■ 北野エース、食品専門小売、「超・品揃え」で経済に喝!!
はじめに:
今、日本国内の経済状況を見ると、
欧州国債問題、米国の不景気、日本の大震災後・・・
と様々な悪材料がそろい、あまり芳しい話は聞こえてこない。
景気のいい話は少ない。
しかし、ここへきて、景気の足取りも緩やかに回復しつつある。
各種の指標は好転の兆しを示しているという。
但し、GDPの半分を占める個人消費の勢いは弱い。
個人消費はマクロ的にみれば低位安定状態である。
ここがなかなか活性化しない。
ひとついえるのは、
個人も、小売業者も、ものをつくる製造業者も、皆が努力して、
消費を伸ばす努力が必要ということである。
無駄なものを買い、浪費すると言う意味ではない。
生活が向上し個人の幸せ度が向上する消費が、
もっと増えてもよいという意味である。
そのためには、
・メーカーは、皆が買いたくなるようなものをつくる、
・小売は、皆が欲しているニーズを発見しメーカーに伝え、出来たものをきちんと仕入れ売り場に並べる。
ただ並べるだけではダメで、楽しく選べるように売場のエンタメ性を高めておく責任がある。
・個人も、ただいたずらに財布の紐を締めておくのではなく、
必要なものをキチンと目利きして購入する、買い物を楽しむという積極性が求められる。
ショッピングをもっとエンジョイし、潜在下に眠っている欲求を目覚めさせ、
生活に潤いを与えるという姿勢がいる。
さて、今回は北野エースの話である。
上記のような、今だからこそ求められる小売の役割を見事に演じている。
百貨店にも出店している、ユニークな食品専門スーパーである。
今、コモディティを扱う小売業態、例えばCVS、SM、百貨店・・・・・
はどこも厳しい状況にある。
基本的に儲からない。
何となく気を吐いているのは、CVS、食品スーパー、PBで稼げる超大手SM、
といったところだけである。
このような逆風の中、ユニークなポジションをとり善戦している企業が、
北野エースである。
今48店舗、200億円の売り上げ。
今年で50周年を迎える。
北野エースはどのようにして消費に喝を入れたのであろうか?
A.北野エースのUSP:
USPとは/ユニークセリングプロポジション、ユニークセールスポイントのこと。
商品や企業の独自の存在価値のことである。
北野エースのUSPとは何か?!
NEO・CSという価値:
北野エースには、3つのCSがあるように思う。
(これは弊社の仮説であり、北野エースからの話ではない)
・シェルフウォーキングCS(ユニークなものを見る楽しみ/ウィンドウショッピングのようなこと)
・セレクションCS(ユニークなものを選ぶ楽しみ)
・ビヘイニアCS(ユニークなものを買っておいしいと思うこと)
売り場には見たことがないものがたくさんあるという。
前回の来店ではなかったものが、今回の来店ではあったりと、
新しい楽しみを提供している。
「一回で三度おいしい」店となっている。
CSの本質は深い。
単純な総合的顧客満足度だけで判断してはいけない時代になっている。
北野エースのように、
CSを微分して、きめ細かく管理していくことが必要である。
調布店の話。
近くの西友で普通に買い物をした女性が皆、北野エースに入店していく。
上記の3つのCSがあるからだ。
食のテーマパークと呼ぶにふさわしい品揃えである。
店が違えば、品揃えが異なる。
社長北野の考え方・・・。
生活は生きている。
一駅違えば、売れるものが違う。
店の商圏が異なるのだから、売れるものがちがうのが当然なのに、
普通のスーパーでは、
チェーンオペレ-ションで統一したMDにしている!?
おかしいじゃないか?
