昭和猫町
その町は、観光で生計を立てている。
古い町並みや懐かしい商店が立ち並ぶ光景は、昭和そのものが生きているかのようだ。
ただ少し変わってることがある。
変わっているのは、この観光地を作っている人たちのことである。
この町に住んでいる人は、人ではない。
文字どーり”人”ではなく、狐狸・化け猫のたぐいなのだ。
化け猫たちが人に化け、昭和の町を作っているのだ。
ひょっとして現実など無く、幻影を見せられているだけなのかもしれない、という噂も流れているが、町は繁盛している。
昭和を懐かしむ人々が、週末になるとワンサカ押しかけて、町はごった返す。
私も、そんな人々につられて、昭和の町を楽しんでいる。
ここを訪れる人々は、ここが化け猫の町であることを承知でやってくる。
化け猫といっても悪さをする訳でなく、懐かしい昭和を見せてくれるのだ。
むしろ、よいことをしていると言ってもよいのかもしれない。
みやげ物は本物で、馬糞や泥団子を売りつけているのでもなければ、町にある温泉も肥溜めではない。
猫たちが、どのようなルートで本物を仕入れてくるのかは不明であるが、今時メイド・イン・ジャパンのみやげ物には定評があった。
名物の猫町団子は、やわらかい高級な求肥の中にトロリとした胡麻の餡が入っていて、絶品である。
また、町に唯一の温泉”猫町温泉”の湯は、まろやかで温度も適温、まったりしたやさしいお湯はリューマチや筋肉痛に良く効くと評判がいい。
観光土産屋だけでなく、昭和っぽい店も立ち並んでいる。
いかにも昭和っぽい雰囲気で古本を売っている”三毛猫書店”
昭和の駄菓子を売る”虎猫屋”
ラーメン屋ではなく、しなそばを売る”猫猫軒”
ハヤシライスが評判の”レストラン・チシャ猫”
古い電化製品を修理して売ってる”ワイルド・キャット電気店”
どれをとっても昭和的で、昭和マニアの痛いところを突いてくる粋な店構えだった。
そして、この町で使われるお金は”食べ物”そのものである。
とくに魚類が良いとされている。
日本のお金を両替するというのではなく、ただ鯵の干物とかメザシとかを持って町に入れば、いつの間にかお金になっているのである。
ただ、ちょっと生臭いお金ではあるが、形はお金そのものになっている。
私が昭和猫町を訪れたのは、今回で3回目である。
なんだか、町初めての映画館が出来上がったということらしい。
映画好きの私としては、昭和の懐かしい映画が見れるというので、今日ここにやってきたのだ。
町をぶらぶら歩いていくと、町の中心あたりに映画館は建てられていた。
木造の昭和のレトロな映画館だ。
入り口辺りにはポスターが貼ってあり、ガラス越しに見えるスチール写真は白黒で、昭和心をくすぐる。
「今日の映画は”植木等の無責任男”と”加山雄三のハワイの若大将”か!」
私は、看板を見ながら切符を買った。
そして入り口のもぎりの若者に切符を渡した。
もぎりの若者は、私に向かって言った。
「あっ!ご主人さまじゃないですか?」
私は何のことか分からず、きょとんとしていると、男が言う。
「僕ですよ、ほら、あなたに飼われていたタマオですよ!」
懐かしそうに言うその男に見覚えがあるような気がしてきた、そして言った。
「君はわたしんちのタマオかい?化け猫になったんだね!」
懐かしい気分になって、私はタマオの手を握っていた。
「猫も8年以上生きると化け猫になるといいますが、そのように僕も化け猫になりました」
自慢げに言うタマオの顔に、猫のヒゲが一瞬見えたような気がした。
続けてタマオが言った。
「ほら、ご主人の飼っていた犬のポチオも居ますよ」
「えっ!ボチオまで居るのか?」私が驚いていると。
「ええ、いま映写技師をしていますよ」タマオが言う。
「犬も、化けるんだね・・」私が感慨深げに言う。
「犬は10年以上生きると、化けることが出来るようになるんですよ」タマオが言う。
「ほほう・・初耳だね!」私が驚き加減に言う。
「2階の映写室までご案内いたします」
そう言うタマオの後に続いて、私は映写室に行った。
映写室には中年の太った男が、映写機の点検をしていた。
私が入ってくるなり、男は言った。
「ワンワン!・・・あっ、いけない、つい昔の癖が出ちまったぜ・・」
そう言っている男のお尻に、一瞬犬の尻尾が見えたような気がした。
私が懐かしい気分で言う。
「ポチオかい・・いいオヤジになったね・・・」
「いやぁ、なんとなくこの姿が気に入ってるんで・・・」
妙に照れくさそうに言うポチオが可笑しくて、つい微笑んでしまった。
「今日は、この映写室で見てってくさいよ」ポチオが言った。
そして私は、ポチオとタマオが勧めるがまま、二階の映写室の窓から映画を堪能させてもらった。
映画が終わった頃、外はもう夜だった。
星空が綺麗な夜で、私はさらに良い気分になっていた。
昭和猫町の夜は星空に映え、まだ眠りには付かないようだ。
