岩政伸治研究室

白百合女子大学岩政研究室  ―場所は本館3階英文研究室の向かいです。

■ 研究発表(国内)

2006-04-24 20:56:10 | 研究発表・講演etc
学際的視点からの異文化理解の諸相」という研究プロジェクトにおいて、研究発表を行いました。

【題目】 エコクリティシズムという修辞的戦略―ソローを中心に

以下に発表の要旨を記します。

 エコクリティシズムとは環境に係わる言説を扱う批評である。今回はその中でもアメリカにおける環境文学の系譜に焦点をあて、そこに脈々と流れるある共通するレトリックについて説明した。そのレトリックとは、私たちが対象とする世界全般の事象を認識する既存のあり方をカッコに入れ、自分たちが依って立つところの場所から同じ事象を認識しようとする弁証法的アプローチである。エコクリティシズムでは環境文学の源流を19世紀アメリカの思想家ヘンリー・デイヴィッド・ソローに見てきた。今回は異文化理解のための一つのパラダイムとして、ソローの作品を例にこのレトリックを紹介した。

 ソローは日々の自然観察をジャーナルに記録することを通して、自分なりの弁証法的アプローチで、批評家ビュエル言うところの「土着の環境リテラシーの獲得」を目指した。エコクリティシズムという研究が今後進む道筋の一つとして期待したいのは、ソローが示したこのレトリックをもってして「旧来のヒエラルキーが構築した世界」(ビュエル)を捉え直そうとする修辞的戦略である。そして、そこで目論むのは「ポスト構造主義的な考え方を駆り立てる力はエコロジーから切り離し得ないという仮説を裏付けることである。
 エコクリティシズムという批評が20世紀終わりから台頭した背景には、私たちが現実問題として直面している生態系の危機という時代の要請があり、それゆえエコクリティシズムはそれ自体が目的にならないという点において一種フェミニズム的であり、理論的枠組みに欠けるきらいがあるのは事実であるが、むしろ手法や理論に突き動かされるというよりは問題によって駆り立てられるところにその存在理由がある。いわゆるポスト構造主義以降の批評とは、既存の構築された概念によって異化された異文化をあらたな理論的枠組みによって読み直す作業である。エコクリティシズムは、この枠組みに「環境的」な眼差しを加える可能性を秘めていると表明してこの発表を締めくくった。