■ 日経の大フライング?日立と三菱重工の統合「大発展時代の幕開け」?
はじめに:
日立、三菱重工の2社は統合へと向かう!
この記事が出たのは8月4日である。
これが間違いだったようだ。
日経朝刊としては、久しぶりに一面で大スペースを割いた記事だった・・・?
両者の提携・統合について、
火の無いところに煙は立たない・・・・・?
何かの兆候があったことは間違いない。
しかし取材がキチントできていたのかが問われる?
また、記事が先行して、
両者の提携・統合検討当事者がびびってしまい、
進み始めていた話を後戻りさせた、ということがあったのか?
それとも、もともと小火(ぼや)程度のものだったのか?
本当のところは分からない。
真偽はともかくとして、
このような大型の提携が待望されている、
社会的、経済的な背景は間違いなくある。
筆者のような上年代のものにとって、日立、三菱重工といえば、
日本のよき時代・高度成長時代を牽引した「重厚長大」産業の雄である。
その後、「軽薄短小」、「バーチュアル&リアル」といった、
時代を象徴する産業キーワードはいろいろと登場してきたが、
「重厚長大」は、特別な感傷を抱いてしまうキーワードである。
今回の話は、極めて重大な経営のTOP案件である。
日経の編集会議の中でも、
当該記事をあれほどの大きさで扱うことについては、
上年代の編集委員クラスと、若年代の現場記者との間で、
取材の真偽も含めて相当な議論があったことは想像に難くない。
今回の記事は、
それほど大きいネタであった。
日本経済の転換が叫ばれて久しいが、
そのパラダイム変化を象徴する、時代象徴的な案件であった。
A.日立、三菱重工、提携・統合の意味とは:
このところ大型の企業提携・統合の話が目につく。
このような大型提携・統合の話がでてくる背景とはなんだろうか?
今回の記事の真贋は別として、今回の記事の内容から考えてみる。
このところの大型提携・統合の動きには、
企業の経営・マーケティングを考える上で重要な
「3つのS」(スケール、スピード、スコープ)といわれる概念が
関わっている?
今やグローバルの時代である、といわれて久しい。
一つ目の事例:
昔、新日本製鉄は世界NO1の鉄鋼会社であったが、
今はビタルである。
世界中でM&Aを繰り返しあっという間に世界一になってしまった。
一見してスケールだけが優先されているように見える。
ビタルの場合は、
確かにスケールが大前提ということはある。
しかし、単純に大きいということではなく、
その大きさが、
スピードの速さ、スコープの柔軟さをもたらしている、
という側面は見逃してはならない。
グローバル経済の発展で世界中に需要が筍のように発生している。
コロンブス時代の「大航海時代」ならぬ、
「大発展時代」の幕開けともいえる状況にある。
ASEAN、BRICS、中東、アフリカと世界は発展途上国の勢いで、
世界の経済フレームがつくられている。
この旺盛な需要にこたえなければならない、となると・・・・、
世界に生産、物流、販売の拠点を設けなければならない。
それがあれば、世界の様々なオポチュニティの発生にスピーディに乗ることができ、
しかも局所的に生ずるリスクも他のエリアでヘッジすることもできる。
また、スコープの調整もスムーズに出来ることになる。
常に収益を最大化、最適化するというメカニズムが、
ビタルの中にビルトインされている。
二つ目の事例:
昔はドメスティク企業の典型であった小売業、食品会社は、
日本の厳しい消費者に鍛えられ、
過剰ともいえる製品品質を実現している。
超高品質を実現する製造・物流・販売のトータルシステムをもっている。
アジア・欧米で、その既存商品・既存技術を水平展開している。
最も分かりやすい規模中心のマーケティングの展開である。
その流れの中で、
現地ローカルの飲料会社、食品会社をM&Aする話は、
毎日のように記事となっている。
B.日立、三菱重工統合のグローバルな背景:
以下、日経の記事の骨子である。
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日立、三菱重工の2社は、
2013年の春に、ホールディングカンパニーを作って、
中核事業を統合する。
インフラ、環境・エネルギー分野での統合になる。
具体的には発電、鉄道等々が俎上に上がっている。
両者の統合で表面的な売り上げ高は12兆円規模になる。
しかし、世界にはGE・・・・・といった大きな同業会社がひしめき合う。
予定される利益率ROE(リターンオンエクイティ)は一桁台でかなり劣る。
10%を超える競合に比べると見劣りする。
