サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

2030年と2050年の脱炭素社会の具体像

2019年12月29日 | 気候変動緩和・低炭素社会

 温室効果ガスの排出量は、省エネや再エネ導入といった削減努力だけでなく、人口や経済活動の量、産業構造の変化によって規定される。次のように中間項の分解を行なって、各要因の増減を見ることができる。右辺の第1項は炭素密度、第2項はエネルギー原単位である。

 

 

   二酸化炭素排出量= 

  二酸化炭素排出量/エネルギー消費量 × エネルギー消費量/国内総生産 × 国内総生産/人口 × 人口

                

 

1.2030年に向けた脱炭素への取組み

 

 2030年に向けた対策を示す地球温暖化対策計画(2016)の基本方針では、「環境・経済・社会の統合的発展」を最初に掲げ、地球温暖化対策を経済活性化、雇用創出、地域課題の解決にもつなげることを強調している。また、このために、革新的な技術開発とそれによる世界の地球温暖化対策への貢献を進めることとしている。

 

 2030年に向けた二酸化炭素排出量の部門別削減目標では、特に業務と家庭での排出削減量を大きく設定されている。これは各部門における対策の積み上げを根拠としている。これらの目標値の特徴として、6点を指摘することができる。

 

 第1に、産業部門の排出削減量が相対的に少ない。これは生産プロセスにおける省エネ化はこれまでも進められてきていたといえるが、今後は、再生可能エネルギーの調達、あるいは製品・サービスの利用過程での排出削減に対する取組が期待される。

 

 第2に、エネルギー原単位の改善は、ハードウエアの省エネ化が主な対策となっている。産業部門での低炭素工業炉、高効率産業用モーターの導入、民生部門(業務と家庭)の建築・住宅、電化製品、自動車の省エネルギー化である。

 

 第3に、エネルギー原単位の改善は、既に普及している既存設備機器の省エネ効率のよい機器への代替とこれまで普及していない設備機器の新規導入による場合がある。新規導入では、燃料電池の累積普及台数を5万台(2013年)→530万台(2030年)、HEMSの導入世帯を21万世帯(2013年)→5,468万世帯へと増加させるというように、意欲的な目標値が設定されている。

 

 第4に、炭素密度の改善は、再生可能エネルギーの導入とともに、石炭・LNG・石油等の発電効率の改善、安全が確認された原子力発電所の稼働を含めたものとなっている。つまり、政府の2030年の目標は、石炭火力の新設や原子力発電所の再稼働を前提としている。

 

 第5に、森林吸収源対策も対策に位置づけられているが、2010年の削減目標の森林吸収分が大きなウエイトを占めていたこと(全体で6%削減、森林吸収による削減3.8%)に比べると、2030年目標でのウエイトは大きくない。

 

 第6に、定量的な削減目標に対しては、対策技術の導入が中心であり、社会経済システムの転換を促す構造的対策は示されていない。例えば、コンパクトシティ、サービサイジング、地産地消等といった対策は示されていない。これらは対策効果が定量化しにくいことと、2030年までに定量的な効果をあげるだけの対策導入が困難なためである。

 

 

2.2050年のカーボンゼロに向けた対策

 

 2050年に向けた二酸化炭素の排出削減対策の特徴を中間項に対応させて整理した(表)。重要な5点を述べる。

 

 第1に、2050年には炭素密度を大幅に下げるために、9割以上を低炭素電源にする。この際、低炭素電源には、再生可能エネルギー、CCS付火力発電、原子力発電のいずれになるが、構成が検討課題となる。CCSとは発電所、工場等からの排ガス中の二酸化炭素(Carbon dioxide)を分離・回収(Capture)し、地下へ貯留(Storage)する技術である。CCSが可能となれば、化石資源による火力発電を維持することになるが、経済性や技術的安全性等が検討課題となる。

 

 第2に、炭素密度を下げるために、自動車燃料の低炭素化、熱供給の低炭素化を進める。自動車燃料においては低炭素電源を利用する電気自動車の普及と燃料電池自動車の利用を実現することとなる。熱供給では、化石燃料を用いた熱供給が最大限に廃止され、低炭素電源による熱供給、木質バイオマス利用を実現することとなる。

 

 第3に、エネルギー原単位の大幅削減のために①2030年の26%削減に向けた対策の徹底(ゼロエミッションビル・住宅の普及)とともに、②2030年までには本格実施されない新たな技術の開発と導入(自動走行等)、③社会経済システムの構造転換・ライフスタイル転換を進める。2030年に向けた対策では、②と③の対策は定量的に示されていないが、2050年に向けてはそれらの対策を定量的な効果が得られるレベルで導入することが課題となる。

 

 第4に、経済の量的成長から質的成長への転換を図る。開発途上国の経済成長等が進むなか、自然とふれあう暮らしと生業、コミュニティによる支えあい、足るを知り、内なる自然を尊重にする生き方等を重視する方向に、政策や一人ひとりの生き方の目標を転換できるかどうかが検討課題となる。

 

 第5に、脱炭素社会を実現するためには、カーボンプライシング(排出量取引と炭素税等)の導入を図る。日本では、目的税として「地球温暖化対策のための税」があり、東京都等の一部地方自治体における排出量取引制度が導入されているが、さらに本格的な導入が検討課題となる。カーボンプライシングという経済的手法の導入は既に世界的な潮流となっている。

 


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