さかいほういち@遠望楽観

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宙の卵

2008年04月21日 21時53分08秒 | 動画

宙の卵

女は目玉焼きを作るために、冷蔵庫から1パック198円の卵の一つを取り出し、割ろうとした。
しかし、その卵の表面には「宙」という文字が浮かび出ていた。
「宇宙」の「宙」は時間の意味の文字。
女は気味悪がって、その卵をゴミ箱の中へポイッと捨てた。
卵は勢いでパカッと割れてしまった。

女は目玉焼きを作るために、冷蔵庫から1パック198円の卵の一つを取り出し、割ろうとした。
しかし、その卵の表面には「宙」という文字が浮かび出ていた。
女は気味悪がって、その卵をゴミ箱の中へポイッと捨てた。
卵は勢いでパカッと割れてしまった。

女は目玉焼きを作るために、冷蔵庫から1パック198円の卵の一つを取り出し、割ろうとした。
しかし、その卵の表面には「宙」という文字が浮かび出ていた。
女は気味悪がって、その卵をゴミ箱の中へポイッと捨てた。
卵は勢いでパカッと割れてしまった。

女は目玉焼きを作るために、冷蔵庫から1パック198円の卵の一つを取り出し、割ろうとした。
しかし、その卵の表面には「宙」という文字が浮かび出ていた。
女は気味悪がって、その卵をゴミ箱の中へポイッと捨てた。
卵は勢いでパカッと割れてしまった。

女は目玉焼きを作るために、冷蔵庫から1パック198円の卵の一つを取り出し、割ろうとした。
しかし、その卵の表面には「宙」という文字が浮かび出ていた。
女は気味悪がって、その卵をゴミ箱の中へポイッと捨てた。
卵は勢いでパカッと割れてしまった。

女は目玉焼きを作るために、冷蔵庫から1パック198円の卵の一つを取り出し、割ろうとした。
しかし、その卵の表面には「宙」という文字が浮かび出ていた。
女は気味悪がって、その卵をゴミ箱の中へポイッと捨てた。
卵は勢いでパカッと割れてしまった。

女は目玉焼きを作るために、冷蔵庫から1パック198円の卵の一つを取り出し、割ろうとした。
しかし、その卵の表面には「宙」という文字が浮かび出ていた。
女は気味悪がって、その卵をゴミ箱の中へポイッと捨てた。
卵は勢いでパカッと割れてしまった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

彼女の割ってしまったのは、時間の卵。
無限連鎖の時間の中で、彼女は何億回何兆回と卵を割り続けるのだった。


宇の卵

2008年04月20日 21時52分44秒 | 動画

宇の卵

その卵は、10個98円の安売りのパックの中に納まっていた。
いつものように、男は目玉焼きを作るために冷蔵庫から卵を1個取り出した。
安アパートのプロパンガスは出が悪く、コンロに火をつけるのも手間がかかる。
やっとの思いで火をつけ、フライパンをコンロの上に置いた。
男は卵を割ろうとした。
しかし、その卵の殻の上に奇妙な印が付いているのを発見した。
それは「宇宙」の「宇」の文字のようだった。
「宇」の文字は「空間」を意味する文字である。
男は少し気味悪く思ったが、貧乏人であるが故こんなものでも捨てることはできない。
「まぁ、中身が食えればいいか・・」
そう考えながら、男は机の淵で卵をポンと軽くたたいた。
パカリッと割れた卵には、中身がなかった。
男は殻だけの卵を顔に近づけ、まじまじと殻の中身を覗いてみた。
しかし、黄身も白身も無いただの卵の殻だけが、男の手の中にあるのみである。
「ちっ!」と男は舌打ちをしながら、いまいましそうに殻をゴミ箱の中に捨てたのだった。
仕方なく、もう一つの卵を冷蔵庫からだし、もう一度目玉焼きを作ることにした。
幸い2個目の卵は普通の卵であり、出来上がった目玉焼きもいたって普通の目玉焼きだった。
食事を済ませ、男はアルバイトにでかけた。
何事も起こらない、いつもの日常であった。

だが、何事も無いいつもの日常は数日間で終わりを告げるのだった。
ある日男の頭の中で突然に爆発音がし、目の前が光で真っ白になった。
男は路上で気絶し、救急車で病院に運ばれた。

病院のベッドで、男は目を覚ます。
倒れたときに出来た傷に包帯や絆創膏が貼ってあった。
「ここは、どこ???」
男は、ベッドの横にいた医師に聞いた。
「あなたは、きのう道端で倒れ、救急車でこの病院に運ばれたのですよ」
と医者が説明した。
「ああ・・そうでしたか・・」
そう言いながらも、男の気分は晴れない。
その理由は、男の目にはなにやら惑星のような星星が点々と無数に光り輝いて目に写っているのである。

「星のようなものが無数に目に見えるのですが、何か病気でしょうか?」
男は医師に聞いてみる。
「うむ・・それはたぶん初期段階の銀河系が生成されているのでしょう」
医師が気難しく言った。
「銀河系?」
男は繰り返して聞いた。
「そうです、あなたは宇の卵を飲み込んでしまったようですね」

「宇の卵とは空間の卵です、あなたはその宇の元を飲み込んでしまったのでしょうね」
医者は気の毒そうに続けて話した。
「宇の卵を飲み込んだら、もうどうしようもありません。新しく出来た宇宙に体全体が飲み込まれて、最後には体全体が・・・」
そう医者が言っている間にも、男の身体がドンドンと宇宙の空間に変身していく。
そして、あっという間に人型の宇宙空間がベッドの上に広がっていた。


短編 昭和症候群

2008年04月19日 21時56分42秒 | 動画
昭和症候群

最近、昭和症候群と名づけられた症状がある。
30代後半から80代くらいの昭和を懐かしむ人々の間で蔓延している症状である。
症状は多種多様で一概に言えないのであるが、共通する症状として平成という時代の存在を理解できなくなる特徴を有している。
昭和84年ならば理解できるが、平成20年ではいつの時代か急に理解が出来なくなってしまうのだ。

発病の初期症状は、平成の物件が眼に映らなくなる、あるいは変形して見えるなどの症状がある。
たとえば、平成時代に建てられた高層ビルなどが突然眼に映らなくなってしまうのだ。
町を眺めれば昭和の木造建築物しか眼に映らず、高層ビルは消失し、低い木造の家屋のみが続く、青空がまばゆいばかりの風景と化す。
昭和症候群の患者にとっては、大都市のビル街など原野にしか見えないらしい。

またある患者は、新幹線のぞみに搭乗していたにもかかわらず、蒸気機関車に乗っていたようだという報告もある。
テレビ番組など懐メロしか聞こえず、ドラマなど再放送しか映らないようだ。
いずれにせよ、平成時代の産物のすべてのリアリティが消失してしまうのが顕著な特徴であるようだ。

そして、この昭和症候群に感染すると人格にも影響がでる。
人情深くなり、おせっかいになり、とりもなおさず幸福に満ち溢れた感覚になるようである。
定かではないが、ベータエンドルフィンやセロトニンの異常放出が原因ではないかとされているが、まだ確定はされていない。
しかし今の現状では、特効薬も見つかっていないうえ、特に実生活に支障がでるわけでもないので、なすすべもなく見守るしかないということらしい。
感染した患者の殆どが、通常どうりの生活を営んでおり、特に混乱は無い。


文化住宅の時間

2008年04月18日 21時55分19秒 | 動画

文化住宅の時間



その住宅は、和洋折衷の昭和の典型的な文化住宅だった。
それだけならば、少なくなったとはいえそんなに珍しい建築物ではない。
なんというか、その住宅全体に纏わりついているような昭和の時間のようなものが、その建物にはあったのだ。
たとえて言うならば、その民家全体を覆う空気全体が昭和の匂いに満ち溢れているのだ。
建物自体も昭和的な風情ならば、板塀に囲まれた庭も妙に昭和的な空気を感じるのである。
庭のほとんどは板塀に囲まれているのではあるが、なぜか2・3メートルの区間だけは生垣になっている。
1メートル足らずの高さの生垣なので、中の様子がうかがい知ることが出来るのである。
この家の主は庭いじりが趣味なのであろうか、手入れが行き届いた樹木は生き生きとしている。
それに、なにより昭和の雰囲気を感じてしまうのは、庭の隅にある手押し式のポンプの存在である。

今時珍しく現役で使われている手押し式のポンプである。
ていねいに水の噴出し口には、木綿の袋まで取り付けられていて水の中の小石などがバケツなどに入らないようにしてある。
きっと飲み水にも、庭に蒔く水にも使用されているのであろう。
ポンプの周りの鉄には水滴がついて生気があるようだ。

夕暮れ時の散歩のコースにその家はあるのだが、家の住民とは話をしたことはない。
年のころは60歳い前半くらいだろうか、初老の夫婦が住んでいるのは知っているが、いつも会釈をするだけで通り過ぎてしまう。

