岩政伸治研究室

白百合女子大学岩政研究室  ―場所は本館3階英文研究室の向かいです。

■ アップルで動く日本語名のソフト--"bento"は英語になるか

2011-11-30 18:46:45 | 岩政ゼミ課外授業@スタンフォード
アメリカで日本の認知度は、日本人が思っているよりずいぶん低いだろう。十数年前にアメリカを席巻していた日本の家電製品も今ではほとんど見かけることがなく、留学生は圧倒的多数で中国人、ついで韓国人、日本人留学生の数は7から8番目と聞いたことがある。その一方でアメリカに根付きつつある日本の文化もある。Palo Altoにある典型的なアメリカンレストラン、カリフォルニア・カフェで出された子供向けメニューが左の写真。アメリカの3大グルメストア、Trader Joe'sから"bento"と名が付く冷凍食品も出ている。Appleの子会社File Maker社が出した、シンプルを追求したデータ管理ソフト"Bento"は日本文化びいきのジョブズが強引に命名したか?いずれにしても、"Bento"という言葉はかなりアメリカの文化に根付きつつあるといってもいいかもしれない。
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■ アップルの歴史--ジョブズはソローを読んだか?

2011-11-29 19:06:14 | 岩政ゼミ課外授業@スタンフォード
 Thoreauは_Wild Fruits_の中で、ヨーロッパの入植者によって新大陸にもたらされたリンゴが、人間や牛や鳥などの媒介によって野生化、自生するまでの歴史を描き、そこにヨーロッパ由来のThoreau自身の先祖がアメリカの大地に土着のもの(=アメリカ人)となる歴史を重ね合わせている。リンゴはその意味でアメリカのアイデンティティの象徴なのである。
 Thanksgivingの時期どこかの雑誌がThoreauを取り上げるのではないかと思っていたら、やはり_The New Yorker_の11月21日号で、John Seabrookがソローを引用しながら、今かじっているリンゴの「生い立ち」をひも解いていた。
 アップルというと今や実物のリンゴよりもiPadやiMacのトレードマークを思い浮かべるのも仮想電脳空間で多くの時間を費やす時代の趨勢か。ずっと疑問に思っていたのが、Steve Jobsはソローを読んだのかということだ。Thoreauを読んだことがある人はAppleのキャッチコピー、"Think Different"を聞くとどうしても、ソローの"Different Drummer"という個性の「違い」を尊重するアイデアを連想してしまうに違いない。ジョブズの伝記にはソローは出てこない。もちろんジョブズは学校でソローの名前ぐらいは聞いたはずだ。"Think Different"のCMが取り上げたキングやガンジーがソローのフォロワーであることや、ソローに倣って悪しき政府に税金を支払うことを拒否したフォークシンガーJoan Baezと、ジョブズが付き合っていたことを考えると、帰納的に、ジョブズはソローを読んでいたに違いないと思うのである。

Works Consulted:
Joan Baez, _And a Voice to Sing With: A Memoir_. p.121
Craig Tanimoto, "Think Different"
http://lowendmac.com/orchard/07/apple-think-different.html

ちなみにジョブズがニューヨークに住んでいたときに隣のダコタアパートにいたのがCMで取り上げたYoko Onoだった。
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■ Thanksgiving Day -- なぜアメリカでは感謝祭で七面鳥やパンプキンパイを食べるのか?

2011-11-28 12:21:11 | 岩政ゼミ課外授業@スタンフォード
 感謝祭の時期、大学は連休となり、学生の多くは帰省して大学は閑散としていた。雑誌ニューヨーカー(The New Yorker)も11月はサンクスギビングをイメージした表紙が並んでいる。ではなぜ感謝祭を祝うのか?
 アメリカでは小さい頃から学校で、感謝祭は現在のアメリカ建国に係わった人たちの先祖で、ヨーロッパからアメリカに移住したPilgrim Fathersたちが、先住民の助けもあって得られた豊富な収穫を感謝し、先住民も招いて祝祭を開いたことがその起源として教えられている。したがって、感謝祭では当時を偲び、アメリカ大陸に固有の鳥である七面鳥と、同様に大陸に自生するカボチャを料理の材料にするのである。
 _A People's History of the United States_を書いた歴史家Howard ZinnはかつてNPRのインタビューで、このお祭り気分に対して辛辣な批評をしている。Zinnは、アメリカの歴史は先住民の駆逐と虐殺の歴史であり、私たちは感謝祭の影に多くの先住民の血が流されたことを忘れてはならないという。Zinnのインタビューはこちら
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■ 少女病--鉄道の導入がもたらしたストーカーという社会現象

