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何か言ってる

さらに適当好き放題

おそうじライダーマン28

2015-10-12 19:19:50 | おそうじライダーマン
※なんとなく趣旨を察してください





「へえ、映画?また、ずいぶん懐かしい奴じゃ無いか」
 一文字が面白がるように言ってくるので、風見も素直に笑う。
「一文字先輩も、ご存じですか」
「そりゃ、ねえ。見たんじゃ無かったかなあ。ああいうの、憧れるものな」
 それで、と一文字は軽く片眉を上げてみせる。
「あいつ、進捗はどうなんだい」
 問われて、風見は困ってしまう。
「作業の方は、かかさずやってるみたいですから…」
「そうかい」
「……敬介のやつですか?」
「え?」
「結城の話、敬介から聞いたんですか?」
「志郎」
 あ、と思った時には軽くおでこを指先ではじかれてしまった。
「せ、先輩」
「結城の新しい住居を一緒に探しに行ったの、俺と本郷だぜ」
「…………あ」
 そうだった。
 あんまり、敬介が結城のことで風見をからかうものだから、と言い訳すると、
「うん、俺もからかおうと思って」
「…先輩」
 またひとつ、おでこをはじかれて言葉を遮られてしまう。
「あんがい、無理せず続いてるみたいじゃないか」
「ええ、まあ。たいしたもんですよ」
 ふと、結城があんな頼み事をしてきた原因に思いついたような気がしたものの、見返してみても一文字はいつものいたずらっぽい表情で風見の疑問をよせつけない。

 せめて、今日も結城の奴が手を動かしてくれているといいんだがな。

おそうじライダーマン27

2015-10-12 01:48:10 | おそうじライダーマン
※なんとなく趣旨を察してください





「映画?」
「朝の、人の入りが少ない時間帯にね、昔の名作を上映しているんだ」
 たまの連休、どうしているのかと声を掛けてみたら、どうやら自分だけで楽しんできていたようだ。
「ちかごろはテレビで上映されているやつを見ることもあるけれど、昔はあんまり興味がなかったものだから。試しに、観に行ってきてみたんだ」
「ふうん」
 タイトルを聞いてみれば、たしかに有名なやつだ。ちょうど、風見と同世代の連中がこぞって観に行って、真似をしていたような記憶がある。
「あの映画は俺も好きだったよ」
「そうかい!」
「…お前、ずいぶん気に入ったみたいだな」
 風見がからかうと、前のめりになった自分に気がついて、結城は恥ずかしそうに座り直した。
「だって、素敵な映画じゃないか」
「実はね、有名なシーンはいくつか覚えているが、細かいところはさすがに覚えてないんだ」
「あれ、そうなのかい?」
 例えば…と、いくつか気に入っているシーンをあげると、結城は向かいでニコニコと頷いている。まるで、こっちが観てきたみたいだ。
「さっきから、俺ばかりしゃべっているじゃないか」
「ああ、すまん」
 と、何だか言いにくそうに手元のカップをあげたりおろしたりと繰り返して。
「こんなことを言うと、せっかくの映画が台無しになってしまうし、君も気分を悪くしてしまうかも知れない…と、思ってるんだが」
 と、前置きをする。
 今の今まで、あんなに楽しそうにこちらの話を聞いていたのに。
「途中から、君と僕のことを、少し重ねて観てしまってね…」
「へっ?」
 妙なことを言い出すので、風見がビックリしていると。
「…特に、金庫室に閉じ込められてしまうシーンがあるだろう」
 言われて、映画のワンシーンと自分たちの体験とを、風見はようやく思い出した。
「ああ…なるほど。そういうわけで」
 懐かしいやら、照れくさいやら。
「あそこでふたりともうちあけ話をするんだが、年上の方が自分の昔の体験を話すんだ。水に浸かった船の中で10何時間も、たったひとりで閉じ込められた事があった、と、それだけ」
「そうだったかな」
 言われても思い出せず、付け合わせのクッキーを一つつまんで口に放り込む。カエデのシロップの、良い匂いがする。
「それだけの話がね、彼らの心の一番深いところをさいごにつないでしまうんだ。あ、いや、これは僕の勝手な思い込みなんだが。
 ──実のところ、あの頃、君がどういうわけで僕のことを信頼してくれたのか、僕には…よくわからなくて」
 突然の告白を聞かされてしまって、なんとも言えずもう一つクッキーを頬張るが、もう味なんて分からない。
「今…思い出しても、僕は意地ばかりはって、君の言うことにも耳を貸さず、ずいぶんと迷惑ばかりかけていただろう…」
 その通りだと言い返すわけにもいかず、風見はさらにクッキーへと手を伸ばす。なんだか口の中がぱさぱさしてきたからコーヒーを口に含むが、こちらも味など分からない。
 そんな風見の様子を、結城はちらり、と盗むようにみてから、蚊の鳴くような声ですまんと謝った。…さすがに気の毒になる。
「いや、気にしないでくれ、昔のことだから…」
 どうにかそれだけ言って、コーヒーを飲んでごまかす。
 結城はすっかり困った様子で小さくなっていたが、どうにか、おずおずと顔を上げる。
「僕が──映画で感じたみたいにね、その。誰かのことを信じてしまうのに、ちょっとした、自分たちでも分からないようなほんのささいななにかがきっかけになることが…きっと、ごくまれに、そういうことがあるんじゃないかと思えたんだ。…その、僕も、仮面ライダーという存在がどれだけ正義を愛する男で、信頼のおける人物であるかは知っていたんだ。だが、風見志郎という一人の男のことを友達として深く信ずるようになったのは、きっと、もっと…、自分じゃあよくわからないようなことがきっかけなんじゃないかという風に、思ったりしてね。
 そういうことが、もし、あったならば…嬉しいなと思ったんだ」
 結城はおおまじめにこちらを正面から見据えてくる。何故だろうか、既視感のようなものを感じて風見は素直に頷いた。
「そうだな──、そういうことが、あるのかもしれないな」
「風見」
 自分を呼んで、嬉しそうに頷く結城。
(こんな奴のことを、憎めるわけがないじゃないか)
 きっと、いつだったかもはや思い出せないその時に、風見は同じ事を考えたのだろう。
「それでね…」
 と、嬉しそうに、今度は結城があれこれと映画の内容を話し始めるのを、風見はゆっくり聞かせて貰おうと深く座り直す。
 冷めかけのコーヒーからは、かすかに深煎りの香ばしいかおりが、懐かしい思い出のように。