散歩のコースといっても物ぐさな私は毎日日課にしているわけではなく、天気の良い夕焼け時にしか散歩はしていない。
しかし、夕焼けが綺麗なときなどには、どうしてもその家の前を通ってしまいたくなる。
なにか失われてしまった昭和が、今もそこには有るような気がして、磁石にひきつけられるようにその家の方向に足を運んでしまうのだ。
時間帯によっては、七輪で鮭の切り身を焼く匂いに包まれていたり、まきで炊くご飯の匂いまでしてくる時がある。
不思議な家であるとは思うが、主がかまどで作る夕飯にこだわりを持っているだけなのかもしれない。

今までに一番不思議な感覚にさせられたのは、その家の奥から聞こえてくるテレビの音だった。
時間は6時か7時頃だったろうか。
あの懐かしい「シャボン玉ホリデー」のテーマソングが聞こえてきたのである。
そのときは、思わず自分がタイムスリップしてしまったのではないかと本気で思ってしまったほどである。
テレビの懐かしい音は、1度や2度ではない。
あの武田薬品のCMソングや、月光仮面の主題歌まで聞こえてきたことがあった。
しかしよく考えてみれば、今時はそれらの懐かしい映像を納めたDVDなど容易に手に入れることができるj時代である。
家の主が昔を懐かしんでDVDでも見ていたのであろう。

いまでも私は夕焼けが綺麗な時間は、あの昭和の空気が漂う文化住宅の前をゆっくりと歩くことにしている。


昭和の幻聴

2008年04月17日 23時24分03秒 | 動画

昭和の幻聴

昭和の時間がこびりついた様な音と言うものが、時々聞こえてくることがある。
細い路地裏を歩いているとき、ふいに遠くから豆腐屋のラッパのような音色が聞こえてくるような瞬間がある。
物思いに耽っている深夜のとき、静かな闇の中に彼方から響く蒸気機関車の汽笛の遠吠えと、枕木を叩く車輪のガタンゴトンというリズム音。
夕暮れ時に誰もいない公園を通り過ぎたときに、唐突に聞こえてくる居もしない大勢の遊ぶ子供たちの笑い声。
それらは男の耳にしか聞こえないかもしれない昭和の幻聴だった。
近頃頻繁に聞こえるこの幻聴は、男の心の中にだけ響いているのだろうか。
男は、この幻聴が聞こえてくるのを楽しみにしている風でもあった。
「あの頃は、毎日が楽しかったなぁ・・・」
男は心の中で、言葉になる以前の言葉でつぶやいている。

男がふと空を見上げると、ありもしない複葉機のプロペラのパラパラという音が聞こえてきた。
飛行機は、空のどこにも見当たりはしなかった。
「また、幻聴か・・」
男は少し楽しい気分になり、微笑んだ。
また、彼方からかすかに聞こえてくる複葉機のエンジン音。
それを見上げた男の顔に、夕焼けになりかけた日の光があたっている。
まぶしい光をさえぎるように額に手をかざし、音のする方角を見上げたがやはり何も飛んではいなかった。
「そういえば、昔はよく新装開店の宣伝ビラが複葉機からばら撒かれたもんだ」
男はまだ子供だった頃、空高くから舞い落ちる宣伝ビラを我先にと拾ったものだと、古い記憶を手繰り寄せている。
男の耳の中に新しい幻聴がインストールされたのだろう。
近頃は、新しい幻聴が聞こえることなどたいして不思議ではなくなっていた。

男は立ち止まるのをやめ、ゆっくりと歩き始めた。
夕暮れ時の緩やかな時間が町を包み込んでいく。
家々の明かりが、夕暮れ時の闇を点々と照らしてゆく。
家族団らんの笑い声・・・・
男の耳に昭和の幻聴が聞こえる。
遠くからささやくように聞こえるTVドラマのテーマソング。
一瞬、町のあらゆる雑音が消えうせ昭和の静寂と呼べるような静けさが、男の耳の中に染み渡っていく。

ワームホールという時間を超越した小さくて細い空間が存在する。
男の耳に中には小さなワームホールがあり、昭和の時間と繋がっているのであろう。
いつしか男は、耳の中のワームホールに体全体が飲み込まれるのを夢見ていた。


短編小説 昭和ラヂヲ倶楽部

2008年04月16日 16時24分19秒 | 動画

昭和ラヂヲ倶楽部

日曜日の夕暮れ時になると、いい年こいたオッサン達が、その倶楽部にやってくる。
片手に酒瓶をぶらさげながら、いそいそと少年のような心持でやってくるのだ。

「それそろスイッチを入れるよ」
町の自称発明家の山田が、集まって居るみんなに言った。
「今の時間だと”フーテナニー69”が放送してる時間だね」
山田は、ラジオのダイヤルを慎重に微調整しながら言う。
「榊原ルミのファンなんだよ、俺!」
ワンカップ酒の蓋を開けながら、接骨院をやっている清水が言った。
「俺は、小川ローザの方が好きだね」
横から古本屋のオヤジの仲上が、ちゃちゃを入れる。
「フーテナニーに小川ローザはでてないだろぅ・・」
口でスルメの足をクチャクチャ噛みながら陶芸家の後藤が口を挟む。

山田の発明したラジオは、そんじょそこいらのラジオとは訳が違うのだ。
そのラジオは一種のタイムマシンであった。
昭和時代のラジオ番組の電波を受信できる、タイム・ラジオだったのだ。

「しかし、なんだね、山田もスンゴイもん発明したね!」
もう、少し酔っ払った公務員の中本が感心しながら、山田に言った。
「そうだろ、凄いもんなんだよ、このラジオは」
山田は自慢げに言った。
「そんな凄いラジオを前にして、酒飲みながら昭和を懐かしがってるだけなんだよな、俺たちって・・・」
売れない画家の伊集院が苦笑いしながら言う。
「そりゃそうだ!」
全員が笑いながら同意した。

「おっ!始まったよ」
誰かが言うと、一瞬緊張したような空気になった。
その古びたようなラジオからは、30数年以上前の放送を流し始めた。
「やっぱ、フォークはいいよ!」
伊集院が、しみじみ言う。
「そうだね、音楽はフォークだよね!」
山田も仲上もうなずきながら答える。

番組が終わる頃、清水が酔っ払った感じで言った。
「糸居五郎のオールナイトニッポンとか聞けんもんかね?」
「おおっ、いいねっ!」
全員が賛同する。
山田は、またダイヤルを微調整している。

「Go! Go! Go!!! And Go's On!! は~い、僕、糸居五郎!」
ラジオから、今は無きDJの懐かしい声が響き渡る。
「うぅぅ・・なつかしなぁ・・・」
中本が泣き始めた。
「中本が泣き上戸になっちゃったよ・・」
仲上もウルウルしながら言う。
「あの頃は、よかったよなぁ・・・」
伊集院が、しみじみ言った。
「近頃の若いもんときたら・・・」
愚痴っぽく清水が言い始めた。
「俺たちも、昔は親父たちにそんな風に言われてたな」
山田がさえぎって言う。
「そうだな・・」
全員、しみじみした気分になっていた。
ラジオからは、懐かしいアメリカのロックが流れていた。

夜は深深と更けわたってわたっていくが、帰る者は一人もいない。


短編小説 昭和爆弾

2008年04月15日 14時55分02秒 | 動画

昭和爆弾

「博士!とうとう完成しましたね!」
助手の加藤が敷島博士に興奮しながら言った。
「悲願だった昭和爆弾の完成だっ!」
敷島博士も興奮を抑えきれない様子で答えた。
「これで我々の昭和時代が復活するという仕組みですね!」
助手は昭和爆弾の計器類の調整をしながら言う。
「そうだっ!この爆弾で失われてしまった日本の昭和を取り戻すのだっ!」
博士がパソコンで素粒子の構成を再点検している。

昭和爆弾、それは平成の建造物を素粒子に還元し、もう一度昭和時代の物体に再構築してしまう、恐るべき爆弾であった。

「これで、あの忌々しい高層ビル群も、懐かしい昭和の文化住宅へと変身させてしまうぞ!」
少し笑いながら博士は、数値を再計算している。
「あの、古びた路地裏や駄菓子屋も復活するんですね」
助手がニヤニヤしながら言う。
「そうだ、古びた銭湯も寂れた商店街も息を吹き返し、日本の町は復活するのだ!」
博士が研究所の窓の外を指差しながら叫ぶ!
「あの、化学物質で薄汚れてしまった青い空も、昔のような果てしなく青い空へと変身させるのだ!」
「あっはっはっはっ・・!!!」
敷島博士と助手の加藤は、まるで漫画の主人公のように大声で笑った。

「思えば、苦節20年。長いようで短かった20年・・・」
「全財産を費やし、とうとうこの日が来たのだ!」
「もはや後戻りは出来ないぞ!」
博士が助手の顔を見ながら力強く言った。
「そうですね・・・これで苦労が報われます・・・」
助手が、うぅぅぅっと涙をこらえて言う。
「失敗は許されん・・・これ1発しかない爆弾だ・・・」
博士も涙ぐんで言った。