2011-11-25 00:47:53 | 岩政ゼミ課外授業@スタンフォード
 先週紹介した"TOKYO WAKA"が、「東京を生き物になぞらえてその変化をメタボリズムと語る人の声を拾った」と書いた。
 ちなみに、文明開化と共に鉄道が導入された東京において、汽車が多くの乗客を飲み込んでははき出す様子を、田山花袋は短編「少女病」の中で、「新陳代謝」という言葉で表している。既存の英語訳は残念ながらこの部分を省略してしまっていることを過去に拙論で指摘したことがある。「少女病」は鉄道の発達がもたらしたストーカーという当時の新しい現象を知ることができる作品といえるだろう。
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■ 言論の自由が中国の国益になる--電脳空間における「市民的不服従」

2011-11-23 17:41:13 | 岩政ゼミ課外授業@スタンフォード
 友人の誘いでCNN InternationalのジャーナリストKristie Lu Stoutの講演に参加した。StoutはStanfordでジャーナリズムを専攻した後、中国に留学、北京のIT企業でキャリアを積み、現在はCNNのジャーナリストとして香港から、おもに中国のインターネットをめぐる事情を中心に取材をしている。
 中国高速鉄道の事故をめぐる報道規制ネット規制に対して、中国最大のポータルサイト、シナ・マイクロブログのCEOから本音を引き出そうと腐心する彼女のインタビューを紹介しながら、インターネットの監視に関する中国の現状をレポートしていた。
 印象に残ったのは、中国で政治家が使う"harmonize"という表現は"censorship"を意味すること、四川大地震で多くの児童が校舎の下敷きになって死亡した事件で当局を批判したために軟禁された芸術家Ai WeiWeiが、自身のネット上での発言の存在を、"Here's proof of life"と書いていたことだ。100年後、中国社会は彼を我が国のソロー(Thoreau)と評価するのだろうか。
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■ 臓器移植と倫理--正義の基準は構築できるのか Ethics@noon 昼時の倫理学

2011-11-22 17:11:39 | 岩政ゼミ課外授業@スタンフォード
 ヴォネガットの短編にハムレットの独白をもじった"Tomorrow and Tomorrow and Tomorrow"という作品がある。究極のアンチ・エイジングの薬が開発され、人が、本人が望まない限り死ねなくなってしまった未来を描いたサイエンスフィクションだ。人はみな死にたくないし死に対して悲観的になるが、死ねなくなった人間の運命もまた悲観的であることをヴォネガットはコミカルにかつシリアスに描いている。そういう自分も死にたくはないし、身近な人の死と彼らを失った深い悲しみは何年たっても頭から離れない。
 アメリカでは毎年8千人もの人が臓器提供を受けられずに亡くなっているという。地域による待ち時間の格差も存在する。スタンフォードのメディカルセンターで癌の手術をうけたAppleのスティーブ・ジョブズだが、肝臓の移植はウェイティングリストの少ないテネシーで移植手術を受けたといわれる。脳死による臓器移植の先進国であるアメリカでさえ、患者全員が移植を受けられるわけではなく、患者は臓器提供を待つことになり、その際には優先順位というものが設定されることになる。若い人とお年寄りではどちらが優先されるのか。政府の要人と一般人ではどうか。移植成功の確率が高い人と低い人では?多額の費用を払える人とそうでない人は?David Magnus教授は聴衆に問いかける。優先順位の名の下に、何がよりよい正義の判定基準と成りうるのか。究極の選択がこの現場には存在する。
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■ 強制収容から70年--消えゆく日系人の記憶

2011-11-22 00:52:13 | 岩政ゼミ課外授業@スタンフォード
 日系人を強制収容する大統領令(Executive Order 9066)が出されてから来年で70年になる。スタンフォードではこの機会に収容の実体と当時の記憶を記録することに関わった日系人作家、歴史家、ドキュメンタリー映画制作者らを招き、日系人の強制収容と第二次世界大戦が彼らの作品にどのように影響を与えたのか討論が行われた。
 日本文学者のインドラ・リーヴィ教授の司会のもと、歴史学者ドナルド・ハタ、心理学者ルース・オキモト、アカデミー賞監督、スティーヴン・オカザキ、映像作家ゲイル・ヤマダが、自分そして家族の戦争と収容体験について語り、またその評価について活発な議論が行われた。
 ハワイで日系人がプランテーションの労働に耐え、歌ったホレホレ節が、戦争と世代交代で失われる前に音で残そうと、島から島へと廻り録音し収集した友人、亡ハリー・ウラタさんのことを思い出しながら、この議論に耳を傾けた。ホレホレ節については共著"Different Histories"に書いたのでぜひ読んで頂きたい。
 ちなみに作家リービ秀雄氏は、この貴重な討論をリードしたインドラ・リーヴィ教授のお兄さんにあたる。11月17日@Encina Hall 人気ブログランキングへ 日記@BlogRanking

