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下肢の血流がよどんで血栓ができ、肺動脈を詰まらせる
下肢の深いところを走る静脈(深部静脈)に血栓ができると(深部静脈血栓症)、何らかのきっかけで血栓がはがれて心臓へと流れ、肺へ向かう肺動脈で詰まってしまうことがあります(肺血栓塞栓症)。この2つの病気は密接に関わっているため、総称して「静脈血栓塞栓症」と呼ばれています(図1)。静脈血栓塞栓症は飛行機に長く乗った人に発症することもあり、その場合、「エコノミークラス症候群」や「ロングフライト症候群」とも呼ばれます。
図1 下肢の静脈にできた血栓が肺動脈を塞ぐ「静脈血栓塞栓症」
下肢に血栓ができる深部静脈血栓症と、流れた血栓が肺動脈を塞ぐ肺血栓塞栓症を合わせて「静脈血栓塞栓症」と呼ぶ。(原図=123RF)
そもそも、なぜ下肢に血栓ができてしまうのでしょうか。この病気に詳しい桑名市総合医療センター副病院長、循環器センター長の山田典一氏は、その理由を以下のように説明します。
「下肢は、上半身よりも重力がかかって静脈血がよどみやすいからです。歩行中は、ふくらはぎの筋肉が収縮・弛緩を繰り返し、静脈をギュッと圧迫して血液を押し流す『筋肉ポンプ』が働きます。ところが、長時間じっとしていると筋肉ポンプが働かないため、静脈の血液がよどんで血が固まりやすくなります。血の塊ができた状態で急に下肢を動かすと、筋肉が収縮して血栓がはがれ、血流に乗って肺まで飛んで行って血管(肺動脈)を詰まらせてしまうのです。血栓が大きければ心臓が止まり、死に至ることもあります」。
こうした理由に加えて、手術や外傷、喫煙などによって血管の内側にある内皮細胞が傷害され、血栓を作りにくくする物質が分泌されなくなること、また、脱水(水分不足)や病気、薬剤などによって血液自体が固まりやすくなることも、静脈に血栓ができる原因となります。
山田氏によると、静脈血栓塞栓症は、長時間のフライト中よりも入院中に発症する人の方が圧倒的に多いそうです。「フランスのシャルル・ド・ゴール空港の調査によると、1万キロメートルを超える長距離飛行に伴って静脈血栓塞栓症を起こした人は、100万人あたり4.8人でした(*1)。それよりはるかに多いのが、入院中で安静を要する患者です。例えば、開胸・開腹を伴う大きな手術を受けた入院患者は、1万人あたり7.75人が起こします(*2)。これは飛行機で起こるものの160倍にあたる数字です」。さらに近年は、地震や台風などの災害時、避難所や車中泊であまり体を動かさずに過ごした人に静脈血栓塞栓症の発症が多いことも問題となっています。「避難所や車中泊での発症者は、入院患者ほどではないものの、飛行機よりかなり多いと思います」(山田氏)。
症状が出ないまま、突然、肺動脈が詰まることも
下肢に血栓ができたとき、肺に詰まったとき、それぞれどのような症状が現れるのでしょうか。「下肢の静脈に血栓ができて静脈が塞がると、静脈の圧が上がって下肢が腫れ、炎症に伴って色調が変化する、痛みが強まるなどの症状が現れます。その血栓が流れて肺動脈に詰まると、最も多く出現する症状が突然の息切れや息苦しさといった呼吸困難、次いで胸痛です。冷や汗、血圧が下がる、失神や動悸などが出ることもあります。ただし、下肢に症状が出ないまま、突然、血栓が飛んできて肺動脈に詰まることもあります。症状がない場合、下肢の血栓に気づき、肺動脈に詰まる前に予防するのは非常に困難です」(山田氏)
こうしたことから、足をじっと動かさない状態が長く続くようなときは、血栓を予防することが大切です。一番の予防法はとにかく歩くこと。ステイホームで家でじっと座っている時間が長い人は、こまめに立ち歩くことが血栓の予防につながります。ただし、飛行機の中や災害時など、行動が制限される状況もあるでしょう。
「歩くのが難しいなら、足首を動かして筋肉ポンプを働かせます。下肢に血栓ができやすい人は、弾性ストッキングをはいて下肢に圧を加え、静脈のよどみをなくす方法もあります。あとは脱水にも注意が必要です。水分を控えて不足すると血液が濃縮して固まりやすくなるので、水分を補給して体を動かし、血栓を予防してほしいと思います」。山田氏はそうアドバイスしています。
*1 N Engl J Med. 2001; 345 : 779-83.
*2 麻酔. 2013;62(5):629-638.
この記事は、血栓が肺に飛ぶ「肺血栓塞栓症」、気をつけたい初期症状は?(田中美香=医療ジャーナリスト)を基に作成しました。