「慎重に慎重を重ねて作り上げた昭和爆弾だ!失敗などありえない!!」
博士が確信をこめて言う。
「そうです!必ず成功します!」
そう言いながら、助手の加藤は爆弾のスイッチを博士の目の前に差し出した。
「変身するのは無機物だけだ、人間は無傷のままだ、心配無用だ!」
博士が言う。
「そうですね、我々は日本を正しい方向へ導くのですね!」
助手が答える。

2人は涙で潤む目を擦りながら、パソコンのエンタ-キーを同時に押した。
ピカッと真白な閃光が輝いた瞬間、平成のビルや高速道路や車が素粒子に分解され、みるみる昭和の物件に再構築され変身していく。

「博士っ!成功です!見てくださいこの昭和の町をっ!!」
助手は興奮冷めやらない口調で、博士に叫んだ!
「・・・・・・・うむぅ・・・・・・・」
博士は無言のまま立ちつくしたままだ。
「博士・・・どうしたんですか?我々の計画は成功したんですよ!」
敷島博士の浮かない顔を見ながら、助手の加藤が聞きただす。
「・・・成功するにはしたが、再構成された昭和の町が新品のままだ・・・・」
博士は研究所の窓のはるか彼方を眺めながらつぶやいた。

そこに広がる昭和の町は、今出来たばかりの新品の家々が立ち並ぶ、誰も見たことも無いピカピカの昭和の町になっていた。


ネオ田沼意次の野望

2008年04月14日 13時42分10秒 | 動画
ネオ田沼意次の野望

「もう蕎麦の代金が三両もたまってますんで、払ってください」
蕎麦屋の主人が、田沼意次の親衛隊の侍たちに向かって言っている。
「なにぃ!俺たちに金を払えだとぉ・・・生意気な奴、こうしてくれるわ!」
そう言うが早いか、無頼の侍たちは蕎麦屋の主人に向かってライフル銃を数発ぶっ放した!
ドーンドーンという音と共に、蕎麦屋の主人が血を流して倒れた。
「俺たちに従わない奴は、みんなこうなるんだ!」
田沼の親衛隊の侍が、騒ぎを見ていた群衆に向かって叫んだ。
倒れて死んだ主人にひれ伏して蕎麦屋の女将が号泣している。
それを見た無頼の輩が言う。
「もう後家さんになっちまったんだ!俺のところへ来て妾ににでもなれ!」
女将の腕をムンズと掴んで、侍たちは武家屋敷の方角へ消えていった。

「ひでぇ奴らもあったもんだ!、酷すぎるぜ・・・」
蕎麦屋の影から見ていた、ラットマン治郎吉が小声で言った。
「それに奴ら、20世紀のライフル銃まで持ってるってのが怪しすぎるぜ!」
治郎吉は、顎に手をやりながら考えている。
「今晩あたり、田沼意次の屋敷にでも偵察にでも行って見るとするか」
まだざわめいている通りを眺めながら、治郎吉も何処かへと消えていった。


「今晩は月も今夜は出ていないようだ・・・勿怪の幸いだ」
治郎吉は、田沼意次の屋敷の天井裏に忍び込んだ。
「おお・・ここだぜ、田沼の部屋は・・・」
と小声で言った治郎吉の近くで、人の気配がする。
「お・・おめぇ・・誰だっ!」

「あっ!お前・・ラットマン治郎吉じゃないか!」
JP11が驚いて言った!
「しっ!声を出すんじゃないっ!」JP3が人差し指を口にあてて言った。
「あ、あんたら、時間警察の刑事じゃねーか、こんな所で何やってんだよ・・」
治郎吉も驚いて言う。
「治郎吉・・・やっぱり生きてやがったんだなっ!」JP3とJP11が同時に言った。
「生きてて悪いか!そう簡単に死んでたまるもんか!」治郎吉が答える。
「お前も、こんな所で何してる?」時間刑事のJP3が言う。
「なにやってるって、田沼意次を偵察してるのよっ!」治郎吉が言う。
黒ずくめの忍者スタイルのJP3が、治郎吉に向かっていった。
「あの田沼意次は偽者だっ!これを見ろ!」
生体計測器を見せながらJP3は、下の部屋で密談をする田沼意次の生体反応のデータを見せた。
「こ、こいつぁ・・・・24世紀の人間か・・・・」治郎吉が驚いて言う。
「そうだ、あいつは、タイム・トンネルを潜ってやってきた24世紀の独裁者タヌーマンなのだっ!」JP3が言う
「24世紀に、人類を滅亡させようとしたあいつなのか・・・」治郎吉が驚嘆した。
「独裁者タヌーマンは、この時代で世界制服をもくろんでいるらしい。核兵器まで準備してな!」JP3が忌々しく言う。
「核兵器まで作ってるのか、奴は!」治郎吉があきれて言う。
「今ここで撃ち殺してやる!」JP11が逸って言った。
「だめだ、ここで奴を殺しても歴史はもとに戻らん・・・本物の田沼意次を助けなきゃな・・・」JP3が考えながら言った。
「こで騒ぎをおこしちゃ、俺たちの命も危ねーぜ!なにしろ冷酷な親衛隊は何百人もいるからな」治郎吉が言う。
多勢に無勢、いくら未来の武器をもってしても、これだけ大勢に囲まれては逃げ切ることはできないだろう。

「この江戸がおかしくなっちまったのは、3年位前からだぜ」
治郎吉が言う。
「そういえば、3年前には日光の東照宮で家康の大法要があったな」
JP3が思い出しながら言う。
「そうだ、あの時に本物の田沼意次も参列したらしいが、そのとき入れ替わったんだろうな!」
治郎吉が、腕を組みながら言った。
「歴史が変わってしまったターニングポイントは、3年前の日光東照宮だっ!」
JP3が言うと、JP11もうなずきながら同意した。
2人は、腕のタイム・ブレスレットを操作し、3年前の日光へとワープしていった。
「お、おい・・俺を置いてくなよ・・」
そう言うと、治郎吉もブレスレットで東照宮へワープしたのだった。



大法要を終えて、岐路に着こうとしている田沼意次の行列の前に、3人は突然出現した。
現れたと同時にレーザーガンを麻痺にセットし、田沼の家来たち数十人を気絶させた。
「こんなに家来が大勢だと、話がややこしくなってくるからな」
JP3が申し訳なさそうに言った。
「仕方ないでしょう、家来には眠ってもらった方が安全ですから」
JP11が言う。
「しかし、あんたらも派手だね!」
治郎吉があきれて言う。

豪勢な籠の中で田沼意次が何か言っている。
「どうした?なにが起こった?」
「わたしたちは、日光の天狗でございます、田沼様をお守りに参上仕りました!」JP3がもっともらしく言った。
「・・・えぇ・・天狗って・・・」治郎吉が驚いて言う。
続けてJP3が、田沼に言う。
「田沼様を暗殺しようと企てる無頼の輩が、もう直ぐ現れます。さあ、こちらへおいでください」
そう言いながらJP3は、田沼を大名籠から連れ出し、近くの森の中へ隠した。

静まり返った籠に、突然小型のミサイルがどこからとも無く打ち込まれ、ドーンと言う爆音とともに大名籠は跡形も無く消滅した。

「奴らが来たぜ!」治郎吉が言う。
「レーザーガンを最大殺傷にセットしとけよ!」JP3がJP11に言う。
最大殺傷にセットされたレーザーは死体を蒸発させてしまう威力がある。
時間刑事らの、その時代に証拠を残さないための手段でもあった。

独裁者の手下が十数人現れ、田沼意次の籠のあたりでうろうろしている。
その隙に、3人はレーザーを浴びせかけた。
油断していた独裁者軍団は、アッという間もなく舜殺で消えていった。

「しかし、独裁者のタヌーマンがいないのは・・・」
・・・とJP3が話している瞬間、彼の背後からレーザー光線が放たれ、JP3はもんどりうって地面に倒れた。
治郎吉とJP11は、背後から忍び寄ってきた独裁者を、同時に撃った!
タヌーマンは一瞬に蒸発した。
「JP3~!!」
2人は、JP3に駆け寄った!
「うう・・」と唸りながらJP3は気がついたようだ。
「死んだかと思ったぜっ!」治郎吉が言った。
「こんあこともあろうかと、体全体にフォースフィールドをはっておいたのさっ!」JP3が言った。
「びっくりさせるぜっ!」治郎吉が言う。
「俺のこと心配してくれたのか・・・」ふふふっと笑いながらJP3が言った。

杉の大木に身を隠していた、本物の田沼意次が近づきながら言った。
「おぬしたち・・・何物・・?天狗には見えんが」
面妖な顔つきで言う田沼の言葉をさえぎるように時間刑事が言う。
「ゆえあって人間の形に身をやつした、天狗でござる。」
納得しかねる様子だったが、意次は言った。
「そうか、それはかたじけない・・・それにしても、きゃつめらは何故ワシを襲ってきおったのだ?」
「それは、聞かぬが花ということに・・・」口ごもってJP3が言った。
「それより、あんたの家来を起こさなくてもいいんですかい?」治郎吉が田沼に向かって言った。
「おおそうじゃな、そうしよう・・」そう言いながら、田沼は気絶した家来を起こしに行った。