その町は、観光で生計を立てている。
古い町並みや懐かしい商店が立ち並ぶ光景は、昭和そのものが生きているかのようだ。
ただ少し変わってることがある。
変わっているのは、この観光地を作っている人たちのことである。
この町に住んでいる人は、人ではない。
文字どーり”人”ではなく、狐狸・化け猫のたぐいなのだ。
化け猫たちが人に化け、昭和の町を作っているのだ。
ひょっとして現実など無く、幻影を見せられているだけなのかもしれない、という噂も流れているが、町は繁盛している。
昭和を懐かしむ人々が、週末になるとワンサカ押しかけて、町はごった返す。
私も、そんな人々につられて、昭和の町を楽しんでいる。
ここを訪れる人々は、ここが化け猫の町であることを承知でやってくる。
化け猫といっても悪さをする訳でなく、懐かしい昭和を見せてくれるのだ。
むしろ、よいことをしていると言ってもよいのかもしれない。
みやげ物は本物で、馬糞や泥団子を売りつけているのでもなければ、町にある温泉も肥溜めではない。
猫たちが、どのようなルートで本物を仕入れてくるのかは不明であるが、今時メイド・イン・ジャパンのみやげ物には定評があった。
名物の猫町団子は、やわらかい高級な求肥の中にトロリとした胡麻の餡が入っていて、絶品である。
また、町に唯一の温泉”猫町温泉”の湯は、まろやかで温度も適温、まったりしたやさしいお湯はリューマチや筋肉痛に良く効くと評判がいい。
観光土産屋だけでなく、昭和っぽい店も立ち並んでいる。
いかにも昭和っぽい雰囲気で古本を売っている”三毛猫書店”
昭和の駄菓子を売る”虎猫屋”
ラーメン屋ではなく、しなそばを売る”猫猫軒”
ハヤシライスが評判の”レストラン・チシャ猫”
古い電化製品を修理して売ってる”ワイルド・キャット電気店”
どれをとっても昭和的で、昭和マニアの痛いところを突いてくる粋な店構えだった。
そして、この町で使われるお金は”食べ物”そのものである。
とくに魚類が良いとされている。
日本のお金を両替するというのではなく、ただ鯵の干物とかメザシとかを持って町に入れば、いつの間にかお金になっているのである。
ただ、ちょっと生臭いお金ではあるが、形はお金そのものになっている。
私が昭和猫町を訪れたのは、今回で3回目である。
なんだか、町初めての映画館が出来上がったということらしい。
映画好きの私としては、昭和の懐かしい映画が見れるというので、今日ここにやってきたのだ。
町をぶらぶら歩いていくと、町の中心あたりに映画館は建てられていた。
木造の昭和のレトロな映画館だ。
入り口辺りにはポスターが貼ってあり、ガラス越しに見えるスチール写真は白黒で、昭和心をくすぐる。
「今日の映画は”植木等の無責任男”と”加山雄三のハワイの若大将”か!」
私は、看板を見ながら切符を買った。
そして入り口のもぎりの若者に切符を渡した。
もぎりの若者は、私に向かって言った。
「あっ!ご主人さまじゃないですか?」
私は何のことか分からず、きょとんとしていると、男が言う。
「僕ですよ、ほら、あなたに飼われていたタマオですよ!」
懐かしそうに言うその男に見覚えがあるような気がしてきた、そして言った。
「君はわたしんちのタマオかい?化け猫になったんだね!」
懐かしい気分になって、私はタマオの手を握っていた。
「猫も8年以上生きると化け猫になるといいますが、そのように僕も化け猫になりました」
自慢げに言うタマオの顔に、猫のヒゲが一瞬見えたような気がした。
続けてタマオが言った。
「ほら、ご主人の飼っていた犬のポチオも居ますよ」
「えっ!ボチオまで居るのか?」私が驚いていると。
「ええ、いま映写技師をしていますよ」タマオが言う。
「犬も、化けるんだね・・」私が感慨深げに言う。
「犬は10年以上生きると、化けることが出来るようになるんですよ」タマオが言う。
「ほほう・・初耳だね!」私が驚き加減に言う。
「2階の映写室までご案内いたします」
そう言うタマオの後に続いて、私は映写室に行った。
映写室には中年の太った男が、映写機の点検をしていた。
私が入ってくるなり、男は言った。
「ワンワン!・・・あっ、いけない、つい昔の癖が出ちまったぜ・・」
そう言っている男のお尻に、一瞬犬の尻尾が見えたような気がした。
私が懐かしい気分で言う。
「ポチオかい・・いいオヤジになったね・・・」
「いやぁ、なんとなくこの姿が気に入ってるんで・・・」
妙に照れくさそうに言うポチオが可笑しくて、つい微笑んでしまった。
「今日は、この映写室で見てってくさいよ」ポチオが言った。
そして私は、ポチオとタマオが勧めるがまま、二階の映写室の窓から映画を堪能させてもらった。
映画が終わった頃、外はもう夜だった。
星空が綺麗な夜で、私はさらに良い気分になっていた。
昭和猫町の夜は星空に映え、まだ眠りには付かないようだ。