
(サムネ写真は、管理人撮影のSmilodon populatorの全身骨格)
(All rights reserved)
ウルグアイ産の特大スミロドン標本のオリジナル復元画を発表し、スミロドン・ポプラトール(Smilodon populator)の殺傷形態やその上顎犬歯機能についても論じたこの記事⏬
その本文中の、
>剣歯猫の上顎犬歯の「脆さ」ということについて、そもそもの初めから裏付けが乏しかった・・・
という箇所について、全面的に訂正します。
スミロドンとは対照的に、スペイン・バタジョネスの中新世・中期地層で多量に見つかったマカイロドゥス・アファニストゥス(Machairodus aphanistus)の化石サンプルでは、上顎犬歯(以下、剣歯)を折損した標本も多数見られる(Anton, 2013)ことが分りました。この事例については、管理人の認識不足であったことをお詫びします。
Anton(2013)は、基底剣歯猫のマカイロドゥスにおいて、後発のアドバンス型剣歯猫(アンフィマカイロドゥス、メガンテレオン、ゼノスミルス、ホモテリウム、スミロドンなど、新第三紀終盤から第四紀のタクソン)に共通の、「肥大化し前突気味の切歯」が未発達であったことを、剣歯折損の原因に挙げています。
どういうことか?
剣歯を獲物の皮肉に突き刺した際、肥大化しアーチ状に並ぶ切歯も噛みついた箇所のグリップを補強するので、剣歯にかかる横方向ストレス(抵抗する獲物に噛みついた状態で歯や頭骨にかかる圧力)を減じますが、マカイロドゥスではそうした大きな切歯が未発達だったわけです。マカイロドゥスの切歯は現生ネコ科種程ではないにしても小さく、その歯列もアーチ状ではなく、直線的だといいます。
((上)更新世のアドバンス型剣歯猫、ゼノスミルス(Xenosmilus hodsonae)の頭骨。
切歯が現生ネコ科種とは比較にならないほど大きく、歯型を見ると、綺麗なアーチ状の歯列であることが分る)
Photo courtesy of ©Naples (2009) All rights reserved
長大で圧縮型の剣歯は刺突性能が最適化された形状(Pollock et al., 2025)ですが、「骨をも貫通する強度」が判明した(記事本文参照のこと)一方で、横方向ストレスへの耐性が低いことは、やはり間違いなさそうです。アドバンス型剣歯猫においてはアーチ状で大きな切歯が、加えてメガンテレオンやスミロドンなどダーク型剣歯猫では強靱な前肢のグラップリング力も、その折損リスクを補っていたものと考えられます。
狩猟時にクラニオ-デンタルにかかる負荷を緩和させるうえで、獲物を効果的に押さえ込むことができる前肢もまた、不可欠だったことでしょう。
記事本文に記した通り、ラ・ブレアのスミロドンのサンプルでは上顎犬歯を欠く標本は稀であって、殺傷形態がどのようであったにせよ、アドバンス型の剣歯猫においては、剣歯折損のリスクを抑制できていたことが窺われます。
Illustration by © the Saber Panther (All rights reserved)
ダーク型の形態型は複数の系統で幾度も派生しているので、折損耐性をある程度犠牲にしても、刺突の最適化の点で適応価値があったということでしょう。もっとも、折損耐性の側面から、ダーク型剣歯猫の殺傷形態は現生大型ネコの「クランプ・ホールドバイト」(窒息をもたらす持続性の噛みつき方)とは違っていたと考えられます。

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