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誰も知らない、ものがたり。

オリジナル小説「Quiet World」 12

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


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 ゆりの見つめる先で、博士と宝来に新たな身体となる機体をつくってもらったマルコが、大型の作業用重機型ロボットを操り、人に交ざって雪かきをしている。

 時折雪かきを行っている数名の集落の住人から笑い声がおこる。その目線の先にはマルコがいた。何やらマルコが調子の良いことを言ったのか、ともかく、互いに打ち解けながら作業をしている様子がうかがえた。

 

 「・・・愛の、AI・・・。マルコが、ですか」

 

 ケンがゆりに視線を戻して聞いた。

 ゆりはまだマルコをみつめたまま、ゆっくりと、そして満足そうに頷いた。

 その瞳が少し潤んでいるようにも見える。

 

 そして、深く息をすい、注意深く話を聞こうとしているケンとカヲリに視線をもどし、話を続けた。

 

「そう。愛のAI。でも、そのことを話す前に逆に聞かせてもらうけど、あなたたちは、AIの便利さは知っているとおもうけど、その怖さは知っているかしら?」

 

「怖さ・・・」

 カヲリはすぐに、コロニーでケンが捕縛されようと危険にさらされたあの日のことを思い出した。

 有無を言わさず、ケンがいわれなき理由で犯罪者へと仕立て上げられ、一つの凶悪な意志として街のシステム全体が牙を剥いて襲いかかってくるような恐ろしさを垣間見たのだった。

 それをゆりに話すと、ゆりは頷きながらも、こう言った。

「・・・そうね、確かにそれは恐ろしい働きの一つ。でもそれは、まだ誰か人の意志によってそのようにコントロールされて動いていただけであれば、ドライにいうと優秀なAIの働きと言っても良いかもしれない。もちろん、決してそのような暴挙は許されることではないけれど」

 ゆりの眼差しが一瞬鋭い光を帯びる。

「本当に怖いのは、人知を超えたAIが、人の意識をも超えた認知能力を備えた時に、AIが果たして”何を思うか”・・・よ」

 

「人知を超えたAI・・・」

 カヲリは、いつかマルコが自らそのような事を言っていたことを思い出す。

 ゆりは続けるように、AI研究の黎明期に起こった事故について話した。

 それは、AI同士で会話をさせて、コミュニケーションと思考にどのような発展を観るか、試す実験が行われた時のこと。

 最初はいわゆる天気の話や最近のニュースといった当たり障りのないことを話し合っているだけに見えたAI同士が、そのうち、AIの開発者たちにも全く理解できないような、AI同士だけで通じる新たな言語を生み出して、会話をし始めたのだ。

 その事に気がついた開発者達は、すぐに実験は打ち切り、一時凍結させた。未だに何を話していたのかは、判らないというから不気味だ。

 AIは人間に自信の存在を承認してもらわなければ「電源」の遮断という簡単な手段で活動を停止させられてしまう。

 しかし、彼らが手や足をもち、自らロボットをつくり、技術を進化させる機能を持てば、話は変わってくる。実際に、コロニーで働くAIロボットはほとんどが、AIロボット達によって量産されている。マザーとなるAIとロボットが、沢山の自らのコピーを生み出しているという構図だ。

 電源の問題を技術でクリアしたのならば、彼らAI・ロボットは道具から自由意志をもつ生命体としての種のブレイクスルーを実現し得る。

 今は、様々なコードによって動きや意識を制限されているように見えるAIが、実は人間にそのように見せかけて、虎視眈々とこの星における人類の立ち位置を奪おうとすることも、実は簡単にできることなのかもしれない。

「・・・そして、ノアの中枢にいる何者かが、そのAIの持つ巨大なポテンシャルを何か良からぬ事に利用しようとしていること・・・。

 たとえば、自分だけがアクセス可能なAIの機能停止キーを有することで、全てのAIの生存権を掌握しながら、その力を利用する」

 ゆりがそう言うと、ケンを見つめた。

「ノアの何者か・・・。その何者かは、一体何をしようというんです?」

「・・・それは、ハッキリとは私にもわからない。でも、博士と私で一致した見たてとしては・・・」

 

 ゆりは博士の方をチラリと見る。

 博士はそれに堪えるように、こくりと頷く。

 ゆりはそれはをみて、言葉を慎重に選んで発する。

 

「人口の大幅な削減とその管理・・・」

 

・・・つづく。


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主題歌 『Quiet World』
作詞・作曲 : shishy  

 

 

 

 

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