と考えた。
ここに市場機会があると睨んだ。
また大手では絶対にできないことであり、
参入障壁が大きいということで、きめ細かい店つくりにチャレンジしたという。
例えば、
浅草店:高齢女性向けの和のスイーツが豊富。静岡の250円の「満腹どらやき」が大人気という。
川崎店:800種のワインコーナーがある、すごい迫力だ。
大宮店:惣菜が豊富、帰宅途中の勤務者が便利に利用する。
その店のエリアで何が評判になるか?毎日工夫をしている。
例えば、
毎日1アイテムを、別のいいものへ差し替える。
それを365日やり続けることが大切であるとする。
365日経てば、同じ北野エースの看板が出ていても、
全く違う店なっているという。
きわめて地味な作業である。
しかし、愚直に実践するので「エリア最適」の店ができる。
それは統一感のある整然としたチェーンオペレーションの姿ではない。
北野には、
「毎日変わる店、それが一番いい」
とする企業文化が育っている。
実は、北野社長にはトラウマがある。
普通にやっていては、大手に負ける!!というトラウマである。(詳細後述)
但し明治屋、大丸ピーコックのような高級スーパーを目指そうとする考えもない。
価格はキチンとセーブしている。
北野エースは、社長のトラウマにせかされるように(?)、
中間価格帯のエンタメオペレーション(先ほどのユニークな品揃え等々)を実践し、
高いCSを確保している。
全く新しい小売業態である。
B.北野エースのバイイングシステム:
北野エースのMD・品揃えを語るには、
独特の仕入れシステムに言及しなければならない。
仕入れの考え方が、逆転的な発想になっている。
地方へ出店する、そのエリアでユニークな評判の地元企業・産物を見つけ、
それを品揃えして実績、潜在性を見るという。
店は商品開発のインキュベーターという発想である。
地方で見つけたものを、
東京のバイヤー会議で取り上げ、
各店の店長・仕入れ責任者が、そこに参加して、
自分の店のためにそれらの商品を買うかどうかを決める。
本部バイヤーが決めたものを、
各店が一律に仕入れ店頭に並べるということはない。
各店の店長、即ち、自分の店の生活圏に精通している人が、
自分の目でスクリーニングして、買うものをその場で決める。
つまり、バイヤーと店の責任者がTWOWAY&スクラッチで渡り合う。
従って、本部バイヤーも必死である。
買うかどうかの選択基準は、
・食べて自分がおいしいと感じるか、
・家族にたべさせても安心か
という2つの視点だという。
きわめてシンプルで妥当性のあるスクリーニングである。
店舗は、その店の商品を売るだけではなく、
その店の商圏エリアでの仕入れの窓口ということが、
普通のスーパーと比べての大きな違いである。
また、店の責任者に仕入れの権限があるということは、
実は、自分で仕入れたものは売り切らないとかっこわるい、
ということになる。
従って、完売することが多いという。
自己責任感がでて、立派な実践教育にもなっているという。
エリアドミナントで効率よく仕入・物流(ロジスティク)を考えるというのが、
アメリカ型のチェーンオペレーションの基本である。
北野エースは、これとは真逆の手法・立場を取っている。
C.北野エースを取り巻く小売業態の実情:
1.CVSの状況:
今、CVSが調子いい。
正にコンビニの名前の通り、便利な業態である。
自宅の冷蔵庫代わり、急ぎで必要なときに最適だ。
しかし、一番の利点は個人対応商品に徹しているということだ。
スーパーと違い、
ひとりひとりの食べる適量が手に入るという点が、
もっとも大きい差別化となっている。
弁当、惣菜、スイーツ、パン、インスタント食品、菓子等、
皆、個別対応である。
CVSは、食品周りをみると、基本的にPB的なものが多い。
売れるものだけを、
味でも、容量でも、価格でも個別対応に割り切ってつくり込んで、
棚に並べる。
スーパーのように標準家族3-4人分をまとめた容量のものはない。
あくまでも個別対応である。
因みに、最近のCVSでは、
上年代層や女性の利用が急速に増えている。
