「『茶漬えんま』の悲哀」(2)
創作落語「茶漬えんま」
作:小佐田 定雄、噺:桂 枝雀
(枝雀)一生懸命のおしゃべりでございまして、よろしくお付合いを願うのでございます。
「茶漬えんま」というお噺でございます。えんま(閻魔)さんが出てまいりますが、決してそんなに恐いようなえんまさんじゃございません。我々のイメージ、まぁみなさん方えんまに対してどのようなイメージか、イメージ調査したことないので分りませんけども、まず第一に恐い顔して・・・というような、あのーコワ〜というような、あんなんじゃないかと思うんですけども、今の若いお子たちはもうそのこともあんまり知らないんじゃないか。「えんまさんなんているの?」なんていうお子もあるかも分りません。我々の頭の中にはやっぱり、えんまさんいったら恐い人やというようなイメージがございますけれども、あのーこのお噺は新作でございまして、新しくこしらえたもんです。昔からあったもんじゃございません。
えーっ、いつも申しますとおり、まぁえんまという今も言いましたように恐いお人と、そういう緊張材料と、えー茶漬、お茶漬というようないわゆる緩和材料と、えんまさんのようなこんな恐い顔した人がお茶漬を食べていれば面白いだろうなというような発想から生まれた落語でございまして、面白いか面白くないかはもう分りません。で、とにかくですから、今言いましたように、えんまさんという恐いお人が茶漬を食べているというようなことをおかしいと思わない人にはおかしくない噺でございます。(笑)ですから、そこんとこだけは必ず、あの笑っていただきたいのでございます。(笑)ほかは別に無理は申しませんけども、初めの「わしがえんまじゃ。茶漬を食べてんのじゃ」というとこだけは、もうどんなことがあっても笑っていただきたいんですね。(笑)そうでないと前進みませんので、ひとつそのご協力だけ、まぁこの落語の場合はいつもみなさん方にお願いをするわけでございます。今日もひとつ、そのとおりでございまして、よろしくお願いをいたします。(笑)

(松本留五郎)あのーっ。
(えんま)そうじゃー!
(枝雀:あのー、まぁぼちぼちやりますので(笑)、みなさん方の方も一つ、あの心の準備をしていただきたいのですが・・・)(笑)
(留五郎)あのー、あなたがえんまさんですか?
(えんま)そうじゃー、わしがえんまじゃ。えー、茶漬を食べているのじゃ。(大笑、拍手)
あーなにかぃ、えんまが茶漬食べたらおかしいか?
いやー、おかしいことはないんですが。そりゃ、えんまさんかて、そりゃお茶漬食べてもうても結構でございますけども、なぜにお茶漬をお食べでございます?
ちっ、「なぜにお茶漬をお食べでございます?」はおかしいけども、まぁなんじゃね。ちょっと、今日まぁなんじゃね、ムカムカしてんのでね、あっさりしたものが食いとうてね。
ほう、なぜにムカムカ?
んにゃー、どうもいかんわい。
なんで?
なんでったかって、ゆんべちょっと、なんじゃ、キリストんとこで寄合いがあったんじゃいね。(笑)それでおまえ、向こうで・・・。
キリストんとこで寄合いが?
そうや、町内会の寄合いやけえ。大体、当番がずっと回っていくのやけどね、昨日はキリやんとこで・・・。
キリやん!(笑)
キリやんとこで、なんじゃいあってな。で、町内会やがな。えっ、どぶの掃除はどこがするっちゃなことで、大体順番でなんやであのゴミの日はどこに置いてはいかんとか、みなまぁ町内会あるわいな。うるさいわ、ワアワア言うて。どこのおばあさんお亡くなりになったけど香典なんぼにしようとか、もうみなごちゃごちゃとな、みな寄って。
ほう、町内会で。
そうよ。
ほかにどのような人が?
さあ、どのような人がって、キリやんとこ寄ったんやけど、まぁほかにっていうとしゃかやんな。(笑)
はぁー、お釈迦(しゃか)さん!
そうや。それでまぁ、マ、マ、あのなんじゃがな、マホやん。
マホやんとは?
マホメッド、マホメッド。(笑)それから、こうしやんにもうしやんにろうしやん。
だれです?
こうしやんに、もうしやんに、ろうしやん。
だれでんねん?