■ Tokyo Waka -- カラスをモチーフに描いた東京のメタボリズム

2011-11-18 13:57:15 | 岩政ゼミ課外授業@スタンフォード

 Stanfordに来てすぐに「絶対に会うべき」と紹介されたクリス*の新作の上映と討論会が開かれた。彼女はカラスに注目して都市で構築された新しい生態系を自らの作品_Tokyo Waka_に描いた。興味深かったのは、アメリカで賛美される手つかずの自然ではなく、都市化に伴って新たに生成した二次的な自然を、彼女の住むアメリカではなく、東京をモチーフに提示しているところだ。合わせてカラスについての様々な人の声を集めることで、貴族によって表象され、日本人のそれとされてきた花鳥風月的な自然観に対して、人々の日常にかいま見られるもう一つの自然観がうまく描かれている。
 刻々と変化するその表情から、東京を生き物になぞらえてその変化をメタボリズムと語る人の声を拾ったのはこのドキュメンタリーに諸行無常という一貫性を観る側に意識させる上で効果的だと思った。
 *クリスティン・サミュエルソン(Kristine Samuelson)はStanfordの教授でドキュメンタリー制作者。
 11月17日@カミングス講堂人気ブログランキングへ 日記@BlogRanking

■ 孔子が社会秩序を維持するのに有効なツールと考えたものは「詩」だった!

2011-11-17 15:29:41 | 岩政ゼミ課外授業@スタンフォード
ポモナ・カレッジのピーター・フルッキガーによる、_Imagining Harmony
Poetry, Empathy, and Community in Mid-Tokugawa Confucianism and Nativism_. の出版を記念したイベントが開催された。内容は専門的なので後日時間があるときに譲るとして、一番興味をそそられたのは、孔子が社会秩序を維持するのに有効なツールとして考えていたのが、"poetry"つまり詩であったことだ。なーんだと思った人も、好きな歌の歌詞に心が動かされた経験はきっとあるはずだ。孔子は論語で『詩経』について言及し、「楽」つまり音楽も合わせて重要なツールと見なした。"Think DIfferent"のコマーシャルでアップルが、ジョン・レノン(John Lennon)を、世界を変えた変人として取り上げていたことを思い出した。孔子が予言したように、言葉の持つ力は現代でも失われてはいない。
11月17日@Center for East Asian Studies. 人気ブログランキングへ 日記@BlogRanking

■ Castro Street, San Francisco - Learning tolerance and non-violence, celebrating diversity!

2011-11-16 15:19:23 | サンフランシスコ--シリコンバレー
ロック歌手ブルース・スプリングスティーンが歌う哀愁を帯びたバラードで始まるトム・ハンクス主演の映画『フィラデルフィア(Philadelphia, 93)』は、エイズとゲイに対する僕の偏見を粉々に打ち砕いた(はずだった)。大学院にいた僕は、映画を観る一年前、自分勝手な正義感から出席したエイズに関する問題を扱った集会に出た。集会後、HIVポジティヴの出席者と握手を交わした手をトイレで洗い続けた自分の行為を責めながら映画を観たことを覚えている。
 それから約10年後、アメリカ人の友人と会話中、話を面白おかしくするためにゲイを揶揄したとたん、友人の顔が険しくなった。彼は悲しそうな顔で、自分もそうであることを告白した。「愚か者は同じ過ちを二度繰り返す。」彼との関係は未だに修復できないままだ。
 あれから約10年後の今、僕はゲイの街として知られるサンフランシスコのカストロストリートにいる。写真は、カミングアウトした同性愛者としてアメリカで初めて議員に選出されたハーヴェイ・ミルク(Haevey Milk, 1930-78)の名を冠した公立小学校の壁画。同性愛者の人権擁護に尽力したミルクは78年、サンフランシスコの市庁舎で凶弾に倒れた。小学校の紹介文に胸を打たれた。「私たちの使命は、子供たちが寛容と非暴力を学び、多様性を尊び、高い水準の教育を受けることです」
10月8日@Castro Street/11月16日追記 人気ブログランキングへ 日記@BlogRanking