怪談

らっさいませぇ～、ようこそ里山の階段へ足をお運び頂きまして有難う御座いました。
足元がお暗いですからお気をつけてお上がり下さいませ。

ご主人様は２階の寝室で何時も寝ておりますが、
オイラは最近ちょくちょくこの２階へお邪魔することがあります。
こう暑くっちゃあじっと寝てばっかしでは居られなくって、家中を探検しまくりです。
風呂用のビニール製のスリッパを片方２階へ持って来たり、
２階のご主人様のスリッパをこそっと１階まで下ろしてきたりと、
頼まれもしないのに、勝手に白黒犬ヤマトの宅配便ごっこをして遊んでおりました。

お盆も後半のある蒸し暑い夜のことで御座いました。
何か押し包まれる様で、少し息苦しさを感じながらも、
何時もの様に階段を一歩二歩、抜き足差し足で上がりかけた時です。

タレ耳の奥でツーンと耳鳴りのような音がした気がしました。
何だろうと辺りを見てもただ白い壁が見えるだけです。
さらに、一歩進んだ階段の途中の曲がり角の処で、
どうした事かそれ以上足が上がらなくなってしまいました。

ふと、上を見上げると・・・・・
うわわわわわわぁぁぁ～
で、で、出たぁ～


今にも飲み込まれそうな大きな口からは、
地獄の奥深くへと引きずり込みそうな不気味な笑い声を発しながら、
さらに野太い声で、
「おい、おい、おいてけぇ～、おいてけぇ～」と追い被さって来たのでした。

どっひゃーっとなったオイラは、
とっさに隠し持っていた非常用のビスケットを数枚階段に投げて、
頭を抱え込んでその場にしゃがんでしまいました。

それでも怖い物見たさで、片目を少しあけて見ていると、
その化け物は、何処を見てるか分からない様な目付きで、
ビスケットに襲い掛かりペロリンっちょっと食ってしまいました。


そやつめは、さらに物欲しげに、
「おい、おい、おいてけぇ～、おいてけぇ～」と執拗に脅かしてきたので、
仕方なく最後のビスケットも全部置くと、急に足が動き出したので急いでその場を駆け下りて来ました。
恐々振り返って見ると、
あやつめは、満足そうな笑みを浮べ少しずつ闇夜に溶け込んで消えて行ったのでした。


こんな怖いめをしたこと在りませんでしたから、ご主人様に言うと。
あれはね、この家の階段に住んでいる、
里山の白黒妖怪「おいてけぇ～」
と呼ぶんだよと教えてくれました。
それからは、夜は２階の寝室へは絶対行かないことにしました。