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■スキー場再生に見る未来のマーケティング視点!

2016年02月27日 | Weblog
■マックスアースの新しいビジネスモデル
スキー場再生という凄技に潜むマーケティングの新視点!



マックスアース。
2008の設立で今180億円の売り上げを達成したスキー場運営会社である。
今、スキー場を34か所、ホテルを29か所、
運営している。
半端ない成長企業である。

カンブリア宮殿で紹介された。
但し、マックスアースは、
スキー場再生分野の、ただの凄腕の請負会社ではない。

かなり本質的なマーケティングを展開し、
これからの日本のマーケティング戦略を考えるうえで、
多くの示唆を含んでいる、たいへんユニークな存在!
である。

社長は一ノ本辰巳さん。
もと国体スキー選手で、
兵庫・養父市のスキーロッジの実家でいつもスキーに親しんでいたスキー少年だったとのこと。
今でも、本社はその地にあり、行政の統合で廃屋になる寸前の決しきれいとはいえない、
元役場を本社としている。

以下、マックスアースのマーケティングを見る。
日本のマーケティングの今後の縮図ともいえる
新しい視点をご紹介する。

A.日本のスキー場の特殊性:

まず、日本のスキー場の現状から。

筆者も、
学生時代、20代のころはスキーが大好きで
毎週のようにゲレンデへ遊びに出掛けていた人種である。
スキーや、スキー場の知識はそれなりにあると思っていた。

しかし、番組で一ノ本社長が
日本のスキー場の特徴について説明するのを聞いて
目から鱗の感じであった。
改めて日本のスキービジネスの潜在的な価値の大きさに気づかされた感じである。

日本のスキー場は、今は600か所ぐらいあるらしい。

日本のどこにいても最大3時間あればどこかのスキー場へはいけるという。
そのような高密度な分布だという。
半端ないアクセスの良さである
南のあたたかい九州にも4か所、四国にも6か所あるという。
例えば、東京から一番近いスキー場へは2時間もあればいけるし
札幌という100万人超の政令指定都市からでも1時間もかからずにいける。

スキー人口は、
一時は1800万人にも達していた。

当時は、どのぐらいのブームだったのだろうか?

1987の映画・「私をスキ-に連れてって」は有名だ。
原田ともよ、三上博史主演のスキー恋愛映画に象徴されるように
スキーは若者の定番レジャーであった。

エグザイルの前身ともいわれる、
ZOOの1991のチューチュートレインという歌が、
JRのスキーキャンペーンのTVCMに採用されたのもこのころである。

しかし、今では、800万人弱に落ち込んでいる。

スキー人口が減り始めて久しく、スキー場は飽和状態で供給過剰になっている。
しかし、見方を変えれば、
いろいろなスキー場を楽しむことができるという
大変幸運にめぐまれた状況にあることが示され、なるほどと思った。

ある地方都市にリゾート気分で宿泊し
そこから毎日違うスキー場に簡単に遊びに行ける
という稀有な特徴を持っている。
このような国はスイス、リヒテンシュタイン・・・等々数える数しかないという。

一方、スキー場の負の部分を見てみる。

大都市から即アクセスできる便利なスキー場
という話の対極にあるスキー場の話である。

昔のスキーブームにのって、過疎地域にもスキー場がたくさん建設された。

これにより、
夏は農業をやり、冬は出稼ぎをしていた過疎地域は
冬にスキー場での雇用機会が発生し、民宿等の仕事が発生し、
出稼ぎの苦労から解放された。

しかし、ここにきて、
スキー場の来場者が激減してスキー場の経営が苦しくなり、破綻し、
地域の生活基盤が崩壊し、社会問題化してきたという話がたくさん出て来ている。


B.マックスアースのスキー場再生への思い:

マックスアースの一ノ本辰巳社長は、
スキー場破綻という厳しい状況に対して
どのような気持ちをもっているのだろうか?

