勤務医の心配事

新型インフルエンザについて

新型インフルエンザ・パンデミック対策と問題、現在の米国の答え

2008-03-27 01:42:31 | Weblog
「高病原性鳥インフルエンザ海外報道抄訳集2008年度 3月 (1) 」
http://homepage3.nifty.com/sank/jyouhou/BIRDFLU/2008/3tukino1.html
に非常に参考になる邦訳が載りました。米国CIDRAP(Center for Infectious Disease Research & Policy)のHPに載った、CDCが自治体に指導したパンデミック訓練についての記事です。パンデミック時米国でどのような対応を現場で取るべきかを、自治体が質問し専門官が具体的に質問に答えています。日本語の訳文ですので是非全文を読んでいただくようお勧めします。

・3月26日掲載
「CDC pandemic exercise highlights drug, mitigation, travel issues CIDRAP  (米国) 米国CDC によるパンデミック模擬訓練は、抗ウイルス剤の扱い、地域の被害軽減策、旅行者の選別に重点が置かれた」
本文 (A.Tohda訳)(http://homepage3.nifty.com/sank/jyouhou/BIRDFLU/cdctraining.pdf

 対策が進んでいるといわれる米国ですが具体的問題は山済みで、自治体担当者の戸惑いが印象的です。問題は多岐にわたり、ここで要約してしまうのははばかられます。

 しかし、一つだけ強調しておきたい事がありましたので以下記載します。
(繰り返しますが、未読の方は全文読むのをお勧めします)

 「CDCが勧めるより効果的な投薬によらない介入(対策)」は「学校閉鎖や集会回避」であり、その「対策は早期に実施されることが重要である」としています。
 自治体の職員が、住民の行動を早期から長期にわたり制限する事の困難を指摘すると、CDCは「より好みすることを、我々は絶対に思いとどまらせる必要がある」と返答しています(この訓練の致死率想定10%です。)。

 社会生活の問題に拘泥して住民感情に配慮していると、事態は最悪になる事を強調していると読めました。
 対策が進んでいると思われる米国ですらプレパンデミックワクチンの有効性に懐疑的で、抗ウイルス薬が万全でない事を議論しています。それらを織り込んで対策を具体的に詰めていく作業をしています。

 同ページの3月25日のニュース
「HK to reopen schools next week, flu virus unchanged  Reuters AlertNet,UK(英国) 
香港、インフルエンザウイルスに変化が見られないことから、来週から学校を再開」
に外岡先生がコメントをつけられていたので、最後にここにコピーしておきます。

「公衆衛生学が英国流で進んでいる香港では、SARSの際もそうであったが、社会全体の危機管理が最優先され、それ故、日本ではまごつくような意志決定が、責任者による迅速になされる。今回の全市内の小学校と幼稚園の閉鎖、それも2週間という期間は、当初は多くの反発や意見があったようだが、確実に実行された。日本ではどうなるだろうか?」

6 コメント

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厚労省が対策推進室を新設 (たかぼーん)
2008-03-28 00:24:37
専従10人を含む29人体制で、新型インフルエンザ対策を専門に扱う。民間からも人材を登用し、メディア対応の専門家や感染症臨床医など8人を起用する予定。毎日新聞 2008年3月27日 23時01分

