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何か言ってる

さらに適当好き放題

おそうじライダーマン12

2015-09-13 10:50:30 | おそうじライダーマン
※なんとなく趣旨を察してください




──続き──

 ようやく笑いの収まった結城は、機嫌良く今日の出来事など話し始める。
「今朝は久しぶりにライダーマンマシンを調整して、タイヤに空気もめいっぱい入れたから、一日走ってきたんだよ」
「お前からマシンの話しを聞くのは久しぶりだな」
「そうだろ、情けない話だが、すっかり億劫がってしまっていたんだよ。今日は気持ちよく走ってこれたよ」
「自分ばっかり楽しんできたのか」
 声くらい掛けてくれれば良かったのに、と本気半分の気持ちでからかうと、
「ああ、そうか、面目ない…」
 困ったように言ってから、ただ、ちょっと行き先がな、などと言い訳をしている。
「うん?どこまで行ってきたんだい」
「うん…。実は、一文字さんの店の方まで、ちょっと」
 一瞬、頭が真っ白になる。
「お、お、お前」
「いや、僕が勝手に!場所を聞いたから。営業が始まる前に、外側だけ、ちょっと覗いてみようかと…」
「お前…」
「ちょうど良い距離だったんだよ。帰りは川沿いを流して…なんて考えたら、行ってみたくなって。天地神明に誓っていうが、一文字さんの顔を覗きに行って店の邪魔をしたりするつもりもなかったし、たまたまぐうぜん、そこいらで顔を合わせたら、なんて考えも無かったんだ!」
「最後のはあったろ」
「な…無かった!ちょうどお祭りの日だったから、はっぴ姿の想像くらいはしたが、そんな、顔を合わせるなんて」
「お前」
「これも天地神明に誓って言うが、たまたま、ぐうぜんお祭りをやってたんだよ!あちこちで子供たちが神輿をかついだり、山車をひいたりしていて。あの人、なんの違和感も無しに混ざってそうなところがあるだろう、だから、ちょっと想像しただけで」
 人を出し抜いてやろうなんてことを考える奴じゃないことはわかっているが、それでも、そんなところに行くのに声を掛けてくれないだなんて…。
「すまん、風見、抜け駆けしてやろうなんて言うつもりは、ほんとうに、これっぽっちも無かったんだが…でも、君に悪いことをしてしまった」
「…いや、すまん」
 真面目に謝られて、風見はようやく冷静になる。本心を言えば、声を掛けて欲しかった気持ちはあるが──それでもわざわざ、自分に断らなければいけばい、ということでもないし。
「ちゃんと店に行く時は、声を掛けてくれるつもりだったんだろう?」
「もちろん、当たり前じゃないか!」
 悪い奴じゃあないのは、風見自身、良くわかってはいるのだ。残念ながら。
(いちいち目くじらを立てるような事じゃないんだよなあ。俺としたことが)
 そんな反省をはじめたところへ、
「…ああ、でも。やっぱり、僕にも少し、抜け駆けしてやろうなんていう気持ちがあったのかも知れないよ」
「えぇ?」
 すっかり驚いている風見に、じつはね…と、結城。
「店のすぐ近くのところまでは、びっくりするくらいスムーズに来れたんだ。ところが、店のある路地、そこだけどうしても見つけられなくて。その手前を行ったり来たり、なんどもなんども往復したんだが、とにかくそのときは見つかられなかったんだ。しまいには歩いて、ゆっくり確認しながら近づいたら…さっきからずっと見逃して、直進したり、逆方向に曲がってしまったりしていたところにその入り口があってね。本当に不思議な話なんだが、走っている間は、全く見つからなかったんだよ」
 と、そんなことまでいつもの調子で話すから、自分も人が悪いな、と思いながらもおかしくて仕方が無い。
「その時点で帰ろうとは考えなかったのかい」
 つい、意地悪く聞いてしまうと、
「そりゃあ…ここまで来たら、なんとしても店までいきたいと思うもの」
「本音が出たじゃ無いか」
「まったく。君って、時々妙に意地が悪いんだものな」
 珍しく、向こうから呆れられてしまった。