両親のスキーロッジも地元にスキー場ができたときに建ち、、
それで生活基盤が出来たいう現体験を持っている。
従って、
スキー場の破綻という地域への負荷は肌感覚で理解しているという。

マックスアースの経営理念は
『持続可能な中山間地域の創造をめざして』
である。
ご自分の原体験を踏まえての経営理念である。

一ノ本辰巳社長。
最初は実家のスキーロッジの手伝いで、経営に携わり、
冬はスキーの子供たちのスキー旅行、夏は林間学校で数百人規模の学生を受け入れ
ロッジ経営を成功させたという。

そうこうしているうちに、
ある自治体経営のスキー場から、破綻寸前の運営委託の話が舞い込んできて、
自分がスキーとともに育てられ、スポーツとして青春を掛け国体にも出たという経緯から、
その運営委託を受諾し見事成功させたという。

その後様々な、経営が苦しい、もしくは廃止になったスキー場の再生を依頼され、
利用者目線でそれらを再生させていった。

託児所を創ったり、
ラニングコストが大切ということで1シーズンのリフトパスポートを三分の一にしたり
小さなスキー場をフィットネスというコンセプトでイメチェンしたり・・・、
スキーのスター選手を育成するために昼間の空き時間を選手強化用に開放したり、
名古屋から高速で2時間でこれるスキー場では、夜の11時まで夜間を開放し、
LEDでゲレンデの樹木をライティングしたり
と、
様々な付加価値を追求してきた。

個々のスキー場のサ-ビス業としての潜在的な価値を顕在化してきた。
但し、ここまではよくある成功事例で、
マーケティングセンスのある経営者、やり手というだけの話になるが、
その奥には意外な事実があった。

C.マックスアースの意外なマーケティング価値・CSVについて

CSV.

クリエイティブシェアドヴァリュー。

最近、脚光をあびてきた企業の社会貢献活動のモデルである。
単純な、あしながおじさん的なお金を出すという、
CSRではなく、企業、地域、生活者、全員が、ビジネスを通して、
WIN・WINの関係になる
という新しいサステナブルなビジネスモデルである。

但し、これが意外に難しく、各社、試行錯誤しているのが実情である。
その考え方は誰も否定しないが、なかなか実現が難しい概念でもある。

筆者もいろいろな社会貢献プロジェクトに関わり、
その道程の長さ、WIN・WINの関係を築く手間・費用については
厳しい実感を持っている。

マックスアースは、
たいしたもので、この「CSVモデル」を結果として実現してしまった。

スキー場という核をトリガーにして、その巧みな再生感覚の運営で収益をあげ、
並行する形で地域の活性化を実現させた。
その地域に、雇用、観光という産業・仕事の基盤をつくった。

地域の行政からは、
単に収益性だけを追うファンド系、大規模リゾート系の考え方ではない
と評価されている。
地域、市域の住民の暮らしが守られ、スキー場を利用する人のエンタメ感覚が満たされ、、そしてマックスアース自身の収益も確保されている。

20年ぶりにスキー板をはいてスキーを楽しんでいるシニアの笑顔、
お客様がたくさん来て嬉しそうにしている旅館の若女将、
皆が嬉しくなる、単純な事業の再生ではない、関係者全員のWINが達成されたという
CSVのひとつの型がここにはある。

一ノ本社長の原点。
それは、実家の近くにスキー場ができて実家がロッジ経営で再生し、
地域が、夏の農業、冬の出稼ぎという過疎のパターンから脱出出来た
という原体験に尽きる。

そのような原体験があるからこそ、
本気でスキー場の再生に取り組み、成果を上げることが出来る、
請け負ったスキー場運営においても、地域を説得出来る、
ということになる。

図らずも社会貢献と大上段に振りかざしたCSVとは異なる、
地道な事業を通してのCSVという視点は
今後の社会貢献の在り方に一石を投じたものと思われる。

D.マックスアースのマーケティングの本質とは:

マックスアースのマーケティングは
今の、将来の日本のマーケティングの縮図になっている。

前述のCSV的な側面とは異なる視点について目を向ける。

1. シニアマーケティングという視点:

今の人口構成のボリュームゾーンは団塊世代である。
そこが日本の消費を牽引していることは紛れもない事実である。

以前のスキーブームをつくり、スキーを大いに楽しんだ団塊世代。
しばらくスキーをやめていたが、
マックスアースの再生スキー場で、青春を再び謳歌して楽しむ人が増えているという。

