the Saber Panther (サーベル・パンサー)

トラディショナル&オリジナルの絵画芸術、化石哺乳類復元画、英語等について気ままに書いている、手書き絵師&リサーチブログ

『スミロドン、緊張する』(+剣歯猫関連の最近の研究についてのつぶやき)

2019年01月19日 | プレヒストリック・サファリ

 'Smilodons getting tense'

 




©the Saber Panther(Jagroar) (all rights reserved)

 

場面

 

この作品タイトルの意味は後で判明することになりますので、今のところは深く考えないでください。💦

氷期の北米南東部。キタアメリカ・サーベルタイガー(Smilodon fatalis)が草地に群れている様子を描いています。休息の一時を何かに妨げられた風で、身を緊張させています。

 
カリフォルニア州ラ・ブレアで本種の多量の骨が見つかったことは有名ですが、北はカナダ南部から南はフロリダに至るまで、スミロドン fatalisは北米大陸の広範囲に分布しておりました。フロリダ及び南東部のサーベルタイガーをS. fatalis とは分けて別種(S. floridanus)とみなす動きもあるようですが、主流派ではありません。
 
 
剣歯猫関連の最近の研究についてのつぶやき
 
上述のラ・ブレアからおびただしい量の骨が得られているだけに、S. fatalis の骨形態、形態機能に関する研究は活発で、他の剣歯猫の場合とは比較にならないほど知識が集積しています。
直近の主だった研究の中では、'Distinct Predatory Behaviors in Scimitar- and Dirk-Toothed Sabertooth Cats', Figueirido et al.(2018) が面白いと思います(ただ、この方面のプロパーでもない私にとって読解が困難な内容でもあるので、気になる方は論文内容をチェックしていただきたいと思います)。
 
更新世北米の代表的な二種の剣歯猫、ダーク型犬歯を持つスミロドン fatalis とシミター型犬歯を持つホモテリウム serum の前額部位の皮質骨(cortical bone)と海綿骨(trabecular bone)の分布比率を調べて、頭骨の剛性と柔性の度合いを比較するという内容。
 
結果、S. fatalisの頭骨はH. serumのものと比べて非常に密度が高く硬度に優れている半面、海綿骨が少なく多方向性の衝撃に対しては弱いことが分かりました。スミロドンの長大な上顎犬歯が横方向や持続性の力に対して比較的もろいことは知られていますが、頭骨にも同様のことが言えるということです。
 
ダーク型剣歯猫の特徴の一つに、遠位部の短い頑強な前肢形態(+長大なかぎ爪)がありますが、この前肢で獲物の動きを制圧し、剣歯に加わる衝撃を最小限に抑えることが、「スラッシュバイト」(シアーバイトともいう)殺傷法を成功させる上で必要不可欠だと考えられています。ダーク型剣歯猫の狩猟法に関するこうした仮説を、本研究は新しい方角から裏付ける結果になったとはいえないでしょうか。
 
一方、H. serumの頭骨は海綿骨の分布比率が高く現生ヒョウ属種の頭骨に近い柔性を示し、比較的短く丈夫なシミター型犬歯と相まって、ヒョウ属種の「クランプ・ホールドバイト」(要するに、窒息をもたらす持続性の噛みつき方)に近似した殺傷法を用いていた可能性を示唆しているとのこと。
 
ホモテリウム属種の遠位部の伸長したスレンダーな四肢は走行性特化を反映しているとされ、獲物を効率的に抑え込む目的には不向きであり、結果的に側方圧への耐性に優れた頭蓋ー歯形(cranio-dental)の獲得を必要とした、ということになるのでしょうが、私はこの結論部分には無条件に賛同することはできません。

というのは、シミター型犬歯を持つ剣歯猫はホモテリウム属だけではなく、端的にはホモテリウム族(Homotherini)に分類されている種類はすべて「シミターネコ」なのであり、ホモテリウム族一般の特徴として頭蓋ー歯形はいずれの種類も近似しているが、ポスト・クラニアルの形態型には驚くほどの多様性がみられるからです。
 
ホモテリウム属やロコトゥンジャイルルス属の形態には確かに走行特化の反映が窺がえますが、最初期のニムラヴィデス属(ニムラヴス科との混同に注意)やアンフィマカイロドゥス属(旧マカイロドゥス属)のポスト・クラニアルはヒョウ属種のそれと瓜二つだとされていますし、ゼノスミルス属(北米のホモテリウム属の系統から分岐進化したという説がある)に至ってはスミロドン属に輪をかけて短くロバスト型で頑強な四肢の持ち主でありました。
 
上に紹介した論文では、これらホモテリウム属種以外のシミターネコ群に関しての言及は、一切見られません。

ホモテリウム族とは無関係なれど、メタイルルス族の剣歯猫群(ディノフェリス属など)も同様に、控えめの寸法の上顎犬歯とヒョウ属に似通ったポスト・クラニアルを併せ持っていたということは、付記しておいてよいでしょう。
 
こうしてみると、剣歯猫群における特定の狩猟法を、頭蓋ー歯形とポスト・クラニアル形態の組み合わせとの関連から探ることは、言うほど簡単なことではないことが見えてくると思います。私個人的には、ホモテリウム族各種(シミターネコ群)に特化した形態機能の総括的研究を、研究者に実施してもらいたいという願望があります。
 
ちなみに、ゼノスミルス属もまた、北米南東部を棲み処としていました。が、生息年代的には初期のキタアメリカ・サーベルタイガーと辛うじて重複するかどうか、といったところ。

イラスト&テキスト by  ©the Saber Panther (all rights reserved)

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