孔子に、孟子に、老子やないか。それに「やん」をつけてるんのやがな、おまえ大阪の人間やから。
あれっ、大阪の人間やからって、ここ大阪ですか?(笑)
いや、別に大阪じゃないけどもや、大体元々わしは大体、関西圏の人間じゃい、こう見えてもな。
そいであのなんじゃ、寄合いやってんけども、さぁいつも寄合いの済んだ後、宴会や。
宴会?
宴会ってのもおかしいけど、まぁあり合せのものでみなワァッてなこと言うねんけど、昨日もさぁキリストが、あいつはなんじゃい、あいつ酒癖悪いねん。(笑)おまえ知ってるか知らんか知らんけど。
キリストは酒癖悪うおますか?
悪いわ、あんな酒癖の悪いやつないべぇ。まぁ、そりゃそうや、しゃあないわい。常日頃、自分を抑えてね、暮しとるやろ。ああいうやつはそうやで。ようあんなこと言いよったね、「左のほぺたどつかれたら、右のほぺた出せ」って(笑)、そんなそんなアホなことできるかい、ええっ。人情としてやで、人情って、まぁあいつは神さんやから神情(かみじょう)やろうけど、ええっ。(笑)
神情?
神情やろうけども、情としてや。右どつかれたら、どつき返そうと思うのが情やろ。それを、右どつかれたら左出せっちゃな、あんなふうにしてえーっ、グーッと己れを抑えて暮しているもんやさかいやで、酒飲んだらそりゃ暴れるがな、随分。(笑)酒癖悪いがな。じきに、このー、あばらの傷見せて「どうだどうだ、どうだ!」ってな。(大笑)ねーっ。向う傷のおやじさんやないねんからね、あばら傷のおやじさんちゃ、そんなんカッコつかんねん。それにもう、ワァー言うて、こっちが嫌がってんのもえーっ分らんでやで、酒飲んでるもんやから「肉食え、肉食え」って、向うのしょうもない並の下の肉ぎょうさん食わされてやで(笑)、ムカムカしてんのや。そいでワイン。ちゅうか、なんかけったいなワインや。なんや、赤いの青いの分らへんなワイン飲まされてやで、こりゃいかんわいと思うて、帰りに「釈迦やん、一緒に帰ろうか」言うて、釈迦やんまぁ誘うてやで、「おまえとこ寄って、ちょっと精進料理を」てな。けど、知ってんか知らんか知らんけど、釈迦やんちゅうやつはね、あれは大体、インドのやっちゃやけんね。で、向うはカレーやがな!(笑)そやから、またあの脂身(あぶらみ)の多い、肉ぎょうさん放り込んだカレー食わされて、さぁちょっともさぁ、サッパリせんがー。でまぁ、とうとう悪酔いや。まぁ、今朝こうして茶漬食ってるってなこっちゃ。(笑)
<ジュルジュルジュルー、サラサラサラー・・・>
あぁーっ、まぁなんじゃい、あっさりしたもの食ったら、スッとするわい。
はぁー、さようか。いや、大体分りましたです。
えーっ、それじゃーわしー。あっ、ごっつぁん、ごっつぁん。
あのー、お出かけですか?
んじゃ、仕事に出んならんが。えんまかて、遊んでるわけにいけへんが、えっ。今日は日曜あらへんで、ちょっと出ないかん。
どこへ?
閻魔の庁へで、やっぱり、仕事に出んならん。
あっ、お仕事に。
そうえ、ちょっと着替えてくるよって。おまん、どうする?
えっ、あのっいやっ、一緒に連れてってもらえます?
そうか、よっしゃ。ちょっと待っててや、えっ。支度(したく)するよってな。
あぁ、お待っとうさん。ほな、行こうか。
ほな、行ってくるよってんな。
(えんまの奥さん)あのー、早うお帰り。
あのー、すんませんけどちょっと、今日生ごみの日ですねんけど、ごみ出しといてもらえます?(笑)
また今度にしよう。えーっ、おまえ出しといてくれ。今日は連れがあるよってんな。そんな、えんまが生ごみ持ってうろうろするじゃなんて・・・(笑)、客人に見せられへんがな。さっさっ、そんなら行こか。
へっ、あの、お供いたします。

へぇー、そうですか。いやしかし、私ねちょっとね、ええお天気ですね。
そう、ええお天気や。急にお天気のこと言出すな、ええっ。ええお天気じゃ。
ええお天気ですね。
そうや、そうや、えーっ。
で、なんですね。私はだいぶにこのなんですね、イメージが違いますね、えんまさんの。
なんで?
