ホーソンはドームに走った亀裂を見つけ、そこから市街地へと足を踏み入れた。崩壊した摩天楼の残骸に、今はその命を失った「繭玉の寝床」から伸びた糸状のものが縦横に絡みついた、凄惨で沈黙の世界が広がっていた。ただ、意外と中は明るく、暖かだった。
ホーソンは司令部に戻り、国連に環境部門の専門家による調査チームの編成を要請した。ドーム内で一つ気になる事があった。「ドーム内の大気の匂いが違っている」そう感じたのだった。国連はホーソンの要請を受け、地球環境を研究するアメリカのオリビア・サンドストーン博士以下、数名の専門家を派遣した。
ホーソンはサンドストーンに、特に「繭玉の寝床」の糸状のもので包み込まれた内部の大気を重点的に調べるように要望した。サンドストーンは了解し、一小隊に警護されながらドーム内に入って行った。
調査チームはホーソンが言っていた大気の調査をまず行うことにし、サンドストーンの指示のもと早速作業を開始した。大気の分析装置が稼動し、データを表示する。そしてそのデータから、信じられない事が判明した。
人類はオチラを地上に出現させないために、ある程度環境を悪くする道を選んだ。人類はその状態に慣れる事ができ、その状態の中で普通に生活を営む事もできるようになった。
しかし、サンドストーンたちの調査から、ドーム内の大気はオチラが出現する前、いや、それ以上に清浄化されている事が判明したのだ。また、当たり前のように増えていた雑菌も殆ど無くなっていた。糸状のものに絡みつかれた建物などの残骸も、その部分は無菌に近くなっていた。ドーム内には人類にとって最上の環境が備わっていた。サンドストーンたちは思わず大きく深呼吸を繰り返した。
この報告は国連になされ、すぐに世界中に報道された。宇宙からのこの生物は、日本の映画に出て来た怪獣に似ている事から「モヘラ」と名付けられた。
「モヘラは地球を救う」「モヘラよ、再び出現せよ」と言った記事がマスコミを賑わした。だが、そのように軽薄に浮かれているマスコミ、それに便乗して騒ぐ者達を苦々しく思っている人々がいた。
それは、良い環境が整えばオチラが現われ全てを破壊してしまう事を、忘れていない人々だった。しかし、マスコミやそれを支持する人々は、オチラがすぐに現われなかった事からオチラはもう滅んだものと決めつけ、危惧している人々を「取り越し苦労の心配性」と嘲った。
モヘラはそれ以降出現する事無く、ひと月が経った。安全宣言がなされ多国籍軍は解散し、後はアメリカ陸軍が監視を行うことになった。その頃から、手薄になった監視を衝きドーム内に進入する者が後を絶たたず、糸状のものを一部持ち出す事も横行した。さらに直接監視を行う小隊自体もドームへ出入りし、同じような事を行った。ついにドームは新たな観光名所と化し始めた。
そんなある午後まだ浅い時間、多くの人々がドーム内外に戯れている時、地の底から何物かの雄叫びのような地鳴りが湧き起こった。そして、ドームの下に地割れが起き、ドームをすっかり飲み込んでしまった。
ドームが消えたその後にオチラが現われた。
次回「大怪獣オチラ対宇宙怪獣モヘラ 拾」を待て。
![にほんブログ村 小説ブログへ](http://novel.blogmura.com/img/novel100_33.gif)
![にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ](http://novel.blogmura.com/novel_sf/img/novel_sf88_31.gif)
ホーソンは司令部に戻り、国連に環境部門の専門家による調査チームの編成を要請した。ドーム内で一つ気になる事があった。「ドーム内の大気の匂いが違っている」そう感じたのだった。国連はホーソンの要請を受け、地球環境を研究するアメリカのオリビア・サンドストーン博士以下、数名の専門家を派遣した。
ホーソンはサンドストーンに、特に「繭玉の寝床」の糸状のもので包み込まれた内部の大気を重点的に調べるように要望した。サンドストーンは了解し、一小隊に警護されながらドーム内に入って行った。
調査チームはホーソンが言っていた大気の調査をまず行うことにし、サンドストーンの指示のもと早速作業を開始した。大気の分析装置が稼動し、データを表示する。そしてそのデータから、信じられない事が判明した。
人類はオチラを地上に出現させないために、ある程度環境を悪くする道を選んだ。人類はその状態に慣れる事ができ、その状態の中で普通に生活を営む事もできるようになった。
しかし、サンドストーンたちの調査から、ドーム内の大気はオチラが出現する前、いや、それ以上に清浄化されている事が判明したのだ。また、当たり前のように増えていた雑菌も殆ど無くなっていた。糸状のものに絡みつかれた建物などの残骸も、その部分は無菌に近くなっていた。ドーム内には人類にとって最上の環境が備わっていた。サンドストーンたちは思わず大きく深呼吸を繰り返した。
この報告は国連になされ、すぐに世界中に報道された。宇宙からのこの生物は、日本の映画に出て来た怪獣に似ている事から「モヘラ」と名付けられた。
「モヘラは地球を救う」「モヘラよ、再び出現せよ」と言った記事がマスコミを賑わした。だが、そのように軽薄に浮かれているマスコミ、それに便乗して騒ぐ者達を苦々しく思っている人々がいた。
それは、良い環境が整えばオチラが現われ全てを破壊してしまう事を、忘れていない人々だった。しかし、マスコミやそれを支持する人々は、オチラがすぐに現われなかった事からオチラはもう滅んだものと決めつけ、危惧している人々を「取り越し苦労の心配性」と嘲った。
モヘラはそれ以降出現する事無く、ひと月が経った。安全宣言がなされ多国籍軍は解散し、後はアメリカ陸軍が監視を行うことになった。その頃から、手薄になった監視を衝きドーム内に進入する者が後を絶たたず、糸状のものを一部持ち出す事も横行した。さらに直接監視を行う小隊自体もドームへ出入りし、同じような事を行った。ついにドームは新たな観光名所と化し始めた。
そんなある午後まだ浅い時間、多くの人々がドーム内外に戯れている時、地の底から何物かの雄叫びのような地鳴りが湧き起こった。そして、ドームの下に地割れが起き、ドームをすっかり飲み込んでしまった。
ドームが消えたその後にオチラが現われた。
次回「大怪獣オチラ対宇宙怪獣モヘラ 拾」を待て。
![にほんブログ村 小説ブログへ](http://novel.blogmura.com/img/novel100_33.gif)
![にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ](http://novel.blogmura.com/novel_sf/img/novel_sf88_31.gif)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます