the Saber Panther (サーベル・パンサー)

トラディショナル&オリジナルの絵画芸術、化石哺乳類復元画、英語等について気ままに書いている、手書き絵師&リサーチブログ

祖形ショートフェイスベアの親子

2019年02月09日 | プレヒストリック・サファリ
Ancestral Short Faced Bear Family
 




©the Saber Panther (all rights reserved)


鮮新世のヨーロッパと北米南東部から南部一帯にかけて分布していた中型のクマ、プリオナルクトス属種(Plionarctos spp.)の復元画になります。GFSマストドン復元画の一部をなしており、独立した作品ではありません。
恐らく北米南部に起源をもつプリオナルクトス属種から、現生メガネグマを含むすべての「ショートフェイスベア群」が派生したと考えられています。いわば、メガネグマ亜科の祖形、基底種になります。
 
現生種ではメガネグマ一種のみが分類されるメガネグマ亜科ですが、かつては複数種が存在し比較的多様性のみられるグループでした。大雑把に言って、二つの明瞭に異なる形態型がプリオナルクトス属種から派生し、それぞれ独自の進化を遂げるに至ります。
 
一つは現生のメガネグマ(Tremarctos ornatus)と絶滅種、フロリダホラアナグマ(Tremarctos floridanus)などを含むメガネグマ属種。メガネグマ属種はほぼ植物食の食性と、ずんぐりして重々しい、コンパクトな体つきに特徴があります。こうした体形は程度の差こそあれ、同様に草食傾向の強い他のクマ、例えば更新世ヨーロッパのホラアナグマや、現生パンダなどとも共通しているといえます。そもそもT.
floridanus
が当初、ホラアナグマの一種として誤認されていた過去が類似性を物語っています。何故か俗称は今でもそのままになっていますが。勿論、ホラアナグマもパンダもメガネグマ亜科との系統上のつながりはありません。
 
いま一つは、更新世北米のアルクトドゥス属と、同南米のアルクトテリウム属の両最大種に代表される形態型、いわゆるジャイアントショートフェイスベア群であり、巨大な体、伸長した前肢、骨砕き型の強大な顎などに特徴づけられています。ジャイアントショートフェイスベアは食肉目史上最大種であり、肉食傾向性が強かったと考えられています。ジャイアントショートフェイスベア群の食生態に関する最新説の詳細は、拙「バトル・ビヨンド・エポック 其の二」記事を参照してください。
 
このジャイアントショートフェイスベア群と、中新世‐鮮新世アフリカに産したアグリオテリウム属最大種(Agriotherium africanus)との形質的類似性の高さは、注目に値すると思います。両者の系統上の関係性は極めて薄いとされているにも関わらず、Sorkin(2008)がメガネグマ亜科とアグリオテリウム属の最大種をそれぞれ「ジャイアントショートフェイスベアの形態型」として一括りにし、形態機能分析の対象としていたことは以前にも触れました。恐らく食生態も似通っていたのでしょうが、単に収れん進化の好個の例として片づけるには忍びないものがあります。
 
更新世の南米南部にはアルクトテリウム属の中型種(Arctotherium bonariense など)も複数分布しており、これら中型のショートフェイスベア群は、上に挙げた形態型の両極のいわば中間、つまり形態的、食生態的に、特化の程度の低い雑食性の種類であったと考えられます。同様のことが、祖形ショートフェイスベア、プリオナルクトス属種にも当てはまります。
しかし実のところ、柔軟な雑食力はメガネグマからジャイアントショートフェイスベアに至るまで、メガネグマ亜科のいずれの種類にも当てはまることであることを明記しておく必要があるでしょう。ショートフェイスベア群にみられる食性の傾向や形態の変異性はクマの適応力の高さ、万能性を如実に示すものですが、純粋肉食性(hypercarnivory)、同草食性の種類がメガネグマ亜科に存在したことは、恐らくなかったということです。
 
イラスト&テキスト by  ©the Saber Panther (all rights reserved)
 

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