・ 個人対応の小容量商品が豊富、
・ PB導入や、NB値引きにより、スーパーと比べても遜色のない価格になっている
等々の理由による。
2.GMSの状況:
GMSがしんどいのは、
生活者の抜本的、本質的なニーズに対応できていないからといわれる。
極端に言えば、GMSの唯一の利点は、
ワンストップショッピングという時間効率性である。
GMSは、
いろいろな生活物資を置くことで生活インフラになってしまっている。
公共事業のような側面を持たされている。
ほとんど人が歩かないような墓場のような売場も抱え込んでいる、
という苦しさがある。
但し、一部のGMSでは、
PBの豊富さで気を吐いているところもあり、
光明がひとつ差してきたともいえそうだ。
3.北野エースの変身:
北野エースは、もともと関西の普通のスーパーであった。
特売、安売りを武器に25店、270億円の売り上げまで成長した。
しかし、イオンやIYの郊外型大規模スーパーの進出で、
売り上げが150億円ぐらいまで落ち込んだという。
座して死を待つ、という状況になったという。
東京に進出して最初は大手量販店にはない「質」(品揃え)で勝負を掛けた。
一般スーパーという業態を捨てた。
しかし、なかなか実績に結びつかなかったが、
そうこうしているうちに大手百貨店にから出店の要請があり、
そこから大ブレークが始まったという。
北野エースには、
店頭オペレーションの鉄則があるという。
・つい寄りたくなる店
・毎日寄ってもあきない店
・品切れはご法度
の3つである。
買いに来たお客様には失望させない
在庫がなくなれば、
北野の近くの店から店頭在庫を貰い受けるというアナログ的な制度もある。
小売は現場が大切。
五感(嗅覚、視覚、聴覚、触覚、味覚)を総動員して現場からヒントを得るという。
数字だけでは見えない何かを五感でとらえるという。
社長は現場のその感覚が大好きという。
そのセンスで一般スーパーとは全く異なる店にしてきたという自負がある。
社長のポリシーはわかりやすい。
おいしいものを食べる、世界中からおいしいものを届ける、
それを五感で集めてくる。
地方に出店するのも、
地方のいいものを知る、集めるという目的があるからという。
店を出せば、地方のいいものの情報が集まってくる。
それを全国の店で展開する、
本当にいいものを、
いろいろな人においしいといってもらう、
との思いがある。
正に商売の原点である。
商品を右から左へと動かすことは。
多少語弊のある言葉かもしれないが、小売の原点である。
必要なものを必要なところへ届け、
その最適マッチングによって食生活を豊かにする、
という高邁なミッションを小売は持っている。
小売は社会インフラ的な業態なのである。
昔の総合商社には、「時差は金なり」
(三菱商事から出版された本である/1970年代の古き良き時代の商社の基本機能を語っている)、
というフレーズがあったが、地球の裏側で発見したものを、表側へと持ってくる。
その行為に対して対価をいただくという発想があった。
別の場所で安く仕入れ出来るものがあれば、
安く仕入れて別の場所で少し高く売る、そしてマージンを稼ぐ。
それでも消費者は安く買え、
かつ珍しいものを買えるとあらば、ハッピーということになる。
商社は、
地球規模で、商品、マネー、資源の「過不足を調整する業態」と考えれば分かりやすい。
この調整を短期でやれば「売買」という商行為になる、長期でやれば「投資」というビジネスになる。
小売にも、総合商社と同じような側面がある。
北野エースは、
そのような商売の原点を地で行く。
基本の基本に忠実である。
北野エースは次々と新しい試みを行う。
今、試そうとしているのは、買う前の試食である。
全商品を、その場で試食して買えればより完璧なCSを、お客様に提供できる。
しかし、コストとオペレーションを考えるとなかなか難しいものがあるが、
北野エースでは、この春これを実験するという。
これは、トラップと呼ばれるマーケティング手法である。
トラップとは、
罠(試食、試飲、サンプリング等の生活者の喜びそうな罠)を仕掛けることにより、
