イブラシル歴687年11月
第一砦で倒れたリーゼの受けた傷は思いのほか酷かった。
街へ戻る時も自力で歩く事は出来ず、オレが背負って連れて行ったが
街に着いてからも調子が戻らぬまま宿で寝込んでしまったのだ。
傷が塞がるのも遅く、そして傷が原因で発熱していた。
街の医者に診てもらい、医者の指示通りに安静にしている。そのおかげ
で傷の方は随分と良くなった。
だが、熱は一向にひかないままだ。
リリ姐さんが、日に何度もリーゼの部屋へと足を運び癒しの術を使って
いる。それでも熱はひかない。
リーゼの部屋から出て来た姐さんが俺にそっと耳打ちする。
「んー……身体の傷の方は良いんだけど、心の傷がね……。
こっちは法力で簡単にどうこうってワケにはいかないから。
まぁ、後はあの娘自身の問題。
下手したらここで折れるかもね、ヴェーゼンドルファの槍は。」
心の傷。
何がリーゼの心を傷つけているのか。
リリ姐さんのオレを見るジト目や、アルトの溜め息を見ていればいくらオレ
でも分かる(それが無くても大体の見当はついているが)
他の面子と違って、特に街で済ませる用事もなかったので、出来るだけ
リーゼの様子を見るようにした。
そっと部屋に入り、ベッドの横に座って眠っているリーゼの額のタオルを
替えてやる。熱がまだ高いのだろう、リーゼは赤い顔をして何かを呟いて
いる。
「…ごめんなさい、ごめんな…さい。」
タオルを替えたオレの手をリーゼの小さな手が握りしめた。
とてもか細い力で・・・
「これ、以上、シュラさんが…傷、つくのイヤ…だった、前に第二砦で…
シュラさんが何度も倒れたのは、私をかばってくれた、から…
だから今度は、わたしが…わたしの大切な人のため、に…」
その言葉を聞いてオレはもう何も言えなくなっていた。
とても真っ直ぐな気持ちが自分に向けられている。その気持ちをどうして
無視する事が出来よう。
…自分にその気持ちを受ける資格等ない わかっている。
それでも・・・オレは
そっとリーゼの顔を覗き込み様子を見ようとした瞬間
「ぎゅるぎゅるぎゅるるるるー!」
盛大にリーゼの腹から大きな音が聞こえ、同時にリーゼが飛び起きた。
リーゼの顔はモロにオレの顔面を直撃して、オレはそのまま後ろにひっくり
返ってしまった。
「いってぇ~っ!いきなり起き上がる奴があるか!」
何やら柔らかい物が唇にブチ当たったような気がしたが、それよりも何よりも
痛い。どんだけ勢いよく起き上がったんだ? そんな元気があるなら大丈夫
じゃねぇのか?
それでもリーゼの顔はまだ赤くて息も早い。身体の調子はまだ良くないようだ。
「ちょ…いま、シュラさん変な所に口をくっつけませんでしたか!?
っていうか、何で人が寝てる所に…」
視線を逸らしながらリーゼがぶちぶちと文句を言いはじめた。が、またその
途中でリーゼの腹が鳴る。 唖然とした顔をしていたら、リーゼは毛布で顔の
半分を隠しながら上目遣いでオレを見て
「それより…おなか、すきました…」
ポソリと一言そう言った。
その様子があまりに可愛かったので、笑いながら鞄から桃缶を出してリーゼに
食わせる事にした。
(街に入ってすぐに雑貨屋で買っておいて良かった…)
桃を食べた後、リーゼはベッドの横に立てかけてあった槍をオレに手渡そうと
したが、熱のせいで力が入らないのだろう、バランスを崩して倒れそうになり
慌ててオレはリーゼの身体を抱いて支えた。
何故無茶をする。そんな物オレに一言「持って行ってくれ」と言えば済む話じゃ
ないのか? リーゼの身体をベッドの上に寝かせた後、槍を自分の座る椅子の横
に立てかけてリーゼの顔を見る。
「駄目なんです… わたしもうこんな大きな武器持て…ませ…ん…」
言葉を詰まらせて リーゼは小さな声でそう言った。
大きな瞳から涙が溢れていた。
リリ姐さんの言葉が頭をよぎる。
「ここで折れるかもね、ヴェーゼンドルファの槍は。」
そんな事…あってはならない。
リーゼはパーティにとってなくてはならない存在だ。リーゼがいなければオレ達
は皆困り果てる事になるだろう。戦力としてだけではない。その存在がパーティ
に必要なのだから。
どうすればいい。
リーゼは何を望んでいる?
オレが彼女の為に出来る事は何だ?
