万博予定地に移します」でよかったんや。それが分かれへんねんな。何もせんと「やってる感」だけでは、こうなりますよ、いうこと。誰にも頼まれていない政治をやってんのが、今の大阪であり、安倍政権であり、菅政権。頼んでないことを頼まれたかのようにしてんねん。オリンピックやって世界中から変異ウイルスを集めてきて、日本経由で世界中にバラまくつもりか。

(聞き手=滝口豊/日刊ゲンダイ)


坂本篤紀(さかもと・あつのり)
  1965年大阪府生まれ。府立阿倍野高中退後、大検合格。理学療法士の資格を取得し、義手や義足を製造する会社に入社する。89年、父親が勤務する日本城タクシーに転職。2013年、社長に就任した。従業員221人、バス事業、タクシー事業、観光事業、酒造業を展開。
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「五輪政局」二階・菅氏vs.安倍氏の暗闘 中止なら追い込まれるのは?

2021-06-10 | いろいろ


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「五輪政局」二階・菅氏vs.安倍氏の暗闘 中止なら追い込まれるのは?  

 東京五輪・パラリンピックの行方は、政界にも影を投げかけている。

 最初に「五輪政局」の口火を切ったのは、二階俊博自民党幹事長だ。

 二階氏は4月、新型コロナウイルスの感染状況次第で大会は「スパッとやめなきゃいけない」と発言。その言葉はニュースとなり、またたく間に世界に広まった。

 これを失言と捉える人もいるが、そう単純な話ではない。なぜなら、コロナ下での大会開催は安倍晋三前首相が主導したからだ。大会組織委員会の幹部は言う。

 「もともと森(喜朗・元首相)さんは、昨年3月に安倍さんに大会の2年延期を進言していた。コロナは1年では収まらないとわかっていたから。それを安倍さんが『1年でワクチンはできる』と言って、1年延期で押し切ったんです」

 政治ジャーナリストの田中良紹氏は言う。

 「二階氏は、大会開催をめぐる今の混乱は安倍氏に責任があると考えているでしょう。おそらく、関係者のほとんどもそう思っている。今、メディアでは菅首相ばかりが批判されていますが、中止になって政治的に最も追い詰められるのは安倍氏です」

 そのなかで最近の安倍前首相は、党内での政治活動を活発化させている。先月21日には自民党の半導体戦略推進議員連盟に参加し、麻生太郎財務相とともに最高顧問に就任した。議連の会長は、安倍前首相に近い甘利明税制調査会長だ。自民党内からは「次の人事を見越した政局だ」と見られている。

 この動きに二階氏も黙っていない。今月1日には、自民党内で相次ぐ「政治とカネ」の問題について聞かれると「ずいぶんきれいになってきている」と発言し、物議をかもした。ここにも安倍前首相の影がちらつく。前出の田中氏は言う。

 「『きれいになった』とは、いつの時代に比べてのことなのか。それは、森友問題や桜を見る会などで批判を浴びた安倍政権が終わったから『きれいになった』と言ったのかもしれない。二階氏の発言は、安倍氏を意識した発言が多い」


 政局の空気が与党内で広がるなか、次の展開はどうなるのか。まずは、今月下旬とも言われる五輪開催の最終決断がカギを握る。自民党関係者は言う。

 「菅首相は追い込まれているように見えて、実は『五輪中止』という切り札がある。一方で、もし強行開催して感染者が急増すれば政権は崩壊する。それを狙ってか、党内には五輪を開催させたい勢力もある」

 「ポスト菅」には、岸田文雄前政調会長や下村博文政調会長、あるいは河野太郎ワクチン担当相らの名前があがる。だが、「次の総裁候補と思っている人は少ない」(前出の自民党関係者)。

 次の一手は誰が打つのか。いずれにしろ、そこに五輪が絡んでくるのは避けられそうにない。


(本誌・西岡千史)

※週刊朝日  2021年6月18日号 
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山口香JOC理事「今回の五輪は危険でアンフェア(不公平)なものになる」

2021-06-09 | いろいろ


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山口香JOC理事「今回の五輪は危険でアンフェア(不公平)なものになる」

西村カリン(仏リベラシオン紙東京特派員)

 


<JOC(日本オリンピック委員会)理事だが、東京五輪の開催を危惧する山口香氏。なぜ政府は国民の不安や反対に応えないのか。今回の五輪、そして今後の五輪にどのような懸念があるか。単独取材に答えた>

東京五輪の開会式(7月23日)まで50日を切ったが、新型コロナウイルスの感染が収まらない中での大会開催には、多くの国民が不安や反対の声を上げている。

しかし日本政府や東京五輪・パラリンピック大会組織委員会はひたすら「安心・安全」を繰り返すばかりで、人々の疑問に答えているとはいいにくい。

そんな状況を危惧する1人が、柔道の五輪メダリストで現在は筑波大学教授を務める山口香JOC(日本オリンピック委員会)理事だ。

「五輪は開催されると思うが、今回の五輪は『安全ではなく危険です』から入ったほうがいいと思う」と話す山口氏に、仏リベラシオン紙東京特派員の西村カリンが話を聞いた(*回答はJOC理事ではなく、個人としての意見)。