・その罠の中で、
・いきなりその商品を味わせ、
・家での食シーンを想像、食した気にさせ、
・買う気を起こさお金を出してもらう、
というマーケティングノウハウのことである。
(TRAP,RECOMMEND,APPLIED,PURCHASEの頭文字)
車の試乗はその典型的な手法である。
乗ってしまうとかなりの確率でその車を買うという。
D.北野エースのエンタメ性:
北野エースはお客様の満足度が高い。
喜んで買い物をする。
そのエンタテイメント感は、独自の品揃えポリシーが産み出している。
品揃えは、超・MDという言葉がふさわしい。
数が半端ではない。
■ 以下、サイトからの抜粋である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
地方独自の商品、海外からの輸入食材などを集めた圧倒的な品揃えで
「お客様が求めること」に徹底的にこだわり、付加価値を追求してきました。
グロサリーストアにおいては、カテゴリーを絞って専門性を高め、
半端でない品揃えで「CSの重要な領域である、選択の楽しさ」を実現した。
また、地域や立地条件の違いを踏まえた商圏エリアマーケティングを取り入れた。
店毎に独自の運営をし、まったく異なる店が出来た。
発想はすべて「お客様発信」。
今日教えられた商品は、明日店に並べる・・・、
これはと思う商品を思いつけば、即仕入れに入る・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
抜粋了。
レトルトカレーの品揃えはどのぐらいか。
売り場をみると、
レトルトの箱が本のように並べられ、まるでブック陳列のようである。
その数も50種と多いので、
お客様の心理は思わず手で取り出してどんなカレーか見たくなってしまう、
という。
しょうゆも140種あるという。例えばかつおだし土佐しょうゆ・・・・
MDが多いということは当然回転が極端に悪いものが多い。
しかし、これはお客様が、
喜びというヒューマン的な満足度を得ているのでOKとしている。
但し、売れないものを別の売れそうなものへ入れ替える、
という地道な作業を毎日実行している、
売場責任者の仕事は売れるものを、
いつも考えて仕入れ、棚に置き、
その刺激的な売場を維持することにある。
店舗責任者には、
品だしといった機械的な、機能的な無味感想な役割ではなく、
お客様に、驚き、喜びを与えるコンッシェルジェ的な役割が期待されている。
店の中で、
エンタメ感のある買物体験をしてもらうためには、
必要なものをただ渡す、
というような「小売業発想」はだめ。
超MDで、お客様を喜ばせる、
というサービス精神が不可欠とされる。
そのようなエンタメ的な社風が北野エースの経営資産となっている。
エンタメ的なものに素直に感動する社員が求められている。
北野のスタッフはエンタメが好きでなくてはならないが、
実は、北野社長自身が、最強のエンタテナーである。
東武百貨店の地下のスーパーに北野社長が現れた。
お客様へ自ら大陳商品を取り、封を開いて試食をすすめた。
ひとつ売れた。
商品デモはエンタメそのものである。
それを実践している北野社長。
正に現役バリバリである。
この稿おわり
追記:
小売にはいろいろな業態がある。
大手小売りに伍して行くには逆転の発想が必要である。
いわゆる差別性のある、ユニークな業態でなければならない、
これは、どの教科書にも書いてあることである。
北野エースを
「中堅のA/エース」にしたものは何だろうか?
その独自のポジション(=ブランド価値)が、
今の地位をもたらしたことは間違いないが、
実はそれだけではない。
いくら正しいこと(独自のポジション)を考えついても、
それを実現する意志の強さと実行力がなければならない。
北野社長は、根っからの商売人である。
店を楽しくすることが大好きな人である。
好きだから、信念もでてくるし、行動できる(やり通せる)ということになる。
やりきる実行力こそが、今の北野エースをつくったといえる。
往々にして、
マーケティングの成果があがるかどうか?