腹を括らねばならない。
彼女の望みを叶える事。その気持ちを受け止める事。
…真実を知られた時に拒絶され、オレの心が傷ついたとしても。
第一砦で倒れたリーゼの受けた傷は思いのほか酷かった。
街へ戻る時も自力で歩く事は出来ず、オレが背負って連れて行ったが
街に着いてからも調子が戻らぬまま宿で寝込んでしまったのだ。
傷が塞がるのも遅く、そして傷が原因で発熱していた。
街の医者に診てもらい、医者の指示通りに安静にしている。そのおかげ
で傷の方は随分と良くなった。
だが、熱は一向にひかないままだ。
リリ姐さんが、日に何度もリーゼの部屋へと足を運び癒しの術を使って
いる。それでも熱はひかない。
リーゼの部屋から出て来た姐さんが俺にそっと耳打ちする。
「んー……身体の傷の方は良いんだけど、心の傷がね……。
こっちは法力で簡単にどうこうってワケにはいかないから。
まぁ、後はあの娘自身の問題。
下手したらここで折れるかもね、ヴェーゼンドルファの槍は。」
心の傷。
何がリーゼの心を傷つけているのか。
リリ姐さんのオレを見るジト目や、アルトの溜め息を見ていればいくらオレ
でも分かる(それが無くても大体の見当はついているが)
他の面子と違って、特に街で済ませる用事もなかったので、出来るだけ
リーゼの様子を見るようにした。
そっと部屋に入り、ベッドの横に座って眠っているリーゼの額のタオルを
替えてやる。熱がまだ高いのだろう、リーゼは赤い顔をして何かを呟いて
いる。
「…ごめんなさい、ごめんな…さい。」
タオルを替えたオレの手をリーゼの小さな手が握りしめた。
とてもか細い力で・・・
「これ、以上、シュラさんが…傷、つくのイヤ…だった、前に第二砦で…
シュラさんが何度も倒れたのは、私をかばってくれた、から…
だから今度は、わたしが…わたしの大切な人のため、に…」
その言葉を聞いてオレはもう何も言えなくなっていた。
とても真っ直ぐな気持ちが自分に向けられている。その気持ちをどうして
無視する事が出来よう。
…自分にその気持ちを受ける資格等ない わかっている。
それでも・・・オレは
そっとリーゼの顔を覗き込み様子を見ようとした瞬間
「ぎゅるぎゅるぎゅるるるるー!」
盛大にリーゼの腹から大きな音が聞こえ、同時にリーゼが飛び起きた。
リーゼの顔はモロにオレの顔面を直撃して、オレはそのまま後ろにひっくり
返ってしまった。
「いってぇ~っ!いきなり起き上がる奴があるか!」
何やら柔らかい物が唇にブチ当たったような気がしたが、それよりも何よりも
痛い。どんだけ勢いよく起き上がったんだ? そんな元気があるなら大丈夫
じゃねぇのか?
それでもリーゼの顔はまだ赤くて息も早い。身体の調子はまだ良くないようだ。
「ちょ…いま、シュラさん変な所に口をくっつけませんでしたか!?
っていうか、何で人が寝てる所に…」
視線を逸らしながらリーゼがぶちぶちと文句を言いはじめた。が、またその
途中でリーゼの腹が鳴る。 唖然とした顔をしていたら、リーゼは毛布で顔の
半分を隠しながら上目遣いでオレを見て
「それより…おなか、すきました…」
ポソリと一言そう言った。
その様子があまりに可愛かったので、笑いながら鞄から桃缶を出してリーゼに
食わせる事にした。
(街に入ってすぐに雑貨屋で買っておいて良かった…)
桃を食べた後、リーゼはベッドの横に立てかけてあった槍をオレに手渡そうと
したが、熱のせいで力が入らないのだろう、バランスを崩して倒れそうになり
慌ててオレはリーゼの身体を抱いて支えた。
何故無茶をする。そんな物オレに一言「持って行ってくれ」と言えば済む話じゃ
ないのか? リーゼの身体をベッドの上に寝かせた後、槍を自分の座る椅子の横
に立てかけてリーゼの顔を見る。
「駄目なんです… わたしもうこんな大きな武器持て…ませ…ん…」
言葉を詰まらせて リーゼは小さな声でそう言った。
大きな瞳から涙が溢れていた。
リリ姐さんの言葉が頭をよぎる。
「ここで折れるかもね、ヴェーゼンドルファの槍は。」
そんな事…あってはならない。
リーゼはパーティにとってなくてはならない存在だ。リーゼがいなければオレ達
は皆困り果てる事になるだろう。戦力としてだけではない。その存在がパーティ
に必要なのだから。
どうすればいい。
リーゼは何を望んでいる?
オレが彼女の為に出来る事は何だ?
腹を括らねばならない。
彼女の望みを叶える事。その気持ちを受け止める事。
…真実を知られた時に拒絶され、オレの心が傷ついたとしても。