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2008/07/25
林芙美子「放浪記(ほうろうき)」を読む
 昔は文士といえば貧しいものと相場が決まっていた。その代表格は葛西善蔵であった。葛西は津軽出身で、太宰治の郷里の先輩にあたる。太宰は葛西を尊敬していた。葛西の貧乏は筆舌(ひつぜつ)に尽くしがたいほどで、私は葛西の「子を連れて」を読んだとき、しばし唖然としたものである。林芙美子は「放浪記」の中で、この葛西のことに言及している。
「放浪記」を初めて読んだとき、貧乏について書かれたものであるが一種の爽快感を感じた。これほど貧しかったのかとは思ったが、この作品は暗く、じめじめとはしていなかった。この作品を底から支えている林の打ちのめされてもめげることのない生命力を感じた。

 林芙美子の「放浪記」はその名が示すとおり、放浪を綴ったものである。この作品にはいろいろな地名がでてくるが、中心となるのは東京と尾道である。林は下関で生まれた。本籍は鹿児島県である。8歳のとき、母は再婚し、20歳年下の男と結婚する。母と義父は行商をして各地を転々とする。その中で、尾道には長く滞在し、林は苦労して尾道高等女学校を卒業する。尾道は林にとって故郷であり、現在では尾道は林芙美子が住んだ町として喧伝されている。
 林は生れ落ちてからと言ってよいほど貧乏にとりつかれていた。特に、義父が行商をしていたころは赤貧洗うがごとしであった。尾道では家を借りることなく、木賃宿に住んだ。林は木賃宿から学校に通ったのである。このような境遇もめずらしい。学校は夜働きながら卒業した。
 女学校を卒業すると、林は学校時代から恋仲になっていた因島出身の大学生を追って東京に向かう。このとき大正15年である。「放浪記」は林が東京に出た大正15年から5年間雑記帳に書きためた日記を本にしたものである。
 東京に出てから、林の貧乏には拍車がかかる。その日の食費もなく、泊まるところもないという状況がたびたび記述される。そして、貧乏と切り離せないのが林の男運のなさである。因島の男にはだまされ、それから新たに出会って同棲までする俳優や詩人たちからもひどい仕打ちを受ける。
 当然のように林は職を転々とする。どれも長続きはしない。下女、女中、事務員そしてカフェーの女給などをやる。なぜか苦界には身を沈めなかった。「放浪記」を一言でいうと、貧乏・孤独の物語といってもよい。これほど赤裸々に貧乏を描いたものもめずらしい。しかし、私はこの作品を読むたびに勇気づけられる。
 今回「放浪記」を読みなおして、私は貧乏に苛まれ、孤独に打ちひしがれる林をなぐさめるものがあったことに気がついた。それは夥しい量の読書であった。この作品にはたくさんの作家・詩人たちの名前や作品名がでてくる。外国の作家の名だけでも、トルストイ・ドストエフスキー・チェーホフ・プーシキン・ゴーゴリ・ゴールキー・ゴンチャロフ・ゲーテ・ボードレール・ハイネ・イプセン・ワイルド・ハウプトマン・ホイットマンなどで日本の作家・詩人たちの名も数えきれないくらいたくさんでてくる。驚くばかりの読書量である。
 林はお金が少しできると、古本屋で本を買い、そして寸暇を惜しんで本を読んだ。本を読むことで自分の存在を確かめているようだ。お金がなくなると、本を古本屋に売った。林の目標は作家になることであった。時間を惜しんで詩・童話そして小説を書いた。それらの原稿をもって出版社に売りつけた。だがほとんど金にならなかった。机などというものはなかった。ミカン箱が机の代わりであった。
 私が「放浪記」に共感する理由の一つは林の本好きである。私にも長い間苦しい時期があったが、救ってくれたのは本であった。ロマン・ローランの「ベートーベンの生涯」は感動的な本である。あの歴史上最も偉大な音楽家といわれているベートーベンは終生貧しかった。名前が売れてからでも穴の開いた靴をはいていたほどだ。彼は貧乏に苦しみながらも曲のことばかりを考え続けていた。貧しくその日の生活にも困りながらも20代の林はつねに創作をこころがけていたのである。
 林は逆境にあうといつも自殺を考えるが、<やはり生きていたい>と気持ちを切りかえる。苦しくても、つらくても創作意欲は衰えず、一生懸命生きようとする。「放浪記」の多くのファンが時代を超えて根強く存在しているのは苦しくても這い上がっていこうとする林の姿に共感するからであろう。

 芸術座主催・森光子主演の演劇「放浪記」は記録的なロングランである。多くの人が帝劇に足を運んだ。林は素寒貧(すかんぴん)の状態でお濠端を歩いたことがある。彼女は煌々と輝く帝劇の灯りをみた。帝劇はそのときの林には何の縁もないものであった。帝劇は金持ちが行く一種の社交場であった。その帝劇で「放浪記」が何度も上演され多くの観客を魅了した。その光景を泉下の林がみたらどう思うであろうか。



 帝劇について:明治44(1911)年に開場された日本初の洋式劇場です。1913年に有名な広告のコピーが帝劇のパンフレットから生まれます「今日は帝劇、明日は三越」です。時代は大正時代に入り日本社会にも消費文化の波が押し寄せてきました。ちなみに、この帝劇のすぐ近くには1890年開業の帝国ホテルがあります。これらの施設は渋沢栄一氏、大倉喜八郎氏らの手によって造られました。
 写真は、馬場先門からみた帝劇。円内は帝劇館内に建っている阪急創業者小林一三氏胸像です。

放浪記 (新潮文庫)
価格:¥ 780(税込)
発売日:1979-09





貧乏であるにも関わらず、暗くなく、むしろ生命力を感じるところに、この作品の魅力があることがよく分かりました。苦しくても這い上がっていこうとする林芙美子の姿、なんだかパワーをもらえそうです。私も読みたくなってきました。普段、あまり本を読まない私ですが、「名作を読む」を読んでいると、紹介された作品を読みたくなります。




貧乏話を文学作品にしてしまうって、すごいですね。
それでいて暗くもなく、じめじめもしていないなんて。
読んでみたい本が、また一冊増えました。





 放浪記は私の中では森光子が主演の演劇という認識しかありませんでした。
今回、名作を読むを読ませていただき考えたことは、読書の魅力についてです。
文面から、林という人物がどれほど貧しかったのかということは想像できます。しかし、そんな過酷な状況のなかで大切なお金を本を買うために使う。いくら作家になりたいとはいえそこまでするだろうか?と思いました。
普段本など全く読まない私ですが、そこまでして本に執着した人物がいると思うと読書するということに興味をもてるようになりました。また、彼女にとって本を買うことは夢を買うことと同じだったのだろうと思いました。

次回の更新を楽しみにしています。




「放浪記」と聞いた時に、一番に思い浮かぶものが、「森光子さん」「でんぐり返し」という言葉で、お恥ずかしい限りです。
「本を読むことで自分の存在を確かめている」という文がありましたが、「本」には、いろいろな力があるとあらためて感じました。
本当に勉強になります。これからもよろしくお願いします。

投稿 M | 2008/07/26 10:04

「やはり生きていたいと気持ちを切り替えた」というところが印象的でした。
「生きる」「一生懸命」という言葉の大切さを再確認することができました。
ありがとうございました。



金持ちが行く「帝劇」と貧乏話「放浪記」 いい対比ですね。(拍手)





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