「これでこの件は一件落着ということですね!」JP11が言う。
「まぁ、そーゆーことだな」JP3が言った。
「でも、このラットマンの件はどうします」JP11が言う。
「えっ・・俺のこと・・・」ラットマン治郎吉があせって言う。
「ラットマンは猫に食われて死んじまったよ!」JP3が言う。
「しかし・・!」とJP11。
「間違って報告したとなると、始末書とか大変だしな・・」JP3が言った。
「そうですね・・」JP11も答えた。
「さぁ、帰るとするか」JP3がJP11に言う。
「はいっ!」JP11が言う。

「たっしゃでな!」治郎吉が2人に言った。
「死んでる奴にさよならは言えねぇ・・・」JP3が言う。
「なんか江戸弁になってませんか?」JP11が言う。
「おおっと、そうかい?・・・じゃ、あばよ!江戸時代!」
そう言いいながら時間刑事の2人は、もとの時代へと消えていった。

田沼意次の家来たちが目を覚まし始めた。
「おおっと、いけね!俺もおさらばだっ!」
そう言うが早いか、治郎吉ももとの江戸にワープして行った。


「おーい、いま帰ぇったぜっ!」
八件長屋につくなり、治郎吉がかみさんに言う。
「いつまで、ほっつき歩いてんだよ!味噌汁が冷めちまったじゃないかい!」
「おう、すまねーな、汁飯にでもして早ぇーとこすませて、子作りに励もうじゃねーか、なぁ・・・」
「いやだねぇ・・・おまいさん・・・」
「まんざらでもねーって、顔つきだぜ、おめえ・・」
「もうっ!」
江戸の夕日が静かに沈んでゆく。


短編 からくり大仏事始(びぎにんぐ)

2008年04月13日 09時55分04秒 | 動画

からくり大仏事始(びぎにんぐ)

からくり甚五郎は羽田夢佐衛門春之助という長たらしい名前の住職の寺で、居候を決め込んでいた。
羽田夢佐衛門春之助は元武士であったが、武士の宮仕えに嫌気が差して、今は出家し僧侶になっている人物である。
「春さん、美濃の城下町も平和だねぇ!」
からくり甚五郎が羽田夢佐衛門春之助に言った。
羽田夢佐衛門春之助の名前があまりに長く言いにくいので、甚五郎は”春さん”と呼んでいる。
「そうだねぇ・・甚さん。こういう退屈な平和がいつまでも続くといいですねぇ・・・」
春さんが、ほうじ茶を美味そうにすすりながら言う。
ひねもすのたりの時刻に、こうしてとりとめも無い話をしながら茶を飲むのが、2人の日課でもあった。

「てーへんでぇい!てーへんでぃ!」
突然、寺の門前の方角から、けたたましい声を響かせながら治郎吉が走ってきた。
「大変ですよ、甚さん!春さん!」
治郎吉が息せき切って苦しそうに2人に言った。
「治郎吉っあん!どーしたっていうんだいっ!そんなに慌てちゃって!」
甚さんが、びっくりして言った!
「どーしたもこーしたも股下も鼻の下も・・・・ゲホッゲホッ・・」
治郎吉が咳き込んでしまった。
春さんがほうじ茶を差し出し、茶をゴクゴクと飲み干して治郎吉が続ける。
「また、金持ちんとこの蔵が襲われましたぜっ!」
「ひょっとして、またあの仁王さんの化け物が蔵を襲ったっていうのかい!?」甚さんが難しい顔をして言った。
「そうよっ!材木問屋・美濃屋の蔵から千両箱をゴッソリ盗んでいきやがったのよっ!」治郎吉が、また茶を飲みながら言った。
「60尺以上もあるって噂じゃないですか?その仁王さんは・・・」春さんが言う。
「本物の仁王さんが、そんな悪行するわけがねぇ・・・!!甚五郎が腕を組みながら考える。
「そうさっ!そんでもって、俺はあの仁王さんはからくり仕掛けの仁王さんじゃねーかって睨んでる!」治郎吉が言った。
「甚五郎さんが作った”からくり大仏”と同じ物ようなからくりが、もう一つあるって言うのですか!?」春さんが言う。
「そうとしか考えられん!」甚五郎と治郎吉が、声をそろえて言った。
「あんな大きな仁王像を隠すには広い場所が必要だ、寺の山門とか五重塔とか・・・」甚さんが考えながら言う。
「あの大きさの仁王さんがある寺っていえば・・この辺じゃ蓮覚寺しかないでしょうね!」春さんが言う。
「おおっ!そういえば寺の門の両側に、そんくらいの大きさの仁王像があったな」治郎吉が言う。
「では、蓮覚寺に行って、仁王さんを拝んでくるとするか」
そう言うと、3人は蓮覚寺へ歩いていった。

蓮覚寺の山門は巨大で、阿形と吽形の形相の金剛力士像が聳え立つようにあった。
「阿吽の仁王さん・・・なかなかの出来具合じゃないですかな・・・」春さんが、感心しながら言った。
仁王像を眺めながら、甚五郎が言う。
「この作りは・・・からくり仁左衛門のつくりじゃねぇか!」
「からくり仁左衛門って、誰だい?」春さんと治郎吉が言う。
「からくり仁左衛門は、俺の兄弟弟子よ・・・」甚さんが言った。

”からくり甚五郎”と”からくり仁左衛門”とは、飛騨の匠・五代目左甚五郎の元で共に技を磨いた兄弟弟子であった。
だが、からくり甚五郎が名前を受け継ぎ、仁左衛門はそのゆがんだ性格ゆえに破門になった。
仁左衛門は”甚五郎”の名前を襲名できなかったことを、ずっと逆恨みしていた。
そして、破門後からくり仁左衛門はその技を買われて、盗賊・霞の蜘蛛衛門の一味になったらしいと、もっぱらの噂である。

「この桐の木の彫り方といい、仁王さんの顔つきといい、仁左衛門の細工に違いねぇ!」
からくり甚五郎は確証を得たように言い放った!
「するってーと、この仁王さんが夜な夜な町を騒がせてるっていう、からくり仁王さんですかい?」
治郎吉が山門の周りを調べて言う。
「そうよ!きっとそうにちげーねぇ!」甚五郎が強く言った。
「ここで火つけて焼いちまおうかい!」治郎吉が言う。
「そりゃ、あんまり乱暴すぎる!」甚五郎が言った。

そこで春さんが思案しながら言った。
「ここで焼いても、仁左衛門も盗賊一味も捕まりません・・・。しかし、今日の夜は新月だ!盗賊にとっちゃ泥棒日和っていう夜ですよ」
春さんが計画を練りながら、2人に続けて言う。
「甚五郎さん!治郎吉さん!俺たち3人で霞の蜘蛛衛門の一味を出し抜いてやろうじゃないですか!
こちらには、甚さんのこさえた”からくり大仏”もあることですしね!
今夜の城下町は、大騒ぎになりますよ!」
そうして、春さん甚さん治郎吉の3人は、蜘蛛衛門の一味を取り押さえる企てを話し始めたのだった。



草木も眠る丑三つ時の半時前、豪商・三川屋の黒塀の前で春さんと治郎吉が隠れながら、盗賊一味を待ち伏せしていた。
「奴らが狙うとしたら、この小さな城下町じゃ三川屋しかねぇとふんだんだが・・」
治郎吉がカンを働かせて、三川屋を選んだのだ。
「近所で地響きがしたなら、すぐさま甚さんを呼びに言ってくださいよ!」
春さんが、治郎吉に言った。
「合点承知よっ!」治郎吉が言う。

新月の夜、星だけが瞬く夜空に流れ星は、一つ二つ。
犬の遠吠えが、城下町に木霊する。

突然、蓮覚寺の方向からドシンドシンと地響きが聞こえてきた。
「おおっ!からくり仁王さんのお出ましですよぉ!」
春さんが治郎吉に言った。
「ひとっ走りして甚五郎さんに知らせてくらぁ!」
治郎吉が言うなり、脱兎のごとく走り出した。
「治郎吉さん!例の菜種油も忘れないでくださいよっ!」
春さんが叫ぶ!
「おうっ、まかせとき!」
治郎吉が叫ぶ!