世界のGDPの伸びはこれからもBRICS中心に高く維持される。
またバングラディシュも含めた第二の途上国もどんどん発展してくる。
世界のインフラ基盤整備、エネルギー開発分野はこれからが本番になる。
実は、これらの分野には、上記のような世界の大企業が、
昔からエントリーして実績を残している。
日本企業が単独で世界の雄と戦うビジネスモデルは、
もはや通用しない時代になってきた。
その象徴として両者の提携話があった。
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といったところが記事の概要となる。
日本の企業が、単独で高品質を武器に挑戦しても、
コンペでは勝てない状況が続く。
韓国などは、インフラ整備事業に数十年ものアフターケアを政府主導でおこなう、
という大胆なフレームで受注増に励んでいる。
政府は民間企業の成約を徹底的にサポートする。
日本では、地方分権の流れの中で、
政府の役割は外交、防衛、国民福祉等々と狭く限定しようとの動きもある。
国民生活の安定と発展ということ、
外交の意味を広く貿易・交流の発展ということまで取り込めば、
経済外交、首脳先導の経済活動は政府の重要な仕事になる、
という意見もある。
アメリカは民間の自主性を尊ぶお国柄である。
民間活動の活性化で大衆の生活がよくなるなら、
自由主義を標榜しながら、時には輸入制限も辞さない国である。
世界を見渡すと、
・ 巨大プロジェクト
・ 超ハイリスク事業
・ 長期アフターサービス事業
・ 超複合システム事業
・ 超ハイテク事業
・ インフラ事業
といった特徴を持つ産業カテゴリーで、
グローバル経済の発展に伴う大型の引き合いが目白押しとなっている。
具体的には、
原子力発電、都市建設、鉄道事業、巨大プラント建設、コンビナート建設、資源開発事業・・・・・
等々である。
これらの受注は国際間の、グローバル企業との競合になる。
また政府を巻き込んだ政治的な競合にもなる。
世界の規模からみれば、
日本のひとつの企業の規模、ノウハウでの受注の確率は極めて小さくなる。
何社かの知恵、人材、ノウハウの集合体と政府の支援によるコンペ参画が不可欠である。
コンペで受注するために、
コスト競争力、アフターサービス力、収益力、コアコンピータンス
等を高めることが不可欠である。
その切り口はT,S、Hになる。
T/時間軸:スピード、アフターサービス、保証の期間
S/空間軸:インフラ全体にかかわる地理的な広さ、グローバルな資源、パーツの調達
H/人間軸:人財メンテナンス、人材の多様性確保、人のローカライゼーション
これらをマネジメントするノウハウ・テク、マネー、体制・組織は、
半端なく大きなものになる。
一社の単独マターではありえない。
日立、三菱重工の統合は間違いなく必然ということになるのだが・・・・・・??
C.日立、三菱重工提携・統合のKFS(KEY FACTOR FOR SUCSSESS)とは:
当該記事を読んで感ずるところがあった。
この提携・統合話がもし進んでいたとしたら、
最終的にはうまくいったのだろうか?
客観的にみると、
両者はいろいろと難儀なことが生じても、
それらをしのいで、統合を成功に導くことができた、
と筆者は考えている。
以下、その理由である。
・外国のインフラ整備等の大きな中核事業で、
お互いの強みを生かして、弱点を補って、
一緒にやりましょう、という話しはこれまでも何回もあり、
ジョイントベンチュアなどの体制を組んで十分に経験を積んでいる。
この種の提携・統合は、
大企業が過去の続けてきている、
企業間提携の範囲での話しであり、
とっくに経験済みであり、カルチャーショックをうけるような怖い話ではない。
・メリットのあることを共同でやる、
ということは、合併ではないのでうまくいく。
中核事業をホールディングカンパニーをつくって、
一部の事業から統合していくというのは、
形は違えど経験済みであり想定の範囲の話である。
・一社では取れない確率が極めて大きいということもあり、
互いに争っている場合ではない、
という切羽詰まった事情があり、これも提携・統合の成功への追い風になる。
・原発事故という背景がある。
原発事故で日本ブランドが傷み、
他の大型事業のマネジメントノウハウ、基本技術・ノウハウも、
雲がかかったような見方をされ、翳りが生じている。
両者、力を合わせて、
日本ブランド毀損の障害を少しでも和らげていこう、
という意味が働く。
いろいろな角度から見て、
両者の一部中核事業の提携・統合は、
問題なく進むということになる、のだが!?
