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何か言ってる

さらに適当好き放題

おそうじライダーマン17

2015-09-23 16:41:10 | おそうじライダーマン
※なんとなく趣旨を察してください




 紅茶がメインの店に入るのは、久しぶりのことだ。男二人の客は少々目立ってしまっているようだが、結城はあんがいそういうことに構わない。
(まあ、気にしたところで仕方の無いものなぁ)
 入りたい店に入るということに風見自身ももちろん賛成で、そして頼みたいものを頼むべきなのである。
「ずいぶん種類があるんだね。ここから選ぶのは難儀だなあ」
「ふたつくらい選んで、いろいろ味見しないか」
「そんなに食べられるかな」
「弱気なこと言うなよ」
「ほら、向こうの、見てごらんよ。わりと大きいぜ」
「なに、お前とならなんとかなるさ」
「…かなわないなあ」
 じゃあ、これとこれにしよう、なんてあっさりふたつ選んでしまう。風見は少し時間を掛けて、なるべく具材のかぶらないものをようやくえらんでから、店員をよんでオーダーする。
 注文を済ませてしまうと、結城はなにやらお疲れの様子で机に肘などをつく。
「…しかし、どこに行っても、ものすごい人だねえ。連休って奴は、すごいよ、まったく」
「どうした、情けない。旅行はどうだったんだ」
 水を向けると、結城はさらに情けない顔をする。
「どこに行っても、なにをするにも、とにかく人、人、人さ。そのたびにえらい時間がかかるんだもの」
 まったく思うさまにならなかった旅行のあれこれの出来事を(結城には申し訳ないが)楽しく聞かせて貰って、有りがたくお土産まで受け取ったものの、
「おい、なあ。俺はべつに、厄年じゃあないぜ」
「…えっ」
 風見の手元を確かめると、いよいよ結城は頭を抱えてしまった。
「…いや、でも、ありがたく頂くよ」
「参ったなあ…とにかく、ろくに確かめられる状態じゃなかったんだよ。すまん」
「なるほど、だいぶ大変だったんだな、よく分かったよ」
 意地悪く風見がからかうのを、結城は困ったように見返している。
 そこへ、タルトとポットで満載になったトレイが到着、しばらく休戦にする。

「旅行の荷物は、あらかた。いくつか、人に渡すものがはけてしまえばもう少し落ち着くかな」
「こういうふうに、な」
「もうしまっておくれよ」
「ハイハイ」
「夏の買物のほうも、いくつか読み進めていてね。こちらもなかなか楽しくて…」
「…ふうむ、そうかい」
 極力、その話のことは避けておきたかったのだが──どうやら気付かれたらしい。
「どうしたんだい。何か気になるようだが」
「そんなことはないよ」
「だって、この間もこのゴれ──」
「なんでもないったら!」
 まったく、今日は強くあれこれ言いにくくなってしまったな。

おそうじライダーマン16

2015-09-17 23:08:37 | おそうじライダーマン
※なんとなく趣旨を察してください




「──そんなわけで、しばらく報告はお休みさせてもらうよ」
「結城、わかってるとは思うが、あまり、後で始末に困るような物は買ってこないようにな。たいへんなのは自分だぞ」
「なに、今回はほとんど気分転換みたいな旅行だよ。そんなことにはならないさ」
 それならいいが、この相棒が妙に力強い雰囲気のときは、なんとはなしに不安な気持ちになってしまうことが多いのである。
 いちおう、そこのところは自分の中にしまっておくことにする。
「少しの間だけれど、寂しくなるな」
 半分本気で言うと、電話の向こうで結城は笑っている。
「おおげさだなあ、風見は。しばらくずっと煩わせてしまっていたが、ここらでのんびりできるじゃないか」
「それはまあ、そうなんだがね。けっこう、楽しみにしていたんだよ」
「はは、すぐに再開するから安心してくれ」
「そう頼むぜ」
 じゃあ、と通話を終えてみて。
 ──やっぱり、なにか、不安で仕方が無い…。

(というわけで連休はおでかけです。)

おそうじライダーマン15

2015-09-16 22:40:00 | おそうじライダーマン
※なんとなく趣旨を察してください




 結局、今日の帰りも遅くなってしまった。
 帰り道の電車の中で、あの本を読もうか、あすこのケースの中身を整理しようか、そんなことをつらつら考えながら、その後相棒に報告をするところまでを楽しみに想像しているうちに、うとうとと眠気を感じ始めた。
(これは、いけない)
 電車を降りてから住まいまでのみちも、ふとするとぼんやりと眠くなってしまう。今日は、なんとしても風見に報告しなければ。なんども眠気を振り払いながら、ようやく住まいにたどり着く。
 覚悟はしていたものの、簡単な食事を済ませるうちに、ますます睡魔はあらがいがたいものになる。
(なにか、簡単に済ませられるものでいいから、片付けてしまわなければ…)
 そうでないと、忍耐強く付き合っていくれている友人の顔が――
(ん?)
 はっ、と思いついてケースから取り出したのは、極小ブロックのキット。大好きな先輩達がおきまりのポーズをきめている様子の特徴が、どれもばっちり捉えられている。
「本郷さんだけ組み立てしてみたんだけれど、これが意外と時間も手間もかかる作業だったんだなあ」
 まだ組み立てられていない赤いグローブの先輩も、つきあいの良い相棒も、続きは新しい住まいでのお楽しみにとっておこう。
 保管用の段ボールに、3人をそっとしまってから、これをどう報告したらいいのかな、とあれこれ悩んでいるうちに──