を議論するときに忘れられてしまうのは、
実行力である。
往々にして、成功事例研究は、知恵的なものに議論が集中しがちである。
これは筆者の過去の経験からであるが、
皆が知恵を出せば、やることの内容(戦略、戦術だったり)は、
誰が考えても大体同じようなところへ落ち着いてくる。
問題は実行できるかどうかである、
ということが多い。
北野エースは両方をきちんと廻した稀有の企業ということになる。
はじめに:
今、日本国内の経済状況を見ると、
欧州国債問題、米国の不景気、日本の大震災後・・・
と様々な悪材料がそろい、あまり芳しい話は聞こえてこない。
景気のいい話は少ない。
しかし、ここへきて、景気の足取りも緩やかに回復しつつある。
各種の指標は好転の兆しを示しているという。
但し、GDPの半分を占める個人消費の勢いは弱い。
個人消費はマクロ的にみれば低位安定状態である。
ここがなかなか活性化しない。
ひとついえるのは、
個人も、小売業者も、ものをつくる製造業者も、皆が努力して、
消費を伸ばす努力が必要ということである。
無駄なものを買い、浪費すると言う意味ではない。
生活が向上し個人の幸せ度が向上する消費が、
もっと増えてもよいという意味である。
そのためには、
・メーカーは、皆が買いたくなるようなものをつくる、
・小売は、皆が欲しているニーズを発見しメーカーに伝え、出来たものをきちんと仕入れ売り場に並べる。
ただ並べるだけではダメで、楽しく選べるように売場のエンタメ性を高めておく責任がある。
・個人も、ただいたずらに財布の紐を締めておくのではなく、
必要なものをキチンと目利きして購入する、買い物を楽しむという積極性が求められる。
ショッピングをもっとエンジョイし、潜在下に眠っている欲求を目覚めさせ、
生活に潤いを与えるという姿勢がいる。
さて、今回は北野エースの話である。
上記のような、今だからこそ求められる小売の役割を見事に演じている。
百貨店にも出店している、ユニークな食品専門スーパーである。
今、コモディティを扱う小売業態、例えばCVS、SM、百貨店・・・・・
はどこも厳しい状況にある。
基本的に儲からない。
何となく気を吐いているのは、CVS、食品スーパー、PBで稼げる超大手SM、
といったところだけである。
このような逆風の中、ユニークなポジションをとり善戦している企業が、
北野エースである。
今48店舗、200億円の売り上げ。
今年で50周年を迎える。
北野エースはどのようにして消費に喝を入れたのであろうか?
A.北野エースのUSP:
USPとは/ユニークセリングプロポジション、ユニークセールスポイントのこと。
商品や企業の独自の存在価値のことである。
北野エースのUSPとは何か?!
NEO・CSという価値:
北野エースには、3つのCSがあるように思う。
(これは弊社の仮説であり、北野エースからの話ではない)
・シェルフウォーキングCS(ユニークなものを見る楽しみ/ウィンドウショッピングのようなこと)
・セレクションCS(ユニークなものを選ぶ楽しみ)
・ビヘイニアCS(ユニークなものを買っておいしいと思うこと)
売り場には見たことがないものがたくさんあるという。
前回の来店ではなかったものが、今回の来店ではあったりと、
新しい楽しみを提供している。
「一回で三度おいしい」店となっている。
CSの本質は深い。
単純な総合的顧客満足度だけで判断してはいけない時代になっている。
北野エースのように、
CSを微分して、きめ細かく管理していくことが必要である。
調布店の話。
近くの西友で普通に買い物をした女性が皆、北野エースに入店していく。
上記の3つのCSがあるからだ。
食のテーマパークと呼ぶにふさわしい品揃えである。
店が違えば、品揃えが異なる。
社長北野の考え方・・・。
生活は生きている。
一駅違えば、売れるものが違う。
店の商圏が異なるのだから、売れるものがちがうのが当然なのに、
普通のスーパーでは、
チェーンオペレ-ションで統一したMDにしている!?
おかしいじゃないか?
