the Saber Panther (サーベル・パンサー)

トラディショナル&オリジナルの絵画芸術、化石哺乳類復元画、英語等について気ままに書いている、手書き絵師&リサーチブログ

プレヒストリック・サファリ31 『二大巨象 ヘッド・トゥー・ヘッド 取り直し』 パレオロクソドン(エレファス)・レッキ vs デイノテリウム

2021年04月17日 | プレヒストリック・サファリ

Super Proboscideans  Head to Head  :  Rematch!

Palaeoloxodon (Elephas) recki  vs. Deinotherium bozasi

 


イラスト&テキスト Images and text by ©the Saber Panther (All rights reserved)




イラスト&テキスト by ©the Saber Panther (All rights reserved)

 

鮮新世の同時期にアフリカ東部で分布域が重複していた二種の巨大長鼻類エレファスパレオロクソドンレッキ(復元画向かって左側の巨象。以下、レッキゾウと表記)とデイノテリウム・ボザーシ(同右側。以下、アフリカデイノテリウムと表記)の遭遇の場面を捉えた復元画になります。

かつて『プレヒストリック・サファリ⑧』で発表した旧作は形態描写、正確さとも十全というにはほど遠く不満を感じていたため、今作では同じ構図のもと、二種の形態の全面的修正、描き直しを敢行しました。

 

レッキゾウとアフリカデイノテリウムにステゴテトラベロドン・シルティクスを加えた巨大長鼻類三種は、南半球に現れた陸獣の中で史上最大級の座を分かちます。

レッキゾウは鮮新世になって登場した比較的新しいゾウ科の動物で、アジアゾウと同属(エレファス)に分類される場合とパレオロクソドン属に分類される場合があることは、読者の皆さんは承知されていると思います。デイノテリウム科・デイノテリウム属の起源はそれより古く中新世中期以前にまで遡るものの、アフリカ大陸においては更新世まで存続しておりました。


レッキゾウに関しては、複雑に入り組み容易に把捉し難いその分類の変遷について、拙『エレファスかパレオロクソドンか? 巨大レッキゾウの復元画と、パレオロクソドン分類についての考察』記事で考察しておりますので、ぜひ再確認していただきたいと存じます。

よって、ここでは主にデイノテリウムについて少しく述べるにとどめておきましょう。


両者の化石骨格は鮮新世後期の地層から最も多く出土しており、その分布域も東、中央、南東アフリカの著名な化石発掘場を中心に、驚くほど重複しています。

特にケニアのタルカナ湖周辺の鮮新世後期の地層からは、同時代種としてアウストラロピテクス・ボイセイなどとともに、アフリカデイノテリウムと、レッキゾウの既知の5亜種のうちの一つ、 「イレレテンシス」の骨格が出ており(kaitio membersとして知られる化石群)、共存していた様子が窺い知れます。

 

レッキゾウは典型的に高い歯冠を具えていましたが、生息地の当時の植生からして、更新世のマンモス種ほど徹底した平原「グレイザー」であったとは考えにくいと思います。
対照的にデイノテリウムの歯は横堤歯、低冠歯で、歯面摩耗が少ない葉食を主にする「ブラウザー」であり、ひいては森林生態への適応が窺えるわけですが、そのポストクラニアル形態については注意が必要です。

先行するプロデイノテリウム属と比べて、四肢遠位部の伸長の程度など走行適応への度合いが高く(Athanassiou, 2004)、その巨大なサイズと照らし合わせて考えるに、デイノテリウム属種は必要な食量を得るために大規模な移動範囲をカバーしていたものと思われます。デイノテリウム属種の生息環境としては、完全に閉じた系の密林帯(forest)よりも、おそらく疎林や林地(open woodland)を考える方が妥当なのでしょう。


以上の考察と分布域の重なり具合から判断して、もちろん私の憶測の域を出ないといえばその通りですが、仮説として、この場面のようにグレイザーのレッキゾウとブラウザーのアフリカデイノテリウムとが同じ餌場で遭遇するようなことも、少なからずあったのではないかと考えます。


