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■ 幼児専門業態・西松屋、C.S.NO1の秘密・奇跡!

2011年12月17日 | Weblog


■ 幼児専門業態・西松屋、C.S.NO1の秘密・奇跡!

アパレル部門で西松屋がNO1になった。
二位は若者に大人気のローリーズーファーム、
三位はユニクロである。

何が受けているのだろうか?

A.西松屋、非常識の店舗経営とは?:

西松屋とは?
服を中心としたベビー、幼児向けの小売業態である。
老若男女全員がターゲットではないので、
一般的にはあまりなじみのない企業である。

店内に入ってみた。
閑散とした店内、こんな賑わいのない店に人がくるのだろうか?
が第一印象である。
一日当たり330人を超えて繁盛感が出ると、
10KM以内に追加出店するという。

たくさん来店者があると賑わっていてよい、
というのは昔の小売のパラダイムという。

例えば、
店先にセールのワゴンを置いて、人をひきつける。
賑わい感、お得感を演出できるツールとしてワゴンは小売のコモンセンスであった。

西松屋は、
ワゴンを外して売り上げ、客の流れ等々を実験してみた。
結果は、常識とは違っていた。
特にベビー用品を扱う西松屋では、
母親がこどもの手を引いて、こどもを抱いた状態で
エントランスのワゴンセールに集まってきて商品を漁るという行為が
成立しないのだという。
ワゴンは廃止となった。

今の時代、消費者は、
「我先にお得なワゴンにとびついて人より先にお得なものをとる!」
という行動を取らなくなっている。
言い古されているが、ニーズが個性化、多様化している。
気に入らないもの、自分に合わないものは安くても魅力を感じない。
ワゴンは過去の販促手段であり、遺物である。

マネキンもそうだ。
マネキンのスペースは西松屋にとっては無用の長物であった。
マネキンに着せたコーディネートをまねする人は、
誰もいないという結果からこれも廃止となった。
マネキンのとるスペースはデッドスペースにしか過ぎないという結論である。

現社長は元鉄鋼マンで技術屋さんである。
「なぜ?」という疑問で小売の常識が覆されていく。

そして行き着く先が、
あのさびしい店舗である。
さびしい店舗が今の母親をひきつける。

さびしいのではなく、ゆとりがあるということらしい。
母親が子供を抱えながらでも、子供の手をつなぎながらでも、
ストレスを感じることなく物が選べるという機能に特化した結果が、
たまたまさびしいという印象になるだけという。

C.S.NO1の称号は、
閑散とした店舗からもたらされた。

B.西松屋、売場管理の非常識:

売場の評判はよい。

通路の幅は2.7Mあり、通常の小売業態の2.0Mよりかなり広い。
買物用手押しのワゴン、3台でもすれ違いが出来る。
買物ワゴンをその場において、
子供のために、
ゆったり、ゆっくり品定めができる。

選択するという母親の行為をサポートしているのが、
人のいないゆとり感のある幅広の通路である。
自分がしたい買物をストレスなくできる環境を提供している。

個人がどのように感じるか、が重要という。(この場合は母親)
周囲の他人が、ざわめいて無性に何かを物色している、
そんな小売独特のノリ・賑わい感に関心がない母親が増えている。
マイペースの生活者(母親)が増えれば、
店の賑わいは二の次でよいということになる。

あくまで母親が、
いかに気持ちよく商品が選べるか、
という購入決定までのプロセスを整えることに注力すればよいことになる。

賑わいで繁盛感を醸し出し、他人が何を買うかを気にして商品を選ぶ、
という高度成長時代的な消費行為はなくなりつつある。

今の母親には成熟社会に育ち、物への執着はない。
人と争うように物を買い、
人にそれを見せて悦に入るという消費モデルとは、
無縁の母親が増えている。
特に子供服のように個人の嗜好性が強く生じる分野ではなおさらである。

今は、
自分がマイペースで買い物ができ、自分で選んだという満足感が重要となる。
いわゆる選択CSの高さが求められる。
特にリーマンショック後のスペンドシフト消費の中、
大震災の後遺症が残る中では、
消費心理が萎えており、浮かれた消費意識はさめてきている。