案の定、からくり仁王は三川屋の蔵に向かって、地響きをたてながら近づいてきた。
「ちっ!思ったより早くやってきちゃったね!」
春さんが、忌々しく叫んだ!
からくり仁王は盗賊一味の作りなので、早く逃げれるように軽い木材の桐で作られている。
それゆえ、ケヤキで作られた丈夫で重い大仏より早く動けるようなのだ。
「こいつぁ、ちょいとヤバイかもしれませんよぉ・・・」春さんが小声でつぶやいた。

バキッバキッバキッ・・・・!!
三河谷の黒塀を破壊しながら、からくり仁王が千両箱のたんまり入った蔵に近づいていく。
からくり仁王が蔵の壁を壊そうとした、その時・・・・!!
「からくり仁左衛門!ここで会ったが百年目!悪行はゆるさねぇぜ!」
そう叫びながら、甚五郎の操縦するからくり大仏が現れた!
蔵の壁を壊そうとしている仁王の腕を、ムンズッ!と鷲づかみにして蔵から引き離した。
「おお・・お前は・・甚五郎・・!?」
仁王の操縦席から仁左衛門が叫ぶ。
「久しぶりだなぁ!盗賊家業とは落ちぶれたもんだな!仁左衛門!」
甚五郎が言い返す。
「こうなっちまったのも、みんなお前のせいよ!」
仁左衛門も言い返す。
「逆恨みってのも往生際が良くねぇぜ!」
甚五郎が、そういうが早いか、掴んだ仁王を引き倒した。
ドドドドッ~~~~ン!!と地面を揺らし、仁王は転倒した。

「やりあがったなっ!」
仁左衛門が叫ぶと、仁王はすばやく立ち上がった。
「さすが、桐でできているだけあって、素早いぜっ!」
甚五郎が言うが早いか、大仏の右手が仁王の胸辺りにパンチをお見舞いした!
ガァァ~~ン!と木のぶつかり合う激しい音を響かせて、仁王の胸がベコンと凹んだ!
「どうよっ!こちらはケヤキで出来てる上物よ!」
甚五郎がもう一度パンチを出そうとした瞬間、後ろから何物かに羽交締めにされたのだった!

「甚五郎よっ!仁王さんは一人じゃあないんだよ!二人の対で仁王さんよっ!」
仁左衛門が笑いながら言う。
背後から忍び寄った吽形の仁王に羽交締めにされたからくり大仏は、身動きが取れない!
「これで、からくり大仏も甚五郎も、今日で見納めっていうもんさっ!」
吽形の仁王の操縦席で、盗賊の首領・霞の蜘蛛衛門が不敵に笑った。
「くそっ!盗賊の親玉の蜘蛛衛門のお出ましってわけかいっ!」
甚五郎が忌々しくさけぶ!

仁左衛門の操る阿形の仁王が、大仏の胸や頭を容赦なしに殴りつける!
ド~ン!ガ~ン!と、城下町の夜を響かせながら、仁王の大仏攻撃は激しく続く!
その騒ぎを聞きつけた、大勢の野次馬が周りを取り囲み、叫んでいる。
「大仏!がんばれ!」
「大仏!負けるんじゃね~~!」
「マカハンニャハラミタシンギョウ」
しかし、仁王の攻撃は無慈悲に容赦なく続く・・・

「菜種油持って来たぜッ!」
治郎吉が、春さんに野次馬の声に負けない大声で言う。
「おお・・遅かったじゃないですか!」春さんが言う。
「野次馬連中がいっぱいで、遅くなっちまったぜ、申しわけねぇ・・」
菜種油の入った樽の栓を抜きながら、治郎吉が言った。
「仁王が大仏に気をとられている今のうちに、油を仁王の足に撒きますよ!」
と、春さんが号令をかけ、治郎吉と春さんは大仏を殴りつけている仁左衛門の阿形の仁王の足に、菜種油をぶち撒いた。
そして、すぐさま春さんがその油に火を放った!

ゴッ~!と音を立てながら菜種油の火が、仁王の足を燃やした。
「あっちっち・・・!」
仁左衛門は足の火に気がつき、火を消そうとしているが、桐の木は火が燃えるのが早い。
みるみる仁王の足を燃やしていく。
仁左衛門の仁王が慌てふためく隙に、からくり大仏は後ろで羽交締めにしていた仁王を、エイッ!と背負い投げで前方に投げ飛ばした。
ドッドド~~ン!と吽形仁王は背中からもんどりうって倒れ、そのまま動かなくなったしまった。

「次は、お前だぜっ!」
甚五郎は火がついて慌てふためく仁王の胸に、思いっきりパンチを食らわせた!
ガッガガガガァ~~ンッ!
木製の歯車を四方八方に撒き散らしながら、阿形の仁王は文字どうり仁王立ちになったまま停止した。
胸に空いた大きなパンチの穴から、仁左衛門が逃げ出し、何処かへトンズラしたようだ。
野次馬たちが歓声を上げる!
「うぉ~!大仏~~!」
「やったぜっ!」
「ありがたやぁ・・」
「南無阿弥陀仏・・」
からくり大仏に手を合わせて拝む人や、お経を唱える人までいた。

倒れたままの吽形の仁王さんから、盗賊の首領が捕らえられ盗賊一味は散散ばらばら、蜘蛛衛門は後に獄門打ち首となった。
しかし、からくり仁左衛門は、トンズラして行方知れずのままで、未だに捕獲されてはいない。



「治郎吉っさん、もう江戸へ帰るんかい・・・」
名残惜しそうに、からくり甚五郎と春之助が治郎吉に言う。
「江戸じゃ、かかぁとガキがまってるんでね。また珍しい本あったら持ってきやす!」
治郎吉も名残惜しそうに言った。
「たのむぜ!治郎吉っさん」甚五郎が言う。
「気をつけなされ!」春さんが言う。
「それじゃ、あっしはこれで・・」
そう言いながら、治郎吉が手ふって旅路に出てゆく。
美濃の空は、天下御免の晴天であった。


短編小説 ラットマン治郎吉

2008年04月12日 11時21分33秒 | 動画

ラットマン治郎吉

夜の大江戸八百八町に「御用!御用!」の捕り物の大声が響く!
「鼠小僧治郎吉!神妙に縛につけ!」
同心の近藤勘助が叫ぶ。
「もう捕まえたも同然ですね!JP3」
岡っ引きのさね吉が、同心に向かって言った!
「さね吉!近藤様と言え!そのJP3はいかんっ!」
同心の近藤がさね吉の口を押さえて言った。
「そうでしたね、つい・・・」

同心の近藤の正体は、日本の”時間警察”のJP3という犯罪捜査官だった。
手下のさね吉の正体も、JP3の部下のJP11という捜査官だったのだ。
時間刑事の2人は、通称”ラットマン”と呼ばれている時間犯罪者を追って、はるばる江戸の町までやってきたのである。

時間警察の刑事は、怪しまれぬようその時代の人物に変装しなければならない。
JP3は同心に、JP11は岡っ引きに変装していた。
追跡してきたラットマンは”鼠小僧治郎吉”と名乗って、江戸中を騒がせているのだ。

「治郎吉は義賊と呼ばれ、江戸じゃ有名らしいですよ」
さね吉ことJP11は、同心のJP3に言った。
「義賊だろうが何だろうが、時間を乱す奴は逮捕する!それが俺たちの任務だっ!」
同心の近藤は、腕にはめたタイム・ブレスレットを指差しながら言う。

25世紀のタイムマシンは小型化され、ブレスレットの形をしている。
厄介なことに、ラットマンはタイム・ブレスレットの他に、ベルト型の物質変換装置を装備していた。
通称”トランスフォーム・マシン”とも”T・M”とも呼ばれ、物や生物を何にでも変形させてしまう。
ラットマンと呼ばれているその男は、彼がネズミになって追っ手の目をくらますのが有名なので、その名前が付いた。

「鼠小僧!!腰に光るT・Mが、ラットマンの証拠だっ!」
JP3同心近藤が言う。
「ラットマンめ!今度こそ逃がさん!!」
JP11さね吉が言う。

大江戸の屋根づたいに鼠小僧が走り抜ける
木造の瓦屋根をカタカタ音をさせながら、ラットマンこと鼠小僧治郎吉は逃げ続ける。
「しかし、おめーら時間警察もしつっこいね!」
治郎吉が大きな声で、同心と岡っ引きに向かって言った。
「俺も、江戸で平和に暮らしてんだよ、ほっといてくれないか!」
治郎吉が続けて言う。
同心の近藤が、屋根にいる治郎吉に向かって叫ぶ。
「何が平和に暮らしてるだよっ!充分町を騒がせてるだろう!」

「俺は、今じゃ義賊で通ってる有名人よ!貧乏人たちが待ってるんでな!」治郎吉が答える。
「そんなことやってたら、時間の流れが変わってしまうだろう!」同心が言う。
「知ったこっちゃね~!!」治郎吉が言う。
「止まれ!撃つぞ!」
そう言いながら、同心と岡っ引きはレーザーガンの銃口を、治郎吉に向けかまえた。

「おおっと!レーザーガンとは穏やかじゃないねっ!」
治郎吉は、とっさに物質変換装置に手をかけようとした・・・
瞬間、同心の近藤が放ったレーザーが、治郎吉の手をかすめ、治郎吉は屋根から滑り落ちた。
「鼠に変身しようたって、そーわいかねぇ!」
岡っ引きのさね吉が、屋根から落ちて倒れている治郎吉に縄をかけた。
「もう観念しろ!治郎吉!」同心が言う。

縄にかけられた治郎吉は、いきなり物質変換装置に手をやり、鼠に変身した。
とたんに縄が外れ、鼠になった治郎吉が、路地裏に逃げ込んだ。

「くそっ!逃がすもんか!」同心と岡っ引きが同時に叫ぶ!
2人が追いかける目の前を、ドブネズミが走っている。
「鼠が小さすぎて、レーザーガンは無理だ!」同心が言った。
そう言っている2人に前に、突然犬ほど大きな三毛猫が現れ、走っている鼠にいきなり食いついた。
が、早いか猫は鼠を、あっという間に食い尽くしてしまった。

