もやもや病エッセイ『脳の細道』

もやもや病患者の体験記です。不定期更新ですが、どうぞ読んでやって下さい。

脳髄液を抜く

2006年12月12日 00時24分08秒 | 治療
四月に入り、中山大学付属第三医院から同じ系列の中山大学付属第一医院へ転院した。
私は元々血管が細いので、ちょっと手を動かしただけでも点滴針がのずれて点滴液が漏れてしまう。何箇所もさし直しして、腕だけでなく足の甲からも点滴の針が入っていた。体中どこに点滴の針を刺したらいいのか分からない程、饅頭のように腫れてブス色になっていた。これ以上、指す場所がないので幼児のように、こめかみの血管から針を入れ様と言われたが、運良く足首の血管に針が入ったので、やらずに済みホッとした。

私の為に大学を休んで付き添ってくれた明明は私のベッドの横で勉強しながら、私の腫れ上がった腕をなでてくれた。私の母は中国語が全く話せないのだが、最初の頃は明明が気を使って果物を買ってきてくれたり、食事に連れて行ってくれたので、母も少しは安心したと思う。

そんな頃、医者が脳髄液抽出セットを持って私の病室へやって来た。早く良くなるのなら、どんな治療でも頑張って受けようと思っていたが、説明を聞くと腰椎から針を刺して脳髄液の中に滲み出た血を抜かなくてはならないと言うのだ。説明を聞いて、母に治療の内容を説明するが、上手くロレツが回らなかった。

母と明明は看護婦に部屋から出るように言われ、私は布団を剥ぎ取られ病人服を背中までまくり、背中、腰、お尻も全部丸出しにして腰を丸め、変な脂汗をかいていた。

以前、日本で盲腸と右膝半月板の手術を受けた時も下半身麻酔だったのでこんな風に体を丸めて、馬に打つような注射針で麻酔を打たれた事があった。この腰椎に針を刺すのはメチャクチャ痛い!

今まで痛い目には何度も遭ったが、この腰椎への注射と言うのは、かなり痛い方の部類に属する。針が神経に触るので普通の刃物で切ったりしたような痛みとは違って、痛みと同時に体の神経にキーンと来る痛みだ。痛いのは十分分かっていたし、我慢する気満々だったが、針を刺された瞬間痛さで気が遠のき、次の瞬間は
ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!(以下省略)
ってな感じで、声を上げていた。そして、あの脳みそを引っ張られるような気持ち悪い感触がやって来た。目が回って、目の前がチカチカしていた。あまりの気持ち悪さに、脳髄液を抜かれる度に奇声を発していた。その為、看護婦にタオルを咬ませられるハメに、涙と鼻水で鼻が詰まって息ができないのに、口にタオルなんて入れられたので危うく窒息する所だった。仕方がないので、左手でタオルを外して息をしたが、もしあの状態でタオルを入れっぱなしだったら、タオルで窒息死する所だったかもしれない。

どの位、時間がかかったのかは正確に記憶はしていないけれど、やっと脳髄液を抜き終わったと思ったら、医者はこう言った。
「一度には抜けないので、数回に分けて抜きましょう。」

…ショックで口から魂が抜け出るような気分だった。こんな痛い思いを何回もしなくてはならないなんて…。はっきり言って苦痛だったが、寝ているだけでは病気は治らない事を痛感し、良くなるのなら我慢して脳髄液でも何でも抜かれてやろうと腹を括ったが、勿論、ビビリまくっていた。それは、脳髄液を抜かれる事を知らない恐怖感から、治療を受ける痛みへの恐怖感に変わっていた。

散々、泣き喚いた後は疲れ果てて声も出せずに、ただ「ひぃ~、ひぃ~」と痰の絡んだような息をして、身動ぎもできずに腰を圧迫しない様、横向きに寝せられていたが、ずっと仰向けに寝せられて床ずれが出来そうだった私の体は少し楽になった感じがしていた。