なんでったかて、んな、まぁあんた、かわいい顔して。これをーという冠着けて、こんな所から、耳からなんや棒出して、あんた、恐い顔、こんな恐〜い顔してるんのかと思ったら、なかなかええ男ですね。
ええ男じゃないがな。ありゃ、嘘、嘘! ありゃー、なんじゃい、演出上で。えー、ありゃ、お芝居で。まぁ、だれぞに言う時に、いやー、釈迦の坊主が好(い)い加減なこと言いよって、あんな、あんなやて。いやいや、みんなこういう、ちゃんとシュンとしたんじゃい。
シュンとしたんで・・・。結構ですね。
結構や。
へぇー、でやっぱり、閻魔の庁へはお仕事に。
そうえ。
お裁きに。
お裁きにっちゅうけど、まぁまぁ、まちょっとね、「おまえは地獄、おまえ極楽」っちゅなことも、ちょと仕事はせんならんわ。
へぇー、えれえもんでんね。やっぱりこう、紙の橋やとか善悪の首やとか、見る目・嗅(か)ぐ鼻・・・。
おまえ、いつ頃の人間や、おまえ。(笑)そんなもん、善悪の首や見る目・嗅ぐ鼻、それはずーと大昔の話や。今はなんじゃで、あのーなんじゃい、冥途(めいど)ミュージアムに行かにゃ、そういうものありゃあせんわい。今はもっと事務的なもんじゃい。
あっ、そうですか。
そりゃ、そうや。そんなもん、昔みたいにお上のご意向でギューと「おまえ地獄、おまえ極楽」っちゅなこと、そんなん言うたら、この頃、亡者(もうじゃ)の頭進んでるやないか。「上告じゃ、再審じゃ」ちゅなことで、いやーもう、何十年もまだごちゃごちゃしてるのぎょうさんあるのやで、あんなことしてられへんで、ほんまにもう。そやから、この頃は私も試験受けに行ってるけどね、もうなんじゃい・・・。ちょっと落ちたわい、もう。
ほぉー、ほー落ちましたか。
難しいのや、あの試験はね。で、もうしゃーない。みなもう、あのーなんじゃい、みなにまぁー、なんちゅうのやね、このブレインに任してまぁ、私は「ほー、ほー」ちゅなこと言って、はんこをポンと押しとけば、まぁいいようなことになってるわい。
へぇー、えらいもんでんな。ほんな、えんまさんのお裁きがない?
ならんね。この頃はみな、自己申告や。(笑)自己でみな申告するんや。
あっ、そうですか。
そうや。ちょうど、娑婆(しゃば)で税金納めるようなもんやい。自分のをザーッと書いて、「こんだけええことしました。こんだけ悪いことしました。何点、何点・・・」って、ちゃんと数字表があって何点、点数表があって何点何点、プラス・マイナス何点、えーっ必要罪状何点ていうて、必要経費引いてやで、そいでなんぼか残ったら、何点以上は極楽・何点以下は地獄って、自分でなにすんねん。こっちはもう、よほど怪しいなというもんだけ「おい、こっち来い」てなこと言うて、まぁなんじゃで、コチャコチャとまたわしがやるだけのこっちゃ。
えーっ、えらいもんですね。そんなことしたらあんた、みな「私も極楽、私も・・・」って。
いやー、それが面白いで。人間ちゅのはどこかに良心あんねんね。どうしてもこりゃー極楽無理やなと思うたら、「地獄行き」とやっぱり書きよるんよ。(笑)うまいもん残るんねん、そういうもんはね。良心ちゅうのはあるもんやで。
だいいちおまん、あんた、極楽・極楽言うけど、極楽ももひとつええとこやないで。
そんなことは間違いない。みんな極楽に・・・。
いやー、いやっ思うほどええとこやない。
なんで?
なんでったら、静か、静か。
静か?
静か。
静か、結構やん。
あっ、あのね、アホやでこの人は、アホやで。(笑)静かは結構です? 静かは静かで結構やけど、静かすぎるわい! 静か、シーン!(笑)えーっ、物音せんでー、そんなもん。年に何度かね、ハスの花が「ポッ」。(笑)「ポッ」。それがあり体(てい)に聞えてくるぐらいの静けさやぞ。車は通らん、喧嘩(けんか)はない、もめ事はない、物言わん、何もないのや。「ポッ」、これだけやぞ。(笑)こんなとこに住んでいられるか! まぁ、二、三日は「静かでよいのう」ちゃな言うて奴でも、「うーん、何か音くれ、何か音くれ!」言うて、で自分の方から「地獄へやっとくなはれ」ってみな願書出して、みな地獄へ行くくらいのもんじゃい。(笑)
そうですか?