デイノテリウム属に代表されるデイノテリウム科の種類は、頭蓋-下顎骨形状の著しい特異性(前後に長く上下に短いフラットな頭骨、上顎の象牙を欠く代わりに体幹側に湾曲した下顎牙を具えるなど)は一目了然ながら、比較的短い胴や伸長した柱形状の四肢骨長などのプロポーションは、中新世以前に現れたいわゆる'archaic proboscideans'(古風長鼻類)の中にあって、例外的に現生ゾウ科種に似通っていたのです。

アフリカデイノテリウムは断片的ながら骨格が多数見つかっており、その形態、サイズ的にもユーラシア産の巨大種であるデイノテリウム・ギガンテウムとごく似通っていたと考えられています(ただし、ユーラシアの別の種類、Deinotherium proavum や Deinotherium thraceiensisとは明瞭な形態差異が報告されている)。

サイズも共通して特大級であり※、断片的な骨格から推定される肩高は3.6~3.8m以上にもなり、推定体重も9トンに及びます(Larramendi, 2015)。


〈※ギガンテウム種は肩高4m、推定12~14トンにもなります(Christiansen 2003 の試算ではおよそ15トン)。このように既知のデイノテリウム属の全種は長鼻類の中でも際立って大型でしたが、上野国立科学博物館に展示されている「デイノテリウム」標本(オリジナルの骨格標本ではない?)は取り立てて大型という印象はなく、同展示場のアメリカマストドン標本よりも小さいことを、不思議に思った人もいるのではないでしょうか。私もその一人ですが、あの標本は、デイノテリウム属ではなくプロデイノテリウム属種の骨格に基づくレプリカである可能性が否定できないと思います。
と言って、確証があるわけでも、オリジナル骨格について調査したわけでもないので、明言は避けねばなりません。仮にプロデイノテリウムだとすればアジアゾウ大ですから、同標本の大きさ的には、辻褄が合いそうですけども(若個体の可能性も否定できないでしょうか?ただ、標本タグに種名が表記されていないことも気になります)… 脱線していまいました。〉


要するにアフリカデイノテリウムは現生アフリカゾウを凌駕する驚くべき大きさだったのですが、史上最長身クラスの長鼻類であり、肩高4.5m前後にも達したレッキゾウ(Larramendi, 2015による推定体重は12トン超)の偉容と比べてしまうと、少々見劣りしたであろうことは否めないと思います。


二種の特大級の、かつ頭骨形状は著しく違っていた長鼻類が一緒にいる光景は、さぞや壮観な見ものであったことでしょうね。


プレヒストリック・サファリ31 『二大巨象 ヘッド・トゥー・ヘッド 取り直し』 パレオロクソドン(エレファス)・レッキ vs デイノテリウム❕

イラスト&テキスト
by ©the Saber Panther (All rights reserved)



最新の画像もっと見る

2 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ニムラヴス)
2022-03-30 11:04:21
恐竜は結構メディアに取り上げられること多いですが、新生代の巨大哺乳類についてはあまり取り上げられません。
恐竜も大好きですが、新生代の哺乳類や鳥類、爬虫類等も大好きなので、出来ればYouTubeとかで、シリーズ展開してもらえないでしょうか?
返信する
Unknown (管理人)
2022-04-15 21:19:26
ニムラヴスさん
コメントありがとうございます。返信が遅くなり申し訳ありません。

この復元画(レッキゾウとデイノテリウム)は気に入っている作品の一つであり、
この記事にコメントをくれたのは、何となく嬉しいですね。

インスタ、YouTubeなど他のメディアへの露出も考えてはいるのですが、インスタはまだしも
YouTubeは動画つくりのイロハから学ぶ必要があり、時間がかかりそうな印象です。

いずれにせよ、もう少し色々な人たちにも知ってもらいたいし、
そうすればコンテンツを充実させる動機としても高まりますね。

ご意見ありがとうございます。
返信する

post a comment