――東京五輪をめぐる今の混乱状況は、「ノーと言えない日本」と「上から目線のIOC(国際オリンピック委員会)」の関係の悪循環の結果ではないか。

ノーと言えない、というのもあるが、日本人は何かを頼まれたときに、できないと分かっていても「善処します」「頑張ってみます」と曖昧な答えをする。

日本側が「なんとか頑張ります」と言えば、IOC側は「できる」と捉える。だからIOCとしては「組織委員会や日本政府が大丈夫だと言っているのに、なぜ国民は怒っているのか?」と不思議に思っているのではないか。

IOCには欧米の方が多いので、日本の感染者数を見て、状況はコントロールされていると感じていると思う。

実際には、コロナ患者を受け入れられる病院は少ないし、若い人でも入院できず自宅で亡くなるケースが少なからずある状況だ。「また感染が拡大したら医療現場は大変なことになる」と日本人は心配しているが、たぶん、そのことを日本側がIOCにうまく伝えていないんだと思う。


――IOCはどのようにして情報収集しているのか?

私にはその点は分からない。ただおそらく、「オリンピックはどの国でやっても反対はある。リオデジャネイロでもソチでもデモはあった。いつでもあるんだ」というのがIOCの考え方。

今回も、「日本で反対の声があるというが、オリンピックとはそういうものだ」「組織委員会や政府の人たちが大丈夫だと言っているのに、なぜ私たちがこれ以上心配しなくてはならないのか?」という気持ちだと思う。問題なのは、五輪組織委員会、JOC、国と、国民との間で議論が全くできていないところだ。

政府や組織委員会、JOCからはこれまで一度も、もしかしたらできないかもしれない、という話が出たことがない。

それは、パリ行きの飛行機がいったん飛んだらパリに着陸することだけを考えろというようなもので、途中で何かあっても、違うところに降りたり引き返したりすることはないというマインドなんですよ。

飛行機は、天候が悪くても飛ぶことはある。でもそのときは必ず、状況によって引き返すこともありますとアナウンスされる。途中で何かあっても、引き返さないで突っ込みますと言われたら、普通はみんな搭乗しない。

「五輪を開催しない」という選択肢を持たずに政府が飛んでいることに、国民はすごく不安を感じていると思う。

 

「来日しても練習相手がいない。ものすごいハンデです」 


――IOCは来日する関係者や選手の感染防止には力を入れている。一方で、日本国内の関係者のことはあまり気にしていないようだ。例えばボランティアにPCR検査はするのかと政府に聞くと、選手と接触する人だけ、という回答が来る。

五輪に参加する選手の80%がワクチンを接種してくるので大丈夫、と言われている。でも、例えばワクチンを打った選手が目印にワッペンを付けてくれれば分かるが、実際には分からないし、聞くわけにもいかない。

(未接種者)20%というのは少なくない数字で、関係者や記者の接種率はさらに低くなると思う。となると、やはり危険はある。

五輪はきっと開催されると思う。でも開催にあたっては、「今回のオリンピッは安全じゃなくて、危険です」から入ったほうがいい。

危険だからこういう点に気を付けてください、安全を確認しながら少しずつ進んで今回は乗り切りましょう、と。

政府やJOCが「安心・安全」と言い続けられるのは、日本人がおとなしいからですよね。


――6月1日、オーストラリアの女子ソフトボール選手団が群馬県太田市に到着したところを取材する現場では、報道陣の中でのソーシャルディスタンス(対人距離)がゼロだった。五輪が本格的に始まり記者の数も増えたら、どうなるのかと心配になった。

きっと、そういった問題がいろんなところで出てくるんですよ。先ほど話した20%の未接種者との接触の問題もあるだろうし、記者たちのソーシャルディスタンスの管理という問題も出てくる。

太田市の取材では、記者たちをコントロールする人も、組織委員会の人もいなかったですよね? そういうことが、あちこちで起きると想像できる。

さらには、「アンフェア(不公平)」を感じる人も出てくる。コロナ感染の問題とは別に、選手たちが本当に力を発揮できる状況なのかが問われる。

オーストラリアの選手は早めに来日できたが、事前合宿をキャンセルされているチームもたくさんある。また、柔道ではスイスチームが筑波大学で事前合宿をすることになっているが、市や大学側は「来てください。しかし、学生と接触させられません」としている。つまり来日しても練習相手がいない。

しかも今回は、練習パートナーを日本に連れてくることができない。ものすごいハンデです。それは柔道だけでなく、いろんな種目で起きていること。

でも日本人選手は通常の練習や準備をしてから、本番を迎えられる。「ホスト国のアドバンテージ」となるかもしれないが、そういうアンフェアなことがあちこちに出てくる。

アンフェアだけでなく、危険なこともある。本番直前に来日して時差の調整や、日本の夏の暑さに体が順応できないとなったら、屋外競技の陸上などでは危険な事故にもつながりかねない。

そうしたさまざまなことをシミュレーションできているかといえば、今はコロナ対策だけで大変で、手が回っていない。

 


「なぜ私たちの税金が使われなくてはいけないのか、と人々は思う」   


――外国人選手の移動は原則、送迎バスで行い、外出は禁止。彼らのメンタルヘルスも心配だ。

科学的な見地に基づいて「ワクチン接種をしている人にはこのくらいの行動を認めます。未接種者には行動制限をかけます」といった事前の合意形成もなされていない。人権的な面からも本当にそれでいいのかなと思ってしまう。