そうですかって、そりゃ縁のない者には、極楽はそなええとこやないよー。じゃで、向うにいてる人こそはほんまの聖人君子じゃい。もう何万年も何十億年も黙ってポヤーと(笑)座ってられるっちゅうのはよほどの聖人君子じゃい。
あぁそうですか。けど、やっぱりなんやかんや言われても、極楽へ行きたいですね。私、行けますか?
そりゃ、行けるか行けんか分らんが、自分でこうなに申告してみないかんけど、よう書くか?
私、ちょっと書けんのですけど・・・。
ん? んな、あのーぼくのーなんじゃ、部下になにさしてやろ。

(枝雀:えーっ、ふたりがゴチャゴチャ言いながらやってまいりますというと、閻魔の庁でございます)
(えんま)おはようさん。
(えんまの部下)あーっ、こりゃこりゃ庁長さん、おはようさんでございます。
(留五郎)あんた、庁長さんですか?
そうや、閻魔の庁の長やで庁長さんえ、えーっ。よーあの、なんじゃで、あの町の町長さんと間違えられるけど、こっちは閻魔の庁の長やさかいね、よほど庁長やど。
はぁ、よほど庁長ですか。
あのー、すまんけどーきみ、あのこの男、この人ね、私のちょっとした知合いで、なんで知合いになったんかよう分らんのけど(笑)、知合いになっとんで、この人地獄行くか極楽行くか、ちょっとその書いてやってもらいたいと・・・。
あぁそうですか、分りました。へぇへぇ、へぇへぇ、えーっ承知しました。お務めご苦労さんでございます。
さー、あんたですか、どうぞこっちへ、どうぞこっちへ。えーっ、あんたはご自分で大体は書かにゃいかんのですけど、まぁなんですね、えんまさんの、はぁーえんまの、うちの庁長のお友だちらしいですから、私書いてあげますけども。えーっ、ほんまは向う行って、みなああして並んでますねん。朝早うからズラーと並んで、みな係員が一人ずつ応対して、あれーまぁなにしますねんけどね。あんただけは特別に、私がなにしてあげます、へぇ。
へぇー、お名前なんちゅうんです?
えーっ、松本留五郎(とめごろう)です。
あーなるほど、松本留五郎。どっかで聞いたことのある名前やな、ん?(笑)〔枝雀おはこの演目「代書屋」に登場するボケの主人公が松本留五郎で、その留五郎が突然ここで出てきたので、客の大笑いを誘った〕いやいや、同姓同名はよくあるこっちゃ。待ってくれよ。松本留五郎・・・、ちょっと待ってや。えーっ、<ウーン、んわんわんわーん・・・> えーっ、いやー、いまだにな、墨っちゅうなものを使うてんのやけど、この方が味わいがあってええわい、えーっ。そりゃ、今は万年筆やらマジックインキやらあるけど、やっぱりこれやないといかん。味が出んわい。
えーん、うん、まずあのー、本籍はどこ、本籍は?
えー、大阪の日本橋(にっぽんばし)です。
ああ、なるほどね。えー、大阪市えー、南区〔現在は、東区と合併して中央区に〕日本橋。
三丁目。
あぁ、三丁目。
二十六番地。
えー、二十六番地。風呂屋の向いか?
