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新月のサソリ

空想・幻想・詩・たまにリアル。
孤独に沈みたい。光に癒やされたい。
ふと浮かぶ思い。そんな色々。
(主・ひつじ)

零れ桜

2025-04-06 02:30:00 | 

私がそこにいなくても、きっと風は吹いたのだろう。

はらはらと降る薄紅色の花びらを風がザッとあおった。
舞い乱れた花片は風の形を不規則になぞってから、脹らむカーテンみたいに平らに並び、光が射すその先へちらちらと降りてゆく。

そこに私が居なくても、風は吹き花も降ったのだ。
きっと私が居なくても、世界はそこにあるのだろう。

けれどまぎれもなく私はその世界で同じ風の中に居た。
そこに私が居なくとも世界がちゃんと在るように、
きっと私も、どこにいても、一人きりでも、
ちゃんとそこに在るのだと、そう、聞こえた。

そのときの私は、ただただ心の内から溢れてくるものを、ああ、綺麗だな、ああ、綺麗だな、と、
世界が美しく呼吸をするその在りように委ねることしか、やりようを知らなかった。

どうしようもない喪失感。

どうしようもない、美しさ。




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