食事もホテルで毎日出されるものだけ食べる。考えるだけで嫌になっちゃいますよね。

開催が迫ってきた今、すごく残念だと思うのは、もう議論する時間がないということ。昨年3月に延期が決まってから、この1年間のうちになぜ必要な議論をしなかったのか。

専門家の意見を聞いて議論をして、「こういう状況なら、こうやってできる。それなら安心だね」ということを私たちが分かっていれば、今のようにみんなが不安を感じながら「でも、きっとやるんだろうねぇ......」という感じにはならなかった。

それはオリンピックにとってもアスリートにとっても国民にとっても、不幸なことです。

日本人はオリンピックが嫌いなわけではない、私もアスリートで、オリンピックやアスリートを応援したいし楽しみたい、そして海外から来た人たちをおもてなししたい気持ちがある。それなのに、このなんとなく嫌な空気の中でみなさんに来て頂くことになる。

それは来日した人たちにも伝わると思う。日本の政府には、いかに今のやり方がオリンピックをダメにしているのか考えてもらいたい。


――学校の部活動は中止され、大勢の子供たちが行動を制限されているなかで、五輪のみ特別扱いされていると考える人もいる。今後、五輪や五輪選手に対する国民の視線が冷たくなる心配はないか。

安心・安全にオリンピックができるなら、それと同じように以前からできていたはず。例えば部活動も、オリンピックのように「こうやったら安全です」と言ってくれたらできただろう。

もっと言えば、お金をかければ何でもできます、ということ。選手のPCR検査をします、バスで送迎します――つまりそれは貴族のスポーツで、特別な人たちのものですよ。

オリンピックが、それでいいんですか? 今回はだまされたけど、次はだまされませんよ、特別な人たちのためになぜ私たちの税金が使われなくてはいけないのか、と人々は思うだろう。

五輪の経済効果がよく言われるが、IOCにとっての経済効果はあるかもしれないが、国や都市にとって長期的な効果は実証されていない。一時的なものであれば、花火大会をやったって経済効果はある。

それに今回、「平和の祭典」というのが建前だったと分かった。平和の構築には対話が必要なはずですから。


オリンピックはマイナースポーツのためにあると、私は思っている。正直に言えば、サッカー、テニス、ゴルフにオリンピックは必須ではない。テニスなら全仏オープンやウィンブルドンがあり、そこで優勝するほうがよっぽど価値があるし、サッカーだってワールドカップがある。

でも、馬術やウエイトリフティングなど普段はそれほど注目されないスポーツにとって、五輪は多くの人に見てもらい、全ての選手がスターになれる4年に一度のチャンスになる。それなのに、オリンピックなんてもういいよ、となったら? 多くのマイナースポーツが大きなダメージを受けると思う。

「あなたはアスリートでオリンピックにも出たのに、(開催に対して)ネガティブな意見をするってどういうことだ」と言われることがある。でも私は、何も言わない人のほうが無責任だと思う。

オリンピックは今回で終わりじゃない。未来につながっていく。子供たちの夢になっていく。

それにマイナースポーツは税金を入れてもらわないと、強化できないのが現実。柔道もそうだが、多くのスポーツは国民の応援があって、税金を使って強化を行っている。

だから今後も、国民に応援してもらうために、スポーツの世界にいる人々が国民と向き合ってオリンピックについて議論するべき。国民の不安や疑問を踏まえた上でオリンピックをどのように開催するかを考え、私たちから政府に言っていきましょう、というムーブメントを起こさなければならないと思う。

 

「『負けるから議論しない』では、やる前から負けている」  


――JOC関係者などから、発言について圧力をかけられるようなことはないか?

一般の人からメールで批判を受けたり、SNSで書かれたりすることはあるが、JOCの中で私に面と向かって意見する人はいない。

これは日本という国の縮図ですね。きっと議論したくないんですよ。

もしかしたら、(私の言うことに)賛同している人もいるのかもしれない。だから逆に議論したくないのかもしれない。国民と開催の是非について議論して、その先に中止の結論があったら困るから。

この思考がダメなんです。いろいろな分野で日本が世界の中で競っていくときに、「議論したら負けるから議論しない」では、結局、やる前から負けている。今が、そのことに気付くチャンスだと思う。

若い世代にそこに気付いてほしい。若い人たちがこの国を変えなきゃ。議論できる国にしなきゃ。スポーツの世界でも、若い人たちがもっと意見を言って、「こうやっていきましょう」というムーブメントが起きる未来に期待したい。

 

(※日本の常識は世界の非常識だった――。本誌6月15日号では、パンデミック五輪に猛進する日本の現状をリポート。デーブ・スペクター氏もインタビューで「オウンゴール」「日本の素晴らしい貢献」「テレビ局の五輪事情」を語った)


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的確な判断ができない為政者に権力を集中させることで起こる「コロナ対策禍」とは?

2021-06-09 | いろいろ


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的確な判断ができない為政者に権力を集中させることで起こる「コロナ対策禍」とは?  


