※なんとなく趣旨を察してください
──続き──
ようやく笑いの収まった結城は、機嫌良く今日の出来事など話し始める。
「今朝は久しぶりにライダーマンマシンを調整して、タイヤに空気もめいっぱい入れたから、一日走ってきたんだよ」
「お前からマシンの話しを聞くのは久しぶりだな」
「そうだろ、情けない話だが、すっかり億劫がってしまっていたんだよ。今日は気持ちよく走ってこれたよ」
「自分ばっかり楽しんできたのか」
声くらい掛けてくれれば良かったのに、と本気半分の気持ちでからかうと、
「ああ、そうか、面目ない…」
困ったように言ってから、ただ、ちょっと行き先がな、などと言い訳をしている。
「うん?どこまで行ってきたんだい」
「うん…。実は、一文字さんの店の方まで、ちょっと」
一瞬、頭が真っ白になる。
「お、お、お前」
「いや、僕が勝手に!場所を聞いたから。営業が始まる前に、外側だけ、ちょっと覗いてみようかと…」
「お前…」
「ちょうど良い距離だったんだよ。帰りは川沿いを流して…なんて考えたら、行ってみたくなって。天地神明に誓っていうが、一文字さんの顔を覗きに行って店の邪魔をしたりするつもりもなかったし、たまたまぐうぜん、そこいらで顔を合わせたら、なんて考えも無かったんだ!」
「最後のはあったろ」
「な…無かった!ちょうどお祭りの日だったから、はっぴ姿の想像くらいはしたが、そんな、顔を合わせるなんて」
「お前」
「これも天地神明に誓って言うが、たまたま、ぐうぜんお祭りをやってたんだよ!あちこちで子供たちが神輿をかついだり、山車をひいたりしていて。あの人、なんの違和感も無しに混ざってそうなところがあるだろう、だから、ちょっと想像しただけで」
人を出し抜いてやろうなんてことを考える奴じゃないことはわかっているが、それでも、そんなところに行くのに声を掛けてくれないだなんて…。
「すまん、風見、抜け駆けしてやろうなんて言うつもりは、ほんとうに、これっぽっちも無かったんだが…でも、君に悪いことをしてしまった」
「…いや、すまん」
真面目に謝られて、風見はようやく冷静になる。本心を言えば、声を掛けて欲しかった気持ちはあるが──それでもわざわざ、自分に断らなければいけばい、ということでもないし。
「ちゃんと店に行く時は、声を掛けてくれるつもりだったんだろう?」
「もちろん、当たり前じゃないか!」
悪い奴じゃあないのは、風見自身、良くわかってはいるのだ。残念ながら。
(いちいち目くじらを立てるような事じゃないんだよなあ。俺としたことが)
そんな反省をはじめたところへ、
「…ああ、でも。やっぱり、僕にも少し、抜け駆けしてやろうなんていう気持ちがあったのかも知れないよ」
「えぇ?」
すっかり驚いている風見に、じつはね…と、結城。
「店のすぐ近くのところまでは、びっくりするくらいスムーズに来れたんだ。ところが、店のある路地、そこだけどうしても見つけられなくて。その手前を行ったり来たり、なんどもなんども往復したんだが、とにかくそのときは見つかられなかったんだ。しまいには歩いて、ゆっくり確認しながら近づいたら…さっきからずっと見逃して、直進したり、逆方向に曲がってしまったりしていたところにその入り口があってね。本当に不思議な話なんだが、走っている間は、全く見つからなかったんだよ」
と、そんなことまでいつもの調子で話すから、自分も人が悪いな、と思いながらもおかしくて仕方が無い。
「その時点で帰ろうとは考えなかったのかい」
つい、意地悪く聞いてしまうと、
「そりゃあ…ここまで来たら、なんとしても店までいきたいと思うもの」
「本音が出たじゃ無いか」
「まったく。君って、時々妙に意地が悪いんだものな」
珍しく、向こうから呆れられてしまった。
