前回(8月15日)の続きである。
今日、わが国には、さまざまな社会問題があるが、少子化と不妊による「人口激減」の兆しは、最大の社会問題といってよかろう。たとえば、人口の激減したアイヌ、インディアンには、かつての旺盛な活力が失われている。
「民族の衰退と生死」への助走である「人口激減」を招いたいくつかの原因の中でも、食物の及ぼす甚大な影響は無視しがたい。つまり「人口激減」は、「身土不二の原則に適う食生活」(伝統食)の崩壊にあるというのが、私の見解である。
前回述べたことだが、わが国の場合、日米間の政治力学によって「米食・菜食」という伝統食が、アメリカ流の「白パンと肉乳卵食」に乗っ取られてしまった。
この「反民族食」をもたらした敗戦を、このブログの筆者は「生理的敗戦」と呼び、そのスタートを1952年(昭和27年)7月31日に求めた。この日は「栄養改善法」が公布・施行された日である。
この悪法こそ、アメリカ産小麦を用いた「パン食」と、それに伴った「肉乳卵食」に、日本伝統食・米菜食を駆逐するキッカケを与えた。
このような「身土不二の原則」に反する「反民族食」は、必ずや、日本民族を淘汰させずにはおかないであろう。
◆「白パン食と肉乳卵食」普及への大合唱
「白パン食と肉乳卵食」は、「栄養改善法」でお墨つきが与えられた。そして、この欧米流の「反身土不二食」を支持する見解が、マスメディアにも現われた。
たとえば、朝日新聞のコラム「天声人語」(1959年7月28日)には、いまにしてみれば噴飯ものとしかいいようのない米食の否定が語られた。
「池のコイや金魚に残飯ばかりやっていると、ブヨブヨの生き腐れみたいになる。パンくずを与えていれば元気だ。米の偏食が悪いことの見本である。若い世代はパン食を歓迎する。大人も子どもの好みに合わせて、めしを一日一回くらいにしたほうがよさそうだ」
米菜食攻撃には、マスメディアだけでなく大学教授も加わった。慶応大学の林髞教授は『頭のよくなる本』で、米を食べれば頭の働きが悪くなると書き立てたのである。
こうして、対日小麦輸出戦略を推進するアメリカ合衆国政府と、その戦略にのせられた(正確には、擦り寄っていったというべきか)日本政府によって、日本人の多くに「白パン食と肉乳卵食」への嗜好がつくられていった。
アメリカ西部小麦連合会のリチャ-ド・バウム会長によれば、日本でのアメリカ産小麦によるパン食普及は大成功であったという。
同会長は、つぎのように語っている。
「いまになって、日本では『米を見直す』キャンペ-ンを始めていることは承知しています。しかし、すでに小麦は日本人、特に若い層の胃袋に確実に定着したものと私たちは理解しています。今後も消費は増えることはあっても減ることはないでしょう。私たちの関心は、とっくに他のアジア諸国に移っています。日本の経験で得た市場開拓のノウハウを生かして、この巨大な潜在市場に第二・第三の日本をつくってゆくのが今後の任務です。日本のケ-スは、私たちに大きな確信をあたえてくれました。それは、米食民族の食習慣を米から小麦に変えてゆくことは可能なのだということです」(高嶋光雪『日本侵攻 アメリカ小麦戦略』家の光協会刊)
◆永久占領(支配)は不可能
占領期にあって、日本人に「パン食」普及を目指したアメリカの目的は、食物援助を糸口にしたアメリカ産余剰小麦の対日輸出に他ならない。
「パン食」普及によって、はからずも、アメリカは政治的・経済的・軍事的支配に加えて、食物による「生理的支配」までも手中にすることができた。
政治的・経済的・軍事的支配だけでも、かなりの程度、被支配国(民)を支配できるが、それでは十分でない。しかし、政・経・軍による支配に加えて、被支配者の「食の嗜好」を変えて「生理的支配」が加われば、支配力はさらに強くなる。
この「生理的支配」でもって、アメリカは、わが国を「永久に支配する」という野望を実現できたと思ったかもしれない。
だが、食物による「生理的支配」には、「ある矛盾」が潜んでいる。この矛盾ゆえに、「支配」は、早晩、無意味となってしまう。
「ある矛盾」とは、いったい、何であろうか。
食による外国(民衆)支配は、永続性がないということである。輸入食物という「身土不二に反する食生活」を押しつけられた被支配国民は、早晩、生理的・生物的に滅亡してしまうからである。
「支配」とは、ある国が、己の都合のよいように、他の政府とその民衆を政治的・経済的・文化的に支配することである。そのためには、その国と民衆が「生存」していなければならない。したがって、その国の民衆が、輸入食物で「肉体的に消滅」してしまっては、「支配」そのものが無意味になってしまう。
だが、「支配者」の意図とはかかわりなく、いったん定着した「白パン食と肉乳卵食」(反民族食)への嗜好は、容易なことでは変えられない。
食物の嗜好性とは、そういうものである。この嗜好性のために、「反民族食」を自ら好んで求めるようになる。そして、滅びへの途を驀進する。滅ぶな、日本人!!