新型コロナのパンデミックは「コロナ禍」という言葉を生み出し、多くの問題を日本社会にもたらしている。一方で、国や自治体によるコロナ対策それ自体が社会や経済にダメージをもたらす「コロナ対策禍」の影響も、深刻さを増しつつある。

なぜ日本の行政はコロナ禍のような災害対策で迷走してしまうのか? そのメカニズムを緻密に分析し、非常時の権力集中に警鐘を鳴らすのが、東京大学大学院教授・金井利之氏の新刊『コロナ対策禍の国と自治体』だ。

 * * *

――行政による新型コロナ対策そのものが「禍(わざわい)」になってしまう「コロナ対策禍」を、サイトカインストーム(免疫暴走)の行政版だと評していますね。

金井 本来は、ウイルスに対抗して健康を取り戻すためのはずの免疫機能が暴走して、逆に人の生命や健康を害してしまうことがあります。新型コロナに対する行政の対応も、それにたとえることができます。一種のパニック状態のなか、行政が良かれと思ってやった対策が、逆に悪影響を与える。

最も典型的なのは、経済との関係です。感染症対策で営業制限・外出自粛にしたら景気はあっという間に悪くなりました。昨年の4月から6月期の実質GDPは年率に換算すれば27.8%減で、これはもう人災としか言いようがありません。


――これだけ深刻な感染症の流行ですから、なんらかの対策は必要だと思いますが、行政の対応が迷走してしまっていると。

金井 これはコロナに限らず、日本の行政は先例のない対応が苦手です。最初のうちは「大丈夫じゃないか」という正常化バイアスと、後で責任を取りたくないという意識が働き、「後手後手」になることが多い。

実際、今回のコロナ禍でも、当初は「後手後手」だと批判されました。そうなると今度は慌てて逆ブレを起こし、よくわからないまま、「先手先手」でやろうとする。

そうやって、行政が迷走を繰り返す。「コロナ禍」→「コロナ対策」→「コロナ対策禍」→「コロナ対策禍・対策」→「コロナ対策禍対策・禍」という無限ループに陥り、社会全体が暗闇の中で右往左往し、疲れ果ててしまうという状態です。


――今まさに、緊急事態宣言の真っただ中という地域もありますが、本書ではそうした災害時に進む「権力の集中」に警鐘を鳴らしています。

金井 今回のような危機が訪れると「政府が強力なリーダーシップを発揮すべきだ」とか「対策がうまくいっていないのは政府に権力が足りないからだ」という意見が出てきがちです。しかし、率直に言って、それらは単なる「幻想」にすぎません。

本当に大事なのは「的確な判断ができるか否か」です。的確な判断ができるリーダーなら、権力など集中させなくても「なるほど」と、人は納得してついてきます。逆に「的確な判断ができない人が権力を握ること」ほど危険なことはありません。

ところが、1990年代から、内閣機能強化や官邸主導など、「権力を集中させれば問題は解決する」という幻想が日本を覆っています。今回のコロナ対策でも、政府にもっと強い権限を与えるべきだという話になる。

しかし、首尾一貫性も公平性もない思いつきの判断をする為政者に権力を集中させたら何が起きるのか? まさに典型的な「コロナ対策禍」が起きます。それを安易に許すことによる長期的な悪影響という意味でも、非常に危険な話だと思います。


――一連の緊急事態宣言や、いわゆる自粛要請では、こうした対策の「法的な根拠」についても議論を呼んでいますね。

金井 行政はよく、何かを「やらない」ことの責任を逃れるため「法的権限がない」という理由を使います。しかし、他方で「一生懸命やってます」と見せたがる。そのときには法的根拠など無視します。 

だから昨年、安倍前首相は法的な根拠がないのに学校を一斉休校にしたり、東京都の小池知事は「午後8時以降は看板、ネオンの消灯を」と言い出したりする。支離滅裂です。

そうやって「私は頑張ってます」と法的権限もなく思いつきで「やってるふり」を繰り返しておきながら、「法的権限がないので特措法を改正する」と、さらなる権力の集中を求めようとする。要するに、恣意(しい)的で説明のつかない権力発動なのです。


――そうした「権力の集中」が政府と自治体の関係も歪めていると指摘されています。ワクチン接種をめぐる混乱も、その一例でしょうか?

金井 これも災害対策全般に言えることですが、最も重要なのは現場での地道な対応です。それなのに、日本の対策では政権幹部への権限集中を渇望します。その結果「机上の空論」に基づく政策が政府から自治体に降りてくる。

自治体は無批判にそれに従います。首長も思いつきの指示を出します。結果的に現場は振り回される。これは3.11後の復興政策でも、幾度となく目にした景色です。

今、ワクチン接種をめぐって起きていることも、まさにこの構図でしょう。もっと早くから計画すべきだったのに、五輪が目前に迫ってから、官邸が「7月31日までに高齢者の接種を終わらせる」とぶち上げました。政権の判断が遅れたがゆえに、現場に拙速な対処を求めています。逆算すると、一日に100万回打たないと間に合わない計算になっています。

以前の自治体ならば、「もう少し時間をかけて進めたい」と言えたでしょう。厚生労働省の官僚も、「もっと早くから準備しましょう」と進言したでしょう。今はそんなことを言うと、自治体は冷遇され、官僚は飛ばされかねません。

一方で、政府への権力集中に反発して、小池都知事や大阪府の吉村知事など、自治体の首長の「強力なリーダーシップ」に過度な期待が集まりがちです。しかし、それはミニ官邸です。思いつき指示で、現場や事業者や住民を疲弊させています。