国交省も、「新型インフルエンザ対策推進本部」設置。
少しは対策がマシになるのかなという期待と、いよいよ現実味が増してきた不安と。平成19年に内閣官房を中心として各省庁が連携して行った「新型インフルエンザ対応総合訓練」http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/houkoku/070205kekka.pdf がCDCの訓練に相当するかと思いますが、新体制の下、一層対策を充実させていって欲しいです。
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田代眞人先生の最新インタビュー (たかぼーん)
2008-03-28 22:06:48
SafetyJapanに田代眞人先生の最新インタビューが掲載されています。11ページ、約1万5千語のボリュームです。致死率やCDCにも言及されています。
「新型インフルエンザの”リアル”を語ろう」2008年3月28日http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/90/index10.html
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たかぼーんさん、コメントありがとうございます (勤務医)
2008-03-31 01:18:37
 いつも貴重な情報ありがとうございます。
 厚生労働省の「対策推進室」調べてみたのですが、まだ構成人数ぐらいしか出てないので残念です。どーんと対策ぶち上げるぐらいの勢い欲しいですね。
 国土交通省の対策室は資料を読んでからブログ原稿書いてみたいのですが、時間が無くて進んでいません。
 田代眞人先生の記事は今までの考えを裏づけを持って総括してくれる、公的機関の貴重な発言と思いました。私のブログも1P使って抜粋してみました。
 しかし政府サイドは今までヒアリングでこの内容を聞いてきているはずなのに動かないのですから、硬直はかなりひどいと思わざるを得ないですよね。
 世論がどれだけ騒げば現実的な対策が出てくるのか、焦ります。
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インフルエンザワクチンの有効性について (あらあら)
2008-04-04 16:10:24
1990年前半にインフルエンザの集団予防接種が廃止されるきっかけとなった報告書『前橋レポート』というのを見つけました。
(ぺーじの一番下から全文DLできます)
http://www.kangaeroo.net/D-maebashi.html

要点くらいしか目を通してないのですが、
これは季節性インフルエンザの集団接種によって社会防衛に効果があるか、というのが焦点となっています。しかし、気になる記述もいくつかあり、プレパンデミックワクチンにどのくらい効果があるのか、不安になってしまいました…。

>(新しい型に対して)最初の年には予防接種は有効という結果が出ても、数年間を通してみると、予防接種をしてもしなくても感染率は変わらなくなってしまう(ホスキンスのパラドックス)

スペインインフルエンザの時は第1波よりも第2波の方が重症だったらしいですが、そうすると、プレパンデミックワクチンを運良く流行前に接種して第1波流行で感染を免れたとしても、より強毒となる可能性の高い第2波で感染してしまう…(しかもタミフル耐性になってたり、治療のための資材が枯渇してたりして)という事態を想像してしまいました。
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あらあらさん、コメントありがとうございます (勤務医)
2008-04-09 00:15:35
「前橋レポート」が問題にしている事は、現行のワクチンが、1血中に抗体を作るので気道表面に感染をするインフルエンザの有効性が疑問、2抗体を持つ人間を増やして感染拡大を防ぐのに役立っていない、3副作用がある事です。以上のメリットデメリット比較で季節インフルエンザの対策として小児にワクチンを投与することは、メリットの割りにリスクが高いと判断したところにあります。
 さて強毒性インフルエンザの場合、1血中を含め全身に広がる、2抗体を持っている人がいない、3副作用に出現率に比較し死亡率が桁違いに高い可能性等あり、注射のワクチンでも十分なメリットがあると思われます(ただし有効な抗体ができる事が前提ですが)。また粘膜表面を免疫するIgA抗体を誘導するワクチンの開発も進んでいるようです。
 ホスキンスのパラドックスについて内容を知らないのですが、現象面で解釈すると、同型の感染が繰り返されれば、抗体を持つ人が増えてワクチンで抗体を作る効果を相殺してしまう事を言っているのではないかと思います。これに関しては、いまだ新型インフルエンザに抗体を持つ人がいない現在は、ワクチンは有効な手段と思われますし、ワクチンが意味ないほど抗体を持つ人が増えればこんなに嬉しいことはありません。
 第2波の重症化は鳥の感染の繰り返しで、強毒性が獲得るすのと同じ現象が人でもあれば、起こりうるのでしょうか。しかし数年内には「共進化」が生じて致死率が下がってくる現象が生じる可能性があると、「たかぼーん」さんが指摘してくれました。”佐々木顕 寄生と共生”でググるとると関連した資料が見つかるとの事です。
 タミフル耐性を考えると、私は有効なワクチンが早く出来ることを願ってやみません。
 
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すこし安心しました (あらあら)
2008-04-10 11:35:05
勤務医さん、解説ありがとうございました。少し安心しました。確率事象についての記述を個人の事象に当てはめて考えていたようです(よくやってしまいます…)。
免疫の仕組みについて勉強したいと思います。
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