小平だより

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抗菌剤乱用について

2016年02月29日 10時59分17秒 | 重要な医療情報
そろそろ小児科の親御さんが一世代代替わりして、以前お話した大事なことをご存じないケースが増えてきたので再掲します。

抗菌剤の必要なケースは細菌やマイコプラズマなどに限られており、風邪の大多数を占めるウイルス性感染症には無効です。長期の咳嗽や複雑な副鼻腔炎に対して使用するケースはありますが、少なくとも喉が赤い・鼻水に色が付いている・咳と痰が出ている、だけでは抗菌剤の適応にはなりません。

抗菌剤の乱用による問題は世界的に年々深刻化しています。多剤耐性化の問題もそうですし、研究が進むにつれて、正常腸内細菌叢の破壊によるがんや自己免疫疾患の発生メカニズムもあるのでは?と疑われ始めています。

アメリカでは以前から、医師が初日に抗菌剤を出す場合はなぜ出すのか理由を問いただせ、と日本の厚労省に相当する役所が広報しておりますが、日本でも公的機関が正式にこういう広報こういうコメントを出すに至りました。

特に、軽い咳や鼻水や喉が赤い、といった程度の軽症例に対して第三世代セフェム(メイアクト・フロモックス・バナン)が乱用された結果、髄膜炎や敗血症などの際に救命が困難になる症例が多発して、外来での上記薬剤の初日使用はほとんどの領域でガイドラインで正式に否定されています。

ヒブワクチンや小児肺炎球菌ワクチンの普及後はさらに、細菌感染症自体が激減しており、当院でも第三世代セフェムがどうしても必要なケースは月に一例あるかないかの、極めて稀なケースになっています。(入院を検討するほどの場合だけで、仕入れても使い終わらずに期限切れになることがほとんどです(笑))

抗菌剤を出すにしても、溶連菌に対してペニシリン系抗菌剤。治療しても除菌できない例に対して初めてセフェム系を使用する程度です。(年間数例ぐらいです)ほとんどの施設でガイドラインが守られるようになった結果、培養で副鼻腔炎・中耳炎で耐性菌が出るケースは、当院受診以前に特定の施設で安直なセフェム系投与を受け続けていた方に限られています。

小児の肺炎ですとさすがに第三世代セフェムは外来投与も推奨されていますが、これとて我が国で安直な軽症例への抗菌剤投与による耐性化が多いため仕方のない措置です。入院が必要なケースでは、飲み薬の濃度ではとても助からないため、点滴による高濃度投与が必須です。

重症の感染症ではそもそも第三世代セフェムの経口薬は効果は薄く、
成人の肺炎ガイドライン
ですと、外来での推奨すらありません。

中耳炎ですと、中等症まではガイドラインに従う限り、第三世代セフェムの出番は全くありません。

抗生物質漬けのお子さんで複雑な耐性菌が定着しきってしまっている場合は必要となりますが、アメリカの一般医と異なり日本の耳鼻科専門医はみなさん鼓膜切開が上手なので、そこまで至らずに治してしまうようです。特に若い耳鼻科医は優秀な方が増え、耐性菌がみるみる減っていくのがこちら側からもよくわかります。患者さんにとっては素晴らしい変化です。

(2016年2月29日追記です)
抗菌剤乱用による耐性菌の増加は世界的に問題となっており、次の伊勢志摩サミットでも議題に入っています。


日本と韓国は突出して乱用が目立っていたのですが、韓国では科学的根拠なく抗菌剤を乱用する医師に対する監視体制を構築し、一定の成果を上げつつあります。日本は残念ながらそういう点では後進国です。

薬を使わずに治せるアレルギー

2016年02月29日 09時58分18秒 | 重要な医療情報
爆発的に花粉症が始まる寸前の時期ですが、一気に大勢さん来られてもこちらも大変ですので、タダで軽減できる方法を書いておきます。

1.花粉を吸い込まないコツ
マスクに尽きます。PM2.5対応だのウイルスをシャットアウトだのあまりに高価な奴はフィルターの通過率が悪く、横漏れが多いため、逆に花粉を吸い込む例が多いようです。花粉はかなり大型の粒子なのでガーゼのマスクで十分です。正面から空気が通り、上手く引っ掛けてくれるので効果的です。洗って使えるので経済的でもあります。ゴーグルは必ず試着して選びましょう。マスクもゴーグルも頬とのフィットが良くないと効果はありません。

2.花粉を持ち込まないコツ
化繊など花粉がめり込みにくい繊維のコートを玄関で脱ぐのは効果的です。家の壁についている換気ダクトの中には通常、虫などを遮断する荒いスポンジのようなフィルターが入っていますが、これをホームセンターで売っている花粉専用のものに交換するとだいぶ改善します。また、布団を外干しする場合、花粉を遮断し吸光率を上げるための黒色のカバーが市販されています。ネットで検索するとサイズも豊富でかなり安価です。また、洗濯物を覆うカバーもいろいろ売られていますので試してみるといいでしょう。

3.花粉の除去
部屋の中で割と床近くに分布していますので、雑巾やウェットタイプの床クリーナーでの掃除は効果的です。空気清浄機でハウスダストや花粉を巻き上げないような置き方を工夫すると良いでしょう。フィルターはカビさえ生えていなければ相当安物でも効果はあります。

4.眼と鼻のカバー
花粉は付着後、水分を吸うと膨らみ弾けてアレルゲンが飛び散ります。まつげや鼻の周囲に付着した花粉を拭い取るのは効果的ですが、目を揉むとせっかく止まっていた花粉を入れてしまうことになります。また、花粉症が始まるとそこら中にある落下ウイルスを付着させた指で眼や鼻の粘膜をこするので、インフルエンザ等に感染する人が激増します。手を洗うまでは首から上は絶対に触らないようにしましょう。

5.ヨーグルトなどで花粉は予防できるか?
メーカーはそのように宣伝していますが、対照群の設定が不十分な観察研究なので本当にコストほどの効果があるかは不明です。味は悪く無いですが、自分で実験しても違いはわかりませんでした。

6.脱感作療法を受けるべきか
当院では今のところ実施しておりません。もし実施するなら夏以降にきわめて長期間の頻回の通院を覚悟しなくてはならないため、私自身もとても受ける暇がなく試せていません。


子宮頸がんワクチンの解禁について

2016年02月22日 16時01分44秒 | 重要な医療情報
名古屋で実施されていた中立な公的機関による子宮頸がんワクチンの副反応に関する大規模疫学調査の結果がまとまり、近く論文として発表される見通しとなりました。

候補に上がっていた24項目の副反応について15種類はむしろ接種群の方が少なく、9項目は接種による増加は認められない、というものです。

あくまで統計データですので、個別の発症の因果関係(特殊な遺伝形質など)を拾い出すことは出来ませんが、これで普通の医薬品並みの安全性の確認は取れたと判断して良いと思います。

こういう証拠なしに強行するのも、こういう証拠があるのに忌避するのも、いずれも科学的な態度ではありません。今後は当院では子宮頸がんワクチンは再開することにします。