戦前から戦後にかけてメガホンを取った映画監督の小津安二郎。人々の心が荒んだ戦後の混乱期にあって「長屋紳士録」「晩春」など、戦前と変わらず、一貫して庶民の美しい心を撮り続けた。時に懐古趣味との批評を浴びた監督は、“確かに今の世相が汚いのは現実”とした上で、「それと共につつましく、美しく、そ して潔らかに咲いている生命もあるんです、これだって現実だ」と主張。「泥中の蓮を描きたい」と、最後まで人間の美徳を描く姿勢を貫いた(『僕はトウフ屋 だからトウフしか作らない』日本図書センター) 泥と無縁の花々にも幽玄、華麗を味わうことはできる。だが監督は、強くたくましく生きる「泥中の蓮」に美しさを見いだしたのだろう。仏典の法華経では、末法の民衆救済を誓った地涌の菩薩を「世間の法に染まらざること蓮華の水に在るが如し」と喩える。蓮華は泥土から養分を吸収して成長する。泥土の中で美しい華を咲かせる。同じように、欲望や争いの渦巻く社会の中で、仏法の輝きを放ちながら人々の幸福に尽くす。この実践が、蓮華の華のような福徳となって、わが心に咲き薫るという。蓮の花言葉は「雄弁」。誠実に、真っすぐに正義を語り、友情の大輪を咲かせゆく師走としたい。
本日の読書:1/1,943冊目 ガバナンスの再設計 統治能力 イェヘッケル・ドロア著 ミネルヴァ書房
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