と考えた。
ここに市場機会があると睨んだ。
また大手では絶対にできないことであり、
参入障壁が大きいということで、きめ細かい店つくりにチャレンジしたという。
例えば、
浅草店:高齢女性向けの和のスイーツが豊富。静岡の250円の「満腹どらやき」が大人気という。
川崎店:800種のワインコーナーがある、すごい迫力だ。
大宮店:惣菜が豊富、帰宅途中の勤務者が便利に利用する。
その店のエリアで何が評判になるか?毎日工夫をしている。
例えば、
毎日1アイテムを、別のいいものへ差し替える。
それを365日やり続けることが大切であるとする。
365日経てば、同じ北野エースの看板が出ていても、
全く違う店なっているという。
きわめて地味な作業である。
しかし、愚直に実践するので「エリア最適」の店ができる。
それは統一感のある整然としたチェーンオペレーションの姿ではない。
北野には、
「毎日変わる店、それが一番いい」
とする企業文化が育っている。
実は、北野社長にはトラウマがある。
普通にやっていては、大手に負ける!!というトラウマである。(詳細後述)
但し明治屋、大丸ピーコックのような高級スーパーを目指そうとする考えもない。
価格はキチンとセーブしている。
北野エースは、社長のトラウマにせかされるように(?)、
中間価格帯のエンタメオペレーション(先ほどのユニークな品揃え等々)を実践し、
高いCSを確保している。
全く新しい小売業態である。
B.北野エースのバイイングシステム:
北野エースのMD・品揃えを語るには、
独特の仕入れシステムに言及しなければならない。
仕入れの考え方が、逆転的な発想になっている。
地方へ出店する、そのエリアでユニークな評判の地元企業・産物を見つけ、
それを品揃えして実績、潜在性を見るという。
店は商品開発のインキュベーターという発想である。
地方で見つけたものを、
東京のバイヤー会議で取り上げ、
各店の店長・仕入れ責任者が、そこに参加して、
自分の店のためにそれらの商品を買うかどうかを決める。
本部バイヤーが決めたものを、
各店が一律に仕入れ店頭に並べるということはない。
各店の店長、即ち、自分の店の生活圏に精通している人が、
自分の目でスクリーニングして、買うものをその場で決める。
つまり、バイヤーと店の責任者がTWOWAY&スクラッチで渡り合う。
従って、本部バイヤーも必死である。
買うかどうかの選択基準は、
・食べて自分がおいしいと感じるか、
・家族にたべさせても安心か
という2つの視点だという。
きわめてシンプルで妥当性のあるスクリーニングである。
店舗は、その店の商品を売るだけではなく、
その店の商圏エリアでの仕入れの窓口ということが、
普通のスーパーと比べての大きな違いである。
また、店の責任者に仕入れの権限があるということは、
実は、自分で仕入れたものは売り切らないとかっこわるい、
ということになる。
従って、完売することが多いという。
自己責任感がでて、立派な実践教育にもなっているという。
エリアドミナントで効率よく仕入・物流(ロジスティク)を考えるというのが、
アメリカ型のチェーンオペレーションの基本である。
北野エースは、これとは真逆の手法・立場を取っている。
C.北野エースを取り巻く小売業態の実情:
1.CVSの状況:
今、CVSが調子いい。
正にコンビニの名前の通り、便利な業態である。
自宅の冷蔵庫代わり、急ぎで必要なときに最適だ。
しかし、一番の利点は個人対応商品に徹しているということだ。
スーパーと違い、
ひとりひとりの食べる適量が手に入るという点が、
もっとも大きい差別化となっている。
弁当、惣菜、スイーツ、パン、インスタント食品、菓子等、
皆、個別対応である。
CVSは、食品周りをみると、基本的にPB的なものが多い。
売れるものだけを、
味でも、容量でも、価格でも個別対応に割り切ってつくり込んで、
棚に並べる。
スーパーのように標準家族3-4人分をまとめた容量のものはない。
あくまでも個別対応である。
因みに、最近のCVSでは、
上年代層や女性の利用が急速に増えている。
・ 個人対応の小容量商品が豊富、
・ PB導入や、NB値引きにより、スーパーと比べても遜色のない価格になっている
等々の理由による。