本当に必要なのは、為政者の「やったふり」をアピールするための「大言壮語」や「権限の集中」ではなく、現場の実情に即し、可能な範囲でやれることをやるということです。

世論やマスコミ、ネットの評判だけを求めて現場を混乱させるような政治家を求めないほうがよい。そうした政治家に住民が期待するから、結果として自分たちの首を絞めることは、この「コロナ対策禍」を見れば明らかなのですから。


金井利之(かない・としゆき)
  1967年生まれ。東京大学法学部卒業。同助手、東京都立大学法学部助教授を経て、現在、東京大学大学院法学政治学研究科教授。専門は自治体行政学。著書に『行政学講義』(ちくま新書)、『地方創生の正体』(共著、ちくま新書)など


『コロナ対策禍の国と自治体――災害行政の迷走と閉塞』
  (ちくま新書 1034円)
  国や自治体が良かれと思ってやったコロナ対策が、逆に混乱を招いてしまう「コロナ対策禍」。臨機応変な対応を得意としない日本の行政は、新型コロナのような危機に直面すると、その対応で迷走を繰り返し、権力を集中させることで問題を解決しようとする。しかし、それがかえって禍となる現状を分析し、あるべき災害行政の姿を検証する


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JOC経理部長の飛び込み自殺で囁かれる「五輪招致買収」との関係…

2021-06-08 | いろいろ


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JOC経理部長の飛び込み自殺で囁かれる「五輪招致買収」との関係…
  竹田恒和前会長、森喜朗前会長、菅首相も疑惑に関与  

 


 衝撃的な一報が飛び込んだ。本日9時20分ごろ、東京都品川区の都営浅草線中延駅で、日本オリンピック委員会(JOC)幹部である50代男性が電車に飛び込み、搬送先の病院で死亡が確認されたと報じられたからだ。電車の運転士は「男性がホームから線路に入ってきた」と話しており、警視庁は自殺とみているという。

 東京五輪の開催まで50日を切り、開催準備に追われる組織の幹部が電車に飛び込み──。それだけでもセンセーショナルだが、さらに衝撃だったのは、自殺したとみられるこの男性がJOCの経理部長だったということだ。

 詳しい経緯はわかっていないが、経理部長ということは、東京五輪に絡んだ金の流れを把握していると考えられる。そして、ここで思い起こさずにはいられないのは、JOCの竹田恒和・前会長による「招致買収」疑惑だろう。

 周知のように、東京五輪をめぐっては招致委員会が国際オリンピック委員会(IOC)の委員だったラミン・ディアク氏の息子であるパパマッサタ・ディアク氏が関係するシンガポールの会社「ブラック・タイディングズ社」(BT社)の口座に招致決定前後の2013年7月と10月の2回に分けて合計約2億3000万円を振り込んでいたことが判明したが、この不正疑惑についてのJOCの調査チームは2016年、「違法性はない」とする調査報告書を公表した。

 ところが、2019年1月にはフランス当局が招致の最高責任者だった竹田JOC会長を招致に絡む汚職にかかわった疑いがあるとして捜査を開始したことが明らかに。さらに2020年9月にはBT社の口座からパパマッサタ氏名義の口座や同氏の会社の口座に2013年8月〜14年1月までに約3700万円が送金されていたことが、国際調査報道ジャーナリスト連合などの取材によって判明した。

 パパマッサタ氏の父であるラミン・ディアク氏五輪開催地の決定においてアフリカ票の取りまとめに影響力を持つ有力委員だった。そんなラミン氏の息子・パパマッサタ氏が深くかかわると見られるBT社の口座に対し、東京への招致が決定した2013年9月7日のIOC総会の前後におこなわれていた招致委からの約2億3000万円もの送金と、招致委からの送金の直後におこなわれていたBT社からパパマッサタ氏への送金──。しかも、国際調査報道ジャーナリスト連合やフランス当局の捜査資料からは、パパマッサタ氏が〈BT社を自身の財布同様に使っていた様子が明らか〉(毎日新聞2020年9月21日付)だという。

 このように東京招致を目的とした贈収賄疑惑はさらに濃厚になっており、フランス当局による捜査はいまも継続中だ。当然、JOCに対しては「再調査をおこなうべき」という指摘がなされてきたが、そうした金の流れの“事実”を知っていたかもしれない人物が、このタイミングで自ら命を絶ったのである。

 しかも、この招致買収疑惑については、さらに深い闇がある。というのも、このディアク親子への賄賂に、なんと菅義偉首相がかかわっていたという疑惑まであるからだ。

 

セガサミー会長が暴露した菅首相からの「買収工作資金」依頼 3〜4億を森会長の財団に振り込み  

 この問題を伝えたのは、「週刊新潮」(新潮社)2020年2月20日号。記事によると、五輪の東京開催が決まった2013年秋ごろ、セガサミーホールディングスの里見治会長が東京・新橋の高級料亭で開いた会合で、テレビ局や広告代理店の幹部を前に「東京オリンピックは俺のおかげで獲れたんだ」と豪語し、こんな話をはじめたというのだ。

「菅義偉官房長官から話があって、『アフリカ人を買収しなくてはいけない。4億~5億円の工作資金が必要だ。何とか用意してくれないか。これだけのお金が用意できるのは会長しかいない』と頼まれた」

