サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

環境コミュニティ・ビジネスの新たな定義

2010年01月11日 | 環境と経済・ビジネス
1.本格的な環境コミュニティ・ビジネスへの期待

 「環境コミュニティ・ビジネス(以下、ECBと表す)」という言葉が、2003年度から2009年度にかけて実施された経済産業省の事業で使われた。

 同事業では、ECBを「地域の企業・NPO・市民団体等の地域コミュニティを形成する主体が連携・協働し、地域が有する環境問題の解決、地域の活性化を経営的感覚に基づき実践する事業」と定義した。つまり、コミュニティ・ビジネスのうち、環境問題の解決を活動テーマとする場合を、ECBと定義している。

 このコミュニティ・ビジネスの起源は、イギリスやアメリカの地域経済対策にある。

 イギリスの起源は、1980年代にスコットランド地方で設立された「コミュニティ協同組合」である。サッチャー政権の財政再建・経済改革が進む一方で、農山村の停滞が深刻化し、地域の商店等の地域の基本的サービスが不足する事態に陥っていた。

 そこで、行政は、地域住民を会員とし、地域に必要なサービスを供給すると同時に、雇用を創出する「コミュニティ協同組合」を立ち上げた。

 アメリカの起源は、「コミュニティ・ベンチャー」である。1970年代のアメリカでは、景気低迷下で、女性が主導して、子育て等の福祉問題、環境問題等を解決しようとするコミュニティ活動が始まった。それを基盤として、1980年代、企業に解雇された男性が、女性とともに、興した事業が「コミュニティ・ベンチャー」と呼ばれた。
 
 イギリスやアメリカの起源と比較すると、日本の経済産業省事業の支援先は、NPOを事業主体とするものがほとんどで、雇用創出等の成果は小さいのではないだろうか。

 NPOにおける収益事業は、常勤職員の雇用を図り、NPO活動の安定性を確保するうえで重要な手段である。しかし、地域経済の活性化や雇用創出効果という観点から考えると、NPOを事業主体とするビジネスでは規模的に十分ではない。

 さて、環境コミュニティ・ビジネスという用語は、日本のオリジナルだと考えられる。しかし、日本のコミュニティ・ビジネス関連の書籍で取り上げられている事例は福祉関連の事業が中心で、環境分野のものは少ない。環境コミュニティ・ビジネスという経済活動の実態は希薄である。

 昨今の景気状況の根本的打開や持続可能な将来社会の構築を目指し、真に地域経済にインパクトをもたらす“本格的な環境コミュニティ・ビジネス”を、実体化させ、離陸させていくことが望まれる。

2.地域につながる環境ビジネスへの期待

 次に、環境ビジネスの観点から、環境コミュニティ・ビジネスの必要性を整理する。

 環境省の環境ビジネスの定義は、OECDの定義に基づく。OECDは、「『水、大気、土壌等の環境に与える悪影響』と『廃棄物、騒音、エコ・システムに関連する問題』を計測し、予防し、削減し、最小化し、改善する製品やサービスを提供する活動」を環境ビジネスと定義している(OECDの“The Environmental Goods & Services Industry (1999)”より)。

 具体的には、環境汚染防止装置・サービスからクリーナー・プロダクション、環境適合設計関連、さらには持続可能な農林水産業、再生可能エネルギー、エコツーリズム等、広範な対象が環境ビジネスに定義されている。
 
 今日では、環境ビジネスによる景気回復が叫ばれている。地域経済からみた場合、環境ビジネスの振興は地域経済の活性化や雇用創出に結びついているのだろうか。

 例えば、太陽光パネルの製造工場がある地域では、増産・増員を図るが、増員分は自社内の配置転換を優先させ、地域での新規雇用分は少ないという。また、環境ビジネスを立地させても、製品は地域外の他企業に出荷されるばかりで、地域の一般消費者には製品が認知すらされていない状況も見受けられる。

 地域環境ビジネスの関連書籍をみると、地域の中小企業が個性的な技術力を環境分野に応用し、小さな国際企業として成功した事例が取り上げられている。地域内の市場規模は小さく、域外の大きな市場をターゲットすることも必要である。しかし環境問題の解決のみならず、持続可能な社会づくりを目指す環境ビジネスであるならば、より一層と地域経済への貢献に配慮したものであるべきだろう。

 “地域のためになる環境ビジネス”、すなわち“コミュニティとの関わり、地域とのつながりを志向する環境ビジネス”が求められる。

3.環境コミュニティ・ビジネスの新たな定義

 1及び2で示した視点をもとに、コミュニティ・ビジネスと環境ビジネスの両面から、環境コミュニティ・ビジネスの新たな定義を提起する。

 まず、コミュニティ・ビジネスの観点から、「環境問題の解決という公益性と事業性を両立させる事業のうち、地域経済への波及性や一定の雇用創出効果が期待できるもの」を、ECBと定義する。事業主体がNPO法人の場合も含めるが、株式会社や有限会社といった収益の配分を重視する形態の場合を重視する。

 また、環境ビジネスの観点から、「地域資源と社会関係資本の活用・再生・創造にこだわりをもつ環境ビジネス」を、ECBと定義する。環境ビジネスの市場には、事業主体が立地する地域に限定される場合(域内市場)と大都市や国内の市場を広く対象とする場合(域外市場)の両方がある。このうち、ECBは域内市場を中心的なターゲットとする。

 独自性のある環境技術をもった地域の中小企業が、小さな国際企業としてグローバルな市場開拓を図る場合は、地域資源や社会関係資本に志向性がなければ、ここで言うECBには該当しない。

 逆に、環境ビジネスを比較的に大規模な企業が展開する場合であっても、地域内の消費者との関係性を重視した事業を営む場合は、社会関係資本を重視していると意味でECBであると定義する。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 地域にみる日本の未来 | トップ | 中米の里山 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

環境と経済・ビジネス」カテゴリの最新記事