サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

動物の生息域

2008年02月28日 | 環境の地理
(1)関連研究の動向

 動物地理学は、ヨーロッパで1850年頃に生物相の境界線が唱えられるようになり始まった。日本では1880年に、北海道と本州の間で生物相が異なるというブラキストン線が提唱され始めた。これを皮切りに、渡瀬線、八田線、蜂須賀線、三宅線等が提唱されるようになった。しかし、1950年代には八田線をゆるがす発見もされており、現在特に注目されているのは、ブラキストン線と渡瀬線の2種類に留まっている。


(2)関連研究から得られる知見

●動物地理区の境界線

 日本列島は大陸から分離して成立したが、奄美諸島以南の島々は大陸島(大陸の近くにあり、地史的に大陸と地続きになったことがある島)の中で最も古くから独立した島であるため、動物相の固有性が高い。

 また、北海道は大陸とのつながりが長く続いたため、北方要素の強い独自の動物相が見られる。このため、屋久島・種子島と奄美諸島との間に引かれた渡瀬線、及び本州と北海道の間に引かれたブラキストン線の2つが、生物地理学上の境界線として特筆される。

 この他、日本と樺太との境界線ともいえる八田線、沖縄と台湾との境界ともいえる蜂須賀線等がある。

【日本における主な動物地理区の境界線】

■ブラキストン線

 北海道と本州の間の津軽海峡上に引かれる境界線。津軽海峡線ともいう。ブラキストンとプライアーが1880 年に「日本鳥類目録」で提唱した。
 哺乳類の分布境界がこの線と合致するものが多い。ブラキストン線を境に、北のシベリア亜区と南の満州亜区に分かれる。
 ブラキストン線は、ニホンザル・ツキノワグマ・ニホンカモシカ・モグラ科などの北限、ヒグマ・クロテン・ナキウサギ・シマリスなどの南限となっている。

■渡瀬線

 屋久島・種子島と奄美諸島との間に引かれる境界線。正確には、トカラ列島の悪石島と宝島の間に引かれる。1912 年に渡瀬庄三郎が確認、この線より北を旧北区、南を東洋亜区とする。
 哺乳類・両生類・爬虫類・クモ類等の分布境界と合致するものが多い。この線より北は旧北区に属しユーラシア大陸との類縁性が高いが、南は東洋区に属し台湾や東南アジアとの類縁性が高い。

■八田線

 北海道と樺太との間に引かれる境界線。宗谷線ともいう。 両生類・爬虫類・淡水無脊椎動物の境界線と合致するものが多い。

■蜂須賀線

 沖縄諸島と宮古諸島との間に引かれる境界線。鳥類の分布境界と合致するものが多い。

■三宅線
 九州と屋久島・種子島の間に引かれる境界線。これより北は日本特産の昆虫、南は熱帯型の昆虫が多い。


●特徴的な動物の分布

 第2回自然環境保全基礎調査動物分布調査報告書(哺乳類)全国版(その2)では、サル、シカ、ツキノワグマ、ヒグマ、イノシシ、キツネ、タヌキ、アナグマの分布に関して分析されている。

 ツキノワグマは中部地方以東で連続分布するのに対し、以西では隔離された狭い分布域となり、ことに四国地方ではきわめて狭少化したものとなっている。
 九州地方の分布域は既に消滅しており、極めて狭あい化した分布域しかみられない四国地方では消滅の可能性が高い。

 イノシシの多雪地帯への分布境界線は、積雪深30cm以上の日数70日以下の地域と一致する。これを越える多雪地域が多い青森、秋田・山形・新潟・富山県でのイノシシの生息は認められない。
 本種の出現と絶滅情報の分析の結果、地理的分布の中心は、本州では近畿地方、四国では愛媛県、九州では宮崎県であり、東北、北陸、北九州地方は分布周辺と考えられた。

 ツキノワグマとイノシシの分布の重複が少ないということは、動物の分布に関する議論で頻繁に取り上げられる。しかし、分布圏に見られるツキノワグマとイノシシの棲み分けはあくまで現在の状態であって原初的なものではないと考えられる。

 その他にも、里山の哺乳類として知られるタヌキとキツネの生息分布が、特に四国においてのみタヌキに偏っている傾向がうかがえる。タヌキ、キツネとも都市化の影響を受けやすいが、特にキツネは都市化の影響を強く受けていると言われている。

 全体的に対象とされた8種の哺乳動物を見ると、ヒグマ、ツキノワグマ、ニホンザルといった種は、深く大きな森林がその生活基盤となっているのに対し、タヌキ、キツネ、イノシシといった種は必ずしも前者が要求するほど大規模な森林を必要としないことがわかる。

 特にツキノワグマの分布域はブナ・ミズナラクラス域の植生と対応しており、ツキノワグマはこの植生を主たる生息地としていると考えられる。

【 参考文献 】

自然環境保全技術移転研修マニュアル(環境省HP)

鹿児島県「奄美群島自然共生プラン」2003年

相賀徹夫「日本列島大地図館」1990年、小学館

堀越増興 青木淳一編 「新版 日本の自然 日本の生物」 1996、岩波書店
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