もうひとつ、
西松屋の顧客は、
普通の小売業態とは根本的に異なることを見逃してはならない。

お客様は子供と母親である。
とくにベビーはかわいい自分の分身であり、変な意味ではなく、
自分のペットである。
とにかくかわいい。
目の中に入れても痛くない。

何を買ってやろうかな?
と考えるだけでも楽しい。
いろいろと選ぶ、そのひと時が至福の時間となる。
自分のものを買うより熱心である。
母親は物を買うのではなく、「選ぶ時間」を買っているのである。
納得いくまで選んで、それで母親と子供の絆がより強くなる、
そんな心理的な満足感を求めている。

従って、選ぶ場所と時間がきちんと提供できなくてはならない。
それがあの閑散とした店舗ということになる。

では売場はどうなっているのだろうか?
西松屋の陳列はちょっとかわっている。

店のエントランスを入ってまず圧倒される。
天井まで届かんとする高さ5段の、0-3歳の女児服の正面を見せた陳列である。
高さは相当高いが、通路が2.7Mあるので、
圧倒的な迫力と量感で迫ってきつつも、
圧迫感がないという不思議な売場空間になっている。

よくいわれる圧縮陳列のような、
狭い売場にものがあふれ出ているような場ではない。
でも閑散とした墓場のような売場でもない。

因みに圧縮陳列とは?
売場で、商品をところ狭しと、ぎゅうぎゅうに詰めて、
商品があふれ出るような空間にする。
売場の商品の渦で、人の心に催眠を掛け、購入を誘うという陳列方法である。
商品が詰め込まれた売場で、
自分の欲しいものを探すというトレジャーハンティングを楽しんでもらうゲーム空間になっている。
事例としては、
ドンキホーテが有名である、
船井総研の陳列技術ノウハウとしても有名である。

西松屋は、この一般的な圧縮陳列とは違う。
商品の圧縮度、集中度が半端ではないにもかかわらず、
ゆとり感のある、選択行為がスムーズにいくような陳列である。
全く新しい陳列システムを実現した。

母親が幼児の服を見るときに、
高い場所にある服を見たければ、ながい取鳥竿のような棒で自分でとりだす。
いちいち売場管理者を呼ばない。
取った服を子供に合せてサイズ感、色合い感を見る。
ボトムスとトップスが同じ場所に並んでいるので両者を取り出して、
合せてコーディネートを確認することもできる、

一連の選択行為をうきうきしながら楽しんでいる。
女子が家の中で、
友人同士で、服を着まわしてミニファッションショーをやるというノリである。

新しい圧縮、集中陳列で、
人のコストは極力セーブされている。
店舗運営は通常2人でおこなっている。
手の掛かる売場の仕組みは極力排除して、
オペレーションが非常にシンプルになっている。
それでいてお客様は、
自主的に物を選んで、大満足で、
まったくC.S.は下がらないのである。


C.西松屋の商品・サービス(服)、その新発想とは:

西松屋は小売である。

何を売るかといえば幼児の服が中心となる。
西松屋の幼児服には、どんな仕掛けがしてあるのだろう。

子供服には4つの要素が必要である。
・かわいい(に代表されるデザイン性)
・安全
・丈夫
・安い
である。

西松屋はこれらを同時に実現した。

まず、かわいいである。
実は奥が深い話になる。
かわいい服がどの位品揃えされているか?
が大切な点になる。
店では、母親が一生懸命、でも楽しく服を選んでいる。
あれだけの大量陳列でかつ、通路でしっかり合わせて決めていくので、
気に入りのものが見つかる確率は間違いなく高い。

もし検討して見つからなければ買わないということになる。
実は、それはCSの向上にも繋がる。
衝動的な、ただ価格が安いからという購入では、
家庭へ持ち込んで使用するときは、満足度は低くなる。
店で納得して買物してこそ使用場面での満足度も高くなる、
という道理である。