「ぎゃっ!」
と叫び声が聞こえたが、もはや遅し、哀れ治郎吉は三毛猫の餌食となってしまった。
「むごい最期ですね・・・」岡っ引きのJP11が、顔をしかめて言う。
「ああ・・・酷い最後だ・・・」同心のJP3も言った。
「あれほどの犯罪者が、猫の餌になってしまうとは・・」
2人は腕のタイム・ブレスレットのスイッチを入れ、もと来た25世紀へと帰っていった。


ニャァ・・と甘えた鳴き声をたてながら、大きな三毛猫が満腹そうに男の足元に擦り寄っていく。
「ミケ之助よ!よくやった!」
その三毛猫を抱き上げながら、治郎吉が言った。
「俺は野ネズミよっ!ドブネズミじゃあないぜっ!」
三毛猫の背中の毛をなでながら、猫に向かって治郎吉が言う。
「屋根から落ちるのも、猫に食われた振りをするのも、すべて俺のたくらみどうりってもんよ!」
そして、ほくそ笑みながら、ラットマン治郎吉は言った。
「俺は死んじまったことになった以上、もう奴らも追ってはこんだろう」
「早く、かかぁんとこへ帰ろ・・ガキも待ってることだしな・・・」
そう独り言をつぶやきながら、治郎吉は八軒長屋へ帰っていったのだった。


からくり大仏大作戦

2008年04月11日 16時12分19秒 | 動画

からくり大仏大作戦

岐阜の金華山の麓に、江戸時代の匠「からくり甚五郎」が作った大仏がある。
座っている高さが10メートルあり、からくり仕掛けで動くと言われている。
そのほとんどが木で作られており、県の重要文化財にもなっていた。
大仏の鎮座する本堂は、住職の羽田常太郎が管理している。
普段は僧侶として生計を経てているが、いざというときには”からくり大仏”の操縦者となるのだ。
といってもこの大仏、江戸時代に作られたものである、空を飛べるわけでもなく火や水にも弱く、近辺の天変地異にしか活躍は期待できない。
そんなわけで、からくり大仏の活躍は人々の記憶から当の昔に忘れ去られていた。

しかし、いざという時にすぐさま活躍できるように、住職の羽田は大仏の整備を怠ってはいない。
今日も羽田住職は、大仏の背中にある観音開きの扉を開け、大仏内部の操縦席のからくり仕掛けの取っ手や計器類を掃除していた。
「大仏さんのからくりに埃りがたまっていては、罰があたるでのぉ」
住職の羽田は、もう60歳をとうに超えている。
先代の住職である父親から、からくり大仏の操縦法を教わって久しい。
羽田の息子は操縦法すら覚えようとはしない。
「からくり大仏も、ワシの代でおわりじゃて・・」
操縦席の埃を払いながら、羽田はさびしそうに言った。

晴天の空、金華山の上空は青く果てしなく広がっている。
岐阜は歴史的物件の多い町である。
金華山山頂の岐阜城は、斉藤道山が開いた城であり、麓には織田信長の居住跡がある。
麓にある岐阜公園から、山頂の岐阜城まではロープウェーが引かれ、乗客が景色を楽しんでいた。

突然、観光を楽しんでいる数十人の乗客を乗せたまま、ロープウェーが急停止した。
ガタンと急停止したショックで、乗客の吸っていたタバコがロープウェーから落下し、森林の枯葉に引火した。
枯葉に引火した火は、みるみる大きくなり、前代未聞の山火事となりつつある。
大惨事は連鎖反応で起きる!
故障で停止したロープウェーが、山火事の炎で焼かれようとしている。
乗客はパニックでなすすべも無く、泣き叫んでいる。

救急車や消防車のけたたましいサイレンの音を聞きながら、羽田住職が金華山の方角を見やった。
金華山の山林からモウモウと立ち上がる黒煙を見ながら、羽田は決意した。
「からくり大仏の始動のときが来たようじゃな!!」
住職は、急いで大仏に乗り込み、始動レバーを引いた。
ガタンと大仏本堂が二つにわれ、大仏が何十年ぶり、いや百年ぶりに直立したのだ。
ゴゴゴゴッ・・・と唸りながら、からくり大仏は本堂から出て、金華山の山火事の方角へと歩いてゆく。

「からくり甚五郎の匠の技を見せてしんぜよう!!」
羽田住職は、老骨に鞭打って力いっぱいレバーを引く!
ドシンドシンと地響きを立てながら、からくり大仏は巨大な身体をロープウェーへと移動させる。
山火事の炎が大仏の足に引火し、ジワジワと木造の足を焦がしていった。
「うむぅ!はやく乗客を助けなきゃ、大仏も燃えてしまうわい!」
羽田住職は、急いでロープウェーの下に大仏の手を差し出した。

「助けが来たぞ!」
「うぉぉ!あれが、伝説のからくり大仏なのか?」
「鉄人か!」
「ガンダムゥ~~!」
ロープウェーの乗客が、叫んである。

差し出した巨大な大仏の手に、乗客次々に飛び乗り、数十人の乗客たちは全員救出された。
その瞬間!
山火事の高温の炎でグニャグニャに溶けてしまったロープウェーの鉄塔が、ドーンと地面に倒れたのだった。
「危機一髪じゃった・・・」
羽田住職がつぶやいた。

山火事から脱出し、からくり大仏は安全な岐阜公園の広場に乗客たちを下ろしていく。
「助かった!」
「俺たち、生きてるぞ!」
乗客たちは興奮状態のまま、皆泣きながら抱き合って喜んでいる。
数台の消防車が、大仏の足元へ水を放水し、焦げる足の火を消している。
救急車が、乗客たちを地元の救急病院へと運んでいく。
山火事の炎の猛威は、何十台もの消防車で鎮火し始めたところだ。

足元を焦がした大仏は、本堂へゆっくりと歩いていった。
そして、もとの台座にドッカリと座り、安堵の息をついているように見えた。
本堂の中は、大仏の足の木の焦げた匂いが、うっすらと漂っていた。

その後、からくり大仏はニュースで話題になり、ニューヨークタイムスの表紙を飾り、日本の匠の技を世界に知らしめた。
大仏見学の観光客は、ひっきりなしに来訪して寺は繁盛した。
そして、からくり大仏の操縦も、羽田住職の息子が後を継ぐそうである。


昭和猫町五丁目 ペンキ絵画家のゴンザ

2008年04月10日 14時27分01秒 | 動画

昭和猫町五丁目
ペンキ絵画家のゴンザ

ペンキ絵作家の狐の権座エ門さんはゴンザさんと呼ばれている。
映画館の看板や銭湯の富士山などを描くのが仕事である。
青空さんという絵描きさんに飼われていた狐で、今はもう十年以上生きて人間に化けれるようになった。
飼い主の見よう見まねでゴンザさんも絵が描けるようになった。
青空さんは、空の絵を描くのが上手い絵描きさんで、ゴンザも空の絵を描くのが好きなのだ
しかし、空の絵を描くチャンスは少なく、富士山の絵を描くときぐらいしか腕を発揮できないのを残念がっている。

今日の仕事の依頼は、町で唯一の映画館”猫町シネマ館”の映画の看板だった。
シネマ館の映画は1週間ごとに変わるので、ゴンザさんの仕事はけっこう忙しい。
映画はたいてい2本立てでやっていた。
昭和の古い映画と新しい映画との2本立て、と言う場合もあった。
たとえば”男はつらいよ”と”ブルース・ウィリスのダイハード4.0”とかの抱き合わせである。
”男はつらいよ”などは48作もある昭和の映画なので、ほとんど毎週のように上映されていた。

「僕が描く映画の看板は特別なので、満月の夜は気をつけないといけないなぁ・・」
独り言を言いながら、ゴンザさんは映画の看板を描いている。
「楽しい映画ならいいんだけど、悪者なんか出る映画だと危険なんだよねぇ」
渥美清の顔を描き終えて、次はブルース・ウィリスの顔を描きはじめた。

この町は化け猫や狐や狸の妖気の漂う町である。
妖気といっても”陽気な妖気”なので、恐くも無く怪しくもなく楽しくなってしまう陽気な妖気である。
狐のゴンザも化け狐の仲間なので、特別な力を持っていた。
ゴンザが描いた絵は、満月の夜になると絵から浮き出て、一時的に本物の人間にように動いてしまうのだった。

「そーいえば、飛騨の匠の左甚五郎の彫った眠り猫も、夜になると起き出すっていうらしいね」
後ろで看板を眺めていたシネマ館のタマオがゴンザさんに言った。
「そーいえば、今日は満月だね・・・大丈夫かな?」
ゴンザがチョイト心配しながら言う。
「まぁ、ゴンザさんの妖力はランダムだから、出たり出なかったりですよ」
タマオが呑気に言う。
「青い山脈と男はつらいよの2本立てにしないかい?一番安全そうな映画だよ!」
とゴンザが言ったが、予定どうりの上映をしないと観客がうるさいのだ。
そうして、不安なまま男はつらいよとダイハードの看板が出来上がってしまった。