ダイエット的にスキーヲ楽しむ、
健康維持ですきーを楽しむ、
昔の友人と一緒にスキー場へくる・・・・。
スキー場再生のターゲットのひとつにシニアという存在がある。
シニアマーケティングは大きなテーマとなっている。

シニアマーケティング。
これからの日本の高齢化社会における旬のマーケティングテーマである。

シニアは
一般的に、いろいろな意味で難しい側面を持っている。
マーケティングに関わる人々を悩まし続けている。
まず、世代の塊としてはマスだが、心、体、家庭環境、収入・・・
あらゆるところで、個体差が大きく
若いころの団塊のように、
集団として束ねてのマスマーケティングが通用しにくくなっている。

また、この世代を理解しているマーケティング担当者が皆引退してしまっており、
生活文脈の中の臨場感のあるマーケティング施策が打てなくなっている
のが実情である。

2. インバウンドマーケティイングという視点:

このところ中国、台湾、アセアンからの日本への旅行が一大ブームになっている。
東京オリンピックまでの4年間はそのブームはつづくものと思われる。

海外の人からみると日本の観光資源は本当にすばらしいらしく、
特に、雪は質も良く、ダイヤモンドの原石だという評価もある。
スキー場へのアクセスもよく、魅力的という。
日本のパウダースノーで一度は遊びたい、滑りたいらしい。

日本のアクセスのよいスキー場のコンパクトリゾート・コンパクトレジャーという
価値は、短い滞在期間のインバウンドの人には大いに受け入れられるという。
スキー場のおもてなし対応をどのようにするか、直近の最優先テーマである。

スキーはもともと上質なレジャーである。
昼は雪のゲレンデで楽しみ、夜は宿でくつろぎ、その場所のおいしい旬の食事を楽しみ、家族で語らう・・・・・・。
改めて、スキーレジャーの上質さをインバウンドの人が教えてくれているようだ。

3. ブランドマーケティングという視点:

自分の担当している商品・サービスはどのような潜在的な価値を秘めているのか、
いわゆるバリュープロポジション(競合にはない戦略的な差別性)は何かを
企業内のマーケッター、ブランドマネージャーは日々模索している。

今回のマックスアースの事例は、そのヒントを示してくれている。

スキーマーケットの人口が1800万人から800万人弱になり、
スキー場の危機的な、困難な状況をどう克服したのか?

マックスアースの一ノ本社長の
課題克服の処方箋は、事例研究として傾聴に値する。

その処方箋とは何か?
スキー場とひとくくりにせずに、個々のスキー場の個性を丁寧に、丹念に見つめて、
そこを花開かせるというものである。
典型的な個別マーケティングの展開である。

そのスキー場の
・対象エリアはどこか、
・どこから人を呼んでくるか、
・どんな人が標的になるか、
・どんな手段、ルートで来場してもらうか、
・平日か、休日か、一日の時間帯は朝か、昼か夕方か、夜か、
・どんな食事が必要か(まずいカレーとラーメンではどうにもならない!)
・子連れの方には託児所がいるか・・・・・・・
等々

サービス業として必要な5W1Hの創造にエネルギーを使っている。
いわゆる体験ジャーニーのストーリー化を行い、
ブランド価値のブラッシュアップを行っている。

最終的な満足を得られるかどうかは、
リアル、かつ鮮明にそこに遊びに来た時のストーリーを疑似体験でき、
それが腑に落ちることが不可欠である。
来るかどうかはその疑似体験が自分向きかどうかにかかっている。

そして期待をもって来場し期待に対する達成度が高ければ、
その人はそのスキー場のファンになり、
口コミで知人、友人へ伝え、それがどんどん広がっていくことになる。

4. サステナブル・ロングセラーマーケティングという視点:

ビジネスは長続きしなくてならない。
ましてや地域の活性化が伴うとなれば、より大切となる。

新ためて、サステナブル・ロングセラーという視点はマーケティングの中でも
最重要のテーマである。

信頼感のあるブランドで、安定した収益をもたらす商品・サービスの存在は
経営的にも必須のものである。

スキーマーケティングのロングセラー化に必要なことは何か?
それにはスキー人口の裾野の拡大に尽きる、
と考えられている。

以下、一ノ本社長の考え方である。

以前の1800万人は別として、
インバウンドの人数も加味して。1000万人ぐらいへの再生は可能ではないか
と筆者は考えている。

そのためにはスキー関与者のヒエラルキー・ピラミッドの大きさを拡大する必要がある。
まずその頂点つくることが肝要である。
即ちオリンピックや世界選手権での上位入賞者の排出が不可欠である。
それによって社会の関心が高まり、競技人口が増えてくることになる。
一ノ本社長は、自分もアルペン出身でもあり、
アルペンスキー選手の育成に熱心である。