また、価格の低さが西松屋のヒットの大きな要因だが、
価格が低ければ、商品に対する期待値も抑えられる。
100点満点で満足ではなくとも、
60-70点の満足でも充分という気持ちで購入する。

従って、メチャかわいくなくとも、
結構かわいいじゃん!でも購入決定に至る。
価格の低さが、かわいいの選択範囲を極めて広げているといえる。
幼児がふだん着る服への要求水準はもともとそんなに高くはなく、
さらに価格が低ければ、
余計かわいいの許容範囲が広くなる。
因みに西松屋の幼児服は1000円前後のものもある。

次いで、
実用性、安全性への配慮はどうだろうか。
低コスト追求で犠牲になっていないだろうか。

ボタンやポケットがあるものは一部はそれをプリントで表現した。

デザイン的にはそれでかわいく見えれば全く問題はない。
また実用的にも困らない。

ボタンをとめる作業はいらなくなる。
ボタンが取れてしまうという不都合もおこらない、
ポケットに何かを入れるということも幼児の場合はない。
実用的にはプリントで充分なのである。
ボタンやポケットに何かが引っかかって面倒なことにならない、
という安全効果も生じている。

プリント方式は、
幼児服を極めて低コストで供給できる発想である。
母親の気持ちの転換があれば成立する話である。
母親は、
低コストメリットとプリント方式の低イメージを比較考量し、
子供服が半年―1年もすれば着れなくなってしまう現実を考えて、
西松屋を積極的に利用する。
西松屋の考え方は実に優れものということになる。

この4点セットのメリットをとことん追及していくと、
若い母親は自分の子供を着せ替え人形のように着せ替えて、
子供のかわいさを最大限引き出すことができる。
あたかもファッションデザイナーのように。

D.西松屋、今のマーケティングトレンドへの適合性:

西松屋は、今の時代のマーケティングトレンドに乗っている。
だから、C.S.がNO1となる。

トレンドは3つある。

1. CS概念の変化に対応した。

西松屋は小売のCSの概念を変えた。
(トレンドにのっとったCSに変化・対応できた)

母親は、西松屋ではじっくりゆっくりマイペース(親子ペース)で買物ができる。
慌てふためいてばたばたと買い込むという状況はない。
選ぶプロセスを楽しんでいる。
母親には選ぶことを適当にしてしまい後で後悔したくない、
という心理がある。
自分の選ぶ行為を大切にしている。
高度成長期のものが欲しいということではなく、
自分にあったものをしっかり選べる、
という新しい満足度を求めており、西松屋はそれにミートしている。

2. 小売の経験則に科学を持ち込んだ。

小売に、最初に科学を持ち込んだのはセブンイレブンである。
単品管理、チームマーチャンダイジング等々革新的な試みをした。
日本の小売に旋風を巻き起こした。

地味だが西松屋も中々のものである。

経験則、業界の常識を尊重しつつも、
それは本当か、科学的にはどうなんだろうという、素朴な問いかけで
徹底したコストダウン、
即ち、人員の絞り込み、仕入れ原価の低減、オペレーション工数の低減等々
を図った。
また、小売の原点、店で物を納得行くまで選んでもらう、
ことに対して徹底的にチャレンジしている。
小売なんだから、服をしっかり見せ、試してもらうという原点に立脚する
という気概を持っている。

例えば、ワゴンが存在すると、その上、その下の空間はどのような意味が生じるのか?
無駄になっているのではないか?
非効率になっていないか?
と問う。

例えば、店舗の適正サイズという目標をしっかりと持ち込んだ。
1日に330人を超えると一人のお客様へのCS対応力が落ちてくる。
充分なケアが出来ない。
だから近くに出店する、という理屈だ。

例えば、特定ターゲットに対応した店だから余計な人はこなくてもよい、
と割り切る。
店員数は少なくてよいし、逆に密度の濃い接客が可能になる。
店舗立地も第一級の幹線道路でなくても、
少し裏の通りでもいいということになり、
低コスト出店が可能になる。

等々

3.ファッションスタイルのトレンドにのった。

生活者の服の選び方が変わってきた。
西松屋の品揃えは、今風の服の選択心理にミートしている。

FFについて語らないといけない。
今、FFが流行っている。ファストファッションのことである。
なぜ流行っているか?
H&M、ユニクロ、ギャップ、フォーエバー21等々は、
なぜそんなに盛況なのか?

