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お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ジェシルと赤いゲート 57

2024年08月01日 | マスケード博士

「そうだったわ!」ジェシルはむっとした顔で言う。「マーベラのせいで忘れていたわ!」
「それはこっちのセリフだわ!」マーベラもむっとしている。「考古学のこの字も知らないような宇宙パトロール風情がうるさいのよ!」
「なによ!」
「なによって、なによ!」
 二人はぐっと顔を近付けて睨み合う。そして、互いを大声で罵り始めた。
 何時終わるともしれない罵り合いに、トランとジャンセンは顔を合わせて呆れたような溜め息をつく。
「……そう言えば、君たちがここに来る事になった経緯って聞いていなかったねぇ……」
 ジャンセンは草むらの上に座り込むと、トランに話しかけた。罵り合いを無視する事にしたようだ。
「そうでした……」トランも同様の心づもりをしたようで、ジャンセンの隣に座り話し出した。「あれは三週間くらい前だったんですが、マスケード博士からの呼び出しがあったんです。姉さんは嬉々として出掛ける用意をしていました。ぼくは、先ほども言いましたが、不安が拭えませんでした」
「マーベラは博士の信奉者なんだねぇ……」ジャンセンは罵り合う二人をぼうっと見ながら言う。罵り合う声は二人には声の悪い鳥のさえずりに聞こえている。「まあ、良い人だよね、博士は。ぼくも色々と世話にはなっている…… でも、金銭面ではちょっと厳しいなぁ」
「それはぼくたちも同様です。結構持ち出しが多いんですよ。現場までの旅費とか段取りのための諸費用とか……」
「援助は無いのかい?」
「少しはありますけど、全然足りないですね」
「じゃあ、どうやって工面しているんだい? 後学のために聞いておきたいな」
「発掘の時に、指定されたもの以外を幾つかを持ってくるんです。それを博物館とか古物商とかに内々で売っています。姉さんはみっともないって怒るんですけど……」
「マーベラは君の苦労を知らないんだな」
「知ってほしいとも思いません。姉さんは発掘調査の時は生き生きしていて嬉しそうで、ぼくはそんな姿を見るのが好きなんです。だから、みっともないって怒られても平気です」
「君の支えがないと、マーベラは何もできないって事か……」
「ぼくは姉さんからは離れないつもりですから」
「でも、いつまでもってわけには行かないだろう? 君だって、自分の生き方を見つけて実践する事も必要だよ。今はマーベラを支えるんだとしても、後々どうなるか……」
「それは考えていませんよ」
「そうかい……」決然としたいるトランにジャンセンはこれ以上何も言えない。「……で、経緯が途中だったね」
「そうでした。……マスケード博士に呼び出され、古代マリジャ王国の地下宮殿の調査を依頼されたんです」
「そこって、かなりの辺境宙域だったね。まだ言語が残されていない時代の王国だったねぇ。文明らしきものも残されていなかった」ジャンセンが遠い所を見るような眼差しをする。「絵文字らしきものは少し残されていたけど、それは数百年も後に別の種族が書き残したものだったから、信憑性が薄くって、役には立たなかった」
「そうだったんですか。でも、その地下宮殿に当時の事が分かる資料があると、マスケード博士はおっしゃいました」
「へぇ、良くそんな事が分かったものだ」
「ぼくもそう思いました。……でも、姉さんはすぐに調査に向かう旨を伝えたんです。いつものように、ぼくが資料を預かりました」
「そして段取りを組んで現地に向かったわけだね」
「はい。ぼくが調べたところでは、今も発掘が続いているとの事だったんですが、誰もいませんでした。発掘用の足場や道具なんかは見られたんですが……」
「じゃあ、人だけいなくなったって事?」
「そんな感じです。姉さんは、自分たちが動きやすい様にマスケード博士が事前に現場に連絡しておいてくれたんだって言っていましたけど」
「まあ、そうとも考えられるねぇ……」
「それはそれとして、ぼくたちは文献の地図にある通りに進みました」
「何だか、ぼくの時と似ているねぇ…… ぼくも博士に呼び出されて地図を渡されたんだ。従姉妹のジェシルの屋敷に地下室があって、そこには古の文献が並んでいるってさ」
「地下宮殿は思いの外、狭かったです。地下宮殿と言っているけど、地下貯蔵庫の間違いなんじゃと思いました。姉さんは博士がおっしゃるんだから宮殿なのよと譲りませんでしたね」
「ジェシルもそうだけどさ、女性って思い込みが激しいものなのかねぇ……」
「なんですってえ!」
 突然、上から殺気立った声が二つ、同時に聞こえた。ジャンセンとトランが顔を上がると、罵り合い疲れたのか肩で息をしているジェシルとマーベラが二人を見下ろしていた。

 

つづく

 


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