猫町シネマ館も、土曜の夜はオールナイト上映である。
満月の夜、男はつらいよとダイハードの2本立てに、観客は満員だった。
あのシガラキさんとタマ子さんも2度目のデートで、映画館に来ていた。

パァァ~~ン!パァァ~~ン!
突然、映画館の外で銃声の音が数発鳴り響いた!
「ガブリエル!動くな!」
ジョン・マクレーンがテロリストに向かって、銃を向けている。
「お前みたいなアナログ人間に、俺は捕まえられん!」
そう叫びながらテロリストのガブリエルは、シネマ館の中へ逃げていく!
ジョン・マクレーンは、パァァ~~ン!パァァ~~ン!と数発拳銃を撃った。
その一発が車寅次郎の鞄をかすめた。
「マクレーンさん、そんなに拳銃撃ちまくっちゃあぶねえよぉ!」
寅さんがジョン・マクレーンに言った。
「寅さん、危ないぜっ!どいててくれ!」
ジョン・マクレーンがテロリストを追ってシネマ館の中に入っていく。
寅さんもつられて館内に入っていった。

シネマ館の中は大騒ぎになっていた。
テロリストのガブリエルに、シガラキさんとタマ子さんが人質になってしまっていたのだ!
「ジョン・マクレーン!近づくとこいつらの命は無いぞっ!」
銃口をシガラキさんに向かってテロリストが叫ぶ。
ジョン・マクレーンは拳銃を両手で持ち、狙いをガブリエルに向けたまま沈黙している。

「僕は殺されてもいい!タマ子さんは離してくれっ!」
シガラキさんがテロリストに言う。
「いいえ!あなただけ一人にはしないわ!」
タマ子さんも言った。
「うるさい!お前ら、黙ってろ!!」
テロリストが人質に向かって言った。

そこへ、にこやかに現れた車寅次郎が、テロリストに向かって諭すように言った。
「ガブリエルさん・・・そんなことしたって、世の中良くならないよ。
まぁ、ピストルなんか物騒なものはやめにして、一杯やらないかい?」
「お前は誰なんだ!」ガブリエルが言う。
「俺かい?今日の2本立てのもう一本の映画の主人公よっ!」と寅さん。
「虎屋の風来坊だなっ!」ガブリエルが言う。
「こんなことやってちゃ、草葉の陰でおっかさんが泣いてるよ・・・」寅さんが言う。
「母親の顔なんか忘れたぜっ!」ガブリエルが吐き捨てるように言った。
「そんあこたぁねぇよ!あんたのおっかさんは今でもきっとあの世であんたのこと心配してるぜっ!」寅さんが言う。
「・・・・・」ガブリエルの目に涙が一筋こぼれたように見えた。
ジョン・マクレーンが言う。
「今なら、まだ間に合う、人質を放せ!」
「わかったよ、寅さんには負けたよ・・・」ガブリエルが人質を解放し、持っていた拳銃をジョン・マクレーンに渡した。

ジョン・マクレーンに手錠をかけられたテロリストが、寅さんに肩を抱きかかえられて映画館の外に出て行く。
シガラキさんとタマ子さんは、抱き合って泣いている。

満月の夜も終わりかけ、白々と夜が明けるころ、寅さんとジョン・マクレーンとガブリエルは映画館の看板の中へ吸い込まれるように消えていった。


昭和猫町4丁目  招き猫湯のシガラキさん

2008年04月09日 13時15分46秒 | 動画
昭和猫町4丁目
招き猫湯のシガラキさん

狸のシガラキさんは、今日も番台に座って本を読んでいる。
昼下がりには客も少ないので、いつも世界名作全集を読んでいるのだ。
それでも、夕方頃になると客が増えてくる。
常連客には、古本屋の寅次郎や電気屋のジョンも居た。
常連客の他にも、昭和の銭湯を懐かしがって訪れる観光客もけっこうやって来る。
土日や祝日にはけっこう混雑するので、常連客は閉店間際の午後12時ごろしかやってこない。
銭湯の入浴料金が100円という安さであるが、観光客が大勢来るのでやっていけるということらしい。

シガラキさんの経営する銭湯は”招き猫湯”という名前である。
書院造りの立派な銭湯であるが、浴槽の後ろのペンキ絵は富士山と決めている。
浴場のペンキ絵は5丁目の狐のゴンザさんが描いているのだが、今ではペンキ絵が芸術とされ、テレビにも時々出ている職人さんだ。
狐のゴンザさんとシガラキさんは、昔山を駆け回っていたころからの幼友達であった。

銭湯につきもののコーヒー牛乳やフルーツ牛乳は、番台の横にあって、未だに30円という安さである。
冷蔵庫の横には「腰に手を当てグビグビ飲もう!」と張り紙がある。
これが話題になって雑誌の取材を受けたこともあった。

脱衣場の隅っこでは、大山椒魚のサン輔さんとシーラカンスのカン三郎さんがいつものように碁をさしている。
これもいつもと変わらない光景で、二人の碁は数時間も続くこともある。
大山椒魚もシーラカンも100年以上生きると人間に化けることができるという噂であった。

番台からは女湯も見れるのだが、いかんせん狐や狸や化け猫などの妖怪連中では欲情もしない。
たとえ人間の女性であっても、シガラキさんは狸なので何も色っぽくもない。
浴場で欲情するのは、よくないじょ~!という諺も・・・聞いたことは無い!


「はい!子供は1人50円だよ・・」
シガラキさんは、番台の上から近所の子供会の子供たちに向かって言った。
子供たちは、銭湯が珍しいのか、ワイワイ騒いでいる。
「銭湯の中では、あまりはしゃがないように注意してくださいね!」
子供会の世話人の人間に化けた化け猫のタマ子さんが、女湯から声をかけている。
シガラキさんは、タマ子さんに軽く会釈をしながら微笑んだ。
「いつも子供たちが騒いですみませんね」
タマ子さんがタオルで身体を隠しながら言った。
「ああ・・子供は元気が一番です!」
シガラキさんは笑いながら言う。
そぶりを見せないようにしていたが、シガラキさんはタマ子さんのことを好きなのである。
そんなことなので、子供の誰かが銭湯の隅にある水槽の金魚をコッソリ食べてしまっても文句を言わなかった。

「ところで、今度の出来た新しい映画館には行きましたか?」
シガラキさんはタマ子さんに言った。
「まだですの・・・行ってみたいとは思ってますけど・・」
タマ子さんは微笑んで答えた。
「明日映画館で昭和の名作”青い山脈”をやるのですが、一緒に行きませんか?」
シガラキさんは思い切っていってみた。
「えっ!あの映画をやるんですか!是非見たいですわ」
タマ子さんが喜んで言った。
「いい映画ですよね・・」
シガラキさんが言う。
「私、原節子のファンなんですの」
そう笑うタマ子さんの顔は原節子にそっくりである。
「あっ・・僕も原節子の大ファンなんです・・・」
シガラキさんがそう言うと、タマ子さんはちょっと顔を赤らめた。
池部良に似ているシガラキさんも、ちょっと顔を赤らめた。
実のところ、タマ子さんもシガラキさんのことを憎からず思っていたのだった。
そうして、シガラキさんのデートの約束は、何の苦労も無くあっさり成功してしまった。

関係ない話だが、シガラキさんの遠い親類が、あの信楽の焼き物の狸のモデルだったとは、昭和猫町の誰も知らないことだ。
池部良似のシガラキさんは、あの飲み屋やなどで玄関でチンチンを丸出しにしてたたずんでいる狸の置物が、親類であるとは言えなかったのである。

招き猫湯が終わる頃、大きな身体をした外国のお客さんがやってきた。
「おお!ここが日本の銭湯というものですか!」
外国のお客さんは、黒い肌で体重も重そうなアフリカ人だった。
「いらっしゃい」
シガラキさんは答えた。
「おお、ここで服を脱いで裸にんるので~すね!」
そう感動しながら、脱衣場でそのアフリカ人は服を脱いでいる。
しかし、突然その人の立っていた脱衣場の床がメキメキという音を立てながら、ズボォ~~ン!と壊れ、大きな穴が空いてしまったのだ。
「おお!たすけ~てくださぁ~い!」
アフリカ人が、シガラキさんに助けを求めた!
シガカキさんがあわてて、番台から助けに行く。
何が起こったのかわからない常連客も驚いて、アフリカ人を穴の開いた床からみんなで引っ張り上げた。

「あ、ありがとうござま~す・・」
アフリカのその人物は言った。
「私はエレファン太というもので~す、アフリカから来たアフリカ象で~す!」
続けてエレファン太が言った。
「いくら人間に化けても、5000キロの体重は変えれませ~ん!質量不変の法則でぇ~す!」
像も100年生きると、人間に化けることができる。
しかし化け象は、形は人間に化けても体重までは変えれないらしい。