 聞けずじまいだったんだが、きっと、片付けは進んでいると──思いたい。

おそうじラーダーマン26

2015-10-10 00:26:32 | おそうじライダーマン
※なんとなく趣旨を察してください





 ひさしぶりに結城のすまいに上がると、軽めのコートが何着か吊してある。
「そろそろそういう時期だなあ」
「君みたいに、バイクで年中走り回ってると、こんなのはあまり着ないだろう」
「あのなあ。それじゃ、まるで俺がバイクで遊び回ってるみたいじゃないか」
「そんなつもりじゃなかったんだけど。悪かったね」
 言いながら、くすくす笑っている。やれやれ。
 改めて部屋を見回してみると、変わったような、変わってないような。ところどころ、少しずつ物がなくなっているようだけれど。
「気のせいかも知れないけれど、すっきりしてきたんじゃないか」
「うん。君の言うとおりに気のせい程度なんだが。どうにか、すすめているよ」
 はにかみながら、途中で買ってきたスタンドのコーヒーを机に並べる。ソファに腰を下ろして相棒と珈琲を飲むときの間合いみたいなものは、以前とあまり変わっていない。
(こうして結城とコーヒーを飲むだけなら、いまの部屋でも充分なんだな……)
 特に気にしたことは無かったが、じぶんのものでもないこの部屋に今さらの愛着のような物を感じてしまうから、不思議なものだ。ぼんやりとそんなことを考えながら、コーヒーのカップをひとつ受け取る。
「砂糖は入れないのかい?」
 尋ねられて、気まぐれに断ると、結城は驚いたようだ。
「どうしたんだい…、風見」
 心配そうにこちらを伺うので、なんでもないよと返す。
「…ここで、こうしてお前とコーヒーを飲めるのも、あんまりないのかな、ってね。妙に寂しいような気がして」
「うん……」
 ふたりでカップを持ったまま束の間ぼんやりして、はっと気付く。
 しまった、俺はひょっとして、ここまでの結城の努力を否定するようなことを言ってしまったかな。
「ああ、いや。新しいすまいも、楽しみにしてるんだ」
 慌てて言い添える。
「…うん、ありがとう」
 別に、礼を言うことでもないだろうに。
 なんと返して良いかわからず、無糖のまま、コーヒーを味わう。
 結城もゆっくりと、カップを口に運んでいる。