おそうじライダーマン11

2015-09-12 23:13:42 | おそうじライダーマン
※なんとなく趣旨を察してください




 再びの着信に、風見はなるべく取り繕った声で受ける。
「やあ、お疲れさん」
「…やあ、風見」
 もう、その声の調子だけで笑い出しそうになってしまうのを、なんとか堪える。
「その様子だと、今日は進捗があったみたいだな」
「察しがいいなあ。保管サービスに送る荷物を少しまとめてね。手放すほうも、いくつか…。正直、今日の報告のために慌ててやったところだよ」
 素直に白状するので、風見もついつられて笑ってしまう。
「それでいいじゃないか。今日は、何か面白い物はでてきたかい」
「そうだねえ、びっくりしたんだが、古いゲームがいくつか。それも、ハードを購入した当時から遊んでいた作品ばかりがね」
 タイトルを聞いてみると、どれも思い入れがあるに違いない物ばかりだったので、ちょっと驚いてたずねた。
「いいのかい、手放してしまって」
「なんてことを言うんだ、君は」
 おや、笑われてしまった。
「うん、特に充分遊んだタイトルばかりだもの。これのおかげでたくさん友人が出来て、いろいろな話が出来て。そうやって思い出すことはたくさんあるけれど、ゲームとしては、もう充分楽しんだんだ」
「…そうかい」
 何故か、ちょっとほっとすると。
「なんだい、心配したみたいに」
 不思議そうに、向こうからたずねてきた。
「そんなことで、いちいち心配なんてしないよ」
「それもそうか」
「…でも、な」
「うん?なんだい」
「結局、どういうふうに暮らしたいかは、君が決めることなんだぜ。俺はそう思うよ」
「風見」
 電話の向こうから、くすくす笑っているのが聞こえてくる。こいつめ…。
「──聞こえてるよ」
 すまん、すまんと繰り返してはいるが、結城の奴はなかなか笑いが収まらない。
 ちょっと甘やかしすぎたかな。

おそうじライダーマン10

2015-09-11 22:29:24 | おそうじライダーマン
※なんとなく趣旨を察してください




「…おーい」
「おーい、結城ーーーーー」
「………?」
(また寝てしまってるみたいだな)
(ここにくくってある本は、処分するといっていたやつだな…。仕方ないなあ)
(あ……)
(本屋に寄ってきたな………)
(……来年の手帳か、なんだ)
 またソファでのんきに眠っている結城をそのままにして、一人であたふたと部屋をうろついてから、風見はようやっと結城を優しくゆする。
「おい、結城。こんなところで寝るから、疲れてしまうんだよ」
「…あ、──風見」
 ようやく目を覚ました友人から一通り今日の報告(だいたい予想通り)を受けて、おやすみを言って、部屋を後にする。
(あいつ、ちゃんと布団に入ったのかな)