「ここの銭湯じゃ、あんたの身体じゃ入浴は無理ですよ・・」
シガラキさんが困った顔で言う。
「おお・・・、せっかく日本のお風呂にはいりたかったのに・・・残念で~~す」
エレファン太が言う。
「おお!そうだっ!」
シガラキさんが良い事を思いついたようだ。
「ここからチョット歩いた所に猫町温泉があります、そこの露天風呂なら大丈夫ですよ!」
そう言うと、シガラキさんはエレファン太を猫町温泉の露天風呂まで案内した。
そんなこんなで、無事にエレファン太は日本の風呂を満喫できたようだ。

常連客のシーラカンスのカン三郎が、シガラキさんに言った。
「こんな大きな穴が開いたんじゃ、明日は休みだね!」
「そうだね・・・明日は休みにするか・・」
シガラキさんは、そう言いながら大工の源ジイサンに電話をかけた。
そして、大工の源ジイサンが明日には穴を直してくれることになった。
「みなさん!明日はお休みにします!」
シガラキさんは大きな声で、常連客のみんなに言ったが・・・
『どうせ明日はタマ子さんとデートだしぃ・・・』
そう心の中でシガラキさんは思っていた。


翌日、デートに出かける前、シガラキさんは銭湯の前に大きな手書きの看板を立てかけた。
『本日臨時休業。化け象の方はお手数ですが猫町温泉の露天風呂にお入りください』


昭和猫町3丁目  ワイルドキャット電気店

2008年04月09日 01時43分11秒 | 動画
ワイルド・キャット電気店

ワイルド・キャット電気店の山猫のジョンが、今日もCDの音楽を流しながらリアカーを引いている。
音楽は懐かしいフォークソングを流している。
「まいどぉ~!ワイルド・キャット電気店でございます!
いらなくなった電化製品、壊れた電化製品、どんな電化製品でも買い取ります!
メザシ、シシャモ、アジのヒラキ、ホッケの干物などと交換いたします。」
しかし、物を捨てない昭和猫町の住人が電化製品を売ることはあまりない。
電化製品は言うに及ばず、ほかの物も大切に修理して使われるので、粗大ごみなどほとんど出ない。

誰かがジョンを呼びつける。
「ワイルド・キャット電気さ~~ん!」
遠くで呼びかける声の方角に向かって、ジョンはリアカーを走らせた。
閑静なお屋敷の前で、上品そうな奥さんがジョンの来るのを待っていた。
「ワイルド・キャット電気さん、扇風機が壊れてしまったの、引き取ってくれる?」
その女の人がい言う。
「はい、扇風機でも何でも引きとりますよ。この扇風機だとメザシ5匹ですね」
山猫ジョンが言った。
「メザシ、も1匹おまけして」奥さんが言う。
「じゃあ、メザシ1匹おまけねっ!」
ジョンは、壊れた扇風機とメザシ6匹と交換した。


ワイルド・キャット電気店に戻って、ジョンは壊れた扇風機の修理を始めた。
いくつかの螺子をはずし、モーターの部分を覗いている。
パカリと開いたモーターの中には、グッタリと疲れきった、栗鼠の林太が居た。
「もう、だめです・・・何か食べ物をください・・・」
瀕死の栗鼠の林太は、ジョンに向かってたのんだ。
ジョンは、あわてて修理棚に置いてある大きな瓶の中から、大粒のドングリを林太に差し出した。
栗鼠の林太は小さな手で、そのドングリを掴むとガリガリと食べはじめ、あっという間に1個なくなってしまった。
「まだ、ダメです・・」
栗鼠が言うので、ジョンは大粒のドングリを3個、林太に食べさせた。

ドングリを食べ終えると、一息ついた栗鼠の林太が言った。
「ふぅ・・・・やっと元気がでましたよ・・」
ドングリの瓶の蓋を閉めながら、ジョンが言う。
「いったいどうしたっていうんだい?」
栗鼠が、お腹いっぱいで丸くなった、腹をなでながら言う。
「おそこの奥さんはケチでね、餌をあまりくれないんですよぉ・・・!」

昭和猫町の電気製品は、ほとんどが栗鼠やモモンガやネズミやヤマネが動かしている。
電気で動く製品もあるのだが、電気が高価なうえに不足がちである。
したがって環境面での配慮もあり、こうした小動物たちの原始力にまかせてあるのだ。
モーターで動くものは、動物たちにまかせているものがほとんどである。
自動車などは、形はガソリンで動いているように見えるが、実のところただの自転車であることが多い。
モーターで走っている自動車も、モーターの中では猫やイタチが走り回しているのである。

栗鼠の林太は、愚痴をこぼしながら、ジョンの入れたコーヒーを飲んでいる。
「あそこの奥さんは、お金持ちと言う噂だったけど、そうとうなケチでしたよ」
ジョンが言う。
「1日ドングリ20個が契約条件なのになぁ・・・」
林太が怒りながら言う。
「1日3個しかくれない日もあったんですよ!」
「そりゃあ、ケチ過ぎる!」ジョンも同意した。

「また、他のところで扇風機を回すかい?」
ジョンは栗鼠の林太に言った。
「ああぁ、そうだね。今度はちゃんと餌をくれる人んところでね!」
「じゃぁ、また扇風機を売りに出すよ!」ジョンが言う。
「OK!」林太も言う。

ワイルド・キャット電気店の店先のショーウィンドーには、ピカピカに修理された、栗鼠の林太動力の扇風機が並べられた。
林太は、扇風機が売れるまでの間ジョンの家で居候することになったようだ。

昭和猫町2丁目 三毛猫古書店

2008年04月08日 10時46分58秒 | 動画
三毛猫古書店

三毛猫古書店は、先代の雄の三毛猫・ミケ之助から受け継いだ、虎猫の寅次郎が店主をしている。
寅次郎の飼い主が「男はつらいよ」の車寅次郎のファンだったので、その名前がついたのだ。
三毛猫古書店は年がら年中経営難で、いつ潰れてもおかしくないのだが、なぜか半世紀近くも続いている。
この古書店で一番高価な古書は、「解体新書」の写しである。
化け猫・ミケ之助の5代目昔の飼い主が、杉田玄白から解体新書の写しの以来を受け、そのまま手元に残ってしまった古書であるらしい。
時価数千万円とも言われているが、買い手はまだ見つからないようである。

三毛猫古書店は、昭和猫町2丁目の古い町並みにある小さな本屋であるが、化け猫界では結構名の知れた店である。
それは古書店としてではなく、旅人をタダで泊めてくれる、奇特な宿泊所として有名なのであった。
化け猫はもちろんのこと、狸や狐や河童や妖精、はては人間のヒッピー連中まで宿泊しに来る始末である。
そんな古書店なので、今日も三毛猫古書店は客にもならない連中で満杯だった。

「ところで、昨日帰っていったポン吉さんは、どこの化け猫だい」
狸のタヌ二郎が寅次郎に言った。
「え・・ポン吉さんは、人間のヒッピーだよ!」
寅次郎が言う。
「えぇぇ~!人間だったの、とても人間には見えなかったよ!」
隣で聞いていた、狐のコン三郎が驚いていった。
「まぁ、人間といってもヒッピーなんぞ妖怪寄りの生物だからね!」
何か分からない生物の甚左衛門が笑って言った。
「甚左衛門さんも、どんな生き物か不明ですよね?」
狸のタヌ二郎が言う。
「うん、500年も生きてるが、自分が何物だかさっぱりわからん!」
甚左衛門が腕を組みながら言う。

「ごめんくださいよ!」
と、店先から声がした。
「お客さんだよ!」
と狐のコン三郎が寅次郎に言う。
「はいっ!いらっしゃいませ!」
寅次郎が金持ちの紳士のような風体の客にむかって、ていねいに言った。

「解体新書を買いたいんじゃが・・・」
そう言いながら、大きなバッグから、その紳士は札束をドンと出した。
「ここに3千万円ある、例の解体新書を売ってくれ!」
札束をチラつかせるように紳士が書棚を覗きこんでいる。
「例の解体新書ですね、わかりました!」
寅次郎は、そう言うと奥のほうの棚から、桐箱に入れてあった解体新書をとりだし、その紳士に渡した。
紳士が言った。
「うむぅ、これがあの解体新書か・・・売ってくれて、ありがとう」
紳士は、寅次郎に3千万円を私、店を出て行った。

「すんごいね!!3千万円だよ!」
狸のタヌ二郎が仰天しながら言う。
「3千万円あれば、狐うどんが100杯は食べれるね!」
狐のコン三郎が言った。
寅次郎がまったく動揺せずに、平然と言った。
「あれは、木の葉のお金だよ!」

「ええぇぇぇ!!」
一同は声をそろえて言った。
「そんな木の葉のお金に、解体新書など渡していいのかい!」
甚左衛門が言う。
「大丈夫だよ!」
寅次郎が、茶をすすりながら言った。
「あの解体新書も、トイレットペーパーで作った偽者さっ!
あの紳士は、いつも来る、四丁目の狸のシガラキさんだよ。
お金持ちごっこをするのが趣味なんだ」

今日も三毛猫古書店は、賑やかだが儲からない。