 …正直、部屋の様子があんまり変わったという気はしていないのだけれども。

おそうじライダーマン25

2015-10-06 00:23:52 | おそうじライダーマン
※なんとなく趣旨を察してください





「この間は、すみませんでしたねえ。けっきょく、なんでもなかったみたいで…」
 と、敬介はわざわざ用意したらしい差し入れをさしだしてくる。いらないよ、と断ろうとしたものの、困らせてしまっているようなので、有りがたく受け取っておくことにする。
「なんでもなかったなら、それで良かったじゃ無いか。君もたいへんだったね」
「まったく。ほんと、振り回されましたよ…」
 文句を言いながら、さばさばと笑っているので、結城もほっとして笑う。
 すると。
「ああ、よかった」
 こちらに向かってそんなことを言っているらしいので、不思議に思っていると。
「結城先輩がずいぶん根を詰めてるみたいだ、ってね、風見先輩も心配してましたから。余計な仕事を増やしちまって、後からまた風見先輩に怒られるんじゃ無いかって、気が気じゃ無かったんですよ、俺」
「…まったく」
 敬介の言いぐさがおかしくて、結城はまた笑ってしまう。この後輩は素直なくせに、なついた相手にかわいい憎まれ口をきく妙なくせがあるのだ。
 察するに、風見から結城のことを聞いて、心配してくれていたらしい。
「それは、すまなかったね。このとおり、なんてことないよ」
「そうですか」
 なんにせよ無理はしないようにしてくださいね、なんて優しい言葉をかけてもらって、すっかり嬉しくなって頷いたとこへ、
「風見先輩もさみしがり屋ですからね。なるべく例の報告、続けてあげてくださいね」
 と、けろっとした顔で言って、じゃあ、と残してさっさと帰ってしまう。
 それをぼんやりと見送って、急に、可笑しくて仕方がなくなってしまった。まったく、可愛らしい後輩だ。
「よし、ひと頑張りしようか」
 口に出して、気合いを入れ直す。
 敬介の報告と別の方向へ歩き出しながら、結城はあれこれと帰ってからの作業に思いを巡らせる。
 もちろんその中には、差し入れの確認も。

おそうじライダーマン24

2015-10-04 00:27:28 | おそうじライダーマン
※なんとなく趣旨を察してください





 近所の甘味屋で善哉が食べたくなったというから、顔を出してみると。
「──おいおい」
 すっかり疲れきった顔で席に収まっている結城を見つけてしまって、風見は呆れてしまう。
「はは、今週はちょっとしんどくてね」
「仕方ないなあ」
 向かいに腰を下ろして、結城の差し出してくれた品書きを覗いてみる。
「田舎善哉…あんみつ、クリームあんみつなんかもたまにはいいかなあ」
 なかなか決められないでいる風見のことを、結城は楽しそうにながめている。なんだか恥ずかしくなって、品書きから顔を上げる。
「もう決めたのかい」
「…ああ」
 店員を呼んで、結局少し悩んでから注文を掛けて、またくすくす笑っている向かい側の面をかるく睨んでやる。
「人の事を笑ってる場合か、まったく。明日の準備はできてるんだろうな」
「えっ」
 ぎくりと顔を引きつらせたのを見て、風見は意地悪く笑う。
「明日の準備と、その後の準備。どっちも大変そうじゃ無いか、なあ、結城」
「風見…まいったなあ」
 降参して手をこちらに向けて上げてくる相棒に、風見も機嫌を直して笑う。
「まったく、懲りないんだものなあ。こないだのことだってそうだぜ。お前があんな電話に出るから…」
「仕方がないじゃないか、放っておけないよ」
 やれやれ、これだ。
「それで、今度はまた部屋の荷物が増えてしまうんじゃないのか?」
「それは…まあ、なるべく増やさないようにこころがけるさ」
「頼むよ」
「うん」
 何故か嬉しそうに見えるのは、気のせいかな。
 まあ、こちらも相棒が相変わらずみたいで、ちょっとほっとしたところなんだがね。

「お待たせしました、ご注文の──」


 巻き返しがあると思いたいところ。