「美沙、もう宿題終わった?」
「ん~、あと本のあらすじだけ。」
夏休みも残りわずか、というこの時期。
今年の9月1,2日は土日にかぶったため始業式は3日。例年より長い夏休みだ。
私の通う農業高校には、夏休み中、B実習という、半日の実習がある。授業の単位なのでおろそかには出来ない。
果樹園には、袋掛けされたブドウとナシが日を遮り、地面に陰をつくっている。袋掛けされたブドウの色を確認し、印をつけ、また袋を閉じる、という地味な作業。上を向きながらの作業は首にくる。日が遮られているからと言って決して涼は得られない、纏わり付いてくるような熱風。
一度開けた袋をホッチキスで閉じながら、麻菜は美沙に話しかけた。
残った課題はあと本のあらすじだけ、という返答に思わず麻菜は眉を顰める。
「あぁん?私なんか、まだ造園のレポートと、本のあらすじと、果樹のポスター残ってるぞ。」
…つまり全部である。
「うちも全部終わってない。」
笑いをたっぷりと含んだ声で、ホッチキスに芯を補充しながら沙耶が会話に加わる。
残り11日の夏休みのうち、3日は委員会の研修会でつぶれる。その他にも校外で行っているサークル会も入り、忙しい日々になりそうだ。
「早いうちに課題は終わらせた方が後々楽だ、とは分かってるんだよ?ただ、やる気が起きなかった。」
先ほどとは違うブドウの袋に印をつけながら、麻菜は言った。どうせ今日も、家に帰ってから課題に手をつけることはないだろう。妙な確信を抱きながら黙々と作業を行う。
「…あと終わってないところある?」
「ん。この辺まだ残ってる。」
三人でブドウ棚の下を動き回る。やり残しがないことを確かめ、他の生徒を指導していた教師に次の実習内容を訪ねた。
「…とりあえず、10分まで休憩入れていいよ。」
梅の木の木陰に座り、果樹園を見渡す。敷き詰められた干し草に、果樹、向こうには校舎と青い空が見える。美しい。思わず携帯を取り出し写真を撮る。麻菜を真ん中に挟んで、美沙と沙耶が話す。麻菜には分からないジャンルの話。ただ、目の前に広がる景色を眺めながら、二人の声を聞くと、どこか安心感を覚えた。
休憩後、他の生徒と共に、除草と土ならしを行う。地面を掘り返すと出てくる蟻の巣に、多少驚きながらも手は休めない。これが終わったら……。
夏休みの果樹の実習。ナシとブドウの試食が出来るのだ。
美沙にナシの皮むきを任せ、他の男子に加わって、ちゃちゃを入れる。包丁片手に少し怒る美沙を見て笑う。
よく冷えたナシを頬張りながら、午後の予定を考えた。
まずシャワーあびるでしょ。お昼食べて、そのあと本読んで…。
課題をやる、と言う予定は入れない。自分が追い詰められないとやらない人間だとは分かっている。
テスト勉強も、毎年の夏休みの宿題も、直前になって焦る。やる気を出す。
どうせ3日に提出じゃないんだから。最初の授業で提出なんだから。
結局、夏休みの最終日の時点で終わっている課題は果樹のポスターだけだった。造園のレポートは4日に提出。3日に頑張ればいいや。
17歳の夏休みも終わり…小学生の頃から変わらない、ギリギリで頑張る習慣に自分自身あきれながらも、来年もきっとこうなのだろうと。今まで通りなのだろうと。まだ熱をたっぷりと含んだ夏の風を感じながら、麻菜はファっと欠伸をした。
【完】
2012/9/8.
急いで書いたので、誤字、脱字あることでしょう!
どうかお見逃しあれ!
これだから実録小説好き(*´ω`*)
なんか読んでてわくわくする
うわわ無茶ぶりリクエスト応えてくれてありがとう
初コメありがとうございます!
最初書いてたのはもっと違うやつだったんだけど行き詰まり…笑。
新しく書き直しました。
ちょっとね、夏休み前に夏休みの小説書こうと思ってたから、ちょうど良かった。実録じゃなくて、写真部をテーマにした小説にしようと思ってたんだけど、何しろ写真について詳しく知らない。←
難しかったけど、なんか、楽しめました。自分の生活を、自分の書く、小説の言葉遣いで書く。
楽しかったな。
また今度、書くかもしれません。その時にはよろしく。