話の種

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権威主義と民主主義

2023-06-05 18:10:30 | 話の種

権威主義と民主主義

最近「権威主義」という言葉をよく見聞きするようになった。
また、権威主義国の台頭により民主主義は危機に陥っているということも言われている。
この権威主義国の代表は言うまでもなく中国であり、民主主義国は米国、西欧、日本などがその代表となる。

では、権威主義とはどのようなものだろうか。
これについて、先月の朝日新聞の夕刊に東島雅昌氏(政治学者・東京大学准教授)の寄稿文があり、次のように述べている。

「データを用いる政治学では、国政選挙のあり方に着目して民主主義と権威主義(独裁)を区別する。つまり、市民が政治指導者を選ぶさいに一定の影響力を発揮できるかどうかを軸に、政治体制を定義する。」
「首相や大統領が複数政党(候補者)の競合する選挙で選ばれ、選挙結果が暴力や改ざんなど露骨な選挙不正で捻(ね)じ曲げられないとき、その国は民主主義であるとみなされる。
逆に複数政党が競合していなかったり、選挙結果が暴力や不正を通じて操作されていたりするとき、その国は権威主義(独裁)であるとされる。」

「この基準を用いて世界の政治体制を分類すると約6割の独立国家が民主主義、残りの4割が独裁国家となる。」
「国政選挙のない中国やサウジアラビア、選挙に与党以外の参加が認められていない北朝鮮やベトナム、複数政党が競合するものの選挙不正の横行するロシアやジンバブエといった国々は、それぞれ特徴は違うが権威主義体制だ。」
「逆に、露骨な選挙干渉がほとんどない競争選挙を実施する日本・韓国・台湾、そして欧米諸国は民主主義体制とみなされる。」

しかし、筆者はこの選挙を中心とした区別は非常に重要だが、同時にこの分類は民主主義と権威主義のもとで行われる政治が全く異なることを意味するものではないという。

「独裁政治の特徴は近年大きく変化しており、現代の独裁者たちは利益誘導によって人々の自発的支持を取り付け、選挙ルールを変更したりして戦略的に自らの望む選挙結果を得るなど、民主主義を装うようになっている。他方長らく安定した民主主義であった国々でもポピュリスト政治家が台頭し、これ迄の政治は一部エリートの既得権益を守るためのもので真の民意ではないとして、民意を曲解して煽り、これにより党派の異なる支持者たちの暴力的対立も起きている。」(一部略)

つまり、近年はこれ迄のように「抑圧=権威主義」「自由=民主主義」という単純な図式で世界を色分けすることは出来なくなっていると指摘している。

参考までに、権威主義国家と民主主義国家の分類については、昨年度の日本経済新聞には下記掲載されている。

[国・地域の体制の4分類]

「閉鎖型権威主義」国民に政府の最高責任者を選ぶ権利がない。(例)中国、ミャンマー
「選挙型権威主義」選挙が自由公正に保たれていない。(例)ロシア、インド
「選挙型民主主義」選挙が自由、公正(例)メキシコ、南アフリカ
「自由民主主義」 行政府が立法府と裁判所によって制約される(例)日本、米国

では何故権威主義国家が増えてきているのだろうか。そして民主主義の危機と言われるような事態になってきたのだろうか。
これには様々な要素が絡み合って一概にこうだからとは言えないが、その一つとして中国の台頭ということは大きな要因と言えるだろう。

近年中国は経済面、軍事面で飛躍的な躍進を遂げており、世界第二位の経済大国となっている。
これはかつての日本の明治維新後の発展を彷彿とさせるものがあり、先進国の経済が低迷し国際的地位が下がっている中で、発展途上にある国々が中国を参考にしようと思ったとしても不思議ではない。
更に中国の場合、他国との関係を築く時や経済援助(?)の際に、米国などに代表される民主主義国のように言論の自由とか人権問題がどうのこうのとかうるさいことは一切言ってこないので、これは為政者にとっては非常に都合がよく、かくして国力を増す、或いは自己の政権基盤を安定させるためには、非効率的な民主主義より中国のように指導者が強いリーダーシップを発揮する形態の方が良いとして、権力を集中させる権威主義が広まっていったと考えられる。

そして民主主義の危機についてだが、これは権威主義の台頭と併せてグローバリゼーションやインターネットなどのソーシャルメディアの普及などが影響していると考えられる。

グローバリゼーションは経済面、技術面、文化面などで大きな貢献をしたが、同時に経済格差など不平等な面も生じさせ社会の不安定さを増大させる要因ともなり、民主主義に対する信頼を失い、極端な政治的解決を求める動きを生じさせることにもなった。
またソーシャルメディアの普及は情報操作や偽情報の拡散を容易にし、極端な政治的意見やイデオロギーを拡大させ政治的対立を煽り、民主主義の基本である多数派の意見を尊重するという基盤を揺るがす事態も生じている。トランプ政権下での米国型民主主義への信頼失墜などはその最たるものであろう。

更に考えられるのは、欧米諸国に代表される民主主義国がこれ迄自分たちの価値観を他国に押し付けてきたという側面も見逃せない。
それぞれの国、民族には歴史的に長い間培ってきた文化、宗教、価値観があり、このような押しつけには受け入れがたいものもあるだろう。中国などは米欧主導の国際秩序には組せず、自分たちの方が正しいとしており(欧米型の民主主義は非効率的、かつ欧米でも差別、暴力行為などはあり、彼らの言う民主主義はダブルスタンダードだとの主張)、またロシアのウクライナ侵攻にしても正面からロシアを非難しない国が少なくないのも、各国にはそれぞれの事情があり、欧米のいう民主主義を守るという主張にはそのまま同調できないという面もあるものと思われる。


(参考)

*日本経済新聞「権威主義国家とは 政治権力、一部の指導者に集中」(2022/8/22)
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA212550R20C22A8000000/

(上記記事には、「民主主義国家の影響力は弱まっている」として、民主主義国家がGDPに占める割合、及び権威主義国家、民主主義国家の数の推移もグラフで載っている。)

*産経新聞 強権化第3の波で民主主義を装う「選挙権威主義」(2021/10/25)
 「選挙権威主義国」は世界で最多
 https://www.sankei.com/article/20211025-UKE4FZW3TBIVPCDBSZXGPERDM4/

(上記は有料記事だが前述4分類の国の数の推移のグラフは見ることが出来る)

 

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