2.GMSの状況:
GMSがしんどいのは、
生活者の抜本的、本質的なニーズに対応できていないからといわれる。
極端に言えば、GMSの唯一の利点は、
ワンストップショッピングという時間効率性である。
GMSは、
いろいろな生活物資を置くことで生活インフラになってしまっている。
公共事業のような側面を持たされている。
ほとんど人が歩かないような墓場のような売場も抱え込んでいる、
という苦しさがある。
但し、一部のGMSでは、
PBの豊富さで気を吐いているところもあり、
光明がひとつ差してきたともいえそうだ。
3.北野エースの変身:
北野エースは、もともと関西の普通のスーパーであった。
特売、安売りを武器に25店、270億円の売り上げまで成長した。
しかし、イオンやIYの郊外型大規模スーパーの進出で、
売り上げが150億円ぐらいまで落ち込んだという。
座して死を待つ、という状況になったという。
東京に進出して最初は大手量販店にはない「質」(品揃え)で勝負を掛けた。
一般スーパーという業態を捨てた。
しかし、なかなか実績に結びつかなかったが、
そうこうしているうちに大手百貨店にから出店の要請があり、
そこから大ブレークが始まったという。
北野エースには、
店頭オペレーションの鉄則があるという。
・つい寄りたくなる店
・毎日寄ってもあきない店
・品切れはご法度
の3つである。
買いに来たお客様には失望させない
在庫がなくなれば、
北野の近くの店から店頭在庫を貰い受けるというアナログ的な制度もある。
小売は現場が大切。
五感(嗅覚、視覚、聴覚、触覚、味覚)を総動員して現場からヒントを得るという。
数字だけでは見えない何かを五感でとらえるという。
社長は現場のその感覚が大好きという。
そのセンスで一般スーパーとは全く異なる店にしてきたという自負がある。
社長のポリシーはわかりやすい。
おいしいものを食べる、世界中からおいしいものを届ける、
それを五感で集めてくる。
地方に出店するのも、
地方のいいものを知る、集めるという目的があるからという。
店を出せば、地方のいいものの情報が集まってくる。
それを全国の店で展開する、
本当にいいものを、
いろいろな人においしいといってもらう、
との思いがある。
正に商売の原点である。
商品を右から左へと動かすことは。
多少語弊のある言葉かもしれないが、小売の原点である。
必要なものを必要なところへ届け、
その最適マッチングによって食生活を豊かにする、
という高邁なミッションを小売は持っている。
小売は社会インフラ的な業態なのである。
昔の総合商社には、「時差は金なり」
(三菱商事から出版された本である/1970年代の古き良き時代の商社の基本機能を語っている)、
というフレーズがあったが、地球の裏側で発見したものを、表側へと持ってくる。
その行為に対して対価をいただくという発想があった。
別の場所で安く仕入れ出来るものがあれば、
安く仕入れて別の場所で少し高く売る、そしてマージンを稼ぐ。
それでも消費者は安く買え、
かつ珍しいものを買えるとあらば、ハッピーということになる。
商社は、
地球規模で、商品、マネー、資源の「過不足を調整する業態」と考えれば分かりやすい。
この調整を短期でやれば「売買」という商行為になる、長期でやれば「投資」というビジネスになる。
小売にも、総合商社と同じような側面がある。
北野エースは、
そのような商売の原点を地で行く。
基本の基本に忠実である。
北野エースは次々と新しい試みを行う。
今、試そうとしているのは、買う前の試食である。
全商品を、その場で試食して買えればより完璧なCSを、お客様に提供できる。
しかし、コストとオペレーションを考えるとなかなか難しいものがあるが、
北野エースでは、この春これを実験するという。
これは、トラップと呼ばれるマーケティング手法である。
トラップとは、
罠(試食、試飲、サンプリング等の生活者の喜びそうな罠)を仕掛けることにより、
・その罠の中で、
・いきなりその商品を味わせ、
・家での食シーンを想像、食した気にさせ、
・買う気を起こさお金を出してもらう、
というマーケティングノウハウのことである。
(TRAP,RECOMMEND,APPLIED,PURCHASEの頭文字)
