サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

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普及理論 ~普及の個人間過程、個人過程

2008年07月10日 | 環境イノベーションとその普及
 普及の時系列的な過程を研究する研究の対象は、大きく、次のように分類される。

(1)普及の社会過程(集団間過程)
(2)普及の個人間過程、個人過程
(3)普及の供給側の過程

 ここでは、(2)について、基本的な理論を説明する。


①フェスティンガーの認知的不協和理論

 アメリカの心理学者であるレオン・フェスティンガー(1919-1989)が提唱したのが認知的不協和理論である。自らの行動を肯定的に説明する情報に対して、その後接触する傾向が強くなる(協和状態維持)反面、否定的な情報に対しては回避する(不協和回避)すると説明している。

 例えば、原発等について、極めて肯定的、あるいは極めて否定的な層では、その状態を保つための情報への接触傾向が強くなるとともに、その逆の情報については回避されていく可能性がある。

 両極端のセグメントと態度強化が進んでいないセグメントでは、普及啓発等の仕方が自ずから、違ってくる。肯定的見解のロジックを強めるだけでは否定的見解を転換するのは難しい。否定的見解のロジックを取り上げてみるところから、コミュニケーションが始まる。


②説得的コミュニケーション

 説得的コミュニケーションとは、受け手の行動や意見を特定の方向に変化させることを狙いとしたコミュニケーションをいう。
 
 説得の効果に影響する要因として、送り手の特質、受け手の特性、メッセージ内容と構成(呈示方法)などが指摘されている。

 杉浦淳吉「環境配慮の社会心理学」等では、説得コミュニケーションに関する次のような知見を示している。

・説得的送り手の信憑性(特に専門性と信頼性)と両面的メッセージ(反対の議論も併せて提示することの有効性)が重要である。
・関心のあるテーマでは、メッセージ内容の両面性が吟味され、関心の低いテーマでは送り手の信憑性が影響することになる。
・当該メッセージ内容に触れる前にそれに関する情報に接触していると、説得されにくい。
・説得しようという意図がみえた時に、コミュニケーションは失敗する。


③精緻化見込みモデル

 精緻化見込みモデルは、ペティ(Petty)とカチオッポ(Cacioppo)によって提案された。消費者の態度変容に至る経路を、中心ルートと周辺ルートの2種類に分けている点が特徴である。

 中心ルートでは、メッセージの議論に関して入念な吟味(精緻化)がなされ、その過程でメッセージの内容をどのように認知するかによって、態度変化の方向が決まる。

 周辺ルートでは、議論の本質とは関係ない周辺的手がかり(情報の送り手の専門性や論点の数)に基づいて短絡的に判断される。

 メッセージの情報処理能力と動機づけが十分であれば、精緻化可能性が高くなり、中心ルートによる態度変化が生じる。

 情報処理能力と動機が低い場合、周辺ルートによる手がかり(タレントやイメージ等)により、態度変容が生じるとされる。

 一般に、中心ルートを経たほうが態度は強固で安定すると考えられている。


④消費者の意志決定モデル

 1960年代に、企業の広報努力による消費者の飯能の違いを説明する概念モデルがいくつか発表されている。

 その代表例が、エンゲル=コラット=ブラックウェ・モデル(EBMモデル、Engel,Blackwell & Miniard、1968年)、ハワード=シェス・モデル(Howard&Sheth、1969年)である。これらのモデルは、今日の消費者行動研究の基礎となっている。

 ハワード=シェス・モデルは、消費者に対す刺激(入力変数)と反応(出力変数)の関係を、消費者の知覚と学習の過程から説明しようとしている仮説的な概念モデルである。

 この場合の入力変数は、商品に関する品質、価格、特徴等に関するいわゆる広報情報である。出力変数は、関心→理解→態度→意図→行動(購買)である。

 EBMモデルは、ハワード=シェス・モデルが、学習理論に依拠して構築されたのに対して、情報処理理論を色濃く反映しているとされる。初期のモデルは何度も改良され、1995年に第8版が作成されている。

 欲求認識→情報探索→代案評価→購買→結果(満足、不満足)という時間経過における各過程が、環境要因と個人差要因で説明される。


⑤資源リサイクル行動の分析

 杉浦淳吉氏は、広瀬のモデル(1994)に基づき、資源リサイクル運動普及のための働きかけが、行動構造(目標意図→行動意図→行動)に与える影響をモデル化し、住民アンケート調査により、検証している(1997)。

 モデルにおいて、目標意図は、「環境リスク認知」、「責任帰属認知」、「対処有効性認知」の3つの環境認知で決定される。行動意図は、この目標意図と3つの行動評価で決定される。3つの行動評価とは、「実行可能性評価」、「便益費用効果」、「社会規範評価」である。

 外部情報については、マスメディアによる情報は主に環境認知に影響し、ローカル情報やボランティアからの勧誘が主に行動評価に影響を与えると予測している。特に、ボランティアからの勧誘は、「社会規範評価」を高めるとともに、自分でもできるのではないかという感覚、すなわち「実行可能性評価」を高めるという仮説を設定している。

 この仮説を検証するために、愛知県日進町の住民アンケート調査が実施され、パス解析により要因間の関係が分析された。ほぼ予測モデルの関係が説明されているが、ボランティアからの働きかけは「社会規範評価」を規定するものと、「実行可能性評価」を規定していないという結果であった。

 杉浦氏は、地域全体でリサイクル活動が活発に行われて、はじめて「実行可能性評価」が高くなるのではないかと考察している。



参考文献)

E.M.ロジャース「イノベーション普及学」(1990)、産能大学
宇野善康「普及学講義」(1990)、有斐閣選書
Mieneke.W.H.Weeling「The Strength of Weak and Strong Communication Ties in a Community Information Program」(1993)、Journal of Applied Social Psychology
広瀬幸雄「環境と消費の社会心理学」(1995)、名古屋大学出版会
杉本徹雄「消費者理解のための心理学」(1997)、福村出版
中島純一「メディアと流行の心理」(1998)、金子書房
東京都「環境に配慮した商品等の製造・流通・消費に関する実態調査」(2001)
ジェフリームーア「キャズム」(2002)、翔泳社
伊藤修一郎「自治体政策過程の動態 政策イノベーションと波及」(2002)、慶応義塾大学出版会
杉浦淳吉「環境配慮の社会心理学」(2003)、ナカンシヤ出版

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