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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 147

2020年10月06日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
 夕食後、翌日からも『ブラックタイマー』復活の話をして回り、支持者の反応を待つことになった。アツコはナナと少し話をしてから、弁当をしっかりと抱えてエデンへ戻って行った。タロウはソファに座ってさらに次の一手を考えているようだ。タケルはそのまま家に帰ってしまったようで、姿を見せなかった。ほとぼりを覚ます何時もの作戦だ。チトセは機嫌が直ったようで、相変わらずコーイチの腕にしがみついて、にこにこしている。
「この調子だと、支持者の動きは思っているより早いかも知れないな」タロウが言う。「捕えて、正体を暴いて、二度とこんな事が出来ないようにしなくちゃいけないな」
「支持者を捕まえたら、お偉いさんに『こんな悪いヤツがいる』って報告するわ」ナナが言う。「そして、タイムパトロールにも逮捕の権限を与えてくれるように頼んでみるわ」
「そうだ、コーイチさん」タロウが顔を上げてコーイチを見る。「お兄さんに知恵を貸してもらえないかな?」
「え? どうして? みんなで考えた作戦、かなり良いと思うんだけどなぁ」コーイチは言う。「それに、兄さんは今の研究に没頭しているから、脇目を振ることが出来ないと思う。申し訳ないけど」
「そうなんだ……」タロウは残念がる。「ケーイチさんなら、ボクたちの予想以上の凄いアイデアを出してくれると思ったんだけどな」
「それで、お兄さん、何の研究をしているの?」ナナが興味深げな表情で聞いてくる。「実際のタイムマシン製作者って言っても過言じゃない人だしね。やっぱり、タイムマシンの改良についてかしら?」
「……ボクも、実のところよく分からないんだ」コーイチは頭を掻く。「でも、タイムマシンの事なのは確かだよ。トキタニ博士の残した資料を読みながらメモを取ったり考え込んだりしているから」
「曽祖父の残した資料って、それこそ厖大よ。それを読んでいるの?」
「散らばった資料を順番に並び替えたりもしているみたいで『これはまだ後だな』とか『やっとここの穴が埋まるぞ』とか言って、一人でわあわあやっている」コーイチはふふふと思い出し笑いをする。「食事を持って行ったら、食べながら資料を読んでいてさ、お箸で資料のページを摘まんでめくったりしていたよ」
 その話にチトセはけらけら笑いながらうなずいた。チトセもそんな様子を見た事があったのだろう。
「どんな事を研究しているのかしらね?」
「なんだか大変な事に気が付いて、それが本当かどうかって事を研究しているらしい」
「大変な事……?」
「突然『コーイチ、聞け!』とか言って、延々と専門用語を聞かされて参っちゃったよ。……結局は兄さんが大変だって言うから大変だって思ったんだけどさ」
「頼りないわねぇ……」ナナは不満そうだ。「……でも、今すぐどうこうって事にはならなそうね」
「そう思うよ。思うけど、よく分からない……」
「……あと少しで読み終わると言ってた」チトセが割って入って来た。「食べながら読み物は行儀が悪いって言ったら、そう言って見逃してくれって言ってた」
「チトセちゃん、兄さんに話しかけられるんだ……」コーイチが腕にしがみついているチトセを見て言う。「研究中はすっかり自分の世界に入ってしまって、会話も思いついた時に一方的に話すだけなのに……」
「オレ、兄者の助手ってのもやっているんだ。だから、話は聞いてくれるんだ」チトセは自慢げに言う。「兄者は大柄だから、細かい作業がやりにくい。そんな時は代わりにオレがするんだ。優秀だって褒めてくれた」
「それは、凄いや……」コーイチは心底感心したように言う。「あの兄さんを手伝えるなんて……」
「読み終われば、また何か手伝えるかもしれないな。楽しみだよ!」
 そう言うとチトセはコーイチの腕にしがみつく力を増した。
 その時、リビングのドアが開いた。ドアの所に、ぼさぼさ頭で顔の下半分を髭で埋め蒼いつなぎを着た相変わらずの姿のケーイチが立っていた。ケーイチはまっすぐにチトセを見る。
「おい、チトセ」ケーイチが言う。「今、手が空いているか?」
「え?」チトセはいきなりの問いかけに驚く。「……後片付けも終わったし、後は風呂だけだ」
「そんなもの、ちょっと入らなくても死にはしない」ケーイチは言う。「これから、ある装置を作る。手伝ってくれ」
「また、ちっちゃい部品を使うのか?」チトセの問いにケーイチはうなずく。チトセはにこりと笑う。「分かったよ。これから行くよ」
「……それで、兄さん」コーイチが声をかける。ケーイチはコーイチが居た事に、たった今、気が付いたような顔をする。「資料は読み終わったのかい?」
「ああ、読んだ。三回ほど読み返したよ」ケーイチの言葉に、ナナは驚き呆れた表情で「人間じゃない……」とつぶやいた。「それでオレの考えが正しいかどうかを検証するために装置を作らなきゃならないのさ」
「それで、チトセちゃんを……」
「ああ、そうだ。チトセは優秀な助手だ」そう言うと、ケーイチはチトセを手招きする。「さ、早く行こう。風呂くらいなら、他の連中でも沸かせるだろう?」
「そうだけど、オレも入りたいよ」
「これが終わったら一生入っていても良いから、付き合え!」
「分かったよ……」
 二人は出て行った。どたどたと言うチトセの足音と、ばたばたと言うケーイチの足音が聞こえなくなった。
「……やっぱり、タイムマシンの研究の様ね」ナナが言う。「それにしても、やっぱりチトセちゃんは凄いわね。絶対、タイムパトロールに入れるわ!」


つづく

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