 まったく、あれでよく来年のことなんて気遣えるもんだ。

おそうじライダーマン9

2015-09-10 23:00:58 | おそうじライダーマン
※なんとなく趣旨を察してください




 着信に気付いてスマートフォンをポケットから取り出して、誰からの電話かと思えば結城なのである。
「どうしたんだい、電話なんて」
「やあ、風見。昨日は…その、すまなかったね…」
 ぼそぼそと電話の向こうで相変わらずの自己嫌悪に陥っている相棒に、風見は努めてなんでもないという受け答えをする。
「疲れていたんだろう。そこへ、あの天気じゃあしかたがないよ。俺のほうも、別の日にするよう言えば良かったんだ。すっかりはりきってしまって、恥ずかしいよ。邪魔して悪かったね」
「悪かったなんて!君はなにも悪くないじゃないか。まったく失礼をしたのはこちらだよ」
「まあ、気にしないことさ。お茶、おいしかったよ。ごちそうさん」
「ほんと、すまなかった」
「いいって。それより、今日はなにかはかどったのかい?」
 放っておくといつまでも謝ってくるにちがいないので、話題を振ってやる。
「え?ああ、うん。昨日はあんまり情けなかったからね。本を少し処分したよ」
 まったく、真面目な奴だなあ。と、内心でだけつぶやいて。
「へえ。そうか、処分できそうなのがあったかい」
 保管サービスに送りつけて、様子を見る算段を話したばかりだったので、意外に思って問い返す。
「どうしようか迷っていたうちの、いくつかだけれど。それでも10冊ちょっとかな」
「たいしたもんじゃないか」
 彼の所有する本の数を考えれば、些細な割合になってしまうのだろう。
 それでも多少なりとも作業をしようとしているらしいのは、彼らしいと言うか…。
「それがねえ」
 と、結城は妙に疲れた声。
「我ながらなんとも情けない話なんだ。『紅色魔術探偵団』という本があっただろう。あれが、3冊もあって…」
「山田章博の?なんだってまた。君、保存用にもう1冊…なんてがらじゃないだろ」
「おそらく2冊目は、愛蔵版が出た時に、つい買ってしまったんだ。でも、どうしてもう1冊あるのかは僕にもよく分からないんだ」
「…呆れたなあ」
 なんたって結城は、先月も、とあるコミックスの最新刊をまちがえてもう1冊かってしまったばかりなのだ。
「うん、呆れた」
 電話の向こうで、結城も呆れきった様子なのである。
(やれやれ…)
「君が本気で部屋を片付けて、生活を変えたいと思っているのは知ってるよ。だから、もう、次は無しだぜ」
「ああ、その通りだ。風見、またよろしく頼むよ」
「ああ、もちろんだよ」
 じゃあな、無理するなよと通話を終わらせてから、
(まったく、つくづく結城らしい──)
 通話の間、ずっと堪えていたのがきかなくなって、一人でくすくすとしばらく笑い続けた。

 進んでいないことは、ないらしい。

おそうじライダーマン8

2015-09-09 23:09:22 | おそうじライダーマン
※なんとなく趣旨を察してください




 風見がチャイムを続けて押すと、結城はすっかり慌てた体でドアを開けた。
「すまん、風見!」
 まさかこんな天気になるだなんて、とわび続けている結城に軽く笑って、玄関にいれて貰う。
 差し出されたタオルを頭からかぶるようにして、羽織ってきた、水のしたたるレインコートを渡して掛けて貰う。
「いいかな?あがるよ」
「ああ、もちろん」
 結城がいちどバスルームに引っ込んでから、戻ってきた。ここまでずっと慌てっぱなしなので、まるで自分がこの家の主になったみたいに
「まあ、落ち着いてくれよ」
 とソファを示す。
「うん、すぐに行くよ」
 今度はキッチンカウンターへ。カップがふたつ、ティーバッグのひもが外に垂れている。ポットのお湯をカップに注いでから、素手でソファまで運んでくる。
「最近はこんなのを飲むのか」
「寝る前は、コーヒだと、どうもね」
「それもそうだな」
 きょろきょろと部屋を眺めて、すぐに片隅に立てかけられた段ボール箱が目に入る。
「ああ、あれか。届いたみたいだね」
「うん、ドライバーにはすまないことをしたよ」
「はは、そうだな」
 ようやく結城もソファに腰を下ろす。…おや、なんだか疲れているみたいだ。
「大丈夫かい」
「うん?何がだい」
 結城は不思議そうに風見を見返してくる。自覚は無いのかな。とりあえずはなんでもないよ、と答えて、カップの中を覗いてみる。優しい匂いがふわふわとカップから立ち上ってくる。
「あのあたりの本と…DVDもつめるんだったかな」
「うん。思ったより、資料が手元に残っていたから」
「ずいぶん古いのもあるなあ」
「そうなんだよ…」
 結城は困った風に笑ってから、ティーバッグを2人ぶんカップから取り出す。
「はちみつもあるよ」
「いれようかな」
 小さな、すぐに使い切ってしまいそうな容器から適当にはちみつを垂らして、結城に容器をかえそうとすると──
 結城は器用に、片肘に体重を乗せた姿勢でこくりこくりと船をこいでいる。
 その様子が何だか気の毒で、風見はそっと近づいて、ソファにそっと寄りかからせてやる。ようやく安定したためか、すうすうとしっかりした寝息をたてはじめた結城の様子にそっと笑って、風見はもとの場所に戻る。
 優しい香りのハーブティーを客人にふるまうところまでしっかりやり遂げた友人に心の中で礼を言ってから、一人静かにお茶を味わう。
 こんな天気の日に、一休みするのだって大事なことじゃないかな、と可愛げの無い後輩に言い訳をしながら。