そうです。
ああ、なるほどな。(笑)〔「代書屋」の留五郎がそう〕風呂屋の向い、と。
現住所は? えっ、いっぺんも変ったことない、ここ? あぁそうや、やっぱりそうやね。〔同上〕右に同じ、と。名前が松本留五郎、と。へぃ、分りました。
えーっ、松本さん、松本さん。いえこっちにね、ちゃんとあの、なんですね。えっえー、<ガラガラガラガラガラー>閻魔帳というのがありますからな。エーッとショの、ヨイショッと。どうです、えーっ。もうなんですね、数限りなくありますからな。もう大勢の亡者やからね。もう何年もにわたって・・・イェーンとシェッと、開けてみなはれ。「あ」から順番にね。えー、「あかい」「あかー、あかし」「あかがわ」、えー「あかたに」「あかむら」・・・。ねぇ、こりゃ色々よう見てみなはれ、えーっ。あかー、あのーうーん、あのなんじゃね、「あきた」「あっあっ、あきがわ」「あきやま」、あんね色々あるでしょ。「いのうえ」「いのした」「いのな、いのなか」、えっ(笑)、えっ「いのなかかわず」? 面白い名前やね。(笑)え、「いのうえ」「うやま」「う、う、あのー、う、う、うざき」、えっーえっ、色々あるわね。えーっ、色々あるけど、なかなか出てこんもんやね、名前はね、うん。えー「おがわ」「お、おのでら」「お、お、おさだ」、えーえーっ。あんた、何? だれ? 「ま、松本さん」?「松本さん」? えっ、えぇーっ、「あ〜き」。あーっ、ちゃーてた!(大笑)
ヨーコラショッと。(笑)早いこと言いなはれ、早いこと、あんた、えーっ。「あ〜き」に「まーつもと」が載ってますかいな、あんた。ヨイショッと。えー、「まーまー、まー、まー」、あったったった。「まえだ」「まえやま」「まえかわ」「まえたに」「まえがしら」。(笑)えっ、「まえがしら」? いや「じゅうさんまいめ」とか・・・?(笑)えーぅん、あー「まつもと」ありました、はいはい。ヨイトショノショッと。えー「まつもととめごろう」、はぁーはー。あー「まつもととめごろう」が色々、やっぱり同姓同名ありますからな。どの分です、えーっ、どの分? その五? 五かな、六かな? えー、あー、あの南区の、あーありました、ありました。はいはい、なるほどね、へーへーへー。えー、ほーなるほど、色んなことしていますな、なるほどね。えー、あーなるほど。あー、あー、なるほど。えーっ、ああたなんですか、大工さんで?
へー、あのー、内弟子で見習いに。
偉いですな。へぇー、で、親方のとこの子供の、赤子の守(も)りをしていて、あー、子供に与えたチチボーロを横手から取って食べた!(笑)あー、これよくあります、こういうのね。(笑)これ、だいぶ点数引かれますよ、これ引かれます。えー、それから、色んなことしてますね。えー、橋の欄干(らんかん)を、酒を飲んだら渡る、渡るとね。なるほど。これは普通、点数引かれませんけどね。えー、ここでおしっこをしてはいけないという所で3遍(べん)した、と書いてありますな。(笑)これね、してはいけないと書いてあるいうことはね、ようする人があるということを白状しているようなもんやからね、あれ書かん方がいいと思うのやけどね。でも、これも引かれますよ。うーん、色んなことしてますな。えーっ、銭湯へ、はーはー、あの男湯入るのにわざと大きい額のお金を出して、お釣りを待っているような顔をして、女湯をチラチラと覗(のぞ)く。(笑)これ、かなり引かれますよ。(大笑)このー、気の小さいとこがね、引かれます。もっと堂々とやらにゃいけませんよね。あー色んなことを、えー、もっとまぁ色々ありますけど、まあそんなことばかり言うてられませんのでな、みんな引写して、はい!
地獄、極楽、どちらです?
さぁさぁ、今からね、ちょっとなにしてみましょうか、えっ。今、電卓というような便利なもんありますけど、私らやっぱり、こういうものがね、味があってよろしい。うーぅふん、これが・・・<チッチッチッチッチッチ、チャッチャッチャッチャッチャ、チッチッチ>ね。そろばん3級です。(笑)<チッチッチッチッチッチ、チャッチャッチャッチャッチャ、チッチッチッチ>えーっこれが引かれて、必要罪状まぁ、どいだけ認めるかですけどなー。なんなら、青色申告・・・。(笑)
いえいえ、そんなんいいです。
<チッチッチッチッ、チャッチャッチャッチャ>うん、まあまあ、これなら極楽行けんことないでしょ。いやー、あのー地獄の方がいいなら地獄へも行ける、ちょうどいいところです、どちらでも取れるような。(笑)極楽へ一遍(いっぺん)行ってみますか。そうですか、そいじゃぁ、そういうことにしましょう、えっ。<ポンッ>はいっ、じゃぁこれを持って。あのー2番のなにから、窓口にこれを提出して、そいで指示に従うて、あのドアからあちらへ入んなさい。極楽行きと書いてあるドアがあるでしょ。
それでは、そういたします。えんまさんによろしく。(→ (3)に続く)
©綿菅 道一、2017
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