車の試乗はその典型的な手法である。
乗ってしまうとかなりの確率でその車を買うという。
D.北野エースのエンタメ性:
北野エースはお客様の満足度が高い。
喜んで買い物をする。
そのエンタテイメント感は、独自の品揃えポリシーが産み出している。
品揃えは、超・MDという言葉がふさわしい。
数が半端ではない。
■ 以下、サイトからの抜粋である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
地方独自の商品、海外からの輸入食材などを集めた圧倒的な品揃えで
「お客様が求めること」に徹底的にこだわり、付加価値を追求してきました。
グロサリーストアにおいては、カテゴリーを絞って専門性を高め、
半端でない品揃えで「CSの重要な領域である、選択の楽しさ」を実現した。
また、地域や立地条件の違いを踏まえた商圏エリアマーケティングを取り入れた。
店毎に独自の運営をし、まったく異なる店が出来た。
発想はすべて「お客様発信」。
今日教えられた商品は、明日店に並べる・・・、
これはと思う商品を思いつけば、即仕入れに入る・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
抜粋了。
レトルトカレーの品揃えはどのぐらいか。
売り場をみると、
レトルトの箱が本のように並べられ、まるでブック陳列のようである。
その数も50種と多いので、
お客様の心理は思わず手で取り出してどんなカレーか見たくなってしまう、
という。
しょうゆも140種あるという。例えばかつおだし土佐しょうゆ・・・・
MDが多いということは当然回転が極端に悪いものが多い。
しかし、これはお客様が、
喜びというヒューマン的な満足度を得ているのでOKとしている。
但し、売れないものを別の売れそうなものへ入れ替える、
という地道な作業を毎日実行している、
売場責任者の仕事は売れるものを、
いつも考えて仕入れ、棚に置き、
その刺激的な売場を維持することにある。
店舗責任者には、
品だしといった機械的な、機能的な無味感想な役割ではなく、
お客様に、驚き、喜びを与えるコンッシェルジェ的な役割が期待されている。
店の中で、
エンタメ感のある買物体験をしてもらうためには、
必要なものをただ渡す、
というような「小売業発想」はだめ。
超MDで、お客様を喜ばせる、
というサービス精神が不可欠とされる。
そのようなエンタメ的な社風が北野エースの経営資産となっている。
エンタメ的なものに素直に感動する社員が求められている。
北野のスタッフはエンタメが好きでなくてはならないが、
実は、北野社長自身が、最強のエンタテナーである。
東武百貨店の地下のスーパーに北野社長が現れた。
お客様へ自ら大陳商品を取り、封を開いて試食をすすめた。
ひとつ売れた。
商品デモはエンタメそのものである。
それを実践している北野社長。
正に現役バリバリである。
この稿おわり
追記:
小売にはいろいろな業態がある。
大手小売りに伍して行くには逆転の発想が必要である。
いわゆる差別性のある、ユニークな業態でなければならない、
これは、どの教科書にも書いてあることである。
北野エースを
「中堅のA/エース」にしたものは何だろうか?
その独自のポジション(=ブランド価値)が、
今の地位をもたらしたことは間違いないが、
実はそれだけではない。
いくら正しいこと(独自のポジション)を考えついても、
それを実現する意志の強さと実行力がなければならない。
北野社長は、根っからの商売人である。
店を楽しくすることが大好きな人である。
好きだから、信念もでてくるし、行動できる(やり通せる)ということになる。
やりきる実行力こそが、今の北野エースをつくったといえる。
往々にして、
マーケティングの成果があがるかどうか?
を議論するときに忘れられてしまうのは、
実行力である。
往々にして、成功事例研究は、知恵的なものに議論が集中しがちである。
これは筆者の過去の経験からであるが、
皆が知恵を出せば、やることの内容(戦略、戦術だったり)は、
誰が考えても大体同じようなところへ落ち着いてくる。
問題は実行できるかどうかである、
ということが多い。
北野エースは両方をきちんと廻した稀有の企業ということになる。