おそうじライダーマン14

2015-09-15 11:48:51 | おそうじライダーマン
※なんとなく趣旨を察してください




 思い返せば、例の約束をとりつけてからというもの、ほとんど毎日のように結城と顔を合わせたり話をしている。昔、デストロンと戦っていた時なんて、むしろあちらが意地を張って、こちらから逃げたり、つまらない争いをすることになったりしていたものなのに。
 …まあ、そんな話しをむしかえしても、また結城の奴がいじけてしまうからよそう。
 男2人の昼食には少し軽すぎるような内容の注文を済ませてから。
「じゃあ、飯がくる前に、例の奴を手短にすませようか、結城」
「そうだね。うん、今日の所はおくるやつを段ボールに詰めたり、出てきたがらくたを袋に詰めたり。正直、まだまだ先は長いってところだよ」
「ふうん」
 昨晩はどうしたものかと頭を抱えたが、今日はちゃんと切り替えて身体を動かしたらしい。ひとあんしんした心地で、水をひとくち。
「なあ、見てくれ。こんなものが出てきてね」
 と、スマートフォンの画像をこちらに向けてくる。覗いてみれば、ずいぶん懐かしい映画のパンフレットなのである。
「へええ。2作目だね」
「そうなんだ」
「よくとってあったじゃないか」
「まったくね。でも、1作目のほうが楽しいよね」
「うん、あの3人はとくべつだもの」
「うん」
「でも、2作目だって、見所はいっぱいあったよなぁ」
「そうそう…」
 ずいぶん昔に見たっきりなのに、あれこれお気に入りのシーンはどちらもよく覚えているから不思議なもんだ、なんて思っていると。
「…このパンフレット。よくは覚えてないんだがね、たぶん、首領に買ってもらったんだよ」
「ん………」
(え?)
 と、少し遅れて戸惑う風見に構わず、結城は、さばさば続ける。
「昔は、用事があって定期的に医者にかかっていたものだから、平日に学校を休めるわけだ。ほんとうにときどき、首領にもつきあってもらうこともあって。たぶんそのときに、連れて行ってもらったんじゃないかなあ。しかも、1作目の方が好きだけど、こっちで妥協しておくか、なんて考えながら買ってもらったんじゃあなかったかな。記憶違いかもしれないがね」
「……」
「…ひさしぶりに中身を覗いてみたんだが、やっぱり、2作目はそこまで思い入れが無かったみたいなんだ。わざわざ今までとっておいたんだが、いい機会みたいに思えたから、捨ててしまったよ」
 と、結城は、部屋にたった1匹の蛾が入り込んで騒いでいたことなどどこ吹く風で、にっこり笑った。 
「──話しはもとに戻るが、風見はあの3人のなかでは誰がいちばん好きなんだい?」
「えぇ?……そうだなあ」
 そんなことを選んで頭を悩ませるより、また1作目を見直す方が楽しいんじゃないかな。
 できることなら、今のすみかにいる内に、いちどきちんと片付いてから。

おそうじライダーマン13

2015-09-14 22:48:16 | おそうじライダーマン
※なんとなく趣旨を察してください




 最近続いている、例の作業の用事かと思って着信を受けると、
「か、か、風見……!」
 すっかり動転した、そのくせ妙に押し殺した声がスピーカーの向こうから聞こえてくる。風見もつられて声を抑えて、するどく尋ね返す。
「どうした、結城」
「部屋に、大きい、が」
「大きい?」
「がいて」
「何がいるって?」
 珍しく要領を得ないことを言う。
「大きいがが」
「結城?」
「蛾が、壁の所に…風見…」
 ふいに、結城の言わんとしていることが理解できた。
「…………蛾?」
「そう、そう、そうなんだよ……!」
 憮然とする風見に向かって、結城は必死に訴え続ける。
「大きいんだ…500円玉より大きいんだよ…!じっと、壁に止まったままで」
「……」
 さすがに、どう返事をしたものかと頭を抱えている間も、結城は切々と訴え続けている。
「茶色いんだよ…胴体も太くて、風見、ちょっと、風見…わ、飛びそうだよ、うわ、うわ、…わああ、風見ぃ…」
「……わかったわかった。すぐ行くから」
 結局、しまいにはそう返事を返してしまった。
「風見…」
「そんな感極まった声をだすんじゃない。そんなに蛾が嫌なら、俺が行くまで部屋の外で待ってろ」
「風見ぃ……」
「わかったから」
 こっちが泣きそうだ、なんて思いながら通話を切って、重い足を結城の住まいへと向けて歩き始めるのだった。

 まあ、そんなくだらない用事で頼りにされることが、滅多にあるわけじゃあないものな。
 だよな?






「…で、行ってきたんですか」
「俺だってどうかと思うよ」
「なるほどねえ」
 なるほど、って何なんだ。
 敬介は楽しそうにグラスを傾けるばっかりで、かえってなんだか気味が悪いなと思っていると。
「いやあ、風見先輩の話はいい肴になりますよ」
 なんてほざいて、お代わりを注文する。
(こいつ)
 すかさず肩口をつかまえて、マスターに追加の注文をする。
 それを聞いて頬を引きつらせた敬介に、
「そいつは俺も嬉しいよ、良い話し相手になる、気の良い後輩がいてくれるってのは。なあ、敬介」
 ぐいぐい。
「俺には勿体ないですよ、風見先輩」
 ぐいぐい。
 火種を近づければたちまち炎が上がりそうな度数のグラスを押し付け合いながら、傍目には肩を寄せ合い仲むつまじく、その実大人げの無い2人の争いはまだまだ続きそうだ。