理由1:
値段が安い。

理由2:
いいものをしっかり選んで着るという志向がなくなってきた。
キチントいい服を選ぶ目利きはもともとない。
気に入ったと思って、買っても案外着ていない、
中には一度も着ないでそのままクローゼットにしまったままという服もある。
安ければそのような無駄になる服がでてきてもあきらめられる。
安くいろいろと買うことで確率的に自分のお気に入りの定番服がでてくる、
という割り切った買い物もできる。
FFのお陰で、
ある程度無駄がでても最終的に自分寄りのものが見つかればいい、
という買い物スタイルが可能になった

理由3:
買っても着ない、一回来て着なくなるようなことを結構経験している・・・?
買って家に帰ったら何となくパットしない感じで、
仮に着なくなってしまったとしてもあまり苦にならない金額である。
FFは、逆に買物の失敗が許される金額レベルにある。
失敗してもトラウマが、落ち込みが少なくて済む。
そのような金額設定業態がFFである。
FFは失敗が許される業態である。

理由4:
安価なものをたくさん買って重ね着したほうがいい
今はカジュアル全盛で、
個性的な重ね着が社会的に許される時代である。
いろいろな種類で、様々なカジュアルの七変化を楽しみたい。
FFはデザインも多様だし、少し日本的でないセンスも楽しめるし、
おまけに安いので気軽に買える。

理由5:
安いから家着にも、日常の普段着にも転用できる。
つまり汎用性があり、使用パフォーマンスが高くなる。
FFは極めて合理的なお買い得な買物の場である。

というようなことで、
不景気、大震災後の消費意欲の減退の中でもFFはひとり気をはいている。

実は西松屋の幼児服も同様である。

FFの発想、コンセプトに近い。

子供はどんどん大きくなる。
また、子供は小さいながらファッションの好みがでてくる。
この色は嫌、このデザインは嫌、ということを意思表示する。
とたんに服は使えなくなる。
買った服はすぐ陳腐化する。
着れなくなった服は、
お蔵に入れておくか、捨てるか、リサイクルにするか、すぐ下の子供が廻すか、
といった運命となる。
もったいない話が多くなる。
従って、安くて、多様なデザインのものを数多く買うことが望ましい
ということになる。

西松屋は、マーケティングの基本トレンドを正面から見据えて、
粛々と実行してきた会社である。

E.最後に:

西松屋のあのさびしい感じの店舗は、
極めて合理性の高い非常識だが超常識なマーケティングの結実である。

その発想は、
素人の元鉄鋼マン社長の0ベースの発想法から生まれたということに、
驚かされる。
革新は、いつも素人のなぜ?という問いかけから始まる。

この稿おわり

追記:
近づいてきた年末・新年は、西松屋とは「違う発想で」??!!

■クリスマスは年末の大イベントなので、賑やかにいきたいものですね。
今年の災いを払拭して元気になれるようにと!

■お正月の福袋セールでは我先に安くていいものを、
とりたいですね!

福袋は、
日本のお正月の恒例行事・イベントです。
イベントなので、狂騒感がないと盛り下がります。
福袋の中に何が入っているの?一種のゲームをやっている感じで、
我が家の女房殿、娘なども目を輝かしています。
日本の小売業は良心的で、
品物を厳選して袋の中にいれており、
個々の商品テーストはそれなりのものです。
もちろん自分に合う合わないはありますが、
友人同士、家族同士で交換すれば充分満足度は維持されるようにつくられています。
自分のふだんの行きつけの店、百貨店の福袋であれば、
自分の好みから外れたものではないはず、
という安心感もあります。

やる以上は、福袋は「我先に頑張ってゲットしたい」ものです!
何せ正月ですから???
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