作家の向田邦子さんが子供の時、祖母が亡くなった。夜の日、父の勤め先の社長が弔問に。慌てて飛んで行った父は、丁寧にお辞儀をして出迎えた。物心ついた時から威張っていた厳父。そんな父がお辞儀をする姿に、少女は驚き、胸がうずいた。が、同時に分かった。「私たちに見せないところで、父はこの姿で戦ってきたのだ」。この時、父だけ夜のおかずが一品多いことも、機嫌が悪いと飛んで来るげんこつも、許そうと思った(「父の詫び状」)“怖い”と思っても、それはあくまで愛する家族に見せる“父”の顔だ。家の外で苦労して働き、格闘する姿を垣間見る機会は少ないだろう。この夏の暑さは尋常ではなかった。暑さ厳しい中、懸命に働いている同朋も然り。家族さえも知らぬ真剣な表情で日々戦っている父の奮闘振りを忘れてくれるな。
本日の読書:1/876冊目 松崎一葉著 会社で心を病むということ 新潮文庫
本日の読書:1/876冊目 松崎一葉著 会社で心を病むということ 新潮文庫