 このとき、里見会長は「そんな大きな額の裏金を作って渡せるようなご時世じゃないよ」と返したが、菅官房長官は「嘉納治五郎財団というのがある。そこに振り込んでくれれば会長にご迷惑はかからない。この財団はブラックボックスになっているから足はつきません。国税も絶対に大丈夫です」と発言。この「嘉納治五郎財団」とは、森喜朗・組織委前会長が代表理事・会長を務める組織だ。

 この菅官房長官からの言葉を受け、里見会長は「俺が3億〜4億、知り合いの社長が1億円用意して財団に入れた」とし、「菅長官は、『これでアフリカ票を持ってこられます』と喜んでいたよ」と言うのだ。

 なんとも衝撃的な証言だが、しかもこれは“酒席でのホラ話”ではなかった。というのも、「週刊新潮」の取材に対し、セガサミー広報部は「当社よりスポーツの発展、振興を目的に一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センターへの寄付実績がございます」と嘉納治五郎財団への寄付の事実を認め、さらに「週刊新潮」2020年3月5日号では嘉納治五郎財団の決算報告書を独自入手し、2012年から13年にかけて2億円も寄付金収入が増えていることを確認。関係者は「その2億円は里見会長が寄付したものでしょう」と語っている。

 もし、里見会長に買収のための資金提供を依頼していたのが事実ならば、菅首相は官房長官という国の中枢の要職に就きながら五輪の招致を金で買うというとんでもない悪事に手を染めていたという、まさしく世界を揺るがす一大スキャンダルである。

 

ロイターが森会長に疑惑をぶつけた直後、嘉納治五郎財団が活動を終了  

 しかも、この嘉納治五郎財団をめぐっては、さらなる疑惑がある。2020年3月、ロイター通信は組織委の理事である高橋治之・電通顧問が招致委から約8億9000万円相当の資金を受け取り、IOC委員らにロビー活動をおこなっていたと報じたが、その際、嘉納治五郎財団にも招致委から約1億4500万円が支払われていたと報道。つまり、この嘉納治五郎財団を介して買収工作がおこなわれた可能性があるのだ。ちなみに、菅首相は昨年12月15日、高橋理事と会食をおこなっている。

 嘉納治五郎財団をめぐる疑惑については、昨年11月にトーマス・バッハIOC会長の来日時におこなわれた記者会見で、ロイターの記者が直接、当時の森会長に「これは何のために使ったのか」とぶつけたのだが、森会長は「私は実際の経理や金の出し入れというのは直接担当しておらず、おっしゃったようなことがどこまでが正しいのか承知していない」などと返答していた。

 だが、この直後の昨年12月末、嘉納治五郎財団は活動を終了。ロイターの報道では、東京都の担当者も「(同財団の)活動が終了することについては説明を受けていないし、知らなかった」と答えているように密かに活動終了していたわけだが、これはロイター記者に直接追及され、疑惑の深堀りを恐れ慌てて畳んだのではないかと見られていた。

 このように、森前会長や竹田JOC前会長、招致委、電通、さらには菅首相の名が取り沙汰されてきた東京への五輪招致をめぐる買収疑惑。そして、東京五輪が開催され成功すれば無視されるであろうこうした疑惑も、中止となれば追及がおこなわれる可能性もある。

そうしたなかで、こうした一大疑惑を知り得る立場にあったかもしれない人物が自殺をしたのである。

 これまでも、政界をめぐるさまざまな疑獄が起きるたびに、秘書や金庫番と呼ばれる人物が自殺を遂げ、「とかげのしっぽ切り」と訝しむ声があがってきた。

 今回、自殺した経理部長がどこまで事実を知り得る立場にいたのかはわからないが、いずれにしても、招致買収疑惑を闇に葬ることは許されない。フランス当局だけに任せるのではなく、日本のマスコミが独自に徹底した追及をすべきだろう。


(編集部)
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富士山の噴火想定で神奈川にも溶岩流の可能性

2021-06-08 | いろいろ


より

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富士山の噴火想定で神奈川にも溶岩流の可能性
  3時間後に火山灰で「首都機能マヒ」の根拠  

 


 富士山噴火想定のハザードマップが、17年ぶりに改定された。噴火したらどうなるのか。あの巨大地震と「連動」する可能性も指摘される。地震と豪雨の「災害」を特集したAERA 2021年6月7日号から。

【富士山がもし噴火したら溶岩流はどこまで? 到達可能性の地図はこちら】


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 神奈川県山北(やまきた)町。総務防災課の担当者は、戸惑いを見せる。

「まさか、溶岩流は想定していませんでした……」

 今年3月、山梨、静岡、神奈川の3県などでつくる「富士山火山防災対策協議会」は、富士山の噴火を想定したハザードマップ(危険予測図)の17年ぶりの改定版を公表した。そこには、これまでの想定をはるかに超える可能性が指摘されていた。神奈川県内に溶岩流が到達する恐れがあるとあったのだ。

「溶岩流」は、火山の噴火によって地下の溶岩(マグマ)が斜面を流れる現象で、富士山噴火で予想される火山現象の一つ。土石流のように猛スピードでは襲ってこないが、温度1千度以上で全てを焼き尽くす。