──続き──
ようやく笑いの収まった結城は、機嫌良く今日の出来事など話し始める。
「今朝は久しぶりにライダーマンマシンを調整して、タイヤに空気もめいっぱい入れたから、一日走ってきたんだよ」
「お前からマシンの話しを聞くのは久しぶりだな」
「そうだろ、情けない話だが、すっかり億劫がってしまっていたんだよ。今日は気持ちよく走ってこれたよ」
「自分ばっかり楽しんできたのか」
声くらい掛けてくれれば良かったのに、と本気半分の気持ちでからかうと、
「ああ、そうか、面目ない…」
困ったように言ってから、ただ、ちょっと行き先がな、などと言い訳をしている。
「うん?どこまで行ってきたんだい」
「うん…。実は、一文字さんの店の方まで、ちょっと」
一瞬、頭が真っ白になる。
「お、お、お前」
「いや、僕が勝手に!場所を聞いたから。営業が始まる前に、外側だけ、ちょっと覗いてみようかと…」
「お前…」
「ちょうど良い距離だったんだよ。帰りは川沿いを流して…なんて考えたら、行ってみたくなって。天地神明に誓っていうが、一文字さんの顔を覗きに行って店の邪魔をしたりするつもりもなかったし、たまたまぐうぜん、そこいらで顔を合わせたら、なんて考えも無かったんだ!」
「最後のはあったろ」
「な…無かった!ちょうどお祭りの日だったから、はっぴ姿の想像くらいはしたが、そんな、顔を合わせるなんて」
「お前」
「これも天地神明に誓って言うが、たまたま、ぐうぜんお祭りをやってたんだよ!あちこちで子供たちが神輿をかついだり、山車をひいたりしていて。あの人、なんの違和感も無しに混ざってそうなところがあるだろう、だから、ちょっと想像しただけで」
人を出し抜いてやろうなんてことを考える奴じゃないことはわかっているが、それでも、そんなところに行くのに声を掛けてくれないだなんて…。
「すまん、風見、抜け駆けしてやろうなんて言うつもりは、ほんとうに、これっぽっちも無かったんだが…でも、君に悪いことをしてしまった」
「…いや、すまん」
真面目に謝られて、風見はようやく冷静になる。本心を言えば、声を掛けて欲しかった気持ちはあるが──それでもわざわざ、自分に断らなければいけばい、ということでもないし。
「ちゃんと店に行く時は、声を掛けてくれるつもりだったんだろう?」
「もちろん、当たり前じゃないか!」
悪い奴じゃあないのは、風見自身、良くわかってはいるのだ。残念ながら。
(いちいち目くじらを立てるような事じゃないんだよなあ。俺としたことが)
そんな反省をはじめたところへ、
「…ああ、でも。やっぱり、僕にも少し、抜け駆けしてやろうなんていう気持ちがあったのかも知れないよ」
「えぇ?」
すっかり驚いている風見に、じつはね…と、結城。
「店のすぐ近くのところまでは、びっくりするくらいスムーズに来れたんだ。ところが、店のある路地、そこだけどうしても見つけられなくて。その手前を行ったり来たり、なんどもなんども往復したんだが、とにかくそのときは見つかられなかったんだ。しまいには歩いて、ゆっくり確認しながら近づいたら…さっきからずっと見逃して、直進したり、逆方向に曲がってしまったりしていたところにその入り口があってね。本当に不思議な話なんだが、走っている間は、全く見つからなかったんだよ」
と、そんなことまでいつもの調子で話すから、自分も人が悪いな、と思いながらもおかしくて仕方が無い。
「その時点で帰ろうとは考えなかったのかい」
つい、意地悪く聞いてしまうと、
「そりゃあ…ここまで来たら、なんとしても店までいきたいと思うもの」
「本音が出たじゃ無いか」
「まったく。君って、時々妙に意地が悪いんだものな」
珍しく、向こうから呆れられてしまった。