炬燵のネコ
なんだろう、クリスマスイブだって言うのに、11時に起床するこの非充実感。
外から帰ってきた足が灰色に染まった三毛猫が、炬燵で胡座を掻く自分の膝の上で涎を垂らしながら寝ているこのむなしさ。
こんにゃろう。学校で連んでいる祐樹は今頃どうせ彼女の吉川と遊んでいる。
クリスマスデートだぁ?…上等。
…それにしても…むなし……。
耳が冷えたネコの頭をクシャクシャと撫でる。 …てか……涎を垂らすな。
…パソコンの調子がすこぶる悪い。
インターネットには繋がらないし、時々画面がガタガタと揺れる。
うちのパソコンは丁寧に慰めると復活したりもするのだが……
今回はそれも効かない。
バイトもしていない。中学の時から貯めていたお小遣いの金で買うか…。
せめてインターネットに繋がればブログでも更新して、暇つぶしになるのだが……
それも叶わぬ願い。
やりきれないこの感情を膝に寝ころぶネコの背中をパタパタと叩くことによって紛らわせる。
パタパタパタパタ……『ヴーヴーヴー』
っっ!
ネコの背中をパタパタ叩いていると唐突に鳴り出した携帯。
ビックリしたぁ…
梨木未来……電話だ。
「もしもし、大谷君?」
クラスにいるときよりも少し高めの、電話越しの声。
「まぁ、俺の携帯だからね。そりゃ。」
ネコの頭をペチペチやりながら、携帯を右手から左手に持ち替える。
少し黙ってしまった梨木に
「んで、なに?」
女子との電話には慣れていない。この無愛想さも見逃して欲しいものだ。
「ぁ、ぅん、きょ、今日さ、会えないかなぁって思って。」
え、何、この感じ。今日はクリスマスイブだ。クリスマスイブって……高校生にもなれば、恋人達が過ごすもんって考えが……。
「や、やっぱだめかなぁ??」
とっさに返事が出来ないでいると、少し淋しそうな声が電話口から響いてくる。
「あ、いや…」
なんだこれ、慣れてない感バリバリやないかっ
「クリスマスイブだもんね…、か、彼女さんと、やっぱデートとかするよね」
一人で納得して、しゃべり出す梨木はなんか、涙声…?
それを聞いて、何故かその誤解を解きたいという気持ちが芽生える。
「あ、違くて…。俺、彼女とかいないし… 家で淋しく猫に膝に乗られてる。」
うわぁもう、最後の方メッチャ格好悪い…
家で淋しくとか… 恥ずっ
「猫ちゃん?あぁ、前に言ってたね、いいなぁ、可愛いでしょ」
さっきよりだいぶ落ち着いた声で、最後の方なんて声が笑っている。
思わずホッと息をついていた。
もっと笑って欲しいと思う。電話越しで、声しか聞こえないけれど。梨木の教室での笑顔が頭に浮かんでくる。
「いや、うちのねこさん、涎垂らしてるし… マジ勘弁…。」
笑い声。
あぁ、本物の梨木の笑顔が見たい。
「……会おっか。」
クリスマスイブ。
ロマンチックに雪が降るでもなく、朝は地面に霜柱が立つ程度。
炬燵の猫を撫でながら、とても充実した気持ちになる。
「…いいの? …ありがとう。」
普段あまり使わずに貯めてあった金で、梨木へのプレゼントでも買ってみようか。
膝に寝ころぶ猫をそっと退かし、冷たい空気に触れあうために、彼女の笑顔を見るために、ダウンジャケットの袖に腕を通した。
訪問ありがとうございますm(_ _)m
デート……大谷君と祐樹と梨木がうらやましい限りですww
仕事がんばってください_(. .)_