 もともと富士山ハザードマップは2004年6月に国が策定したが、神奈川県内の被害は火山灰の降灰のみと想定されていた。今回、最新の科学的知見に基づき、噴火の調査対象を拡大し想定する火口の範囲も広げ、すべてのパターンでの到達範囲を地図に重ねるなどした。その結果、噴火が神奈川寄りの火口で起きると、県西部に溶岩流が到達する恐れがあるとしたのだ。

 

「マグマだまり」がパンパン

 溶岩流が最も早く到達するとされたのが山北町で、発生から33時間後。その後さらに、南足柄市(80時間後)、開成町(128時間後)、松田町(148時間後)、相模原市緑区(227時間後)、小田原市(413時間後)、大井町(740時間後)……と、この7市町に溶岩流が到達する。はじめて溶岩流に襲われる可能性を突きつけられた、先の山北町の担当者が言う。

「避難は広域となる可能性があり、防災計画や避難計画の策定を考えないといけない」

 日本一の山、富士山。

 日本を代表する活火山で、過去5600年の間に180回近く噴煙を上げてきた。だが今は鳴りを潜め、兆候があるわけではない。富士山は噴火するのか。

「もはや富士山は噴火スタンバイ状態です。火山学的には、100%噴火します」

 と語るのは、火山学者で京都大学の鎌田浩毅名誉教授だ。

 富士山はこれまで、約100年に1度の周期で噴火してきた。最後の噴火は江戸時代中期の1707年。「宝永噴火」と呼ばれ、江戸の街に大量の火山灰を降らせた。しかしそれ以降、300年以上沈黙を保っている。

「ということは、地下にマグマを大量にため続けています。富士山の地下20キロにマグマをため込んだ『マグマだまり』があり、すでにパンパン。いつ噴火してもおかしくありません」(鎌田名誉教授)

 

6時間が2時間に短縮

 そうした状態にある中、さらに憂慮すべき事態が起きた。11年3月11日、マグニチュード9の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)が発生したのだ。鎌田名誉教授は、この未曽有の地震が富士山を巡る状況を一変させたと話す。

「地震の4日後、富士山のマグマだまりの真上で震度6強の地震が発生しました。それにより、マグマだまりの天井部分の岩盤がひび割れを起こし、マグマだまりの圧力が下がった可能性があります」

 マグマには約5%の水分が含まれ、それが減圧したマグマの中で水蒸気となり体積が500倍以上に増え、マグマだまりの外に出ようとしていると考えられるという。

 ひとたび富士山が噴火すれば被害は甚大だ。

 地図で示すように、溶岩流は神奈川県だけでなく静岡県や山梨県など広範囲に広がる。

 山梨県富士吉田市では、溶岩流の市街地到達時間は、これまでの6時間から2時間に短縮された。溶岩流だけでなく噴火によって火山灰や噴石が降り、泥流が町を襲う。東海道新幹線や東名・新東名高速道路といった主要交通網が、寸断される恐れもある。

 周辺自治体だけではない。100キロ近く離れた首都圏にも、深刻な被害をもたらすことがわかった。

 3時間後には首都機能はマヒする──。昨年3月、政府の中央防災会議の作業部会は衝撃的な調査結果を公表した。「宝永噴火」と同規模の噴火が起き、偏西風が吹くと、火山灰は3時間で首都圏の広範囲を直撃。東京都新宿区で約10センチ、三鷹市で20センチ弱、横浜市で2センチ程度積もるとした。

 先の鎌田名誉教授によれば、火山灰の正体は、細かいガラスの破片。それがコンピューターや精密機械の細部に入り込むと使い物にならなくなり、電気水道ガスなどすべてのライフラインをストップさせるという。

「火山灰は送電線に積もりショートさせるので、各地で停電し、断水の恐れもあります。数ミリの降灰で車は運転できなくなるので高速道路は通行止めとなり、鉄道も首都圏全域でほぼストップ。羽田や成田空港も飛行機が離着陸できなくなり滑走路は閉鎖され、農業にも甚大なダメージを与えます」

 

巨大地震が「噴火」誘発

 人口や産業が集中した首都圏が被害に見舞われれば、影響は甚大だ。02年に内閣府が出した富士山噴火による被害額は、最大で2兆5千億円。だが多くの専門家は、試算額は被害を過小評価していて、想定外の被害も考えられ経済損失はより大きくなると指摘する。

 懸念材料はまだある。

 鎌田名誉教授によると、富士山噴火は南海トラフ巨大地震と密接な関係があり、この二つが「連動」する可能性があるという。南海トラフ巨大地震は、2030~40年のどこかで発生するとされる巨大地震だ。

「巨大地震が富士山噴火を誘発した例は過去にもあります。1707年に南海トラフでM8.6とされる巨大な宝永地震が起きましたが、その49日後に起きたのが宝永噴火でした」

 もし、南海トラフ巨大地震と富士山噴火が連動したらどうなるのか。国が試算するこの巨大地震による被害総額は約220兆円。これに富士山噴火の被害が加算されれば、とてつもない被害額となることが予想される。鎌田名誉教授が言う。

「南海トラフ巨大地震では、東京から九州まで日本の人口の約半分にあたる6千万人が被災します。そこに富士山の噴火が追い打ちをかければ、日本の政治経済を根底から揺るがすことになります。国家の危機管理上、平時のうちに可能な限り予測し、減災に向けて全力で取り組むべきです」