頂点がしっかりしてくれば、
裾野の子供、学生人口もふえて、
若者のレジャーのひとつとして、きちんとビルトインする
という構図が描けるようになる。

フィギアスケートはそのような展開になっている。

浅田、羽生選手のようなスターが誕生し、
後にも有望選手がひしめき合っているという循環ができている。
ジャンプも高橋、葛西選手のようなヒーローが生まれ関心が高まっている。
アルペンスキーもそのような好循環が必要になる。

但し、アルペンについては、
競技としての凄さと同時にゲレンデでファミリー、友人、恋人同士が楽しむ
というレジャーとしての別の付加価値創造の余地がまだまだ残されていて、
かなり有望な分野といえる。

5. 非日常マーケティングという視点:

ディズニー、村上春樹がなぜあそこまで人気があるのか?!

それは非日常感を味わい、日頃の嫌なことを忘れ、精神浄化し、
すがすがしさを味わうという
特殊な体験願望が人の心の中にあるからである。

話は変わるが、
旅行はいつの時代も人気NO1のレジャーである。
それは、非日常という価値を体験できるからである。

雪に対して、雪がないアセアンの人々が憧れを持つのはごく自然なことである。

雪を見慣れている日本人でも、
ゲレンデの銀世界にくると、別の非日常の世界にはいりこめて、
本当に楽しくうきうきする珠玉の時間が体験できることは皆が知っている。

精神的な混迷の時代、うつの時代ともいわれている中で、
非日常は旬の本質的なマーケティングテーマである。

6. 多様性マーケティイングという視点:

今ゲレンデへゆくと
2本足スキー、スノボー、モービル、ショートスキー、・・・・いろいろな面白い道具がそろっていて、多様な楽しみ方ができるようになっている。

スキーを、スノボーをうまくなろう、的な楽しみ方だけではない
もっとゆるくスキーを楽しむというスタイルができてきている。

昔のようにかっこよく滑り、
皆からも目線を集めようとの意識はなくなっている。

スキーの多様な楽しみ方が浸透すれば、もっと裾野は広がる。
家族、友人同士でスキーへいったときに
かならず自分にあった楽しみ方が選べるようにれば、
皆がハッピーになれるということである。

一般論としてマーケットの成熟化が進めば、マーケットは多様化するといわれるが、
実際にそのようになっていくことが自然であり、
スキーレジャーもそのような方向へ向かわなければならない。

E.最後にスキーの楽しさとは

スキーへいく。

この満足度は天候により大きく作用される。

風が吹いて寒いとき、晴天でぽかぽかと暖かいとき、雨が降ってベタ行きのとき、
いろいろな表情を見せるのが自然の中にあるスキー場である。

スキーの目的は第一義的には、
大自然の中でスキーを楽しむということに尽きる。

一方、外がどんな天候であろうと、
楽しいのは、
宿に戻ってくつろいで食事をしたり、
おしゃべりをしたり、
ゲームをしたり、
温泉にはいったり・・・・・、
うきうきの至福の時間である。

基本、スキーは転地的な気分を味わえる旅行という側面がある。

旅行という異次元に入ると、
人は無邪気になり宿で皆と話したり、遊んだりというマインドになる。

もうひとつ忘れてはならないのは、
スキーをした後の
あのけだるい脱力感の、何とも言えない余韻である
そういえば、私はここにスポーツであるスキーをしにきたのだ!
と思う瞬間である。

スキーとは、
大自然の中のゲレンデで滑る楽しみであり、
仲間との絆を強める旅行であり、
運動・スポーツであり・・・・・・
一石三鳥の「レジャー」である。

スキーマーケティング。
日本の、今と将来のマーケティング課題がすべて詰まった、
要ウォッチのテーマであることは間違いない。

この稿終わり


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