しかし、評論家的には、正解のことでも、
人間のやることになると、なかなか簡単にはいかない、
ということになる。
また次のことも、
この提携・統合話が、フォローの風にのる材料ではあったのだが・・・。
もともと日立も三菱重工も巨大企業であり、
社員は日立、三菱という在籍証明はあるものの、
事業部が異なれば、会社生活の中で一度も会わすに退職する状況にある。
同じ会社とはいえ、異なる事業風土(一種の職場風土)で過ごして定年を迎える。
まったく異なる会社の従業員といってもいい。
日立、三菱重工は、
もともと違う会社の集合体という感覚の大組織である。
従って、
実際には、今回の提携・統合の話には大きな違和感はない!
というのが社員の本音だと思う。
ただ、あまりにも大きな話であり、
大会社がつながるということの心理な衝撃があったことは容易に想像される。
特に役員層で、
若い頃入社して定年近くまで慣れ親しんできた会社が、
異なる会社と一緒になる、ぶつかり合うというエネルギーは、
半端ではなく大きいもの、
と感じられたのは事実であろう。
兎にも角にも、両者の提携・統合という話は幻に終わった。
D.国内再編と世界進出の本質とは:
『大発展時代』の経営・マーケティングの有り様とは?!
日立、三菱重工の2社は、国内マーケットで、
自治体、国のインフラ企事業、電力会社、鉄道会社と安定的な絆で結ばれ成長してきたが、
この失われた20年間は、
そのまま両者の減速の20年間だったともいえる。
これからは海外で受注するという選択が不可避のものになる。
そこしか成長の目はない。
日本企業は消費者に育てられたとよく言われる。
厳しい消費者の目にかなうように、品質の向上に努めてきた。
それが『日本品質』である。
しかし国内は過当競争がつづく。
不毛な小さいことの差別性にエネルギーを使うより、
国内再編に尽力して、
世界に進出して大型案件を受注し、
世界の『大発展時代』に貢献することが重要である。
国内再編は不可避である。
韓国と比べてGDPに対する企業数が多すぎる、
という指摘はよくある。
乗用車、総合電気しかりである。
『大発展時代』というメガトレンドの中で、
この日立、三菱重工の統合は国内企業の再編の呼び水になれば
との期待が高まっていたことは事実である。
最後に、
スケール、スピード、スコープの「3つのS」について、
マーケティング的な観点で簡単に整理すると、
以下のようになる。
・ スケール:
規模が大きくならなければ収益の絶対額、率もあがらない。
マーケティング投資もままならない。
規模が小さければ、シェアが下がりいいポジションがとれない。
やがて事業終了・市場からの退場ということになる。
・ スピード:
社会、マーケットの成長・衰退のスピードは極めて速い。
ニースの変化・進化・深化も半端なく早い。
それに追いつかなければ、競合に負けサステナブルな事業にはならない。
・ スコープ:
「選択と集中」が、マーケティング投資の効率を高め、収益性を改善させる。
事業領域とそれに対応するマーケティングノウハウの範囲はどんどん変わる。
それを的確に見極め経営・マーケティング資源をシフトさせていくことが重要である。
「3つのS」は、
企業の単純な経営・マーケティング手段(ツール/ノウハウ)ではなく、
「大航海時代」ならぬ
『大発展時代』の経営・マーケティングのクリティカルポイント、クリティカルパス
である。
この稿おわり
追記:
この両者に限らず、
重厚長大の大型提携・統合・合併案件は、
今後も紙上をにぎわすことは間違いない。
もしかすると、
日立、三菱重工が復縁か?、
という記事が大スクープされる日が来るかも!