 未来を正確に予測することは誰にもできない。そうであるからこそ、過去に学び、荒ぶる自然を正しく恐れ、これからの災害に備えたい(編集部・野村昌二)

※AERA 2021年6月7日号

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「黙らせろ」尾身会長の”謀反”に菅首相が激怒

2021-06-07 | いろいろ


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「黙らせろ」尾身会長の”謀反”に菅首相が激怒
   意地の張り合いで権力闘争が激化  


 「(東京五輪を)パンデミックの所でやるのは普通ではない」「やるなら強い覚悟で」

 東京五輪・パラリンピック開催をめぐり連日、新型コロナウイルス感染リスクについて強い警告を発している政府対策分科会の尾身茂会長に対し、菅義偉首相が激怒しているという。

 「『黙らせろ。専門家の立場を踏み越え勘違いしている。首相にでもなったつもりなんじゃないか』などと怒りを爆発させています。尾身会長を菅首相が最近、ひどく疎んじているのは間違いありません。もともと御用学者として側に置いていた尾身会長が謀反を起こし、自分の敵になったという意識が日に日に強くなっています」(政府関係者)

 菅首相と尾身会長の対立が深まったのは5月14日、延長される緊急事態宣言に北海道などを追加で含めるか、否かを協議した時だという。

 「自らの決定を尾身会長にひっくり返され、顔を潰された感が強いです。今回の緊急事態宣言延長でも日本ショッピングセンター協会などから陳情を受け、百貨店などの休業措置等の緩和を狙う菅首相と、集中的な強い措置継続が必要と主張する尾身会長ら専門家との間で攻防がありました。結果的に今回は菅首相が押し切る形となりましたが、緊急事態宣言期間は延長しながらも措置は緩和する、というチグハグな判断となりました」(同前)

 一方の尾身会長はこれまで政府判断の追認役でしかなかったという。それが北海道の一件以降、自身がワクチン接種を受ける姿をSNSで発信するなど、政治家的な動きや言動が目立つようになった。

 「尾身会長は元々、医師や感染症の研究者としての評価が高いというより、むしろWHOなどで権力ゲームを渡り歩いてきた人です。政府が約1年前に専門家会議を廃止して、新たに分科会を立ち上げた時、尾身さんは政府の方針を追従する専門家としての役回りを演じきり、専門家会議副座長から分科会トップに昇格しました。五輪に関する発言は、専門家としてまっとうなお考えなのですが、『五輪についての明確なビジョンがない』とより踏み込んだ発言が最近、目立っています。自分を『国を守るリーダー』のように少し思い込んでいる節も感じられます。そういう意味でどっちもどっちです。菅首相と尾身会長の対立は『決めるのは自分』とお互いが意地を張り合い、権力闘争になっている感があります。そんなことにうつつを抜かしている場合じゃないんですけど…」(官邸周辺者)


 一方で五輪の組織委員会は「東京2020大会における新型コロナウイルス対策のための専門家ラウンドテーブル会議」を設置したが、メンバーにこれまで新型コロナウイルス対策を主導してきた尾身会長の名はない。

 立憲民主党がヒアリングで「尾身先生もメンバーに当然、入っているのかと思った」と尋ねたところ、「入っていない」と素っ気なく回答した。

 「専門家としてハッキリと意見するようになった尾身氏が煩わしく、菅首相に忖度し、外したんじゃないかという話を聞いた」(立憲民主党幹部)

 尾身会長は国会で6月4日、東京五輪開催につい自身の考え方を近く示す方針を明らかにした。だが、田村憲久厚生労働相は「自主的な研究の成果の発表という形で受け止めさせていただく」とスル―した。菅首相に近い自民党の国会議員はこう語る。

 「菅首相が絶対に東京五輪開催と舵を切っている時、尾身先生は何を言うんだ。何のための分科会なんだ、という思いです。田村厚労相は『専門家に引っ張られるな』と菅首相に叱責され、萎縮している。『今回の尾身発言で東京五輪・パラ中止という世論の流れにならないか、心配だ』と首相は周囲に愚痴っています」

 東京五輪・パラリンピックの開幕まで50日を切った。だが、新型コロナウイルス感染状況は収まらず、東京都はほとんどの項目でステージ4、緊急事態宣言も継続中だ。これまでも分科会と政府や菅首相の意向が一致しないことは何度かあった。

 「今回ばかりは菅首相の怒りがすごい。『これ以上、厳しい意見が続くと分科会を開かせない』とストップがかかる危惧も出ています。首相の頭の中には、東京五輪を大成功させて、自民党総裁選でも勝って続投を決める。その勢いで衆院解散して、勝利というイメージであふれている。そこに誰も口をはさむことができません。『野球もサッカーも、クラスターは出てないじゃないか』『専門性ある意見を聞くためであって、五輪開催はこっちで決めるんだ』と菅首相はよく言っています。だが、五輪をやったはいいが、感染拡大となれば、菅政権は退陣でしょう。勝負をかけるのはいいが、国民まで巻き込んでさすがにやばくないか、と党内でも心配する声が聞かれます」(自民党幹部)

 菅首相と尾身会長の対立は今後、目前に迫った東京五輪開催にどう影響するのだろうか。


(今西憲之 AERAdot.取材班) 
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